テーマが正しければイノベーションは起こる

阪根信一氏(以下、阪根):二名のゲストをお招きして対談し、その後、懇親会をしたいと思います。まずお二人をご紹介します。昨年11月に出版されました『起業の科学 スタートアップサイエンス』という、評判の本を書かれた田所さんです。拍手をお願いします。

(会場拍手)

田所雅之氏(以下、田所):こんにちは。

阪根:もう一名は、身内で大変恐縮なんですけれども、セブンドリーマーズのCFOで、地引と申します。当社に入っていただく前は、ソネット・メディア・ネットワークスが東証マザーズに上場したときの社長でした。よろしくお願いします。拍手をお願いします。

(会場拍手)

地引剛史氏(以下、地引):お願いします。

阪根:今日はモデレーターとして、お二人からスタートアップについていろいろ引き出したいと思います。今日のテーマは「スタートアップがスタートアップを語る」でございまして、起業のポイントや難しさ、チャレンジ等々についてディスカッションを引き出せたらなと思っています。

まず、私の方からごく手短に、ランドロイドが置かれている、このランドロイド・ギャラリーのコンセプトを簡単にご説明させていただこうと思います。まず我々は、このランドロイド・ギャラリーを「Co-Innovation Base」と呼んでおります。

最近流行りのコワーキングスペースみたいですけども。私たちは、基本的に、イノベーションはテーマを選ぶことが一番大事だと思っています。テーマを正しく選べばイノベーションは必ず起こるし、テーマの選び方を間違えばイノベーションは起こらない、というくらいに思っています。

その時の私たちのクライテリア(判断基準)は、「世の中にないものであること」、「人々の生活を豊かにするものであること」、「技術的ハードルが高いもの」です。この3つをクリアするテーマを真剣に選んで、テーマとして格上げしたら、後は全力でやりきる。

その時のポイントは、まず実際にやると決めたらゴールを明確にすることですね。どういう製品でどういう機能を持った(ものか)、いつまでに作り上げるのか。とくに、世の中にないものを作る、イノベーションを作る時に大事なポイントは、垣根を作らない。

チームができたら、専門家を作らない。「ここは僕の領域だから」「ここは僕の得意分野だから」みたいなことを言わせない。何でもやらせるというのが大事です。

ランドロイド・ギャラリーを開設

阪根:それから最後は、当たり前なんですけども、だいたい変わったことをしようと思うと反対意見が無意味に、怒涛のようにやってくる。その反対を常に押し切り続けて諦めずにやりきったら、そこにイノベーションが生まれると考えております。

そんな中、当社はこちらにあります、世界初の洗濯物自動折りたたみ機「ランドロイド」を開発しました。いわゆる最終段階で、来年(2018年度内)発売です。2005年から13年間やってるという、とてつもないプロジェクトなんですけども、私たちだけでできたことではなくて、ここに至るまでにこれだけたくさんのパートナーの方々に支えられ、その化学反応によって生まれたイノベーションだと思っています。

そういったことも鑑みて、我々はこのランドロイド・ギャラリーというスペースをCo-Innovation Baseとして位置付けています。まず一つはマインドシェア。イノベーションを起こす、志や想いをチームで共有する場所。それからスペースシェア。

イノベーションを起こしている挑戦者たちの場所と空気の共有という意味合いで、このスペースを活用させていただき、このようなイベントも複数回開催させていただいております。

私たちは、この日本からイノベーションは起こると信じております。日本だからこそ起こると思っていて、そういったことを実現するために、私たちも全力で行くし、こういう場で新しいイノベーションがどんどん生まれたらなと考えております。

僕の話が長くなって恐縮ですけども、先ほど紹介しました田所さんと地引さんをお招きして、私がモデレーター役ということで、いろんなことを引き出していきたいなと考えております。それではまず、田所さん、ぜひご自身についてお話しいただけますでしょうか。

田所:こんばんは。僕自身は阪根さんみたいに大きくスケールする起業家になり損ねました(笑)、これまでシリアルアントレプレナーとして事業を立ち上げて、多くの失敗をしてきて、それが『起業の科学』という本のベースになっております。

起業の科学 スタートアップサイエンス

日本で立ち上げた2社目は軽く売却して、3社目は2011年にシリコンバレーでやりました。もうぜんぜん上手くいかなくて。本気で情報も集めて人も雇ってやったんですけど、今思うと、起業家としてやってはダメなことを上からなぞるようにやっていました。

そこから就職しようと考えたのですが、起業をやりきった感がなくて、5年前に日本に帰ってきて、4社目を立ち上げました。それを3年ほどやって、いい感じでスケールすることができました。去年末までは、起業家をやりながら、Fenox Venture Capitalというシリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーをやっていて、日本と東南アジアとアメリカの投資担当をしておりました。

普通のサラリーマンから子会社の社長に

田所:僕のユニークな点は、日米で起業しているところと、後は世界中1,500社くらいでDue diligence(デューデリジェンス)をしてきたこと。『起業の科学』のそもそもの発端になっているのが、全世界のスタートアップを見た時に、共通して起業家が失敗するパターンがあるというところです。

また僕は、これまで300社近くスタートアップのメンタリングやアドバイスをしてるんですけど、毎回、同じことを言うのが効率が悪いと感じました。「起業の科学」は僕自身の分身みたいな感じで、お買い上げいただいて、本を読みながら、僕の思考法と対話いただく、と言うのが狙いになっています。

阪根:ありがとうございます。それでは次は地引さんですね。また違ったかたちで、スタートアップというか、大企業から生まれた企業なのかな?

地引:はい。

阪根:(ソネット・メディア・ネットワークスの)社長になられたご経緯をお話しいただけますか。

地引:はい。僕は実は普通のサラリーマンだったんですね。ソニーに入って、その子会社のソネットという会社に出向して、そこでBlogのサービスの立ち上げとか現場をずっとやってました。

ちょっと経営に近いことをやりたいなと思って、経営企画部に行って、M&Aなどをやったりコーポレートベンチャーキャピタルをやってるうちに、子会社がだんだん増えてきて、子会社がみんな押し並べて調子悪くなっちゃったんですね。

「お前行ってこい」みたいに言われて、それで経営の立て直しのサポートをしてるうちに、経営が面白くなってきて、のめりこんでいっているうちに、ソネットがソニーに買い戻されて非上場になっちゃったんです。

非上場になると経営企画の仕事ってほとんどなくなっちゃうので、「それだったら行けば」と上司に言われて、転籍すると同時に建て直した会社の社長になって、それで運良く。その会社がソネット・メディア・ネットワークスというんですけれども、アドネットワークという広告のネットワークをやってる会社でした。

起業して経験した苦労について

地引:その会社を一回立て直して、2年かかって黒字化させた後に、アメリカから新しい広告の仕組みがやってきていて、そこに業態転換をすることを決めました。そこからちょっと一旦離れていたんですけど、会社が調子悪くなっちゃったんで、サポートに行きたいなと思っていました。

そのうちに「どうせだったら、せっかく業態転換指導したんだし、やれば」と言われて、「じゃあ行きます」って言って転籍と同時に代表になって、また赤字化しちゃったんですけど、そこを黒字に立て直して会社を上場までして、1年くらいたって軌道に乗ってきたので、次のチャレンジをしたいなと思って、ここ(セブンドリーマーズ)に参画しました。

阪根:ありがとうございます。ソネット・メディア・ネットワークスの前身は、ライブドアマーケティングですよね。

地引:はい。そうです。

阪根:ライブドアでいろいろあったときに、おそらくソネットさんが買ったと。

地引:そうです。経営企画部に移動して、初めて担当したM&Aの案件がそのライブドアマーケティングの買収だったんです。そこからの縁でずっと経営の立て直しとかに入って、最後に上場までこぎつけることができました。

阪根:なるほど。ありがとうございます。あと、ここにおられるみなさんは、ハッピーな話を聞くよりも、絶対に苦労話の方が面白いと思います。田所さんは、先ほどシリアルアントレプレナーとして、相当いろいろな経験をされてきて、とんでもない成功ととんでもない失敗と両方あるんじゃないかなと。

すみません、勝手ながら想像しております。成功のところはちょっと置いておいて。スタートアップ企業の起業をして、どういう苦労が一番きつかったなとか、こういうエピソードがあったというところをご紹介いただける範囲内でお願いします。