中学生・高校生に留学の価値を伝えられるか

田中章雄氏(以下、田中):今回ここにお集まりのパネリストの皆さんに僕からの質問としては、最近、海外に留学とか、そういう現場にいる人たちと話す機会があったのですけれども、ここ20年で外に旅立つ日本人の留学生が激減していると。

それは留学生ビジネスが激減しているのではなく、留学生ビジネスは増えているのです。だだ、そこに日本人があまり来なくなった。

周りに多いのはアメリカだと、アジア系に特化していえば、やはり中国系、韓国、インド、東南アジアの国で、日本人は過去はいっぱいいたけれども、すごく減っていると聞いていて。

ここにいる人たちは意識が高いので違うのかもしれませんが、全体的に見ると、すごく減っているのではないかと危機感を僕は覚えているんです。実際に自分たちの経験とか最近の、特に南さんは留学の時間はちょっと前の世代だと思うので、最近留学したメンバーからも含めて、その辺どう思われているかコメントをいただければと思います。

北川拓也氏(以下、北川):では。

田中:直近の。どうでしたか、日本人いっぱいいましたか?

北川:少なかったです。僕ちょうど1年前にアメリカから帰って来たばかりですけれども、博士までいっていました。そもそも物理学という世界が人が少ないので、日本人以前の問題がありはするんですけれども(笑)。それは置いておいて……。

僕の世代、2004年入学2008年卒業という人でいえば、確かに日本人は数人でした。ただ、これは色んな要素があると思うのですけれども。

僕の周りの方だとか僕らとかが、わりと日本に帰ってきては高校で講演したこともあって、実は、特に僕は灘出身なのですけれども、灘から今、毎年1人ずつぐらいハーバードに入っているようになっているんです。

田中:灘は増えているのですね。

北川:灘の人がやたら増えているのですけれども(笑)。

佐々木紀彦氏(以下、佐々木):不思議な現象ですね。

北川:そう。実際にその影響力はあるんだというのを感じていて。その理屈もあって、ハーバードだけを捉えたら、日本人は実はちょっと増えているんですね。

だから、僕の考えとしては確かに減っているかもしれないけれども、高校生とか中学生に対してしっかりとどういう価値があるとか、どれくらい面白いことなのかというのを興奮して話してあげることができたら、全然増えるんだなという体感値はあります。

田中:ありがとうございました。

留学へのハードルは社会の規範が決めている

田中:佐々木さんのときはどうでした?

佐々木:私のときもやはり日本人が減り気味で、中国人、韓国人、インド人がすごく増えていた時期ですけれども、また底打ちをして。最近の若い人と会っていると留学意識がすごく高まっているなと。ここの会場だけではなくて、すごく感じています。

先ほど南さんもおしゃっていましたけれども、留学して損することは今本当にないですよね。日本人が減れば減るほど、行ったときにどんどん投資対効果が上がっているというか。

田中:希少価値は増えますね。

佐々木:そうです。日本を代表して話せる機会も増えたりとか、日本に帰ってきたときも差別化になったりとか。なので、そこはもう底打ちした感じが私はあります。今ちょっと戻ってきている感じがしますね。

田中:石川さんのときはどうでしたか?

石川善樹氏(以下、石川):僕がいたヘルスケアという業界は、実は日本人は多いんです。というのは、日本は世界一健康な国なので、日本から学びたいというのが世界的なニーズなんですね。だから日本人はどんどん来ているんですけれども。

ただ、僕が思うのは社会の規範みたいなものも実は影響していると思っていて。例えば韓国の人たちは、自分の人生で、自分が何をやりたいかというのは30歳ぐらいにならないとわからないという規範があるみたいなんです。だから、30まではふらふらしようというので、色々海外に出たりとか。あるいはスウェーデンの友達に聞いたのは、スウェーデンの人は人数が少ないので、自分の将来を自分で決めるということをしないらしいんです。

自分の将来は周りの人が「こうしたらいいよ」というのに従って、じゃ、ちょっとアメリカに行ってみるかとか、ちょっとイギリスに行くかと、周りの人の意見を参考にするらしいんですよ。

ひるがえって日本は自分の意志で行くと決めないといけないじゃないですか。だから、個人にすごく判断が任されていて。でも、まだ若い20代前半、中盤で海外に行くという決断はなかなかできにくいんだろうなと思います。

だから、そういう意味でいうと、今後増やしていくのであれば、ぜひ周りからどんどん押していってあげないと踏ん切りがつかない人が多いんじゃないのかな。逆に、来ている人たちは周りから、もっと行けと押されているんだと思うんです。

韓国では子供の留学に親が一緒についていく

田中:前のほうの列の人で留学経験ある人はどれくらいいます? どう思います、今こういうコメントがありましたけれども。留学している人は周りに多いですか?

参加者:僕の行っている学校は全体で2,000人くらいいますけれども、日本人は10人程度です。

田中:多いのはどこの国の人ですか。

参加者:中国と韓国とアラビア人が多いです。サウジアラビアです。

石川:多分ですけれども、そういうところはお父さんとかお母さんが行けと言っているのだと思います。

田中:でも、それは大きいと思います。僕は普段中国にいるので、北京の留学生事情とかを聞いてみたんですけれども、今、韓国の留学生が非常に多いです。それは普通の留学とは違って親が一緒に来ています。お父さんが逆単身赴任パターンでソウルに残って、それ以外の家族がみんな北京留学に来るというパターン。

それはもう親がこれからはアメリカに留学するか中国に留学するか、どちらかの選択なので、中国に行けと。でも子ども1人では心配なので、親が一緒についていくというパターンです。

中国の大学エリアの北京とかには韓国人村ができています。ハングルの文字のお店がいっぱいあって。それは個人の意思ではなくて、親が一緒についていっちゃうというパターンだと思います。

石川:そうですよね。だから、教育ママ、パパを増やせという話ですよね(笑)。

留学は絶対に得

田中:南さん、どうですか?

南壮一郎氏(以下、南):行きたくない人は行かなくていいんじゃないですかね。今日土曜日にここに集まっている人たちが留学しているというのも必然的であって、起業と一緒ですよね。気づいた人はやればいいし。得だから。留学も絶対得なわけです。絶対!

だから、皆さんは気づいているから得をしているわけですよね。ですので、得をしたくない人が主体的に行きたくないのであれば、僕は行かなくてもいいんじゃないのかなと思うし。

どうでしょうね、別にグローバルもやりたい人がやればいいと思っているので。僕はたまたまそういうきっかけがあって、そういう思いは生まれましたけれども、結局ベンチャー企業も本当にグローバルに攻めているところは、ソフトバンクさんとか楽天さんとか、ひょっとしたらDeNAさんとか、最近でいうとクックパッドさん。

経営者を見ればわかりやすいんですよね。全員海外で教育を受けているんです。すごくわかりやすいですよ。それはそうですよね。だって、海外に住んだことがあったり、海外で文化を吸収したことがある人間が、海外に出て行きたいと思うのは当たり前なわけであって。

それも僕は個人の自由だと思うし、それも海外で教えてもらった「いいじゃない、別に何でも。自分がよければ」というのが僕の留学感なので。

行きたい人は応援したいし、知りたいという人には自分の経験を伝えるかもしれないけれども、必ずしも強要する必要はないかなと個人的には思います。

田中:ありがとうございます。

海外へ出ると常識を疑えるようになる

田中:海外に行って損するよりも得したという話があると思います。それは例えばキャリア面で得する部分とか色々あると思うのですけれど、価値観の面で、例えば1回外に出て日本に帰ってきたからこそ今まで見えなかったものが見えるようになるとか、そういう発見とかもあるかなと思うんです。

海外に行って戻ってきてから自分の大学、日本で発見した面白いものでもいいですし、不条理だと思って憤慨を覚えるもの、どういうパターンでもいいです、何かひとつ共有いただければと思います。では、南さんから。

:僕は15年前にアメリカの大学を卒業して、ほぼ毎月海外に行っています。土日でも3連休でも出張があるときは出張でも。それは何かといったら、日本にいるとよくわからなくなるんですよ、何が普通で何が普通じゃないのか。もちろん、日本大好きなんですよ。

結局、海外に行って不自由を味わうことによって、日本のいいところとか……例えば冬の上海のトイレとか悲惨なわけです、何で温かくないんだと。手を洗おうと思ったら、温かい空気が出てこないとか、汚い布とかがあったり。結局は違いを自分でロジカルに探すなんて僕は不可能だと思っていて。

僕の起業体験は全部原体験なんですよね。自分の転職が不便だったから転職サイトをつくった、アウトレットモールが好きだからアウトレットのeコマースサイトをつくった、野球が好きだからプロ野球チーム作った。

それだけなので、とにかく自分の原体験を、常に自分の常識を疑うようなことをするために海外に定期的に行って、それを取り入れるというところ。

ですので、ひとつというよりも、とにかくどうすればいいかといったら、常に海外に行き続けるということだと思います。

人間は星のかけらで出来ている

田中:石川さん、何かありますか? 自分の体験から。

石川:あります。海外に行って何が1番よかったかひと言でいうと、最近ワールドカップで内田選手が言った言葉、「世界は近くて広い」というのが1番近いと思っていて。

私はハーバードへ行ったときの違和感というのが……ハーバードの人たちって基本的に偉そうなんです(笑)。ひと言目には「チェンジ、チェンジ」と言って、すぐ変えたがるんですよね。歴史がない国の人の発想というのはすぐチェンジしたがるんだなと学んだり。

逆にイギリスに行くと、今度はもっと深くて。例えば「善樹よ、人間って何でできているか知っているか」と聞かれたんです。

「遺伝子じゃないですか」と言ったら、「君はせいぜい数十億年ぐらいでしか物事を見ないんだね」と言われて。「どういうことですか」と聞くと「遺伝子ができる前のことを考えてみろ。そのときは僕らは全てもともと星のかけらだったはずだ。人間というのは星のかけらでできているんだよ」と。さすがっす! と思ったんです(笑)。そういうふうに、例えばハーバードと西海岸は全然違ったりだとか。

日本から来ましたというと、とにかく誰でもまず会ってくれるんです。会ってくれるし、会えば会うほど本当に世界は広いなというのを感じるので、そういう意味では色んなところに行って、色々経験すると自分というものがどんどん変わっていくんだなと。そういうのができるようになったというのが1番でかかったです。

田中:ありがとうございました。

日本のメディア業界はアメリカから10年遅れている

田中:では、佐々木さん、自分の発見。

佐々木:そうですね、最初からわかっていたことなのですけれども、日本のメディア業界がこんなに遅れているんだということをあらためて感じたのが大きかったです。

日本の中でメディア業界は特に遅れている産業のひとつだと思っていまして、ちょうど私が行った2008年くらいはどんどんデジタルシフトが起きていて、周りでニューヨークタイムズとかそういうのを紙で読んでいる学生は全然いなくなっていたんですよね。2008年の状況と今の日本を比べても、2008年のアメリカのほうが進んでいるなと今も感じていて。

田中:具体的にはどの部分が進んでいて、遅れているんですか?

佐々木:完全にデジタルシフトのところです。電子書籍であるとか、その電子版がどれだけ普及しているかとか。これだけまだ紙が広がっている国は日本以外はないですから。

その意味で5年から10年日本のメディア業界は遅れているんだということを肌で実感して、これは早く埋めないといけないなと。これは相当面白いものになるなと感じたところですかね。

田中:今ではNewsPicksをやられている。

佐々木:だから、留学していなかったら、この転職も絶対なかったと思います。逆にいえば、むちゃくちゃチャンスがあると思っています。遅れているところだけに。

海外での経験が自信をつくる

田中:では、最後に北川さん、ひと言お願いします。

北川:無駄に気持ちが大きくなる、というベネフィットがありました。

田中:無駄というのはあるんですか。

北川:別に根拠があるわけではないことなんです。「自信」と言ったらひと言ですけれども。いわゆる学問の世界では一応最高峰だといわれるハーバードという場所で、本当に世界一といわれる研究者と一緒に研究をしたというところで、その中で自分なりにやれたということがあると。

今まったく違う分野にいるのですけれども、なぜかまったく関係ないくせに、今でも俺は世界でやっていける人材なんだから正しいだろう、みたいな(笑)。どうでもいい自信がつくわけです。これはすごく大事だと思って。

何でもそうだと思いますが、よくカップルがうまくいく秘訣は何かみたいな話があって、昔に勘違いをされていたのは、正しく相手のことを理解することだとみんな思っていた。

実際にこれを科学的に研究してみると全然そんなことはなくて、実は全く相関はなく、むしろネガティブな相関があったくらい。どちらかといえば本当に大事だったのは相手のことをすばらしい人間だと思い込んでいることだったんです。

正しい判断よりもはるかに上で、それは自分についても同じことだなと思っていて。矛盾したことなんですけれども、自分のことを正しく知ることも大事だけれど、ある一部分では過剰に常に評価し続けて、できないこともできると思い込むことが大事だと思うことがよくあるんです。

海外に行って、とりあえず世界一みたいな人間を見ていると「あ、俺でもできるんじゃないかな」みたいに思い込める。

田中:同化した気持ちになってしまうわけですね。

北川:そうです。自分が別にそこに行っているわけじゃないのに。ノーベル賞学者と一緒にしゃべっているだけで「あ、俺もこのレベルか」みたいな(笑)、そういうどうでもいい自信がつくというのは確かに大きい。全く根拠のない自信がつくのはよかったかなと思いました。

田中:ありがとうございます。