空腹が増幅させる感情

ハンク・グリーン氏:夕食の時間が近づくとお腹がグウグウ鳴り出します。急に貧乏ゆすりをし、他のことはどうでもよくなるくらい我慢できなくなります。空腹のあまりどこかへ駆け出し、空腹の犠牲者となります。それは言い訳などではなく、生理的かつ心理的な現象です。科学は空腹を現実にあるものと認めています。

例えば、パートナーのブードゥー人形(注:欧米で「呪いの人形」とされるグッズ)に多くのピンを刺したり、パートナーを激しく罵ったりするとき、血糖濃度は低いのです。

こうした現象は空腹のために自己管理力が弱まるのが理由だと心理学者と考えています。衝動的な行動には脳の力は不要です。脳のエネルギーレベルが低いことは、エネルギーを保持する力がないということなのです。

別の仮説では、空腹を身体が不快と感じるのは、脳が誤った判断をするためだとしています。そのため、感情の発露は身体内部で起きている現象と、現象に対して感じることの組み合わせだと考える人もいます。

不快に感じていても、その理由がわからないときには異なることを感じるでしょう。しばらく食べないでいると、ゴロゴロ鳴るおなか。もしくは疲れや、ボーッととしてきた頭の原因が、その反応を引き起こすようなストレスや怒りなどが原因と考えるかも知れません。ところが、そうではありません。

2016年、236人の大学生にコンピュータによる衝突音を聴かせ、イライラさせる実験が行われました。テスト前に断食をさせられた人たちは、消極的な反応を示し、空腹に関連した感情に、不快音でイライラした感情に加えて、挫折感が増幅されているような反応を見せました。

実験を実施した者に対して、より強い憎しみを表した被験者もいたと報告されています。憎しみですよ! 極端に聞こえるかもしれませんが、本当に起きた出来事です。

空腹と怒りは心理学的に非常に似ています。脳内でも、怒りを感じたときと空腹を感じた時とで活発になり、同じような反応を示しました。

それは脳内にある「神経ペプチドY」と呼ばれる小さなタンパク質が起因しているからです。「神経ペプチドY」はエネルギー供給が少ないときや、攻撃を統制しようとするとき、身体に食べさせるよう促します。理にかなっている働きをします。

空腹になると、脳や組織が飢餓に陥らないよう、血流に糖分量を増やすホルモンが放出されます。「神経ペプチドY」はストレスの強い状況で放出されて、血糖値を上げることで生物に本来の力以上のものを出させるのです。

空腹と攻撃の結びつきは身体的なシステムよりも効果を発揮するかもしれません。人間の祖先にとって、食べ物はいつでも手に入るものではありませんでした。空腹感は食物が不足している兆候です。空腹時には食物のために命を懸けて闘う価値があったのでしょう。

空腹ゆえ、食物に対してより攻撃的になり、のんきな敵に打ち勝てるように人智を超える力を出させようと促すのかもしれません。そのような空腹時の遺伝が現在の私たちにも受け継がれています。

今度、イライラする・挫折感を覚えたら、身体が空腹を知らせる信号を発する方法なのかもしれません。