孫氏が考える勝算ライン、「本気の7割」

孫正義氏(以下、孫):次、この「七」。

これは非常にユニークなね、ユニークな私のオリジナルの七という数字ですけども、

トカゲの尻尾も3割くらいなら切っても生えてくるぞ、でも半分くらいまできたら腸まできて死んじゃう、ということです。私はいろんなリスクを取っていろんなチャレンジをしてる、と外では思われてるんだろうと思います。

激しくむちゃくちゃにチャレンジしまくり、冒険、博打、いろんな言い方の表現があると思いますが、実は激しく戦いを挑み、頻度もガンガンにチャレンジしていくんだけど、本当はものすごく用心深いんです。

3割以上のリスクは犯さない。失敗した場合でもその部門を切り捨てれば、本体は倒れない。その切り捨てる部門が本体の収益、本体の全体の企業価値、それの3割を超えるようなリスクを犯さない。一か八か、これもやっちゃいけない。7割以上勝つという確率のところまでグーっと理詰めで詰めて。

でも7割というのはね、7割以上勝てるという確率は皆さんの主観によるわけだよね。もう7割いけると思い込む場合が多いから、それは気をつけなきゃいけないよ。もう7割いけた、充分いけると軽はずみに7割だと錯覚してはいけないよ。

絶対に7割以上いけるという、「絶対にいける」7割だよ。もしかしたらいける7割、じゃないんだよ。考えに考えに考え抜いて、どう考えてもこれは7割以上いけるぞ、という7割じゃないといけないんだ。執念の入った7割じゃないと。いい加減に、7割でいいって孫さん言っとったからな、っていい加減に大体でいいやと言って、軽い気持ちで7割って決めちゃイカンよ。

もう考えに考えに考え抜いて、7割行けるということで、やってほしい。5分5分の勝率でやるぞというのは、もうバカがやることだと。リーダーになっちゃいけない、そういう人は。武田勝頼になるよと。

もう負け戦だというのにそのまま突っ込んで全滅まで行っちゃうと、リーダーとしてはもう最悪のリーダー。後の時代から見て解説してる人が、「武田勝頼は実は賢かった」とか言っている人がいるけれど、そんなの私に言わせれば解説してる人がバカだと。

もし私が勝頼の立場にいて、自分の兵が、その騎馬武者、武田軍団の騎馬武者が3割くらいやられて鉄砲にあたって死にそうだとなったら、その場で恥も外聞もなくバーっと一目散に逃げる。退却と。一目散に退却させる。途中からあれ、意地になっちゃったんだね、勝頼は。

バカの典型ですよ。そういうバカがリーダーになると、会社を潰すからね。これだけはもう絶対に戒めなきゃいけないと。間違って後継者になっちゃったと、君たちが馬鹿だったら会社潰れるからね。意地で戦いをやっちゃいけない。途中から意地になるのよ。普通ね。

普通は負け戦だとなって3割も死なしちゃった、3割も失っちゃったと。だいたいケチなやつほどそのまま突っ込んじゃう。失ったと思った時点でもったいないと、もったいないから取り戻さなきゃいけないと言って、深堀りして全滅しちゃうの。このもったいないという発想が会社を潰す、ということです。

ケチなやつは無能

:何回も退却戦をしました、僕自身。退却をするのは10倍勇気がいるんです。退却する時は早いよ、僕は。おびただしい数の退却戦をしましたが、その時むちゃくちゃ書かれるよ、マスコミにね。

「卑怯者だ」「いい加減だ」とか「無責任だ」とか。ましてやジョイントベンチャーでやってる時にパートナーに迷惑かけるとか、いろんな意味でそこに一生懸命やってる部下がいる。そしてもうすでにお金も100億円突っ込んじゃったと、1,000億円突っ込んじゃったと、そこを退却するという時はすごく勇気が入ります。

ましてや僕の後継者になった皆さんが退却するというのは、ものすごく勇気がいると思う。僕が退却するよりも勇気がいると思う。

僕が退却する時は、なんて言われてもまあしょうがない。皆さんが2代目として、あるいは4代目として後継者になって退却戦を演じる時は、先代は偉かったと言われるんだよ。2代目が弱虫で、2代目が無能で、3代目がバカだから失敗して退却した、とこうやって書かれるんだよ。それを退却するのがどれほど勇気のいることか。これをやれた男だけが、初めてリーダーとしての資質がある。

意地でやる奴はバカだと思え。退却できない奴はバカだと思え、退却できない奴はケチだと思え。そんなケチな奴がリーダーになっちゃいけないということですね。それは無能というんです、私の中では。退却できない奴、車で言えばブレーキの付いてない車が、どれほど危険か。バックできない車がどれほど危険かということですね。

だから、この「七」という数字は頭に叩き込んでほしい。ただ単純にただ「7割の確率ですね」という程度の理解じゃいかんよ。3割以上、絶対に組織を痛めないと。3割以上いかれそうだ、やられそうだ。もう迷わず瞬間芸でスパーンと切る。涙をのんで、部下を見殺しにせよと。これが出来ないんです。

見殺しにせよって、クビにせえって言ってるんじゃないよ僕は。その部下はまた別の部署がいっぱいあるから、なんぼでもまた盛り返せる。そのくらい厳しい激しい、その強く固い守りを持ってないと、これはリーダーになっちゃいかんよと。

だいたい、大企業になってから潰れた、あるいはちっちゃな中小企業も潰れる時は、この止めきれなかった人の場合です。株式投資でも一緒ね。ということであります。

まあ9割までの確率を待つと、我々の業界では特にほとんど手遅れになる場合が多いんで。もちろん9割、短期間で早く素早く9割10割の確率取れれば、もちろんそれに越したことはない。でも迷って迷って迷ってる間に時間が過ぎて、8割まで待たなきゃいけない、9割9分まで確率を高めなきゃいけないというところまで時間を待つと、だいたい手遅れになる場合が多い。

というのは、世界中でみんな競争して、激しいわが業界の生き馬の目を抜く競争が、みんなガンマンのようにガンガン素早く銃を撃つと。こっちも素早く撃たないと、ほとんど手遅れになると。日本の大企業がだいたいやられるのはこのパターン。9割まで待つということであります。だから9割がいいというわけではない、ということもぜひ覚えといてください。

「闘」の一文字が表す意味

:次の一文字。

:この意味は? はいどうぞ。

発言者:○○といいます。闘争心、攻撃こそ最大の防御である。

:うーん。いいじゃないか。はい。

発言者:○○です。ビジョンを実現させる為には、武器と権力と戦う。

:武器と権力と戦う。ビジョンとね。はい。

発言者:○○と申します。相手を見定めて戦うことだと思います。

:相手を見定めて戦う。はい。

発言者:○○です。リーダーに備わっている闘志であると。

:リーダーに備わっている闘志。はい。

発言者:リーダー自ら先頭に立って戦う。

:先頭に立って戦う。はい。

発言者:○○です。7割以上勝算があるという事業を絶対にやり抜く、という戦う気持ちだと思います。

:7割以上確率があったら絶対にやり抜くというための戦いだと、まあそういうことですね。

事を為すため、少々の迷惑はやむを得ない場合もある

:つまり、いくら高邁な理論を言おうが戦略的な素晴らしい考えを持とうが、事をなすというのは「戦って初めて事をなす」と、競争が常に有りますからね。だからどんな優れたビジョンでも、どんな優れた戦略でも、どんな素晴らしい情報を集めても、7割以上勝つ確率があったと見えたとしても、いや俺は知ってたよ、そんなもの俺だって知ってたさと、よく言うじゃないか。

典型的な例が評論家の皆さんだよね。もう偉そうにいろいろ、あーだーこーだ言う。コンサルタントも偉そうに、いろいろあーだこーだいう。そういう人に限って「やってみろ」と言ってみると、「いや、それは私の仕事じゃありません」。たいがいにせい、と。言うだけなら簡単だよ。

自分が戦って為せるという自信がないと、覚悟がないと、高邁な理論は無責任な理論だということですよ。高邁な戦略も、ビジョンも、そりゃ言うだけに終わる。

言うだけでいいなら簡単だよ。二行くらいでツイッターでつぶやいておけばいい。言うだけならね。僕もツイッター毎日やってるけど、いろいろなこと書く人いるな。たまには言いたいよ、やってみろと。やるということは難しいんです。

やるということは、戦わんと出来ないということです。我々の理念として、情報革命で人々を幸せにする、というそれは立派なビジョン、理念、立派な志を掲げてますねと。その立派な志があるなら、なんでSIMロックかけとんだと。こうやってツイッターに書かれとるわね。

そうでしょう。今もustreamで流れてると、ツイッターの皆さんは「あー言い出したぞ」「ハゲが言い出した」。来たかって待ち構えていると思うんですよ。

我々が我々の高い理念、志を実現さすのに、言うだけでいいなら簡単よ。言うだけでいいなら。情報革命で人々を幸せにしましょう。誰でも言える。どんなに素晴らしい理念でも志でも、実現させなきゃいけない。事をなさなきゃいけない。

坂本龍馬ならSIMロックなんてかけてないだろ、って言われるよね(笑)。だけど坂本龍馬も戦ったんだよ。倒幕したんだよ。そりゃ高杉だって西郷さんだって、みんな戦って事を為して、という風にやったわけですね。

戦ってる最中に敵にわざわざ自分の武器を渡すかと。事を為す前に自分が倒れるやんかと。事を為す前に、つまり高い志を実現させる前に、情報革命で世界中の人々を幸せにしたい、そういう高い志を実現させる前に、「あー、いい人だったね」と惜しまれて死んでいった。これじゃあただのいい人。

戦ってる最中に、事を為す前に自分が戦う武器をやるバカがどこに居るんだと。そういう人は絶対に事をなせない。それこそ評論家。それこそ無責任な人。

それは、トヨタの創業者だって松下幸之助さんだって本田宗一郎さんだってヘンリー・フォードだってロックフェラーだってビル・ゲイツだってスティーブ・ジョブズだって、みんな戦ってライバル会社を何とか出し抜いて、戦って戦って戦い抜いて、そして人々を幸せにするという自分の理念を実現させていったわけです。

だから、戦うということはビジョンを実現させると。戦いイコール、ビジョンだと。ビジョンイコール、戦いだと。そういうことです。

単に、いつでもかんでも戦いましょうということではない。それはビジョンを実現させるために。そのビジョンを、理念を実現させるために戦わなけゃいけないということですね。総務省とも戦わなきゃいいけない時もある。相手が首相であろう大統領だろうか。戦わなきゃいけない時もある。

それは、何のため戦うんだということ。高い志、理念、それを実現させるために、そういうビジョンを実現させることによって、本当に人々が結果的に、最終的にですよ、10年後か20年後100年後か、来月の幸せのためじゃなくて、50年後100年後300年後の世界中の人々の幸せのために。

龍馬が脱藩する時、近所の人に迷惑をかけたよ。家族にも迷惑をかけたよ。藩にも迷惑をかけたよ。半年や2、3年迷惑かけても、時にはしょうがない場合もある。

非常にこれ難しいことなんですけどね、でもそれは心の奥底に本当に人々に幸せになってもらいたい。本当に自分たちが生き残ったら、戦い抜いて生き残ったら、最終的には100年後300年後の人々に、本当に感謝される。

そういうことをやると決意があったならば、少々の非難は覚悟の上で、もちろん悪いことはしていけないよ。ライバルに勝つこれは、事を為すために起業家・革命家はやらなきゃいかん。時としてそういう時がある、と。命を懸けて戦って初めて事が為せる、ということであります。

制作協力:VoXT