投資って“ダーティ”なもの?

藤野英人氏:みなさん、こんにちは。レオス・キャピタルワークスの藤野と申します。本日は、「投資のプロが教える 資産づくりのはじめ方」というタイトルでお話をしたいと思います。

今日は台風かつ選挙(第48回衆議院議員総選挙)というところで、そういう2つのイベントが重なった中で、こんなにたくさんの方に来ていただいて、本当に私、驚いています。「今日、会場へ来たら10人くらいしかいないんじゃないかな」と思ってたんですけれども、こんなにたくさんの方に来ていただいて、私の話を聞いていただく機会をいただけたことを、本当にうれしく思ってます。50分間ですが、きちんとみなさんに付加価値のあるようなお話をしたいなあと思ってます。

私の自己紹介はここに書いてあるとおりですので、後で読んでいただけたらいいかなあと思いますが。資産運用の仕事を始めてから、28年経っています。いろいろと本も書いてますので、次は、本の紹介かなというのもありますけど(割愛します)。

これから50分間、いくつかのテーマにしたがってお話をしたいと思います。

まず最初に、「投資って“ダーティ”なもの?」ということで、お話をしたいと思います。

「まずはチェック! あなたはどのくらい当てはまりますか?」ということです。みなさんは、この中の項目がどのくらい、自分自身のことに当てはまっているでしょうか?

「日本人は欧米人に比べてお金に対して清く正しいと思う」「お金のことを大きな声では話せない」「預金通帳の残高が増えていくことが喜び」「老後資金がいまから不安」「『投資家』というとちょっとダーティーなイメージがある」「『株』はマネーゲームだと思う」「『投資』はお金持ちのためのものだと思う」「日本の会社は景気が悪いと思う」「就職するなら安定している大企業がいいと思う」「働くことはストレスと時間をお金に変えることだと思う」。

これは、多くの人にアンケートを採って、回答しているものが多いものを挙げました。だから、もしたくさん当てはまってるとしても、別に何か問題があるわけじゃなくて、普通の日本人の感覚だということではないのかなあと思います。

日米欧・家計の金融資産構成

これが、家計の金融資産の構成ですけれども。これを見ていただくと(おわかりのように)、日本は、現金・預金の比率がすごく高いんです。家計に占める現金の比率が51.5パーセントで、半分以上が現金・預金ということになっています。米国の現金・預金の比率が13.4パーセント、欧州の比率が33.2パーセントということですから、この日本人の現金・預金の比率の高さが突出しているということになります。

日本人は、お金そのものがとても好きです。投資をすることは嫌いです。株式とか投資信託はなくて、現金を持つことがとても好きなんですね。そういう意味で、日本人はとてもお金にこだわってるし、お金が好きな民族じゃないかと思います。

アメリカ人は、お金(そのもの)が好きではなく、投資をすることが好きですね。だから、現金・預金の比率は13.4パーセントしかなくて、投資信託(11.0パーセント)や株式(35.8パーセント)の比率が、非常に高いということがわかります。日本人は現金・預金が約930兆円。1,000兆円近い現金・預金があるということです。でも、これは考えてみると、日本の大きな武器でもあるし、資産ではないかと思います。

タンス預金が、43兆円もあるんですね。(会場を見て)東京に来ている人で、みなさん若い方が多いので、「タンスにお金を入れる」というイメージが、あまり想像できないと思うんですが。すさまじいお金が、本当にタンスやツボ・貯金庫に眠っているということになります。

ただ、意外に、金庫にはお金を入れないんですね。なぜだと思います? 金庫って、お金を入れる場所じゃないですか。ただ、そこにお金が入ってることはバレるので……自分の子どもや孫に、そこにお金が入っていることがバレちゃうから。「自分の子どもやお孫さんにも、自分がお金を持ってることを隠したい」という考えがあるので、隠し扉とかツボにお金を入れて、床下に埋めているような人が、すごくたくさんいるんです。

最近、新聞やテレビで、こういうニュースを見たり聞いたりしたこと、ありませんか? それは何かというと、お金が捨てられているということ。2,000万円や3,000万円というお金が、焼却する直前で発見されたというニュース、ありますよね。

あれって、なぜだと思います? 「このお金は、もういらないからゴミ箱に捨てちゃおう」と言って、捨てたわけではありません。ほとんどの場合、解体業者が解体をしたときに、そこにお金があることに気づかずに、そのままゴミとして捨てられてしまったというケースがすごく多いんです。

だから実際に、おじいさんやおばあさんがお金を貯めて、床下に埋めたことを誰も知らないうちに亡くなってしまったというケースが、実はとてもたくさんあります。

かつ、最近はマイナス金利になりました。それから、マイナンバー制度があって、「お金を、いろいろと監視されるんじゃないか?」という恐怖から、お金をどんどん引き落として、タンスやツボに入れるという人たちが、たくさん増えているんです。

私、これをすごく残念に思っているんですね。お金は、定期預金とかに入れても、それほど使われないんですけれども。タンスやツボに入れられると、ほとんど何の役にも立たないんです。そうは言いつつ、私だってお金を持ってるし。お金はとても好きですよ。手元に、1万円札があります。みなさん、どうですかね? こう見ると。

1万円札を取り出して、ピラピラとやると、ニマニマする人ってけっこういるんですね。それを、なんと言うと思います? 「現金」と言うんですよ。「現金な人」なんです(笑)。

この1万円札の定価って、みなさんはどのぐらいだか知っていますか? たぶん、紙の値段からすると、1円もしないと思うんですが。この1万円札は、精巧な印刷をしているので、印刷コストがけっこうかかってます。

だから、この1万円札を作るのに、だいたいどのぐらいの費用がかかってるのかというと、20円だと言われています。僕らは、20円のものを1万円だと思っているんですね。

だから本当は、こっち(1万円札を「1万円」だと捉えること)は、バーチャルです。これは、紙じゃないですか。リアルに見えているけど、これはただの紙で、20円の定価のものなんですよね。

「ビットコインは危ない、怖い」とか言っているけれども。でも、この1万円札だって、ただの紙なんです。ビットコインというと、「暗号が破られて、たくさん複製されちゃうかもしれない」と、けっこうみなさんがドキドキしてますけど。

(1万円札を指して)これ、めちゃくちゃ複製できますよね? 1万円札は、紙じゃないですか。「紙のほうが安全で、ネットのほうが怖い」みたいなところがありますが。某国では、めちゃくちゃこれ(1万円札)を刷っているらしいという話も、あるわけです。

だから、僕らは1万円札のような、こういう(目に見える)お金をリアルだと思っていても、本当はただの紙に過ぎないということを、改めて考えるべきではないかなあと思います。

現金と株式、リアルな資産はどっち?

今は手元にありませんが、例えば、トヨタの株式を持っていたとします。トヨタの株式(自体)は紙です。それを全部買い集めるとどうなるかというと、トヨタそのものになっていますね。トヨタの資産がある、工場がある、土地がある。それから、そこに働く人たちがいる。過去の実績があり、技術があり、未来がありますね。

だから、トヨタの株式というのは紙ではありません。トヨタの株式は、トヨタの資産や将来の価値を表しているから、これこそが本当の資産なんです。株式と現金だと、どっちがバーチャルで、どっちが本物の資産なのかというと、株式のほうがリアルな資産です。こっち(1万円札)は、紙に過ぎません。でも、多くの人は、こっち(1万円札)がリアルで、株式がバーチャルだと思ってるわけですね。

だから、「株式投資をする」というのは、なんとなくお金をポーンと捨てて、手元にお金がなくなる。だから、株式市場というバーチャルな世界の中で、お金が飛び交っているというイメージをしている人が多いんだけれども、現実は違っています。(先ほどお話ししたように)トヨタの資産をちゃんと手元に持っているというようなことなので。

(資産を手元に持っているという)イメージを持てるかが、実は投資のことを理解する、第一歩になります。要するに、「株式とは、(バーチャルではなく)ちゃんとした資産である」を、いかに理解することができるのかが、とても大事なんですね。

よく、「日本の将来がわかりません」「ちょっと怖いです」「不安です」(という人がいます)。「だから、現金を預けてます」とか「現金を持ってます」とか、矛盾したことを言ってるんですけど……これって、国の信用で成り立ってるんですね。

だから、国が信用できなかったら、お金は持たない・持つべきでないということになるんです。なぜかというと、将来、国の信用がなくなってしまったら、お金の価値がほとんどなくなってしまうということになるわけなんですね。

昔、日本で、みなさんも知っている戦争がありました。第二次世界大戦があって、原爆が2回落とされて、日本は本当にほとんど燃え尽きてしまったというようなことがあるわけです。

ところが、真珠湾攻撃があってから、ポツダム宣言が受け入れられるまで、日本の株式はどうだったかというと、実は右肩上がりで上がっているんですね。不思議ですよね? だって、全部工場なんかも燃えてなくなってしまったのに、日本の株式が上がっていったということなんです。

国債はゼロになったけれども、将来の会社の価値は上がる。それはなぜかというと、要するに、未来があるからなんです。とくに、ポツダム宣言を受け入れるちょっと前ぐらいから、日本の株式は暴騰してます。なぜか? それは、戦争が終わった後、日本にはその次の「復興」という未来があるからなんですね。

一方で、政府はその戦争の時に国債を発行しましたが、それはすべてパーになりました。こういうことを考えると、僕らはどういうふうに行動すべきなのかが、よくわかるんじゃないかなと思います。

日本の寄附市場は、米国の50分の1

もちろん、お金は大事です。私はこれ(1万円札)が紙だからといって、燃やしましょうということはしません。燃やしませんよ。私だってね、お金は大事なんですから。お金とは、実はただの紙にすぎない。当たり前なことなんだけれども、「株式そのものが資産である」と改めて考えてみることが、投資ではとても大事なことではないかと、私は考えてます。

とても残念なのは、43兆円ものお金が、タンスに眠ってるだけなんです。今、東芝が苦しい状態になってますね。それは自業自得で仕方がありません。ただ、その子会社に、東芝メモリというすばらしい会社があります。

東芝メモリは、(外国の企業に)2兆円で売り出されたわけですね。売却せざるを得ない状態になってたということですが、僕ら日本人で買うことができるんです。約1,000兆円もの現金・預金があって、また、タンスには43兆円のお金があるんです。そういう意味で見れば、2兆円の東芝メモリを買うことなんて、屁でもない。しかし、誰も(お金の)出し手がいなかった。もちろん、日本の企業の一部がお金を出しましたが、(結局は)外国の企業が持っていくことになりました。

これをすごく残念に思っています。なぜならば、日本の未来って、誰が作るんでしょうか? みなさんなんですね。みなさんは、どうやって日本の未来を作るんでしょうか? 多くの場合は(組織によって作られます)……もちろん、弁護士とか公認会計士とか、1人で活躍できるような会社もありますが。弁護士とか公認会計士だって、チームでお仕事をしてますね。みなさんの多くは、会社とか役所で仕事をしてるわけです。

要するに、日本の未来を作るのは、会社とか役所とか、「法人」という組織です。東芝の半導体が、日本の未来の一端を担います。彼らが半導体でモノを作り、それを世界中に売り、現金を回収する。その回収したお金で従業員の賃金を払い、税金を払う。また、それぞれの従業員が税金を払う……。それが、日本の未来を作るんですね。このお金はそこ(タンス)に置いてあっても、何の役にも立たないわけです。

「資産を作る」ということは、もちろんすごく大事です。資産を作るのに、株式投資や投資信託が一定の役割を果たすわけです。でも、それと同じぐらいに、僕らがオーナーとして会社を支えていくことが、とても大事だと思います。

日米の寄附の金額です。日本人は、お金がとても大好きで、寄附は大嫌いです。成人1人当たりの年間寄附額は、日本は2,500円で、アメリカは13万円です。1人当たりですよ? すごい差です。みなさんは、1年間で2,500円以上寄附していますかね? アメリカは、1人当たり13万円も寄附しています。

アメリカの場合、お金持ちほどたくさんの金額を寄附してますが、(寄付をしている)比率でいうと、お金を持っていない、所得の少ない人の方が高いです。年収が300万円以下だと、だいたい年収の3パーセントを寄附しています。年収が300万円ある人だって、9万円くらいは寄附をしてるということですね。

日本人は、全部合わせて(年間寄附額が)2,500円。お金持ちからそうでない人も合わせて2,500円ですから、世界の先進国の中で、いちばん寄附をしない民族なんですね。なぜと聞いてみると、「(寄附した)お金の使い道がよくわからない」「寄附をする意味がわからない」「そうやって、お金を自分の手元から出したくない」というような答えがあります。

年間寄附額は米国で34兆円もありますから、日本の税収の6割ぐらいあるんですね。日本の税収の6割ぐらいのお金が、格差是正や世界平和のために使われてるわけですけど、日本(の年間寄附額)は、たった7,000億円。7,000億円のお金は、もちろん小さくはありませんが、日本国という先進国のことを考えてみると、この金額は非常に小さいということになります。