注目すべきは技術の変化ではなくエコシステムの変化

小島英揮氏:いろんなテクノロジーが出てきますよね。それで、みなさんたぶん「このテクノロジー使ったらおもしろいんじゃないか」とか、「これはビジネスになるんじゃないか」とか、「ウケるんじゃないか」などと思われると思います。

思うのはぜんぜん構わなくて、検討していただくのは良いと思うんですけども、ここでお伝えしたいのは、本当にこれが波として来ているのか。そして今、「賭けて」大丈夫なエリアなのか、っていうことを考える時に、果たしてその周りにエコシステムができているのか。そしてそのテクノロジーのエコシステムは、旧来の大きいエコシステムの上にちゃんと乗っかっているのか。そういう連鎖を見ていただくのが良いんじゃないかな、と思います。これを見ると、大外しをしなくなる、ということなんですよね。

どんなに良いテクノロジーでも、このエコシステムから外されるとこうなります。私、前々職はAdobeという会社にいたという話をしましたが、そこに関わっていたテクノロジーで「Flash」というものがあります。この会場の方は「Flash」をもしかしたらネイティブで知らない世代の方もいるんじゃないかな、と思うんですけども。

その昔は……その昔って言っても本当に、5~6年前くらいまでなんですけれども、Webでクリエイティビティの高いものを提供しようとすると、この「Flash」というのは非常に使い勝手が良いものだったんです。

今でも私は、(Flashの)生産性とか動きの滑らかさは非常に良いものだと思っています。ただ技術的にいくら良くても、iOSで見られなければ意味がないんですよね。ブラウザのプラグインが入ってなければ意味がない。なので、エコシステムから外されると、そのテクノロジーというのはあっという間に死に絶えてしまう。

みなさんの今ベットしているテクノロジーとか方向性が、もしエコシステムから外れそうになったら、それはよく考えなきゃいけない時期だということになるわけです。いくら「俺たちのテクノロジーはすごい」と言っても、エコシステムなしでは生きていけない、ということになります。

なので、川の流れを見るように……流されては意味がないんですけども、この濁流を泳ぎ切るためには、間違っても上流に泳いで行ってはいけない、ということなんです。(上流に)泳いで行ってもいいんですよ、でもそれは相当な困難を伴うと。

じゃあその川の流れに沿うとどういうことになるか。今、みなさんのお手元のスマホにあるように、アプリケーションがどんどん展開されています。たぶんみなさん、(ホーム画面を)3スライドくらいしないといけない数のアプリケーションをお持ちじゃないかと思いますけども、このたくさんのアプリが今、エコシステムの上に乗っかって出てきている、ということになるわけです。

アプリケーションを起点に生まれる新ビジネス

そして、単にアプリを配信するだけじゃなくて、それを起点に新しいビジネスというのも生まれてくる。例えば、(スライドを指して)これはKickstarterですね。Kickstarterで、マイクロファンディングをする。今までは銀行からお金を借りないと、もしくは投資家さんにお金を用立てていただかないと、モノを作るみたいなことはなかなかできなかった。

ですが、今このスマホの仕組みを使って、クラウドファンディングをして応援してくれる方からお金を集めることで、技術を回すようにできる。

2つ目の例は「instacart」ですね。日本にはまだ類似のサービスが少ないと思うんですが、アメリカでは非常にメジャーになってきています。お買い物に行く時、スーパーに行ったらもう予約したものが店の人にピックアップされてて、持ち帰るだけ、というものです。これも要はスマホでオーダーをして、あとはピックするだけ、という仕組みになっています。

レストランの予約とかも、もうみなさんには、電話をかけてやってらっしゃる方はいないと思います。アメリカとか中国はさらに進んでいて、予約した時にもう決済を済ませてしまう。事前決済ですよね。それをすることによって、支払いの時間がなく、スマートに出られます。

それからソフトウェア。Slackをお使いの方も多いんじゃないかと思うんですけども。サブスクリプションという毎月課金をしていくモデル。一発で課金をするんじゃなくて、定期的に課金をしていただく。これって、ライフタイムバリューを上げるために非常にいいモデルなんです。その先に人が紐づくサービスとか、お金の回収のモデルとか、アプリケーションをいろんなかたちでお手元に届けられるようになったので、モバイルのエコシステムが、どんどん新しいビジネスを加速させている、ということになるわけです。

多様化する決済方法への対応が鍵

今ちょっとお話をしましたけど、いろんなサービスと紐づくので、お金の流れ方も変わってきています。例えば事前に決済するというと、これまでクレジットカード(の番号)を投入してやるのが普通だったわけですけども、Apple Payですね。Google Payも同じような仕組みではあるんですが、これはけっこう破壊的だと思っています。なぜかと言うと、クレジットカード情報を入力して購入をする必要がないからです。もう入ってるんですよね。

これ実は、ビジネスをする側からも非常にセキュアです。カード番号だけで詐欺にあうことがないんですよね。端末に入っていて、本人が操作して、その中にビルトインされてるカード情報を使うからです。フィジカルなカードより、かなりセキュアなんです。

これに関して少し聞いたことがあるんですけれども、お店で実際に買い物をしていただく時に、Apple Payでお支払いいただくものと、フィジカルなクレジットカードでお支払いいただくパターンだと、圧倒的にApple Payのほうが不正がないと。まぁ、不正しようがないってことなんですよね。安全なお客様だということです。

日本ではまだメジャーになってませんが、AlipayとかWeChatPay、名前は聞いたことあると思います。こういったスマート決済も新しいお金の流れとして出てきてる。(スライドを指して)それからこの、車にタッチしている写真がありますが、これはLyftというアメリカのライドシェアサービス。これは事前決済のモデルですね。

こんな感じで、新しいビジネスモデルに対して、決済もどんどん新しくなってきてるということです。なので、モバイルの技術を考える時には、決済のUXをどうするかっていうことも、これからはキーになるんじゃないかな、と思います。

お客様と事業者だけでやるモデルより、最近のメルカリさんみたいに、コンシューマーとコンシューマーが直接繋がるようなC to Cの世界をアプリが提供できたり、事前決済、サブスクリプション。そしてクレジットカードだけじゃなくて、いろんな代替決済の仕組みをサポートしないと、マネタイズのエコシステムからも外れていく、ということになります。

なので、これからみなさんの中でいろんなビジネスやアプリを構築する時も、これまでUXとか機能を作るエンジニアが非常に大事だったと思うんですが、これからはUXに直結なので、決済周りを見るエンジニアも非常に重要になるんじゃないかなと思います。

スムーズなUXと国外のターゲットを考える時代に

ちなみにちょっと話題が逸れるんですけども、決済がお客様のユーザーエクスペリエンスに非常に影響を与える、という良い例があります。これはリアル店舗なので直接スマホアプリのビジネスには関係ないかもしれませんが、Amazon Goです。これの良いところは、よく無人コンビニとかだとレジに人がいないので、省力化されてるみたいなイメージがあるんですけども。

本筋は、お支払いのためだけに並ばなくていい、というのが恐ろしくUXが良いんですよ。みなさんが棚から物を取ってお店から出るだけで、決済がされるので、「払う」っていう行為がないんです。私もともとAmazonなので、元同僚がたくさんこのシアトルの実験店に入って買い物した経験があるんですけども、みんな慣れてないから「初めは緊張する」って言うんです。「公開万引きしてるみたいでイヤだ」とか。

だけど、1回これを経験しちゃうと、2回目は「非常に良い」「なぜ今までレジに並んでいたのかわからない」と。だって物を取る時に「この値段で買う」って合意してるのに、それをまたレジで取り出してお金を払う行為って、まったく無駄なんですよね。ここにいち早く気がついて、そういった仕組みをなくしてるわけなんですが。

たぶんアプリの世界って、同じようなことがあるはずです。今使いたいのに課金をするためのUXが悪いと非常に厳しいことになる。それからサブスクリプションしてもらいたければ、そこまで素直なUXを作らなきゃいけない。そうすると、決済前にもいろんなテクノロジーが、これから非常に重要になるんじゃないかな、と思います。

もう1つ。今日は日本市場をターゲットにしている方が多いので、おさらいという意味でここは触れておきたいと思います。「人口減少」の話ですね。誰もマーケットが小さくなるということは考えたくないわけですが、日本は間違いなくそうなります。なぜかと言うと、人が減っているからです。

人口動態というのは、未来予測としては最も正しいものの1つです。今日、今晩から特殊な事情を以て日本人の増産体制に入ったとしても、経済に影響を及ぼすには20年は時間がかかるんですよね。その前にお亡くなりになる人の数が多いので。だから少なくとも、2030~2040年くらいまでは、何が起こっても下がっていくんですよ。

それはどういうことか、わかりやすく言うと「GDPの減少」です。なかなか行政の方がこういう数字にしていただけないんですが、普通に算数で考えるとこうなります。下がるんです。ということは、国内市場だけを見ていると、これまでと同じことをしている、もしくは昨年の延長でいろんなモデルを作っていると、みんな等しくビジネスがシュリンクする時代が来る、ということなんですよね。なので、やり方を変えなきゃいけない時代が来ているということです。

これをもし変えたければ、ターゲットを変えるしかない。今さら言うまでもないんですけども、2つしかないです。越境するかどうか。要は国外の方にお使いいただく・買っていただくか、日本に来ている方にお使いいただくか、ということになるわけです。

「使いづらい」はビジネスチャンス

今回のApp Ape Awardの中で、ここ(国外)をターゲットにしたものがどれくらいあるか、ちょっと私は十分に存じ上げません。しかし、これから実はすごくエマージングなところになってくるかなと思います。なぜかと言うと、まだあんまり参入者が多くないからですね。とはいえ、例えば中国というのはeコマースで物を買う意欲が高いので、非常にeコマースのマーケットが大きいんです。

その人に日本の品物をどう見つけて買っていただくか、みたいなeコマースのマーケットプレイスとかアプリが今、非常に成長しています。ここはもう、間違いなくお金が回るエリアなので。

それから、日本にインバウンドでやって来た海外のお客様に対してのサービスというのも、今、非常に注目されています。なぜかと言うと、思いのほか日本って、おもてなしのレベルが高くないんですよね。海外の人には非常に使いにくいです。切符1つ、ネットアカウント1つとっても、非常に使いづらい。みなさん海外に行かれる方は多いと思うので、日本に帰って来ると気がつくと思うんですけども。

ここに課題がすごくあるんですよ。例えば私がAmazonに勤めてた頃によくあった話は、シアトルから私の同僚が東京にやって来る。初めて東京に行くので楽しみにしています。なので、私は念押しをするんですよね。「いいかい、成田に着いたら必ず日本円に換金して、ルーターも借りてくれ。もしくはローミングしてくれ」と。「OK、わかった」って言うけど、だいたいみんなやらないんですよ。

なぜかと言うと、世の中の常識からすると、どこの国に行ってもカードで払えるし、Wi-Fiスポットは普通にフリーでたくさんあるから、そんなに困らないって認識なんですよね。日本ではぜんぜん違うんですよ。例えば、来て、タクシーに乗って、お金払えなくなって「ヒデキ、助けてくれ」と連絡が来るんですけど助けられない。それぐらい、非常に使いづらいんですよね。

でも「使いづらい」っていうのは、ビジネスチャンスなわけじゃないですか。それを見つけてどう改良するかっていうのは、普通にビジネスを考えてる方にとってはチャンスです。例えばこれは日本のアプリじゃなくて海外のアプリなんですけども、日本のいわゆる「ディープスポット」を英語で案内しているようなもの。

オーディエンスが日本人から、そうじゃない人にどんどん変わってるんですよね。このエコシステムの変更というのもよく考慮して、ビジネスを考えていくのがいいんじゃないかな、と思っています。

つまりエコシステムの流れを見ていくと、どのテクノロジーで新しいサービスやビジネスを考えるか、という目利きの部分にもなりますし、ニーズを早く見つけるということにもなるんじゃないかな、と思います。

この指標がないと日々新しいテクノロジーがたくさん出てきて、そこから自分に必要なものをピックするのはなかなか難しいことになる。でもこの法則を使っていただくと、やりやすいです。