「あえて編集しない」ことのメリット

菅原弘暁氏(以下、菅原):とくに広報の方は、編集者の方や記者の方とやり取りすることが多いと思うんですが、編集により記者の目線が良い方向にも悪い方向にも働くぞ、というところを日々体験されてると思います。

今日はログミーの川原崎さんをお呼びして、あえて編集しないことのメリットなどをお話いただくかたちになると思います。さっそく川原崎さんをお呼びしてセッションを始めたいと思います。では、拍手でお迎えください。ログミーの川原崎さんです。

(会場拍手)

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):ログミー株式会社代表の川原崎と申します。今日はよろしくお願いします。

参加者一同:よろしくお願いします。

川原崎:すごい丁寧な(笑)。初めてこんな品の良いイベントに出ました。

(会場笑)

菅原:しかもわりとリアクションも優しいですね。

川原崎:そうですね。今日はよろしくお願いします。今日はPR関係とか、広報関係に携わっている方はどれぐらいいらっしゃいますか? あ、ほとんどですね。編集関連の方とかは……? 少数ですね。わかりました。

菅原:そこら辺も念頭においてお話を。

川原崎:はい、わかりました。最初に簡単にログミーのご紹介をさせていただきます。ログミーというのは全文書き起こしメディアというかたちで、喋ったことを全部テキストにしてしまうメディアなんですけど。

みなさん広報の方なので、情報発信をされていると思うんですが、いわゆる編集による情報の伝達と、全文書き起こしによるそれで何が違うのか、という辺りをメインにお話しさせていただければと思っています。

編集メディアばかりやっていた反動で「編集しないメディア」を作った

川原崎:自己紹介としては、僕、サイゾーという……なんて言うんですかね。ちょっとおもしろい会社にもともといまして。ジャニーズとか宗教とか、タブーとされている分野に斬り込んでいくメディアを運営している出版社です。

そこで、初めてのウェブメディアとなる『日刊サイゾー』を立ち上げた時に入りまして、それから10年くらいWebメディアのプロデューサーをやっています。2013年に独立して、ログミーを立ち上げつつ、最初の頃はログミーではぜんぜん食えなかったので、いろんな会社さんのメディアをコンサルとしてお手伝いをしながら、日々会社を運営していました。

菅原:でも5年も……5年も続くって、すごいですよね。

川原崎:ありがとうございます(笑)。スタートアップ的には、続けるだけなら別にそんなに難しくないとは思っています。儲けるのは難しいですけどね(笑)。

インターネットでメディアと呼ばれているものもいろいろあると思うんですが、僕自身はその中でも編集力を活かしたメディアをずっとやってきまして、その反動なのか編集しないメディアを作ってしまった、といった感じですね。

ログミーは『世界をログする書き起こしメディア』というテーマでやっていまして、月間で300万人くらいの方が訪問しているサイトです。年間5,000本くらいのいろんなセミナーとか対談を書き起こしまくっていると、そういうサービスになります。

(ログミーを)ご覧になった方が多いということだったんですが、画面はこんな感じで話したことを逐一書いているわけですね。声をそのまんまテキストにしているわけではなくて、そこそこ直したりはしています。

その直すというのは、読みやすくするための修正であって、内容を全部消したり、言ってないことを追加したりは一切していません。要は、人ってそんなにうまく喋れないんですよ。

ライブで喋るので、僕が今こうやって喋ってるのもテキストにしてみると同じこと何回も言っていたり、文章としてはおかしかったりと、書き起こしただけでコンテンツになるわけではないということですね。

それを読みやすく丁寧に直したり、(会場笑)みたいなのを入れたり、要はイベントの臨場感をWebで再現することを目的にしています。こんな感じでいろんなものを書き起こして、ソーシャルが10万くらいフォロワーがいて、いろんなメディアと提携していますよ、ということなんですけど。

菅原:最近スマニュー(SmartNews)も始まったんですよね。

川原崎:あ、そうです。ログミーチャンネル始まりましたんで、ぜひフォローしてください(笑)。

コンテンツの流動性を上げる

川原崎:ログミーの特長は2つあります。1つが、良いコンテンツをより多くの人に届けられること。イベントやYouTubeに上がっている対談動画で、すごいおもしろいコンテンツはたくさんあるんですけど、行きたかったイベントにその日たまたま空いてなくて行けないとか、東京でおもしろいイベントがあるけど九州に住んでるとか。あと、動画を観るのはそもそもめんどくさかったりしますよね。

そういうものを全部テキストで起こすことで、動画だと100再生のものが、ログミーだと1万とか2万の人に見てもらえるといった感じで。「コンテンツの流動性を上げる」と言ってるんですが、良いものを、せっかく良いんだからもっとたくさんの人に見てもらおうよ、ということをやっています。

テキストの良いところは、動画と違って内容を検索できるんですね。動画だとタイトルしか引っかからなかったものが、ログミーだと内容が引っかかるようになるので、より多くの人に見てもらえるという部分があります。

もう1つが、「重要な情報をすべての人へ」ということで、これは僕ら“0.5次情報”と呼んでるんですけど。記者発表や決算発表があった時に、メディアを通すとどうしても編集によって情報が歪められたり、過不足があったりするものを、ログミーはそのまま届けることができます。

0.5ってどういう意味かと言うと、今、通信社が一次情報って呼ばれてると思うんですが、1時間の記者会見を書き起こすと20,000字くらいになるんですね。

でも通信社って(記事の文字数は)100文字とかじゃないですか。ということは1万9,900字は削られてることになります。それを全部伝える。1次情報よりも、もっとリアルに近いというのが、0.5次情報の意味になります。

もう一つ、ログミーファイナンスという、決算説明会の書き起こしサイトをやっています。今日は広報の方が多いのでよくご存知だと思うんですけど、機関投資家・アナリスト向けの決算説明会って、個人だと参加できないんですよね。すると、同じ値段で一株を買っているのに、情報をたくさん持ってる人と少ない人が存在してしまいますよと。

これって不公平ですよね、というのが現在のIRの課題で、これを書き起こしで全部オープンにしてしまう、というのが僕らがやっていることです。俗にフェア・ディスクロージャー・ルールと呼ばれているものなんですけど、投資家間の情報開示を公平にしようよ、ということですね。

我々のサービスのビジョンは、価値がある情報なんだけど、埋もれてて必要としている人に届かない、規制されててアクセスができないようなものを誰でも見られるようにして、世の中をより良くしたい、といったものになります。

嘘がないもの、信頼できるものが求められている時代

川原崎:ログミーの説明は以上で、ここからは「全文書き起こしって情報開示にどういうふうに役立つの?」みたいな話をします。最近、情報発信が難しい時代になっているなと思っていて、これは僕が10年くらいWebメディアをやっていて思うことなんですけど。

もともとメディアの役割って、権力の監視なんですよね。だから政府や企業などの権力を持っているところが、国民や消費者に対して情報を発信しても説得力がないと。結局、“中の人”が言ってるので、ポジショントークにならざるを得ないというところがあると思います。

これは広報の方であれば思い当たることが必ずあると思うんですが、それをメディアという第三者機関が取材をして、第三者視点で届けるから情報の信頼性を担保できる。というのが、これまでの情報伝達の主なあり方だったんじゃないかなと思っています。が、ここのメディアと消費者の関係性が最近ちょっと怪しくなってると思うわけですね。

最近のテレビは、視聴率がだだ下がりでぜんぜん見られてないというのはみなさんご存知かと思うんですけど。この原因は、世の中が「テレビが嫌い」というよりは「編集物が嫌い」というふうになってきていると思っています。

どういうことかと言うと、やっぱり制作者の意図が透けて見えるわけですね。視聴者を泣かせようとしたり、笑わせようとしたり。ドラマとかバラエティ番組もそうなんですけど、ユーザーはそういうものに嫌気がさしてると思っています。

逆に編集していないものの方が安心できるというのは、例えば今テレビの番組って、ドッキリだったり、ドキュメンタリーだったり、あとはイモトがエベレストに登るだったり、ああいう騙しの効かないコンテンツがすごく増えているんですよね。あれって要は「嘘がないですよ」ということをユーザーに示してると思うんですけど、ああいう物しかなかなか観られなくなってきている。

インターネットで言うと、編集された動画よりも、ゲーム実況の生配信だったり、あとはライブコマースとかが流行っているのも、やっぱり信頼できるものが見たいというニーズが高まってきている証拠かなあと思っています。

現代の情報発信の難しさ

川原崎:情報発信が難しくなっているもう1個のところですね。消費者と企業や政府との関係性というところ。これは言ってみればもともと難しいんですが、今一応確認のために書いてあるんですが。

(例えば)ハンバーガーのランキングの記事作成しましょうと。一般のメディアだと、モスバーガーとかクラシックバーガーとかビッグマックとか、いろんな情報を取り混ぜてランキングを作るわけじゃないですか。なので、客観性が高い。

一方で、某M社がオウンドメディアを作るとすると、絶対こういうランキングになると思うんですよね。自社の製品しか取り上げませんよと。消費者が見たいのって、こっち(右側)じゃなくて、こっち(左側)が見たいわけじゃないですか。

なので僕はよく、オウンドメディアの不可能性と言ったりしてるんですが、オウンドメディアってそもそも成り立ちづらいと思っていて、構造的にもともと無理があると思っています。理由としては、こうですね。

一般のメディアは、書き手が観察対象の外にいて距離をとっているから、客観的な情報を書けるわけで。オウンドメディアは基本的にこうなっている(中にいる人が発信している)ので、どうしても外から見た時に信頼されにくいなと思っています。

世間で成功している、サイボウズさんのメディアとかすごい有名ですが、あれがなんで成り立っているかというと、業界紙みたいなものだと思っていて。オウンドメディアを成り立たせる簡単な方法って、僕は業界紙を作ることだと思っています。

自社のことを書くんじゃなくて、業界の課題に関してみんなで考えようよ、みたいな発信の仕方だったり、サイボウズさんだとチーム作りみたいなところですよね。ああいうものなら成り立ちやすいけど、普通は社内の承認が得られにくいんだろうなって思ったりします。

菅原:サイボウズ式はぜんぜんあれなんですよね。自社プロダクトの話は基本しないという。

川原崎:うん、そうですよね。やっぱりあれは青野さんの理解がすごいなって思うんですけど。というかたちで、今情報発信の仕方が非常に難しくなってるというのは、もともとあったこのモデルがけっこう崩れてきているなと思っていますよ、ということですね。

イベントコンテンツならではの特性

川原崎:翻って、ログミーはただの書き起こしなんです。僕ら半自虐的に「ただの書き起こしに過ぎない」と言っているんですが、意外とたくさん読まれてますと。僕が最初にログミーを作った時、60分の動画を書き起こしたら20,000字になって、それを編集するのに5~6時間かかってたんですよね。

ちなみにその前に書き起こしをやるわけですが、それにはだいたい、動画の尺の5〜6倍くらいの時間がかかります。つまり10分の動画を書き起こすのに、普通の人間は1時間かかるんですよ。

そんなもの誰が読むんだと思ってたんですけど、けっこう最初からたくさん読まれていて。ローンチしてすぐにユーザーが「ログ」という言葉を使いだしたり、「ログミーする」みたいな動詞まで勝手に生まれて。これはなんだろうと思ったんですけど、その辺の話をちょっと書いてあるんですが。

イベントコンテンツの特性ですね。発信者が直接話を聞けるとか、今こうやって話してるのもそうなんですけど、編集されていない情報を聞けるのが特徴で。なので、さっき「自己発信は基本的に客観性がないので、信頼性が低いですよ」と言ったものをクリアできるのが、イベントのコンテンツの特徴なのかなと思っています。

なので我々の役割としては、イベントのコンテンツをそのままオンラインで伝える、と。そして、その発信者のファンを作っていくというのが、ログミーのやりたいことになっています。

一般のメディアって、コアバリューはコンテンツですよね。コンテンツがおもしろいから、そのメディアを見に行くということなんですけど、ログミーは「コンベヤ」。

メディアの3Cという概念にあるコンテンツ、コンテナ、コンベヤのひとつで、要はコンテンツを運んで流通させる部分ですね。ここが普通のメディアと一番違うところかなあと思っています。