スタートアップをやるほうが「クール」

田所雅之氏(以下、田所):日本だとおそらくそういうところが……最近だとメルカリが、青柳さん(青柳直樹氏)が入ったり、優秀な人を集めてる感じはするんですけど。メルカリって今、どれくらいでしたっけ。1.5ビリオン(ドル)ぐらいでしたっけ。

この前、日経が出してましたけど、ユニコーン企業の数が日本は、Preferred Networksとメルカリの2社だけなんですが、中国ではすでに10社くらいありますし、アメリカだといわゆる「スーパーユニコーン」という、10ビリオン(ドル)を超えている企業が5社ぐらいあって、かつユニコーンが60社ぐらいあります。

やっぱりユニコーンの強みというのは、いつでも上場ができて、いわゆる人参をぶら下げて、スーパースター人材を集められるということがあると思うんですね。たぶん日本も、先ほど高野さんがおっしゃったみたいに、いわゆるエクイティマネーが、増えたと言っても2,000~2,500億なんですよ。でも向こうだとエンジェル投資だけでだいたい2兆円ぐらい投資があってですね。

僕はY Combinatorとかのデューデリをやっていて、キャップテーブル……資本政策を見ていたら、要はお互いに投資をしているんですね。向こうの起業家のだいたい1割か2割かは、実はエンジェル投資家をやってるんですよ。それをやっていて、自分の企業も運営しつつ、仲間の同じ場の企業にも500万円、張ったりする。その辺がちょっと、文化的なところというか……違うかなって感じはします。

高野真氏(以下、高野):もう1つ僕がちょっと感じているのは、この間『Forbes』の編集部の人間がシリコンバレーに行ったときに、帰って来て「どうだった?」って聞いたら「違いますね、あそこは」と言っていて。

「何が違うの?」って聞いたら……そんなにデカくないスタートアップで、けっこう成功してるところにインタビューに行ったら、そこのCEOが「知ってますか?」と、「今ね、人を採るのが大変なんですよ。でもね、優秀なやつが来るんですよ」と。それで「本当に優秀なやつは、ハーバードやMITじゃなくて、スタートアップをやるんだ。スタートアップの、本当に良いところに入らなかったやつがMITとかハーバードに行く」と。

つまり、彼らから見たらスタートアップって「クール」なんです。だから良い人材が集まる。日本では、そうじゃないじゃないですか。日本って、例えばウチの『Forbes』でランキングをやって、2位とか3位とかになると、その人たちが喜ぶんですよ。それで、何をするかって言ったら、CEOが、お母さんにFAXを送って「お母さん、こんなの載ったよ、良い会社になったんだよ」と。

田所:(笑)。

高野:リクルートで(ランキングを)やっても「ウチは1位になった」「2位になった」って、非常にウケるらしいんですよね。でもその程度なんです。だからやっぱりまずスタートアップの認知度が少ない。そこに流れていく人材が、もっともっと良い人が入ってくるようなことが必要なんじゃないかと思いますね。

創業者の課題解決に対する熱意

各務太郎氏(以下、各務):そもそもの話になっちゃうんですけど、スタートアップをするときに、「この分野がやりたい」とか、すでに問題が彼らの中にあって、「これをなんとか解決したい」と思ってはじめる方が多いと思うんですけど、例えばMBAとかに留学されてる方って、問題意識はなく、要するに自分のパッションからではなく、社会的に良いから起業される方が多くて。

そうすると自分のパッションではないのでなかなか続かない、ということを目にすることがあったんです。スタートアップするうえで、そもそも自分が「これをやりたいんだ」ということの見つけ方の部分が、実は日本は弱いんじゃないかな、と私自身は感じてるんですが、いかがでしょうか?

田所:そうですね、僕の本(『起業の科学 スタートアップサイエンス』)に書いてるんですけど、「カスタマーと話すのは非常に大事だ」と。半分は、いわゆる「内省」というか、自分との対話かなと思うんですよね。スタートアップは僕も4社、5社やっていて、やっぱりつらいんですよ。

起業の科学 スタートアップサイエンス

つらいというのは、基本的に9割が断られる仕事なので、でもやり続けるか否かというのは、まさにその僕の本でも書いてるんですけど、「ファウンダー・イシュー・フィット」と言って、「ファウンダー(創業者)」自身と、「イシュー(課題)」がフィットしているか。

つまり、「あなたはこの課題解決、このソリューションを作るために生まれてきましたか?」というところがやっぱりあると思うんです。それがフィットしてないと、なかなかつらいかなと思います。

実はここに来る前、僕のアシスタントの子をメンタリングしてたんですけど、やっぱりずっと内省化するのもけっこうつらいんですよ。彼女がふわっとしてたので、僕は「なんであなたはこのサービスをやりたいんですか?」と、ひたすら聞きまくったんですね。そしたらその場でピボットとかしましたけど。

やっぱり本当にみなさん、アイデアを思いついたときに、自分自身がやる必然性みたいなところはすごく大事かなと思います。これは1つ、Y Combinatorとかの実際の入居の基準なんですけれども、Yコンと言って、世界トップのインキュベーション施設があって、この前、卒業生の時価総額が11兆円を超えて、AirbnbとかDropboxをやってるんです。

そこの面接で一番最初に聞くことが「あなたはこのサービスの一番のユーザーですか?」ということなんです。そこにちゃんと答えられるか否かによって、やっぱりけっこう変わってくるんです。

良い創業者には対話が必要

田所:先ほどお話があったAirbnbも、我々の知識として「デザインスクールを出て」というものはあるんですけど、彼がなぜ、そもそも思いついたかというと、お金がなかったんですね。銀行口座に確か、1,000ドルしかなくて。その月の家賃が1,200ドルで、デザインを外注して売るにも仕事がなくて、しょうがなしにたまたまルームシェアをしてたら、部屋が空いていた。

もしかしてこれをcraigslistにアップしたら売れるんじゃないか、という感じで始めたんですね。そこから自分自身、お尻に火がついたようにやっていたというところがあって。だからまさに、自分ごとの課題を解決しようというのが1つのポイントかなと思います。

そういった意味でやっぱりアメリカ……僕もアメリカの大学を出てるんですけど、基本的に周りには他者がいっぱいいて。僕が行っていた大学にも留学生がすごく多かったので、文化も言語も宗教も違うなかで、やっぱり他者とのコミュニケーションが本質的なものになると思うんですね。そもそもいろいろ聞かれるんですよ。

先ほど高野さんから「日本はクリエイティブ」という話がありましたけど、いい意味でも悪い意味でも、日本のことを根掘り葉掘り聞かれるんです。そのときに答えられるか否かというところで、自分のことを日本人だと意識しましたし、日本の文化であったり、そこから改めていろんな側面をインプットしたりもしました。

他者との対話の中でそういうものが見つかるというのは、もしかしたらダイバーシティの高いアメリカだけの話かもしれないですけれども、日本においても良いファウンダーの条件というのは、やっぱり自分との対話をちゃんとやっているかどうか。まあけっこうタフな質問なんですけど、「そもそもなんでやりたいんですか?」みたいな。

でもやっぱり、それをやってるかどうかが1つのサービスの最初の軸、土台としては大事なポイントかなとは思いますけどね。

「失敗することが重要だ」という風土

高野:『Forbes』のテーマは「Positive and look forward」なんですね。基本的にポジティブなので、少しポジティブな話もしようかなと思うんですけど(笑)。

今回の『Forbes』の表紙の2人、たまたまですけど、同号で1位だったんですね(注:2018年1月号「日本の起業家ランキング 2018」)。メガカリオンの三輪さん(三輪玄二郎氏)と、ラクスルの松本君(松本恭攝氏)ですね。松本君が33歳、三輪さんが66歳、ちょうど倍なんです。それで、三輪さんがスピーチで言ってたんですけど、彼はハーバード出なんですね。

60歳で起業したときに、ハーバードの教授に「これから起業するんだけど」と言ったら、「お前、今から起業するのか」って言われたらしいんです。それで三輪さんが、そのハーバードの教授に聞いたのは「10代や20代よりも、30代、40代のほうが、アイデアなど、起業するときの能力は低いのか?」と。そしたら「残念ながらそうだ」と。10代、20代のほうが(能力が)高い。

しかしながら、30代以降はほとんど変わらないらしいんですよ。ということは、はっきり言って、50代でも60代でも70代でも、起業しようと思えばできるわけですね。それが1つ、ポジティブなところ。

しかしながら、この間ちょっとGoogle Xに行ってきたんですね。普通は入れないんだけど入れてもらったときに、Google Xってすごくて、いろんなことをやっていて。ロボットのところだけは見せてくれなかったんですけど、自動運転やAIのところは見せてくれたんです。

それで、ものすごくお金をつけるんですよ。でも、ほとんど失敗するらしいんです。失敗して、そのチームが解散したときに、失敗したということに対してボーナスを払うらしいんですね。つまり、失敗することが重要だということらしいんですよ。失敗してなにもなくなるんじゃなくて、失敗することによって残るものがある、と。だからそういう風土が日本にあれば、もうちょっと違うのかなっていう感じはしますよね。

田所:僕もシリコンバレーでやっていて失敗したんですけど、表現として「Failed entrepreneur」ってないんですね。あるのは「Experienced entrepreneur」って言って、要は「経験した」アントレプレナーしかいない。「Failed」という表現を使わないんです。

高野:そうそう。

Appleに会社を売却した69歳の起業家

田所:シリコンバレーの話ばかりで恐縮なんですけれども、シリコンバレーだと、おっさん起業家が多いんですよ。実際の中間値をみても、平均44歳ぐらいなんですよね。若手の、SnapchatのCEOとかマーク・ザッカーバーグがメディアに出るので、そう思いがちなんですけど、けっこうBtoBの渋めの企業って、40代〜50代はすごく多いんですよ。

あと、もしかしてみなさん曽我さんって知ってます? 曽我弘さん。

高野:聞いたことあるね。

田所:曽我弘さんっていう伝説的な……(会場に)知ってる人います?

(会場挙手)

あ、1人、2人いますね。曽我さんという方は、御年84歳なんですけれども、55歳のときに新日鉄で働いていて、そこで思い立って、2000年頃にシリコンバレーに渡ったんですね。そこから6社を立ち上げて、6社を潰したんですよ。曽我さんは本も出してるので、ぜひ買ってみてください。まだご存命なんですけど。

それで、7社目がSpruceTechnologyといって、DVDのオーソリゼーションシステムを作ったんですよ。それがすごくハネて、途中からAdobeとMicrosoftが「買いたい」と言い出したんですね。それで交渉がはじまったら、なんか見慣れない番号から電話があったんです。

それでパッと出て「誰だ?」と言ったら、「スティーブだ」って言うんですね。「どのスティーブだ」って聞いたら、「ジョブズだ」って言うんですよ。スティーブ・ジョブズからいきなり電話があったんです。そこで、「明日私のオフィスに来るのか」「お前らを買いたい」と言って。

当時、曽我さんはもう69歳ぐらいなんですよ。6社潰して、7社目で「ようやく来た」って感じで。1回、VCから入れて、もうバイアウトしようとしてたんです。それで、AdobeとMicrosoftと、どこかが買おうとしていて……でもAdobeもMicrosoftも担当者が遅かったんですよ。

でも、スティーブ・ジョブズはいきなり電話をしてきて、「明日、クパチーノ(注:アップル本社所在地)に来い」と言って、メモ用紙を渡して、この条件でどうだということを「明日までに返事しろ」って言ったんですね。それで「わかった」と言って、当然、交渉をして、曽我さんのSpruceTechnologyの顧問弁護士とAppleの顧問弁護士が会って、タームシートをやって、翌日にdoneしたんですね。当時、69歳とかで、僕の記憶だとそれが2005年くらいかな。

それで会社を売って、最後……これがすごく感動する話で、曽我さんがいつも話すんですけど、スティーブと「ありがとう」って握手をするんです。そしたら曽我さんがスティーブ・ジョブズに「What’s your next?」って言われたんです。69歳のおじいちゃんとか、あんまり関係ないんですよ。スティーブ・ジョブズもたぶん50歳くらいだと思うんですけど。

今はSpruceTechnologyはAppleのものになった。実際にSpruceTechnologyのテクノロジーがiMovieにも使われてるんですよ。SpruceTechnologyのソフトエンジニアはまだ10人ぐらいいるらしいんですけど。

それで(曽我さんは)帰ってきて、今、NEDOの審査員をやったり、インドネシアのドローンの会社をやったりしてるんですよね。それはちょっと極端な例かもしれないですけども、年齢も日本にいたらけっこう意識するかもしれないけど、向こうに行ったら、とくにアメリカに関していうと、人種も経歴も宗教もバラバラなので。やっぱり年齢もとくに意識しないというか、曽我さんの話は極端かもしれないですけど、すごいなと思いましたね。

未来を見据えたSF的な考え方

高野:あともう1個、ポジティブシリーズで。一応、最初は「日本人はクリエイティブだ」という話で、(2個目は)「30歳、40歳、50歳になっても起業できる」っていう。これは事実ですからね。

それで、3個目はですね。……あ、ごめんなさい忘れちゃった。各務さんちょっと、なにかある?

(一同笑)

各務:あ、じゃあポジティブな話でいいですか? ポジティブなものでいうと、起業するときの「なぜ起業するか」というアイデア出しの話です。アメリカでは最近、わりとSFをベースにしたような起業が多いと思うんです。

それは今の状況・現状をマーケティングして、「これが必要だな」ということで起業しているわけではなくて、なにかと言ったら、「50年後をどういう未来にしたいか」ということをベースに起業されてる企業が多い。

もしかしたらご存知かもしれないですけど、例えばSoylentという会社では、1日に必要な栄養素のサプリが全部粉になっていて、水に溶かして飲む、というものを作っているんです。彼らは貧乏で、1日に必要な食べ物を買えなくなったので、自分でサプリを買ってきて砕いて飲んでいたら健康になっちゃって、「じゃあこれで起業しようか」っていう方々だったんです。

彼らは途中でだんだん、未来をもっと投機的に見るようになって、「将来、50年後の世界は、栄養を摂るための食事と、寿司やステーキのような味を楽しむレジャーの食事に分かれていくだろう」と、星新一のSF小説のようなステートメントを書いてるんですね。

現状の問題を把握してそこを解決しようとすると、けっこうレッドオーシャンになりがちなんですけど。「50年後をどういう未来にしたいか」っていう、SF小説を書くようなところからはじめて起業すると、けっこう長い目線のものになったり、あるいはニーズに応えるんじゃなく、ニーズを作る企業になるのかなと思っています。

その点に関して言えば、日本に対してポジティブに思うのは、日本って突出してSF作家が多い国で、『攻殻機動隊』とか『ドラえもん』とか、星新一もそうなんですけど、あの小説の中だけでユニコーンファームがどれだけ生まれるのかっていうくらいアイデアがあって。

そういう意味では、今もう1回、日本のSFの考え方を見直すことによって、今の現状じゃなくて、もっと未来、50年後、100年後をどういう未来にしたいかっていう、ちょっとSF的な考え方から起業するような人たちがエンジニアとかデザイナー、あるいはもっとクリエイティブな物語作家の中からも生まれ得るんじゃないかなと私は思っています。

今日本は世界から注目されている

高野:思い出しました、私のポジティブ3点目(笑)。最近、本当に感じるのは、どこへ行っても日本が注目されてるんですよ。とくに海外のVCからいろいろアクセスが来たり、「日本でファンディングしよう」とかも含めて、日本がすごく注目されている。

これはなぜかと思っていたら、一言で言うと、日本はアンダーバリュードなんですよ。どこへ行っても建物が建っていて、ものすごくアンダーバリュードで。それでいてご存知のように、今インバウンドで人がバンバン来るから、日本が外国人の目に触れる率がすごく上がっていて、「ここいいじゃん」「日本はやっぱりいいな」って話になっている。

京都なんか今、異常じゃないですか。そうするとこのトレンドは2020年のオリンピックまでずっと続くとすると、相当いろんなエクスポージャーがあって、日本が見直されるかたちになって。一方で、安いんですよね。昔、僕がゴールドマンにいたときに、ゴールドマンのオペレーションがシンガポールに移ったんですよ。そのときの唯一の理由が、「日本が高かったから」なんですよ。

今は、ホテルオークラに泊まっても2万円じゃないですか。はっきり言って、今、大都市だったらマリオットにはそんなに安く泊まれないですよ。ホテルオークラとマリオットでは5段階くらい違いますからね。つまり今非常に良い環境で、外から日本に向いてきている感じが出てきているので、これは少しチャンスなんじゃないかなと思いますね。

田所:安いというとそうですね。衣食住で言ったら食べ物が圧倒的に安い。シンガポールで一風堂のラーメンを食べたら28ドル取られましたからね。日本だと3分の1で食べられますし。あとはDeNAとかIT系の会社もそうなんですけど、エンジニアが安いというのもありますよね。

シリコンバレーやシンガポールとかはやっぱり高いので。基本的にエンジニアは、最低でも“150K”と言って、だいたい年収にして1,800万ぐらいからなんですね。日本だと、いわゆるブラック企業的な感じもあって、搾取されて、みたいなことがあると思うんですけど、やっぱり安いんですよ。600万円で基本的に真面目で、まさにアンダーバリュードなところがあるかなと思っていて。

今、中国もすごく賃金が上がってきていまして、チャイナプラスワンのような感じで、開発センターはベトナムやバングラデシュ、ベラルーシやウクライナに移ってますけど、日本にもけっこう戻って来てるんですよね。

やっぱり生活費がそんなに高くないのもあったり、衣食住で言ったら、住はちょっと高いですけども、基本的に食が安いので。だからもしかしたら、ここ(日本)は、開発センターになったり、デザインセンターになるポテンシャルがあるんじゃないかなと思います。