ICOを行うには「必然性が重要」

田所雅之氏(以下、田所):オーディエンスからの質疑がありますよね。

司会者:そうですね、じゃあみなさんからなにか質問を。

(会場挙手)

質問者1:もともと外資系のコンサルティング会社に勤めておりまして、先月末に辞めて、今は起業するための準備をしております。「最先端技術×教育」という要因で挑戦をする予定です。私からの質問なんですけれども、VCをされてるかと思うんですが、今どの分野で起業が多く、またどういった領域の企業に対して投資の比重を置いてるのかをお答えいただければ。

田所:トレンドでいうと、ICOはめちゃくちゃ多いですね。ただ、ICOをやるところは10社中9社が来年には潰れるかなと思っていて。それって、課題ドリブンじゃなくてソリューションドリブンでやっちゃってるんですね。僕はICOである必然性を聞くんですよ。

先週、ある学生のピッチコンテストで4社ぐらいやって、すごくおもしろいと思ったのが、4社中3社がICOを使うんですよ。Initial Coin Offeringって言って、要はビットコインやイーサリアムを使って、それで例えば「アーティストだったり、個人を上場させることによって、価値を流通させます」みたいなことは、みんなテーマとして一緒は一緒なんです。

でも、代替案はいっぱいあるんですよね。というのは、別にICOを使う必然性はないと思うんですよ。今、ディープラーニングのライブラリもけっこう安くなっていて使えます。AIも当然、使っていったらいいと思うんですけど、そこよりも大事なのが、必然性というか専門性ですよね。

要は、「これまで誰も注目してこなかった領域をソフトウェア化します」「効率よくします」というところで、そこの解としていろいろ検証した結果、「ICOがいい」「AIがいい」ということならいいと思うんですけど。

1つの傾向として、今は逆にテクノロジーが「リーチオブ……」になっているので、そちらから入っているものがけっこう多いかなと思いますし、それは危険かなと思います。逆にテクノロジーが使いやすくなったから、イシュードリブンのスタートアップが減っているという気がちょっとしますね。「どんな分野」という質問の答えになってないかもしれないですけど。

元手がかからないアイデア勝負の起業が主流

高野真氏(以下、高野):やっぱり起業コストが下がって、起業しやすくなってきてる、と。ただ起業しやすいっていうことは、それによって作りやすいビジネスも限られるというところがあるわけですね。装置産業や、基礎技術みたいなものを使うところはなかなか難しいですよね。だからどうしてもITやクラウドソーシング、あるいはAI、今言ったICOとか、あまり元手がかからなくて、アイデアで勝負できるところが非常に多いんですね。

それで、今はやっぱりAIはやたら多いですよね。ウチもやたら投資してますけど。しかもAIって、スタートアップしてすぐバリュエーションが非常に高くなるんだよね。100億円とかになっちゃって、すごくバブってますよね。

各務太郎氏(以下、各務):私は投資家ではないんですけど、今年5月に(日本に)帰ってきたんですけども、ボストン、ケンブリッジ周り、ハーバード、MITで地味に多かったのは、植物工場です。それはフルーツだったり、いろんな食べ物に関して。

例えば、コシヒカリとかも、なんでおいしいかと言ったら、「いつ寒くなって、いつこういう土になる」みたいな、気温などをデータ化できるので、それをAIに読み込ませてしまうと、別に工場の中でもコシヒカリを再現できちゃう、ということがある。

そうすると、都市の横でたくさん良いものを作って、都市に売るということがありますし、そのモデルがうまく確立すると、ドバイのような砂漠に思い切って売るということもできるので。私の周りには地味に、植物工場の人、バイオ関係が多かったですね。

高野:僕は個人的には最近、宇宙ビジネスを募集してるんですよね。宇宙ビジネス、夢があって良いじゃないですか。あとは、インフォステラみたいなアンテナ。衛星アンテナって1日に16分しか使えないらしいんですよ。周波数があって、アンテナと衛星が1on1で対応しているらしいんです。この周波数を変えることによって、衛星が裏にいるときに、別の衛星を掴まえたり、そういうことができる。

なんというか、Uberの衛星版みたいな、こういうやつとか、あとは流れ星を人工で作って、これもけっこうおもしろいです。

田所:あぁ(笑)。

高野:これはゴールドマンの後輩がやっていて、「ちょっとお金出して」って言うから出したんだけど、けっこうバブってる。

田所:バブってますよね。

高野:うん、いい感じで。

投資をする際に重視するファクターは?

田所:ほかに、なにか質問ないですか?

(会場挙手)

質問者2:私は、中央省庁に対するアドバイザリー業務や、あとはスタートアップのサポートに関する業務を行っています。投資をする視点で、どのような点について気にされてるのかというところをおうかがいしたいんですけれども。

例えばマーケットサイズや成長性、ポジショニング、あとはチームメンバーとか。投資をするうえで、いくつかの重視するファクターがあると思うんですけれども、その上位3つくらいを教えていただけると。

高野:これはね、ステージによって違うんですよ。簡単でいいですか? 僕らはスタートアップをやるじゃないですか。シード、アーリーがあって、ミドル、レイターがあるわけじゃないですか。ミドル、レイターは数字、実際の売上だったり、あるいはIPOのポッシビリティだったり、あるいはオーガニゼーションができていると。

それで、シード寄りになればなるほど「人」になるんですよ。スタートアップになればなるほど、ビジネスモデルがピボットする可能性が高いから、本質的にはもう「人」しかないんですよ。でも、もうちょっと真ん中になってくると、そこにビジネスモデルが入ってきて、良いか悪いか。

ビジネスモデルが良いか悪いかってところには何があるかというと、マーケットポテンシャルなんです。なので、ステージごとに違うとは思います。

スナップショットだけで企業を判断しない

田所:ちょっとネタ的な話をすると、当然そこは高野さんもおっしゃったように、マーケットサイズだったりチームも大事なんですけど、1つ僕が重視するところとしては、スナップショットでは絶対に判断しないということですね。

例えば今日、誰かがピッチをされて……今日何日だっけ。まあいいや、12月6日にピッチをして、「month by monthでウチらの売上は10パーセント伸びてます」と言ったとして、来月1月6日にミーティングをしたときに、それがオーバーアチーブしているかどうか。「15パーセント伸びてます」だったり、「もうプロダクトができてます」みたいなところ。

投資家っていうのは、そこのスナップショットじゃなくて、いわゆる定点観測ですよね。それがだいたい一般的にいうと3ヶ月くらい見ていくなかで、ビジネスモデルやアイデアは、全体が100としたら3ぐらいで……もっと上かな(笑)。10ぐらいで、90はエクスキューション(職務の遂行)なんです。

要は「エクスキューションして、自分が言ったことよりもオーバーアチーブしてますか?」というところです。それがレイターになっていくと売上や利益になると思うんですけど、初期だったら、僕が見るのはカスタマーインサイトとか、そういうシークレットをどれだけ知ってるか。

ピボットも、「ピボットしました」というときに、「じゃあ何を根拠にピボットしたのか」というところ。それが、人がいないからピボットしたのか、もしくはとんでもないものを見つけたからピボットしたのか。その辺をストーリーとして語れるかというところかなと思うんですよ。当然、ファウンダーが何を持っているか、良いストーリーテラーかどうかというところかなと思います。

質問者2:ありがとうございます。

田所:最後にちょっと、1点だけいいですか? 宣伝というか、実は本を出したんです。スーツケースを持ってきていて、10冊くらいあります。もしよければサインも書きますので、名刺がてら(笑)。

(会場笑)

ありがたいことに、先月6日に出たんですけど、既に3万部くらい売れて後刷りになって。先週のAmazonのランキングでは2位になりました。佐藤航陽さんの『お金2.0』が1位で、僕の本は無名なんですけど、なぜか2位になりました。

起業の科学

これまだ初刷りで……実はこれ初刷りのプレミアムとして、載せちゃいけないスライドが1個あるんですよ。それで、2刷り以降は消えてるスライドがあるので。

(会場笑)

その秘密のスライドも入ってるので、そういうプレミアもあります(笑)。1つだけ宣伝でした。

自ら問題提起できる事業家を作っていく

各務太郎氏(以下、各務):先ほどSFの話をさせていただいたんですけれども、起業するときや新規事業をはじめるときに、あまりマーケティングをし過ぎないというか。未来の状況を「未来はこうなる」と予測するのではなくて、「こういう未来にしたい」という願望からはじめる起業家が、僕の周りには、たまたま留学生が多かったっていうのもありまして。

例えば、そういう事業家をどのように作ったらいいかという点で今、早稲田大学の社会人プログラムなんですけど、お配りした資料にある「みらいブレンディピティ」という講座をちょうど作っておりまして。

課題を与えられてそれを解く、というビジネスコンテストであったり、アクセラレータプログラムではなくて、課題自身を自ら提案するところからはじめられるような教育プログラムにしたい、という思いから今作っているものなんですね。

先ほどのSFの考え方でいうと「デザインシンキング」、(高野さんが)IDEOのお話をされていたので……今アメリカのメディアラボであったり、ハーバードのデザインスクールでは、IDEOのデザインシンキングをどのようにポジティブに、クリティカルに考えられるかという点で、「スペキュラティヴ・デザイン」という考え方が出はじめています。

これは、デザインというのは問題解決ではなくて、問題提起をするために使えるんじゃないか、ということで出てきた言葉なんですけれども。

例えばあるデザイン会社がメディアラボと一緒にやったアートプロジェクトで、女性の皮膚からiPS細胞を取って、そのiPSから精子を作ることができるようになった、という論文が、イギリスのほうで出て。「じゃあ、女性同士でも子どもを産めるんじゃないか」という議論がされてきたんですね。

こういったことを聞くと、なにも問題解決はしてないんですけど、女性同士が子どもを産めるようになったときに「どういう法律が必要なんだっけ」とか、「男性の役割は何だっけ」というような、そこで議論が巻き起こるような、コントラバーシャルなことが起こると。

その問題提起をすることとして、デザインが使えるのではないかということが、アメリカやロンドンのほうではじまっています。

これはマーケティングや、PDCAを回していくようなデザインシンキングとはまったく異なる考え方で、50年、100年、相当先のところから、倫理観であったり、あるいは法律やビジネス、事業計画やマネタイズを考える、というデザインになっています。

こういったことをもしプログラムの中で教えられたら、ということではじめている講座ですので、もし興味のある方がいらっしゃいましたら、ご連絡いただければと思います。ありがとうございます。

司会者:みなさんどうも、ありがとうございました。大きな拍手を。

(会場拍手)