10年後に家庭の包丁の数は増えるか?

辻庸介氏(以下、辻):今日(お越しいただいているの)はマネーフォワードのユーザーの方が多いので、比較的にお若い方々が多くて、なんて言うんですかね、既存の証券会社さんで、とくに土日とかですと、シニア世代の男性がほとんどなんです。実は(打ち合わせで)「今日は若い方が多い」というお話を澤上さんにさせていただいたら、「それは間違った先入観がない、まっさらな状態なんで、今日は本当にいい!」とすごく言っていただいたんです。

藤野英人氏(以下、藤野):あの、10年の投資の話が出てきたんですが、これはすごく大事な考え方で、実は未来の予測では3年後くらいの予想が一番難しいんです。

でも多くの会社は3、4年の中期経営計画をつくって(事業を)動かしている。それで、3年先とか5年先の予測が、実は一番難しいと思います。たぶん予測ができるのは、まあ半年ぐらい先と、たぶんあとは10年先なんですね。

10年先はなぜ予測できるのかと言うと、もう少し大きな流れっていうのは、まあ時間が経てばほぼわかるというものはたくさんあると思います。

例えば、みなさんにお聞きしたいんですけれども、みなさんフィーリングでいいんですが、じゃあこれから10年経ちます。10年後の世界、台所に包丁の数は増えるでしょうか、減るでしょうか? 例えばそういう課題があったら、どう思います?

包丁の数。包丁って、万能包丁だけじゃなくて、いろんな包丁があると思います。30年くらい前の昔のお家には、牛刀であったり、刺身包丁であったり、万能包丁であったり、いろんな種類の包丁を4、5本は持っているのが当たり前だったということですけど、もう今(そういった包丁を)持ってる人の数は減ってきています。

じゃあみなさん、10年後、包丁の数は増えるでしょうか、減るでしょうか? ちょっと聞いてみましょう。

包丁の数、増えるという人?

(会場挙手)

藤野:はい。減るという人?

(会場挙手)

藤野:はい、ありがとうございます。

(私は)たぶん減ると思います。もちろん増えると判断した人も(必ずしも)間違いということではありません。まあ、増えるか減るかっていうと包丁の数は減るだろうと(思います)。

なぜそうか。おそらく、今働き方改革ということをしていますが、働き方改革が進むと何が起きるかと言うと、男女雇用法(男女雇用機会均等法)、男女それぞれが同じように働くことになれば、女性が社会参加する。ということは、男性が家事に参加するかたちで、さらに忙しくなるわけです。

そうすると、お家の中で家事をする時間っていうのは増えるかどうかというと、きっと減りますよね。

ただ、「お家でそれなりに美味しいものを食べたい」となったら、じゃあ何が起きるかと言うと、料理って下ごしらえの時間が一番かかる。1時間の調理時間だったら、3分の2ぐらいが下ごしらえの時間ですから。それが、カット野菜だとか半調理製品、下ごしらえがされている商品を買うことができたら、調理時間は10分か15分ぐらいで、そこそこ美味しいものをつくることができます。

10年の範囲で世の中の流れを見る

藤野:つまり、どういうことかと言うと、10年ぐらいの観点で見ると、台所の中が変わってくれば、食生活も変わってくる。そうするとカット野菜とか、そういったものが増えていくだろうと予測がつきますよね。でも、それが半年で起きるかどうかはわからないじゃないですか。

だから、今言ったのは1つの考え方なんですけど、10年後どういう社会になるのか。例えば女性が社会進出するとどうなるでしょうか、ITが普及した場合にどうなるでしょうか、IoTが社会に普及したときにどうなるでしょうか。

それで、そのときに、じゃあ家庭のあり方はどうなんでしょうか、働き方はどうなんでしょうか、ということが、10年後くらいだとなんとなくわかる、こういう方向性に行くんじゃないかとわかることがありますよね。その流れに賭けるっていうことだと、けっこう外さないんですよね。

ただ、それが3年後に起きるのかっていうと、ちょっと自信がないじゃないですか。カット野菜が3年後に普及するかっていうと、バッと普及するかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。だから、実は10年ぐらいの範囲の中で、経済を考えるというのは、一番確実で当てやすいということろがあるんじゃないかなと思います。

だから、長期投資が大切ですね。長期投資というのは、短期じゃなかなか(世の中の動きを)当てられないんだけれども、長期の観点で見れば世の中の流れは、ある程度わかる。そこの流れに適っているのが、長期投資かなと思います。

ニュース価値と投資価値の違い

:あの、澤上さんも「長期投資(がいい)、個人投資家も長期投資だ」と常におっしゃってると思うんですけれども、その背景にある考え方など、「こういうふうにしたらいい」というものが、もしあればぜひ教えていただきたいと思います。

澤上篤人氏(以下、澤上):いま藤野君が言ったように、いろんなものを「これどうなるのかな」と考えることが、ものすごく大事。まずそれです。よく情報、情報って言うけど、あれは目先を見てるだけ。せいぜい2、3年先を考えるくらいで、どんどん(株を)買うんです。我々にとって大事なのは、いろんな人の生活を見ながら、「これ、どうなんのかな」とかを、徹底的に考える(こと)。

やってみると気付くんだけれども、意外に(どうなるのか)わかんないんだよ。わかんないから調べたりしながら、やっぱり基本は情報を探しに行くだけじゃなくて、自分で調べて考える、自分を主体にしていく。

なぜかと言うと、ちょっと面倒くさいことを言うんだけど、ニュース価値と投資価値は違う。ニュース価値っていうのは、例えば、あと1時間くらいで選挙結果が出はじめるよね(注:講演日は参議院選挙が行われた2017年10月22日)。そうすると、「どうなった」という速報がニュース価値で、(ここにいる)我々は知らない。

それで、明日の朝のテレビを見れば(我々は)だいたいわかる。それはニュース価値はあるかも知れないけど、投資価値ではないんです。なぜかと言ったら、ある程度わかる、誰かに教えてもらったことというのは、もう教えてくれた人もすでに知っている。だから、なんだかんだいいながら、株価にどんどん(その価値が)織り込まれていくわけです。

マーケットってそういうもので、ほんとすごいんだよね。だから楽しいし、おもしろいんだけどね。ニュース価値が(株価に)どんどん織り込まれる、そうすると、そのニュース価値は知っていたか、知らなかったかだけの話になる。だから、ニュース価値と投資価値は違うのです。

テーマや分野を絞って投資する

澤上:でも、自分で考えて「こうかなぁ。うーん、いけるかな」「これおもしろそうだな。ちょっとやってみようかな」って、そのときに調べて調べて、「うん! この考えはいけそうだな」というのは自分のオリジナルの情報なんですよ。(みなさんに)オリジナルの情報を持つように心がけてもらうとおもしろいわけです。それで、そのときに何もかもはできないから、もう1つか2つでいい。

もうちょっとわかりやすく言うと、例えば、自分はもう47年も世界を舞台に運用しているわけだけど、自分のテーマは40年以上前から、もう決まってる。エネルギー、それから環境、食料。それに付随してくるのが工業原材料と水、もうこれだけ。俺はずっと、それしかやってないです。

逆に言うと、他のテーマは興味がない、関心がないから、調べない。わかりやすく言うと、薬なんかぜんぜん興味ない。自分自身ができるだけ病院の世話になりたくないし、薬を飲みたくないから。となれば、調べてないから薬は知らない。

だけど、エネルギーに関しては、とことん勉強してる。40年やればね、そこそこ知識は貯まるよ。そんじょそこらのアナリストとか学者先生より、俺の方がずっと(エネルギーのことを)知ってる。

自分の好きな分野をとことん考えて、勉強して追いかけていく。その中で、だんだん知識が蓄積される。そうするとね、自信を持てるよ。

:じゃあ、個人の方々は自分の得意な、たぶん自分の勤めていらっしゃる会社とか分野……。

澤上:そうそう、分野とかテーマ。

:テーマをひとつ決めて。

澤上:自分の考えをずっと発展させてくのも1つだし、あるいは好きな分野、教育でも、健康でも、なんでもいい。自分の好きな分野をどんどん勉強する。

:それって何か……すみませんちょっと細かい話なんですけど、僕も頭で考えていると、思考がそんなに深くならなくて、同じ考えがグルグル回るんですが。例えばノートに書いたり、(具体的に)どのように仮説検証というか、考えて調べる……。

澤上:先ほど言ったように、10年後どうなるのか、20年後どうなるのか、仮説はそっちに持っていく。

今現時点での仮説は立たない。エネルギーも今、原発の問題もあるし、それからLNG(液化天然ガス)もあるし、あるいは原油価格とかシェールもあるし、それらすべてを込みで「じゃあ、10年後はどうなるのかな」と、自分で想像をたくましくして、(可能性が低いものを)外す方向で調べていく、「あ、これあり得ないな」とか「この線はないな」とか、潰してくわけ。

今現時点での仮説はダメ。10年のスパンで考える。そうすると調べ甲斐もあるしね。そのときに大事なのは、(企業の)ホームページにはいいことしか書いてない(笑)。だから、図書館に行くのよ。図書館に行くと、例えば、エネルギーでもなんでもいいけど、自分のテーマを見つけていくと、月刊誌、科学雑誌でもいろいろあるじゃないですか。月刊誌を、ずーっと読んでいく。そうすると、おもしろいことが出てくる。

株式市場は「捨てる神あれば拾う神あり」

:なるほど。今、澤上さんの秘訣をちょっと教えていただいて、すごく得したと感じたと同時に、僕らは先月(2017年9月29日)、上場させていただいたんですけど。IT企業は投資対象外っていうのを聞いて、ちょっとショックだったっていう。

(会場笑)

藤野:こちらが対象です(笑)。

(会場笑)

藤野:株式市場のいいところは「拾う神」と「捨てる神」がいるということなんですよ。だって、そうでしょ? 買いたいけど、売りたい人がいなかったら成り立たないんですよ。

だから、買いたい人だけでもないし、売りたい人だけでもなくて、買いと売りが両立して成り立っている。

1つの会社に真逆の意見が出てきたときに、株価が成立するわけですよね。「この株を10万株買いたい」「10万株を売りたい」って人がマッチングしないと、株価っていうのは反映されないわけですから。そういう面で言うと株式市場には拾う神と、それから捨てる神の両方あるってことなんですね。

:なるほど。いやー、勉強になりますね。

澤上:もう1つ言えるのは、みなさんどうせ100億円もないでしょ? ありますか? いらっしゃるかな。

(会場笑)

:いらっしゃらないということで。

澤上:1億円ある人はいるかもしれないけど、1億円でもね、5銘柄持っていれば十分。そんな20も30も40も相手にするのは、無理無理。やっぱり、投資っていうのは勝負だから。暴落のときに、買えるかどうかって、本当に勉強して好きな会社でないと買えない。

だから、みなさんも5銘柄、3銘柄でもいいかな。とことんこれが好きで、おもしろいという銘柄で、ずーっと勝負しましょう。安くなったら買って、高くなったら売って、それを繰り返す。そうすると土地勘も出てくるし、どんどん精度も高まるし。