どうやって、大阪の経済を盛り上げる?

中川功一氏(以下、中川):それではご指名を頂戴しましたので、不肖、大阪大学経済学研究科から参りました中川が、このセッションをファシリテートさせていただきたいと思います。

この場は、産学官という言い方でよろしいですかね? それから、金融機関さんというかたちで、大阪の経済をまったく別の観点から捉えておられる4つのグループから、ちょっと1人ずつ代表を出して。

トークテーマといたしましては、これから大阪の経済を、とりわけこの起業家のみなさんたち(が主役だ)ということを想定したときに、どういうふうにこの環境を盛り上げていけるのかと。そのときに、我々はどういう連携をとれるのか。はたして、どういう手の差し伸べ方ができるのか。そんなことを、みなさんのお立場からどのように見ておられるのかを、ちょっとうかがわせていただければと思います。

それでは、さっそく始めていきたいと思います。(最初は)大阪市経済戦略局元理事でございました、吉川さまから。吉川さまは、もちろん官のほうからも手がけていらっしゃいましたが、「OSAKA INNOVATION HUB」で、実際の現場でどう起業を進めていくかということを、長らく手がけていらっしゃいました。そのあたりを、堂々と語っていただきたいと思います。

産・学・官・金、全員がイノベーター

吉川正晃氏(以下、吉川):いや、ありがとうございます。大阪市でINNOVATION HUBというところを担当しておりました、吉川でございます。(2018年)3月に卒業いたしまして、「本当に、こういうところに来ていいのかな?」と迷ったんですけれども、やはり5年間自分が体験したことを、こういったところで申し上げておいたほうがいいなと思いまして、参りました。

5年前、グランフロント大阪というところに、大阪市がINNOVATION HUBを作ったわけなんですけれども。その時のコンセプトというのは、「そういう場を作ることによって、起業家あるいはプロジェクトを生み出す」ということが、1つのテーマだったんです。年間で100件あるいは150件ぐらい(の起業家・プロジェクトを生み出すこと)を、1つのKPIにしてやってまいりました。

「プロジェクト」と言うときに、往々にして「起業家」という話をするわけなんですけれども、我々はあえて「イノベーションを起こす」ということを、テーマにしているわけです。

イノベーションって、そのときの私たちも(具体的に)なにかということは、わかってなかったんですけれども。いろんな定義はあると思うのですが、「イノベーション」というのは、「もうすでにあるいろいろな要素を、新しい意味合いでつなぎ合わせること」だという定義も、あるわけなんですね。

つまり、発明ではなくて。例えば、半導体を作ったら発明なんですけれども、その半導体をトランジスタラジオにしたら、これはイノベーションと言われるわけです。あるいは、蒸気機関をジェームズ・ワットは発明したのですが、それを汽車にしたら、イノベーションになるんですね。船にしたら、イノベーションになるんです。

つまり、船を知っている、汽車を知っている人が「あ、これおもろいやん。これを作ったら、速なんのちゃうの?」というようなことが、イノベーションなんです。

したがいまして、発明は限られた人しかできないんですけれども、イノベーションはみんなができるんです。それはなにかというと、自分自身がその問題のニーズ・課題を持っているからなんです。そして、その課題と新しいものとをかけ算することによって、新しい付加価値を生み出すことができるんです。

我々は「イノベーション・エコシステム」と呼んでいて、起業家のまち・大阪を作るというのは、その結果でもあるんですね。

だから、例えば福岡の高島(宗一郎)市長は、福岡市を「起業家のまち・福岡」と言うんです。ですけど、大阪市は「イノベーションが起こるまち・大阪」と呼んでいます。ここの違いを、ぜひ理解していただきたい。すなわち、「主役は全員」なんだということなんです。産・学・官・金、全員がイノベーターであるということなんです。

したがいまして、その人たちがイノベーションを起こせるかどうかには、組み合わせをする場がいるんです。だから、「こういう場が必要だ」ということを、3年間ぐらいしていて。まぁ、2年ぐらいでわかってくるんですね。

そのなかで「これは、大阪市だけがやってたらあかんな」「みんながやらないといけないな」ということでできたのが、「イノベーション拠点立地促進助成金」なんです。今年からやり始めたら、みなさんにドーッと手を挙げていただきまして、MJEさんもその1つだったんですね。

やはり、これはインターネットの時代とよく似ていて。インターネットというハブが、ネットワークを結んでいきますよね。そんで、ネットワークのハブというのは、「情報がきたら、私(ハブ)は1番と2番と3番のハブに伝える」としか知らないんです。ところが、伝わったところが3番・4番・5番(のハブ)につながるだけで、ゴーッと回り回って、世界に行くんです。完全にフラットです。

インターネットは、今まででいう、マスタースレーブで中央集権的に……全部知ってるから「おう、1番がきたら、お前は5番に流せ」とか言うてるようなアーキテクチャじゃないですよね。基本的には、ネットワークのハブが(あって)MJEさんがそのうちの1つなんです。それ以外に、OSAKA INNOVATION HUBも、フラットにおるんです。それとか、いろいろなところが、今ポンポンとでき始めています。6ヶ所ぐらい、でき始めました。

したがいまして、このハブも、「こういうかたちでつながりたい」「2番・3番とつながりたい」ということで、つながっていかれるんだと思うので。基本的には、我々はそういったネットワークインフラを、この街全体に作っていきたいと考えているんです。これによって、生産性が飛躍的に絶対に上がるやろうと、確信しているんです。

「個性の数だけハブがある街・大阪」になってほしい

吉川:なぜかというと、インターネットでどれだけの貢献をもらったかということは、みんな体験してるじゃないですか。情報が流れることによって、価値が上がるんです。このインターネットの恩恵を受けながら、我々はビジネスや生活をしてますよね? それと同じです。ハブがあると、基本的にはそういう情報の共有化と人の流れを作っていくことによって、絶対、資源の回転が上がっていくんです。

企業経営のなかでは、「付加価値を上げること」「回転率を上げること」「レバレッジをかけること」。この3つの要素のかけ算で、企業経営がなされています。すなわち我々は、大阪市全体の資源を俯瞰して、「これとこれをかけ算したら、これができるよね」みたいなイメージの経済施策を、打ち始めたということなんです。

従来までは、「Aさん、あなたはこんなことをやれるんやったら、補助金を出しますよ」という経済施策だったんです。それも、(対象は)ほとんど中小企業さんだけなんです。「大企業さんは、勝手にやってください」ってことになるんです。

ですけれども、街全体の実力を上げようと思ったら、大企業も、中小企業も、大学も、金融機関も、それぞれみんなにイノベーターになっていただいて、知恵を出していただいて、付加価値を上げていかなきゃいけない。

それで、その間の神経細胞・神経を張り巡らせること。そして、それによって回転率を上げること。これが、今の新しい経済政策として大阪市が打ち出しているということを、まずご理解いただくと。そのため、MJEさんに、1つのハブになっていただいたということなんですね。

ですから、どんどんそういうハブを作っていってください。そのリーダーが、コミュニティのリーダーであり、それがハブとノードの責任なんです。

そういうことで、なんぼあってもいいんです。個性の数だけあっていいんです。ですから、大阪には、「その個性の数だけ、ハブがある街」になってほしい。そこが、福岡の高島さんのところと違う、吉村(洋文大阪市長)が言うてることと、違うことなんです。

ですから、イノベーションは全員で起こせます。起業家だけをショーアップしません。全員が、イノベーターになれます。そのためには、みんなで集わなければいけない。ということで、5分経ちました。以上です。

中川:はい、どうもありがとうございました。もう拍手ものでございますね。困っちゃいますよね(笑)。

(会場拍手)

ノルマはないねん、関西を元気にせえ

中川:はい。吉川さま、どうもありがとうございます。もう大知さまにしゃべってもらわなきゃいけないことを、全部しゃべってもらってしまいましたから。これは、社長がこれからなにをしゃべるか見物ですよ、というところでございますけれども。

まさしく、こういった拠点がなぜ重要なのかということ。そして、そこの主役は我々全員なんだということを、もう高らかに吉川さまに伝えていただきました。

ファシリテーターとしては、この調子でいくとどうやら30分では終わらないだろうなというところが、一番怖いところなのですが(笑)。

そんなことはさておき、私が思うに、このbillageさんという場が非常に特徴的なことは、金融機関さんが噛んでいるということだと思います。

通例、このヒト・モノ・カネ・情報とありますけれど、やはりこの「カネ」の周りの設計というものが、非常に難しいところかなと思っております。そういう意味で言いますと、今回のこの連携の場に金融機関の方にいらしていただけているのは、非常に心強いわけです。

そんなわけで、金融機関さんの立場から、このイノベーションの場との連携というところで、株式会社りそな銀行ビジネスプラザおおさか所長の村岡さまから、ちょっと一言、頂戴したいなと思います。

村岡慶一氏(以下、村岡):すごく熱い話の後なので、ちょっと軽く話すのが、非常に怖いんですけれども(笑)。「ビジネスプラザおおさか」と書いてありますけれど、「これって何をするとこやねん?」ということについて、少し説明させてもらったほうがいいのかなと思っています。

ちょうど1年半前に、普通の銀行員として銀行を回っていたんですね。1年半前に「転勤です」ということで、ここ(ビジネスプラザおおさか)を作ると。「なにをやったらいいんですか?」というと、「ノルマはないねん」って言われたんですね、役員に。

「銀行でノルマがないところって、すてきやなあ」と。毎日毎日ノルマに追われていた私にとって、「ここは天国やなあ」と思ったんですね。「そんで、なにをやったらいいですか? 目標はなんですか?」と聞いたら、「関西を元気にせえ」と言われたんですね。

これはなぜかと言うと、我々のりそなグループというのは、公的資金で助けてもらった銀行なんですね。公的資金を返して、「さあ、マザーマーケット・大阪に、どうやって恩返しをしたらいいんだろう」と考えたときに、我々にはお金があるんですね。

ただ、今のご時世、「お金を貸してください」という話って、本当に少ないんです。現場を回っていると、「お金はええねん。販路拡大を手伝ってくれや」「人が足らんねん」と、こういう話ばっかりなんですね。

私は姫路支店で支店長をやっていたんですけれども、「お金を貸してくれ」とは、ほとんど言われなかったんです。「支店長、ちょっと相談があんねん」。聞いてみると、「営業を斡旋してくれ」「右腕がおらへんねん」とか、そんな話ばっかりなんですね。

ちょうど1月の日経新聞さんのアンケートでも、「販路を拡大してほしい」が1番。「右腕を探してほしい、人に困っている」が2番。「お金を貸してほしい」といった、資金需要のところが3番でした。まさにそういう(声に応える)施設を、1年半前に作りました。

我々銀行は、銀行によってだいたい色がついているので、「型にはまった、カチカチのことしかできひん。そんなん、おもんないなあ」ということで、あまりなにも気にせず。

先ほど吉川さんから、「ハブをいっぱい作ったらええねん」と(いう話がありました)。そうしたら、「僕らは、そのハブとハブをつなげたらええんやなあ」と思いました。セミナー会場を持っているんですけれども、取引先じゃないところでも……MJEさんはタダなんです(笑)。

(会場費を)タダにすると、年間で200回のセミナー(を行いました)。大阪市さんにも協力してもらいました。みなさん、いろんな案件を持ってくるんですね。「一緒にやりませんか?」と。我々のお取引先である中小企業さんにとっておもしろい話であれば、全部受けようと。そういうところで受けていたら、年間で200回のセミナーをやってしまいました(笑)。

1万人の方に来ていただいて、我々がなにを得したかというと、メールアドレスをもらえたんですね。情報をもらえたんです。そして、人が集まったんですね。我々がふだん会えないような方々に会えたり、次はそのような人たちにセミナーをお願いしたり。お客さんとお客さんをつなぐ1つのハブが、またここでできたということです。

ここで1万人の方に集まっていただいて、我々のビジネスマッチングの件数も、飛躍的に伸びています。だいたい年間で7,000件ぐらいだったものが……グループでりそな銀行・近畿大阪銀行・埼玉りそな銀行、そしてこの(2018年)4月から関西アーバン銀行・みなと銀行が入ってきたんですけれども、このグループをまたぐ案件が、急に増えてきたんですね。

これこそ、つながりの中であまり(銀行の)色を出さずにやった結果かなあと思っています。今回、MJEさんがこういった施設を作られるということで、本来だったら人があっちに流れてしまうのではないかなあと思ったんですが、「もう一緒にやったらええやん」「一緒に、セミナーもやりましょ」と。

我々は創業スクールというものもやっているんですけど、「すいません、銀行員です。もう1つ、うまいこといってません。手伝うてください」と。それでいいと思っています。

創業というものは、なかなか難しいと思ってるんですね。我々が目指す創業というものは、先ほど(大知)社長が「85パーセントの人が、5年以内で潰れる」。だいたい毎年、そういうデータがあります。

そうしたら、「潰れる数を減らそうや」「みんなで寄ってたかって、助けてあげたらええんちゃうの?」と、一緒にやれたらいいなと思って、今日も言わせていただきました。よろしいですかね?

中川:どうもありがとうございます。

(会場拍手)

旧帝大で唯一の特徴を持つ、大阪大学

中川:村岡さま、本当にありがとうございます。これはもう、拍手をもらった後なので、すごく私にプレッシャーがかかるのですけれども(笑)。

続きまして、私から、大阪大学(大学院経済学研究科准教授)として、なぜここに来ているのかという話をしたいと思います。

大阪大学は、旧帝大と言われることがあります。その旧帝大の中で、1つだけすごく変わった特徴があります。それは、日本にある7つの旧帝大の中で、唯一県庁所在地にない大学なんです。

ほか(の旧帝大)はみんな、東京23区内にある、名古屋市内にある、福岡市内にある……という中で、私がおります(大阪大学)は、豊中市というところにあります。別に、豊中を悪く言うつもりはありませんし、本部は吹田なんですけれども。

これが何を意味しているかというと、大阪大学だけは……あるいは大阪市内を見渡してみると、「学」の力が足りないんですよ。例えば、東京大学さんなんかに行きますと、東京大学TLO(Technology Licensing Organization)ですよね。東大発の技術が、どんどんビジネスにつながっていっています。京都大学さんも、非常にそういう動きが盛んです。

身内の恥をさらすようですけれども、大阪大学も最近、OUVCというベンチャーキャピタルを立ち上げて、民間のみなさんとようやくつながりを持ち始めたんです。そこはそれでなかなか難しくて、これから小一時間ぐらいかけないとたどり着けないところが、大阪大学です。

そんなわけで私は、ここにおるわけなんですけれども。要するに、我々大阪大学とて、みなさんのお役に立ちたいと思って、大学としてそこにあるわけですから。そんなときに、サテライトとして……手足がこちらまで届かない、リーチがないということが、我々の悩みだったわけです。かくいうわけで、ここにおるのですけれども。

大学という機関が、イノベーションあるいは地域に貢献していくというときに、私は3つぐらいの役割があると考えています。

1つめは、イメージがしやすいものでして、「優秀な学生を輩出していく」ということですね。(これについては)我々は非常に自信を持っています。最近の学生は「型にはまっている」「まじめすぎる」「元気がない」というのは、我々おじさんの大きな誤解であります。

民間のみなさんがどんどんテクノロジーをあげられるように、大学の教育の場も、年々どんどん、在り様をイノベートしていっています。今の学生さんを、我々は本当に誇れます。社会課題に立脚して、それを解決する手段と現実を非常にうまくつなぎ合わせて、問題を解いていく。こういった力が、非常に高まっているわけです。

彼らについては、ぜひみなさん、刮目して見てあげてください。彼らの力は、非常に高いものでございます。そんな彼らに、我々大人が提供してあげないといけないものは何かと言うと、彼らの力が伸び伸びと活きる場なんだと思います。インターンのようなかたちかもしれないし、あるいはアルバイトかもしれませんし、あるいはポーンと起業するのかもしれません。会社に入って、その中で研鑽を積まれるのかもしれない。あるいは、その中でイノベートしていくのかもしれません。

ですから、彼らがより民間のみなさんに近づいて力を発揮する場というものが、必要だということが1つ言えるかと思います。

イノベーションの手法には全部、学の裏付けがある

2つめは、先ほど「大学発のベンチャーキャピタル」というものを紹介しましたが、大学にはやっぱり、いろんなテクノロジーがあるんです。大阪大学は、イグノーベル賞の常連でございます。イグノーベル賞とは、ユニークな研究……科学の前進というよりは、「おもろいやん」と思うような研究の常連なんですけれども。

大阪大学には、そういった非常におもしろい研究がたくさんあります。ですけれども、ここで超えなければいけない壁があります。先ほど吉川さまのお話にもありましたように、テクノロジーのままでは、やっぱり単なるテクノロジーなんです。これをどういうかたちで活かせるかというところで、民間のみなさんの知恵が大いに必要なところです。

私はこれも誇っているのですが……大学にはたくさんの技術がありますが、大学だけでできることは限られているので、それを活かすためには(民間のみなさんの知恵が大いに必要です)。

それから、3つめです。これが意外に見落とされがちなポイントなんですが、大学というのは理系的な技術を提供するのと、優秀な学生を輩出するほかに……私は経済学部にいますけれども、「文系とて、けっこうがんばってるんだよ」という話です。

社会的な課題を説くためのノウハウというものも、大学にはそれなりに溜まっていると考えています。近年では、ビッグデータのようなものが現れていますから、科学と産業界が非常に近づいているんですけれども、これでイメージしてください。

経済学や経営学で研究しているのは、スティーブ・ジョブズであったり本田宗一郎であったりマーク・ザッカーバーグであったり。あるいは、その背後にいる何千何万もの……残念ながら、ビジネスをうまく羽ばたかせられなかった人たちが、何をやってきたのかという、ID紐付きのデータがあるわけです。

これを、経済学部や経営学部でデータ分析をして、「どうやったら、ビジネスとして成功しやすいのか」「どうやったら、イノベーションが起こりやすいのか」という知恵が、大学にはそれなりに溜まっています。それが、現代では「デザイン思考」と呼ばれるものだったり、「リーンスタートアップ」という、実際に使える手段にブレイクダウンされたりしているわけです。

翻って言えば、こういったイノベーションの手法というのは、全部きちんと学の裏付けがある手法なんですね。私が言いたいのはどういうことかと言うと、ここにも1つ、大きな断絶がありまして。「大学の先生の机上の空論は、現場で役に立たない」という、非常に悲しい誤解があります。

知恵は、ちゃんと役立つんです。なぜなら、それはかつてのスティーブ・ジョブズや(マーク・)ザッカーバーグや本田宗一郎の培ってきた知恵が、抽象化されて理論になっているわけですから。

なので、私は、そういった3つの使命を帯びてここに来ています。大学の技術を産業界のみなさんに紹介しながら、これをものにしていただく。大学の育てた人材を支援していただいたり、活用していただいたり、手を取り合っていただいたりしながら、どんどん大阪で排出されるすばらしい人材をご活用いただく。

そしてもう1つ、大学に溜められたイノベーションのための知恵というものも、積極的に民間のみなさんに活用いただく。そのための場が、やっぱりきちんと(大阪)市内になくてはいけないということで、吉川さまや村岡さまに作っていただくようなネットワーク・場に、大学として知恵を授けていく。そんな役割を担って、ここでみなさんとコラボレーションしていけたらと願っています。

(会場拍手)

競技人口を増やすことから発展する、イノベーション

中川:さて、人のことにはちゃちゃを入れておきながら、私が一番喋っているようで大変恐縮なんですけれども。とはいえ「主役はどこなのか?」と言えば、やっぱり民間のみなさんでいらっしゃるわけです。そんなわけで、billageの代表・MJEの代表・民間で実際に事業をされている方の代表として、大知(昌幸)さまに、どのようなミッションでどのようなことを連携してなしていくべきなのかということを、うかがわせていただきたいと思います。

大知昌幸氏(以下、大知):このお三方の話があまりにもおもしろいので、もう一巡聞きたいのは(思いとしてありますが)、ちょっと淡白にいかせていただくと。そもそも僕は、イノベーションを語れないと思っていまして。「民間としてやれんのやったら、お前がやれや!」って、自分で思ってるんですよ。それで、僕ができないから、こういう施設を作りましたというのが、まずもってあります。

僕の根底にどんな思いがあるかというと、その競技が発展するかどうかの1つのKPIは、競技人口が増えるかどうかだと思っているんですね。例えば、僕はサッカーを小学校からずっとやってきました。僕が小学校の時は、(日本は)サッカーのワールドカップに出られる国じゃなかった。

それが、「サッカーを強くするぞ!」と日本サッカー協会が言ったのかわからないですけれども、競技人口が増えたというのが、そもそもその一番上にあるピラミッドです。アウトプットされるものが、ワールドカップ出場であり、決勝トーナメント出場であったということだと。原則として、そういうものがあると思っているんですね。

なので、僕が民間として、本来自分がイノベーションにチャレンジするべき立場であるとわかっておきながら、今のところはできていない。だとするならば、競技人口を増やすしかないと、まず1つ思っています。さっき吉川さんがおっしゃっていたハブであったり、つなぎ役になるのが、ミッション・使命だと思っています。

もう1つが、人の成長論で言うと、カリキュラムなどによる「育成」という考え方と、「人は勝手に育つものである」という2つの考え方があると思っています。カリキュラムみたいなものは、それこそ産学官・金融連携で、いろいろ政策としてやっていくべきだと思うんですけれども、「人は育つものである」と。

人ってなにで育つかというと、環境に左右されると思っていて。とくに、習慣として「近くにどんな情報があるか」「近くでなにが起こっているか」みたいなことが、その人に対して一番影響を与えていると思っているんですね。

なので、要するにイノベーションを目指している人たちが、まず競技人口を増やすということの意義(を持つこと)と、そういう人たちを応援するとか、そういう人たちが集まって互いに影響を与え合うような場を作り続けるということが、僕の1つのミッションだと思っています。

もう1つは、イノベーションを作ろうと思っている人や、例えばこれから起業しようと思っている人や(すでに)起業した人は、たぶん全員、基本的になにかの計画を持っていると思うんです。

「これからこうしていくんだ」という計画をほとんどの人が持っているか、もしくはそういうふうに教えられているんです。「計画を立てなさい」と。

一方では、一般的に成功したと言われる人に対して「あなたはどうして成功したんですか?」と聞くと、たいてい「運がよかった」みたいな答えが返ってくるんです。でも「今から過去をさかのぼると、それは必然だった」みたいな。

計画で「これからこうしていく」っていうことと、結果として必然的に運がよかったという、「この間になにがあるんやろう?」みたいなことが、僕の1つのテーマなんですね。

これは、計画的偶発性とか、偶発的必然性みたいな、偶発的ななにかみたいなものが真ん中にあって、こればっかりはなかなかコントロールしにくかったりすると。これはヒト・モノ・カネ・情報、魅力的で活力のある人を集めて、そこでなにかスパークしていく状況・状態の数を増やしていくしかないなと思っているのが、僕の考え方でございます。以上です。

中川:どうもありがとうございました。

(会場拍手)

イノベーションの必要条件は「集まること」

中川:どうやら、想いは同じところにあるかなと思いました。「競技人口なんだ」、そして「偶発が起こるような場を仕掛けていくんだ」というのが、1つキーポイントなのかなと思います。

残り時間も少なくなってきましたので、もう一巡だけさせていただきたいと思います。

やはり、このbillageという場、あるいはこの大阪という場が発展していくためには、いわゆる競技をするプレイヤーさんを、増やしていかなければいけないわけですけれども。先ほどの我々の話は全員、大所高所から「こうやったら大阪が」という話でしたから、今度はピンポイントにこれから起業を志さんとしている人に対して、なにかメッセージや一言を頂戴できたらなと思います。

一言何か、志高く挑戦する人に、お言葉を頂戴できないでしょうか。また、吉川さまからうかがってもよろしいですか?

吉川:今の大知さんの話を聞いて思いましたけど、まさに偶然……腑に落ちました(笑)。本当にその通りで、私も「こういう場があったら、なんでイノベーションが起こるのか?」ということを、イノベーションハブをやりながら教えてもらったわけです。

基本的には、イノベーションを起こすときには、必要条件があるなと思ったんです。それはなにかというと、「集まること」なんですね。

だけど、「それって集まったら、イノベーションが起こるのかよ?」と言うたら、起これへんのですよ。結局(イノベーションが)起こるときはどういうときかというと、やっぱり思いが強いやつ(が集まったとき)ですね。問題意識が根底にあって、志が高くて、「やらなあかんねん」と思っている人たちが集まると、スパークするんです。

ですから、御堂筋があるから大阪が発展したかどうかと言ったら、これは要するに、必要条件なんですね。だけど、クルマはぜんぜんけえへんかもわかりませんよね。基本的には、やっぱりそういう場が与えられても、そこにどんな人が来るかによって、ぜんぜん違うと思っています。

ですから、私は冒頭で「全員がイノベーターだ」と申し上げましたけど、基本的にはみなさんがそのつもりにならないと、まずそれは起こらないと思いますね。ですから、私が一番大事にしているのは、やっぱり志というところなんです。ですから、志がなかったら(イノベーションは起こらない)。

志というのは、大知さんが言われたように「計画性」だと思うんですけど。この計画がなかったら、絶対に起こらないんです。それで、それを思い続けていてこういう場があると、反応するんですね。そんな感じだと、ものすごく思っているので。"Boys, be ambitious."じゃないけれど、基本的にambitiousじゃないとダメなんですね。このことが、私の5年の結論です。

起業の答えは現場にあり

中川:ありがとうございます。最後にいい言葉を頂戴しました。続いて、村岡さまからも頂戴できますか?

村岡:すごくレベルの高い話ばかりなので、ちょっと緊張してしまうんですけれど。私は、26年間の銀行員生活の中で、つぶれていく会社・成功する会社を、たくさん見てきたんですけれども。成功する会社の一番のポイントは、経営者が現場のことをよくわかっているということにあるのかなと思っています。どこかの刑事ドラマみたいに、「答えは現場にある」というのは、まさにその通りで。

現場のことをわかって、自分の問題として捉えて解決を(する)、自分で答えを出せる経営者の方が、やっぱり成功してきたのかなと思います。人のアイデアを、なんとなく良さそうに「ちょっとやってみようかな」というのって、やっぱりぜんぜん響かない。周りにも響かないし、自分にも響かない。

そういうビジネスモデルって、よさげでも結局うまく行かない。こういうことをたくさん見てきたので、これから起業しようと思っている方は、ぜひ現場に答えがあると思ってください。もし、ちょっと自分の置かれている立場と違うところでビジネスモデルをやろうと思うんだったら、そこに徹底的に(話を)聞きに行く。現場に聞きに行って、聞きに行って、聞きに行って……答えを出してもらって、起業してもらえたらなと思います。

中川:どうもありがとうございます。経験からくる「現場を重視して、よく聞きに行け」という、非常に刺さる言葉だと思います。

また私もちょっとトーンを変えまして、ちょっとがんばって学者然とふるまってみたいと思っています。私なりの立場から、これから(起業を)志される方に(向けて)言葉を選ばせていただくと、「売上って、どういう数字なんだろう?」「売上が立つのって、どういう状況なんだろう?」「利益って、どういう数字なんだろう?」ということを、ちょっとここでみなさんと(考えてみたいと思います)。

大学の先生っぽくて、ちょっと恐縮なんですけど。「売上ってどういう数字だろう」ということを、ちょっと考えていただきたいんです。「売上が立つ」というのは、その商品が世に求められて、人に欲してもらえるわけなんです。

これはつまり、俺がどれだけ「これがいい商品なんだ」と言っても、それで売上が立つわけではありません。しょうもないものを押し売りしていっても、先が続かないです。ある程度、継続して求めていただけるのは、それが相手にとって、なんらかの社会的な課題を解決しているとか、それが必要だと思ってくれているからなんです。

この話を、さらにもうちょっと延長させていくと、売上の数字とはすなわち、「あなたの会社や志されている事業が、どれくらい人に必要とされているかのバロメーターなんだ」と、私は考えています。

要するに、あなたの商品が1個、2個、3個……とより多く売れれば、それはそれだけ、あなたがより多くの人に貢献したということを意味しますし、それだけ多くの人に必要とされているということだと思います。ですから、私は経済学部の中で、「売上というのは、どれくらいの人に貢献したかのバロメーターだ」と(話しています)。

赤字が出る=貴重な地球上の資源を無駄にすること

中川:じゃあ今度、「利益という数字は何なのか?」と言いますと、これをどれくらい効率的に使えたかという話ですよね。会社というのは、ヒト・モノ・カネ・情報を使っていくものでございますが、これはやはり、地球上で有限の資源なわけです。みなさんの人生の中で、とても貴重なお時間をいただいて会社は経営されるわけです。

そのため、「赤字が出る」ということは、とても貴重な地球上の資源を無駄にしてしまっているということです。

たしかに、あなたの商品には価値があるけれども、それよりも多くの資源を使ってしまっている。翻って言えば、とても利益が上がるということは、地球上の有限な資源を非常に効率的に使って、利益に貢献しているということです。

そう考えていきますと、「利益」とは、地球上の有限の資源を使って「どれぐらい貢献したか」「どれぐらい社会にハッピーを生み出したか」の割合ということです。

なにが言いたかったかと言うと、ここで「社会性」というソーシャルな感情と「営利企業」が、結び付くようになっています。みなさんの多くの方が民間で働いていらっしゃいますが、「営利企業」について、ちょっと勘違いをされていらっしゃる可能性があるかと思って、ここでお話しするのですけれども。

あくまでも「売上高」は、どれぐらい(その企業が)世の中に求められているか。そして「営業利益」は、それをどれぐらい効率的に提供することができたか。

なにが言いたいかと言いますと、今の起業家の方たちにもう一度問い直していただきたいことは、みなさんの事業のソーシャリティーですよね。売上高・利益が先に立つのではなく、そこで誰かに貢献したからこそ、「売上」という数字が立ってくるということです。

そう考えますと、「この場はどのようであるべきか?」と言うと、「どうやったらみんなで社会貢献ができるか」という非常に気高い行為を通じて、この場がイノベーティブになっていくのだと思います。

「売上を考える」ということは、「どうやったらその商品が、世の中でたくさん認められるのかを考える」ということですから。

ですから、これから起業・ベンチャー・イノベーションにチャレンジされる方は、そこに本当に、理念としての気高い志があるかということ。みなさんには、その気高い志を支えることが、極めてソーシャルなことだということ。この空間を、そのようなソーシャルな感情で包んでもらえればなと願っています。

そうは言っても、あくまでもそれは、主役の民間でがんばられる方がいて、成り立つことですから。

モテたいから起業したい? ええやんけ!

中川:今度はあらためて、billageの代表としてイノベーションを志す人に、お話をうかがっていきたいと思います。

吉川:はい。志の話には、とても共感するのですけれども。逆に、「じゃあ、志がなかったら、やったらあかんのかな?」「起業したらあかんのかな?」論を考えると、僕は決してそのようなことはないと思うんですね。

例えば、「モテたい!」とか「儲けたい!」と思って、なにかをやりたいという欲求を持っている人がいて。それは、社会的な志には遠く及ばないのですけれども。「じゃあ、その人たちはイノベーションとかに挑戦してはいけないのか?」と言うと、決してそのようなことはないと思っていて。

人の行動は、「正しいか正しくないか」「合っているか合っていないか」では、決定されないと思っているんです。「その人がなにを信じているか」とか「その人がなにを思っているか」でしか、その人の行動は決定できないと思っています。なので、志がなければすなわちダメかというと、僕はそういうわけではないと思っています。

あと、人間って、やりながら気づいていくことやわかっていくことって、たくさんあるので。僕は、「競技人口を増やしていく」という観点から考えると、「志がある人はベストです」と。

もう1つは、「モテたい!」とか「儲けたい!」という観点で欲求が湧いていても、それはそれでいいんじゃないの? という寛容性みたいなものを、社会に提供してあげるべきなんじゃないかなと思っていて。

「なんで会社をやりたいん?」「なんで起業したいん?」と聞いて、「モテたいっす!」って言うやつに対して、「いや、お前は志がないからダメだよ」とは、僕は言いたくなくて。「ええやんけ!」と(笑)。

そういうアプローチで、「行けよ行けよ!」「一線を踏み越えろよ!」というような、そういう応援団になってあげたいなと、僕は考えています。以上です(笑)。

中川:ありがとうございます。思い起こせば、私はインディ・ジョーンズになりたいから、この仕事を選んだわけです。なので、まったくもってその通りだなと思います。

以上で、このトークセッションを終わりにしたいと思います。大切なことは、やはり「挑戦しよう」という人たちが、手を取り合っていくこと。それから、冒頭の吉川さまの言葉に戻りますけれども、「一人ひとりが主役だから、大阪は輝くんだよ」と。

スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグのような人がいて、みんなで「すごいすごい!」「がんばってね!」というのではなく、全員が全員、自分の人生において地に足をつけて歩んでいることが、大阪のいいところだと思っています。

全員が主役として、それぞれの思いを持っていく。「イノベーション」の解釈は、人それぞれでいいと思います。(イノベーションは)とてもいい言葉だと思いますから、ぜひこの言葉をキーワードに、引き続きこの場に集っていく。

一人ひとりが主役の、イノベーション活動をしていけたらなと思っています。それでは、不肖ながら中川が(ファシリテーターを)務めさせていただきましたが、以上でこのトークセッションを終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)