投資とは「育てること」

藤野英人氏:(ここからは)「資産づくりのはじめ方」ということで、お金の話をより掘り下げていこうと思います。将来の不安は何かというと、ほとんどがお金のことです。

その中で、『桐たんす物語』って話をよくするんです。

「女の子が生まれたら、桐の木を植える」っていう習慣が昔、日本にありました。なぜならば、女の子が成人になってお嫁に行く時、その桐を切り倒して、桐タンスにする。子々孫々で使える、嫁入り道具にしたという習慣があります。

女の子が生まれたら、桐の木を植えます。

女の子の成長とともに、桐も育っていくわけ。

家族には、いろいろありますね。いい時もあれば、悪い時もある。桐の木も、ちゃんと成長する時もあれば、大雨になって根腐れしちゃう時もある。だから、女の子もそうだし、桐もそうだけれども、「ちゃんとお世話をしないと、大きくなれない」ということです。途中で切り倒してしまったら、それで終わりということになるわけです。

「時間」という資産を味方に付けて、それぞれの人が努力をする。それで、お嫁に行く時にその桐の木が桐タンスになって、また子々孫々と伝えられていくことになります。

私の考えている投資とは、こういうものです。桐の木を植えて桐タンスになり、それが子々孫々伝わっていくことに、近いのかなと。だから投資というのは、実は「愛」であり、「未来」である。過去には、投資できないわけです。投資って、「我慢」が必要です。途中で切り倒してしまったら、元も子もなくなるということになります。投資には、「時間」が必要です。「投資とは育てることである」というのが、そもそもの投資の、もっとも重要な考え方ではないかなと思います。

元手がなくてもできる投資

「投資信託」とは、個人から集めた資金をまとめて、専門家が株式等に分散投資をする、金融商品です。私が運用しているものが、そのようなものです。多くの個人投資家がたくさん集まって、それが1つの箱になる。その箱が、いろんなところに投資をするということになります。

投資された資金は、信託銀行が大切に保管しているということです。例えば、僕ら(資産運用会社)が運用することになっても、僕らは、実はお客さまのお金を見たことがありません。触ったこともないです。なぜならば、信託銀行というところが預かっていて、そこに株券もお金もあるからなんですね。

「『元手』がないと投資できないのか?」ってことですけれども、「貯めながら増やしていく方法」があります。とくにみなさんみたいな若い方には、時間を使うという点で見ると、貯めながら増やすという方法は、とても有効な方法になります。

投資信託のメリットというのは、少額の資金から投資ができること・手軽に分散投資ができること・専門家が運用することという、3つのポイントがあります。すごくみなさんに向いてる制度が、来年(2018年)の1月からスタートします。

つみたてNISAとiDeCoで資産作り

「つみたてNISA」という制度です。年間で40万円まで使うことができますが、素晴らしいことに(非課税で)20年間の期間を使うことができるんです。これは、何のメリットがあるかというと、月々投資信託を3万円ぐらいずつ積み立てていけば……別に、1万円でも5,000円でも構いません。できる範囲でいいんですけれども、20年間やり続けることができると。

20年間で儲かった部分というのは、今(2017年10月時点)、20パーセントの課税がされるんです。例えば100万円を儲けたら、そのまま(すべて)もらえるわけではなくて、20万円を国に納めなければいけません。

一方、このつみたてNISAで運用すると、100万円儲かったら100万円は課税されずに、まるまるもらうことができます。だから、個々のつみたてNISAというのは、国からのプレゼントなんです。これは、ぜひ活用されるといいですよ。要は、(先ほどお話しした)「貯めながら増やす」ことを実践できると同時に、税金がかからないという、すごいメリットがあるんです。

あと、つみたてNISAの隠れたメリットは何かというと、「20年間もやらなきゃいけないのは大変だなあ」と思うかもしれませんが、嫌だったらすぐにやめることができる。金額を減らすことができます。人生にはいろいろあるから、ずっとやり続けられないのかもしれませんね。それから、途中で解約することもできます。「なんか嫌だなあ」とか「長く続けたほうがいいんだけれども、でも、少し生活が苦しくなった」ということも、あるわけですね。人生、いろいろあるからね。

そうしたら、引き落としの金額を減らすことや、解約することもできるところが、とてもいいことではないかなと思います。

これは、各銀行・証券会社が力を入れて、来年の1月から始めます。だから、(みなさんで)それを調べて、聞いてくるといいのではないかなあと思います。

あと、「iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)」というものがございます。これは、60代以下の方は、ぜひやってください。最初に、口座を作る時はめんどくさいんだけれども、そのめんどくささだけクリアしたら、めちゃくちゃ有利です。なぜならば、みなさんが1年間に投資したものが、所得控除されるんです。所得控除されるっていうのは、要するに、みなさんの税率分だけ返ってきます。

例えば、住民税と所得税を合わせた税率が30パーセントの人は、60万円投資したら、なんと18万円返ってくるんですよね。すごいでしょう? だって、実質利回りですごい所得があって、さらにファンドが儲かったら、もっと儲かるでしょう。さらに、iDeCoとつみたてNISAは同じで、増えた部分(運用益)が非課税なんです。解約する時にも、あまり税金はかからないところですから。iDeCoは、60代以下の人は、ぜひやるべき金融商品です。将来の不安を、相当減らすことができます。

1つだけ、iDeCoには問題があります。さっき、「つみたてNISAは、いつでも解約ができる」とお話ししましたけれども、iDeCoの場合は解約できないんです。60歳まで、解約できないというデメリットがあります。お金が増えたとしても、60歳までは引き落としができないんですね。

だから、iDeCoとつみたてNISAは、組み合わせることをお勧めします。なにかあったら引き落とせるかもしれないものを、つみたてNISAで増やしていく。それで、自分の老後に関しては、iDeCoでしっかりおさえておく。こういうところが、組み合わせの仕方としてはいいのではないのかなと思います。

投資の実践に大切な、5つの心得

投資の実践に大切な5つの心得は、「すぐに始める」「『手に汗かかない額』を投資する」「情報をしっかり集める」「一気に投じない」「最低5年間は実践する」ということではないかなと思います。

「投資の力で日本を根っこから元気にしたい」というのが、私が考えていることです。というのは、投資っていうのは、会社を支えて応援することなんですね。先ほど話をしたとおり、誰が未来を作るんですか? みなさん自身です。みなさん自身がどうやって未来を作るのか? っていうのは、多くの場合、会社を通じて未来を作るんですね。そういう面で見れば、「会社を支えていく」ということは、結局「自分たちで未来を支えること」になります。日本は、すごくいい会社がたくさんあるんですね。

残り時間が6分あるので、今の日本の状態のことについて、少しお話をして終わりにしたいんですけれども。今(2017年10月22日時点)、日経平均株価が2万1,000円を超えていて、株式市場としては、非常に活況を呈している状態になっています。

ただ、日本の個人投資家はほとんど売却をしていて、買っているのは外国人投資家というような現状もあるんです。これは、少し残念なことかなあというように私は思ってます。

なんでかっていうと、先ほど話したとおり、日本の未来は日本の株式にかかってるわけです。僕たちは、日本の株式を売って、また現金が手に入ってくるんですね。でも、現金って、僕らは1,000兆円も持っているんですよ。タンスには43兆円もあります。でも、「お金は欲しくて欲しくてしょうがない」ってことなので、株を売ってどんどんどんどんお金が増えてます。

でも、それはどうなのか? というと、結果的に、株式(を買っている投資家)は、外国人の比率がどんどん高くなっています。別に、外国人が日本の株式を投資することは、決して悪いことではないし、私はよいことだと思っています。ただ、一方で、日本人が日本の株式のウェイトを下げているということは、とても残念なことだなあと思います。

というのは、僕らは、一生懸命働いてお金を得るわけですね。このお金を投資しないから、このお金はただここ(手元やタンス)に積まれていくだけで、自分が働いてがんばるけれども、お金は働いていない(流通しない)という状態になっています。

自分が働いてる場所っていうのは、会社です。その会社で、外国人の比率がどんどん上がってきている。これはどういうことかというと、がんばって稼いだ部分の価値が、日本ではなくて、外国の人に持っていかれるっていうことですね。別にこれは、悪いことじゃないです。合法的なことですから。日本人は喜んで株を売って、外国人は喜んで株を買ってるわけです。無理やりに外国人が買いに行ったわけではなくて、日本人がどんどん株を売って、外国人が投資をしているということなんですね。

これを、日本人がもっともっと日本の株式の価値を上げて、日本の株式を保有するようにならないと、日本の未来はけっこう厳しいんじゃないかな思います。結果的に一生懸命働いても、日本の会社の価値というのは、「外国人のために働く」というような社会を、みんなで作っているというようなことが、起きている気がします。

今、日本の景気はとてもいいです。失業率も過去最低で、日本のGDPに占める会社の営業利益の総額の比率というのは、バブル時期を超えて過去最高になっているということがあります。

もちろん、景気ですから、上がったり下がったりするんです。だから、景気がこれから悪くなることは、必ずあります。ただ、景気っていうのは、悪くなったら必ず戻るので。だから、景気が悪くなることそのものを恐れる必要はありません。景気が悪くなっても必ず元に戻るということがありますから、景気そのものに対して、目を奪われすぎないことが大事なのかなと思ってます。

日本の企業は、自信を取り戻しつつある

それ以上に、今、日本の会社が大きな変化をしている。それは何かっていうと、自信を取り戻していってる会社が多いということが、言えるのではないかなと思います。もちろん、一部の大きな会社の中では、けっこう不祥事があります。神戸製鋼であったり、日産であったり、また東芝、オリンパス、シャープ……に次いで、また日本の大企業の問題が出てきました。そういう面で見ると、日本の大企業の一部の会社に、まだまだ問題があるという事実もあります。

ただ、一方で、その他の会社のところを見ると、かなり会社の経営のあり方を考えて、多くのステークホルダーにためにがんばるというような会社も、増えてきてるんですね。だから、その結果、会社の価値はどんどん上がり、会社の価値が上がれば上がるほど、株価が上がる……という循環がきているので、今、日本の株式市場が上昇しているということになります。

この動きは、もうしばらく続きそうです。日本の今(2017年10月)、中間決算が出ている最中ですが、中間決算で上方修正をする会社がすごく多いです。上方修正っていうのは、最初に出していた会社の事前予想よりも、目先の数字が上回った。要は、調子がいいってことですね。こういう会社が、次々に出ているということです。

だから、会社がよくなれば株が上がるのは当然なんだけれども、日経平均株価が2万円を超えたら売るものだという人が多いので。せっかく日本の企業が大きな変化をしているのに、それを売却してしまって、外国人にこれからさらに変化するところを持っていかれてしまう……というところも、ずいぶん残念なことかなあというように思います。

もちろん、「株式投資は全部しなさいよ」「今、1,000万円も持ってるんだったら、1,000万円分株式投資しなさい」って、そういう話ではありません。ただ、例えば100万円の現金があるんだったら、10万円程度、株式とか投資信託に回してもいいんじゃないかなあと。(現金が)200万円あるんだったら20万円ぐらい、1,000万円あるんだったら100万円ぐらい。

全体の10パーセントぐらいを、現預金以外に回してもいいんじゃないかなあと、私は思いますね。100万円ある人が10万円投資したって、大きな問題が起きるとは思えません。それよりも、10万円の投資をすることによる社会的意義が、すごくあるんじゃないかなと思うんです。

だって、今、日本で1,000兆円もの現預金があるんですね。その10パーセントの100兆円のお金が動いたら、どれだけ日本の経済にとってプラスになるのか? というのが、容易に想像できますね。もし20パーセントなんて、200兆円のお金が動いたら……もう、大変なことだと思います。

ということで、これからみなさんが長い人生を歩む中で、ぜひ「貯めながら増やす」ということをしていただきたいなあと。それで、実際に投資をしながら、世の中に対しても価値のあるようなことをしていくことが、大事ではなかろうかと思います。

ということで、今日の私の話はこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。