ファクトチェックの公平性

記者2:元國民新聞論説員、フリーランスのフジタと申します。ファクトチェックできることはファクトチェックしておく、というところから始めるということでございますが、例えば公平性のようなものですね。例えば裁判所だったら、どっちの側にもつかないとかそういうのがあるんですが、その公明性というか、公平性ですね。どの程度、どういうふうに担保できるのか。それに対して、それを担保できるようなシステムがあるのか。

例えば、安倍政権にシンパシーのあるメンバーが全部構成していたとか、共産党シンパが構成してたというようなファクトチェック団体ですと、それはちょっといかがなもんかということになると思うんですよ。

楊井人文氏(以下、楊井):ご質問ありがとうございます。非常に重要な質問だと思います。実は国際的なファクトチェック団体が、2017年にファクトチェックのプリンシプルというものを、綱領をつくりました。その一番重要な原則が、NonpartisanshipとFairnessという原則です。

これをどういうふうに担保するのかというのは、大変難しい問題ではありますけれども、まずファクトチェックの原則の1番として掲げられている。そして「どのファクトチェッカーも、どういう目的でファクトチェックをするのかを、きちんと外部に説明しなさい」と、こう謳われています。

そして、「ファクトチェックするメディアや団体は、財源とか、誰が運営しているのか、どういうところから支援を受けているのか、そういうものをすべて透明性を図りなさい」と、こういうふうに言われております。

それでも人間です。ファクトチェックをするのも人間ですので、それぞれなんらかの立場を持って、個人的な信条とか考えを持っているというのは、否定できないと思います。

結局、ファクトチェックが本当に行われているのかは、これは読者が判断するしかないと思います。ファクトチェックをする人は、自分たちが公平であるために、できるだけ情報を公開しようとしますし、できるだけファクトチェックはエビデンスベースでやると、エビデンスで勝負するんだ、ということでやっておりますので、そこを読者がどう受け取るかということに、最終的に委ねられると思います。

ですから、ファクトチェックも人間が出すものなので、間違いは起きます。だから、……起きる可能性があります。絶対にゼロにはならないと思います。ですので、ファクトチェックをした記事も、当然またファクトチェックの対象になる。ファクトチェッカーをファクトチェックせよという、そういう声もあるぐらいですから、それはそれで大いにやっていただいていいと思います。

あくまで事実と証拠に基づいてお互いチェックし合いましょう、というのがファクトチェックの考え方です。それによって、結果的に公平なファクトチェックに近づいていければよいと、そういうスタンスです。

嘘発見器ではない

立岩陽一郎氏(以下、立岩):ちょっと付け加えますと、ファクトチェックはその結果が事実であることもあるわけです。例えば安倍総理の発言も、調べた結果、事実だってこともあるわけですね。それはちゃんと事実だという認定をする。つまり、嘘発見器にならない。これ、大事なんですよ。調べた結果が事実であれば、ちゃんと事実だと言うことも大事だと。

もう1点言うと、野党はね、ファクトチェックできるファクトがないんですよ、あんまり。だから、安倍総理の発言がファクトチェック多いのはしょうがないんです。ちゃんとファクトを言ってるわけですね。

ですから、ファクトチェックの対象になることが、別に悪いことではない。つまり、ちゃんとした事実を言ってる。でも、それは検証されなきゃいけない事実。で、野党はですね、わりとね、vagueなんですよ、言ってることが。というのは事実です。

フェイクニュースは結果論ではない

記者3:手短に質問いたします。フリーランスのタナカリュウサクと申します。立岩先生に質問いたします。

日本のマスコミと比べればはるかにはるかに高尚なのですが、バングラデシュに逃れているロヒンギャ難民の強制送還期日について、BBCとAP通信までもが、ミャンマー政府筋のクレジットとして、1月23日、送還開始を伝えたんですね。それで、動揺した難民キャンプのなかでは、殺人事件まで起きました。

結果として、1月23日どころか、2ヶ月も3ヶ月も遅れることになったんです。これ、クレジットはしっかりしてるけども、バングラディシュ側から取材すれば、1月23日は無理なことわかるんです。現場を見れば、それは無理なことはわかるんです。

これはどうですか? フェイクニュースになりますか? さっきの安倍さんが言ってるというのと、同じことですよね。ミャンマー政府が言ってるっていうクレジットは付けてるんです。

立岩:まあ、答えは簡単で、フェイクニュースじゃないですね。つまり、フェイクニュースかどうかっていうのを結論から導くんではなくて、それは「ミャンマー政府によりますと、こうしようとしてる」って、これは事実ですね。であれば、それはフェイクニュースじゃないですね。それは結果がどうなるかは関係なくて。

日本の場合で私が言ったのは、結論さえわからない。だけど、その根拠さえわからない。これはフェイクニュースですよ。

海外との連携について

記者4:フリーランスのオバヤシと申します。立岩さんに質問したいんですけれども。

先ほどグラフで示していただいたなかで、中国と韓国のそういう団体があるということを教えていただいたんですが、韓国にもたくさんあるということでびっくりしたんですけれども。このような外国と、とくに中国・韓国の団体とのどういう連携を取っておられるのか。

それからもう1つは、関連するんですが、連日のように、エビデンスに基づかない反日ニュースがたくさん出てますね。これに対してこちらの団体ではなにかアクションを取られるのかどうか、そのあたりをちょっとお聞きしたいんですが。

立岩:すいません。私に言われたんですけど、そのへんはちょっと楊井さんくわしいんで、ちょっと楊井さんに。

楊井:今お話ありました中国というのは、確かにこの地図上ではあるんですが、どういう団体なのかは存じあげません。ただ、韓国については、去年、私と立岩さんで、韓国のソウル大学を中心にやっているファクトチェックセンターの責任者とお会いしました。

韓国に行ったのではなくて、別の国でお会いしたんですけれども。韓国では、今調べてみると、私もちょっと韓国のメディア全部知ってるわけじゃないんですが、26のメディアがこのファクトチェックに参加しています。ここに挙げられている26のメディア、公共放送のKBSなども参加していることがわかります。

韓国の取り組みは非常に興味深いので、いずれは、FIJでもちょっと韓国の人にも来てもらって、どうして韓国のメディアはそれだけファクトチェックに取り組んでるのか、日本でなかなか広がらない部分を、韓国の事例でいろいろと参考になるべき点を聞きたいなと、こう思っています。

あと、最新の情報では、台湾でも本格的なファクトチェック団体が立ちあがると聞いております。とにかくそういったアジアでも、いろんな国ですでに広がっているということで、そういったところともちょっとこう連携をしながら、いろいろとファクトチェックのあり方について連携はしていきたいと思っています。

ファクトチェックの範囲

記者5:楊井さんに少しご発言のなかでちょっと違和感を感じたところがあったので、clarifyをさせていただきたいと思います。田原総一朗さんのお話が出たところ。

さっき立岩先生も、「何をチェックして何をしないかっていう範囲を決める」って話だったんですが、田原総一朗さんって我々視聴者から見てもああいう人ですし、あの人はオピニオンリーダーだし。なんですけど、人のインプレッションだったり、思想だったり、そんなものを……、って言うと失礼ですけど、正しいとか正しくないとか範囲に入れると、おかしくなるのではないかと思ったんですね。

彼は、「安倍総理は全部アメリカに追従してる」という印象を彼は持ってるという、そういう人だとみんなわかってるんじゃないかと思うので、そこを「それはどうなんだろう?」っていうところをこの活動の範囲に入れられるのかどうか、っていうのをお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

楊井:ご質問ありがとうございます。まず、ファクトチェックは、オピニオンはチェックしません。ファクトチェックの対象になるのは、あくまで事実に関する言説です。ですから、ファクトチェックの最初の基本として、発言なりあるいはニュースなりは、これは事実についてのものなのか、あるいは、その人の単なる意見で言っているのか、それを区別します。

もう1つ重要な基準は、その言説が社会に大きな影響を与えるものかどうか、という点です。つまり、些細な、誰にも影響を与えないような、揚げ足取りのようなことをするということではありません。

そこで今回の田原総一朗さんがメディアに語った、「安倍さんは時の米国大統領にはなんでも賛成する」と発言しました。安倍総理が時の大統領になんでも賛成するかどうかというのは、これは事実の問題です。事実か意見かの区別をする最大の基準は、客観的な証拠によって真か偽かを判定できる、そういう内容を事実の問題と言います。

そして、田原さんの発言というのは、田原さんという人自体が極めて影響力がある人ですし、しかも、それがメディアを通じて田原さんの発言が報道されてるわけですから、決してトリビアルな問題ではないと思います。

内容的にも、誰もが関心を持つ、安倍さんが時の大統領にいつも賛成するのかどうかというのは、非常に重要なマターだと思います。ですので、これはファクトチェックの対象になると、そういうことになります。

立岩:でも、実際おっしゃるとおり難しいですよ。例えば、私が言ったケースでも、安倍さんが「2パーセント引き上げると5兆円強の税収があります」と言ったからファクトチェックしたわけですよ。「5兆円強の税収が見込まれます」だったらOKなんですよね。

ただ、そこは総じて言えるのは、やっぱり言葉はちゃんと使いましょうよというところに、収れんするんだと思うんですよね。だから、さっきのやつも「多くのケース」っていうのを付けていれば、ひょっとしたらセーフだったかもしれない。でもそれは、影響力のある発言はちゃんと言いましょう、っていうところですかね。

安倍総理大臣の発言について

記者6:フリーキャスターのコマツシホリと申します。元NHKワールドで英語リポーターしていました。今、海外メディアの特派員キャスターしております。

先ほど見せていただいたFIJのホームページにありました、2月5日付の山口敬之氏の安倍首相による「それ以上でもそれ以下でもない」というコメントについての、ファクトチェッキングの方法論と結果について教えていただきたいのと、また、そのニュースに対しての世論の影響がどうだったのか、についておうかがいしたいのと。

あともう1点、ジャーナリストとして、やはりこのような感じで意見が真っ向から対立している場合に、一方からしか取材ができなくて、もう一方からの取材が試みれない、両方の意見が聞けない場合に、ジャーナリストとしてどのようにきちんとしたファクトを得てリポートしていけばいいのか、というアドバイスをいただけたら幸いです。よろしくお願いします。

楊井:はい。ご質問1つ目の、安倍総理大臣の国会での発言で、山口さんという有名な、今渦中のジャーナリストについて関係を問われて、「取材を受けたことがあるだけで、それ以上でもそれ以下でもない」と、こう発言したという発言が、先ほどの疑義のある言説のデータベースに載っかっておりました。

それをどういうチェックするのかということなんですけども、このFIJのデータベースは、こういった疑義が生じている。なぜ疑義が生じているかというと「そのジャーナリストの仲人を務めたことがある」という情報があるからです。でも、それはエビデンスは取れていません。

本当に仲人を務めたのかどうか、これはまさにファクトチェッカーが実際に、まあ、まさに結婚式に出席した人に聞くのか、あるいは、山口さん本人に当てるのかわかりませんが、それを取材して、本当に仲人を務めたことがあるという事実、エビデンスがつかめるのであれば、安倍さんの発言はTrueとはとても言えないんじゃないのと、こういう判定をすることになると思います。そこがファクトチェックの仕事になるわけですね。

FIJは、その材料を提供しているだけなんです。材料を提供してメディアの関係者……、まあ、みなさんがメディアの関係者なんですけども、メディアの人たちにそういったあやしいファクトチェックすべき情報を、先ほどのようなかたちで共有をしますので。

そして、それを実際にファクトチェックして、できれば記事にしてくださいねと、ファクトチェック記事を発表してくださいねという、そういう趣旨で先ほどの情報があるととらえていただければと思います。

我々FIJとして、その発言が結果的にどうだったのかということまで判定をする、調査をする、そのリソースは持ってません。我々はそのネタになるあやしい情報を、みなさんに情報提供する仕組みをつくろうと、こういう役割です。

ファクトチェックは当事者に聞かずとも可能である

立岩:ちょっとわかりにくいと思うんですけど、FIJとしては、プロバイダーなんですね。ファクトチェックをする方にサポートする。ただ、私はファクトチェックやるわけですよ。だからそのへんが、FIJの人がやってるわけでもなくて、あくまで私個人としてやっている。そこはちょっとわかりづらいと思うんですね。ぜひファクトチェック入っていただきたいんですけど、活動に入っていただきたいとは思ってます、みなさんに。

日本のジャーナリストと話すと、勘違いをする人がすごく多くて。「この人に話を聞いたんですか?」っていう質問が多いんですね。例えば「安倍総理がああいうふうに言いました」って、これをファクトチェックする時に、「安倍総理のコメント取ったんですか?」って言うわけですよ。まあ、質問は投げましたけど、完全に無視ですよね。

しかし、彼が言ったことの事実関係の確認は、彼に確認しなくてもできるんですよね。それは当然きっかけになってる財務省には確認をし、財務省とは話をしましたけど、なにも安倍総理のコメントを出す必要はない。

さっきの件で言えば、山口さんなり、実名を挙げるのはよくないかもしれませんけど、その男性、それと総理大臣両方に話を聞かないとファクトチェックできないかって、それはそういうことではないですね。

金井啓子氏(以下、金井):ファクトチェックだけではなくて、ジャーナリズム全体になるのかもしれないんですけれども、なにかある事象があって、それに対して関係する人、できるだけ多くの関係者、とくに対立する関係者に話を聞くということは、ちょっと立岩さんと違う部分もあるかもしれませんが、できるだけ尋ねるということは、私としてはとても大切なことだと思っています。

必ずしもそれが答えが得られない、ということはあると思いますが、でもそれは、尋ねたけれども答えがありませんでしたということであるとか、または、非常に紋切り型の答えがあったということであっても、記事に入れ込む。それによって、このメディアはできるかぎりのことをやっているということを示して、読者・視聴者からの信頼性を高められるのではないか、と私は思っています。

ファクトチェックとスピードの問題

記者7:ありがとうございます。ジャパンタイムズのムラカミと申します。ちょっとファクトチェックというよりフェイクニュースの話になるんですけど。

報道にはとくにスピードとかが求められることが多いと思ってまして、その報道に求められるスピードと、フェイクニュースを流さないっていう正確性が、ちょっと相反するというか、緊張関係にあるかなとは思うんですけど。そこらへんはどう思うのかと、相反する関係をどう対策として打てるものがあるのか、というのをおうかがいしたいです。よろしくお願いします。

立岩:例えば、大統領の一般教書演説でどうやって彼らがやってるか。もうインスタントですよ。もう出てきた瞬間に、ファクトチェックするんですよ。だから、スピードが関係あるのではなくて、記者の意識の低さですよね、日本は。ファクトチェックしようとしてないんですよ、まず。

例えば、安倍総理が会見した、瞬時にわかりますよね。「2パーセントでなんで5兆円強になるんだろう?」って、誰もが疑問に持たなきゃいけないのに、日本の有名な新聞社、NHKの記者は、それを疑問に持たないんです。その意識がやっぱり問題ですよね。私はずっとファクトチェッカーが実際にやってるところ見ましたけど、瞬時ですよ。

だから、僕は何度も言ってるように、ファクトチェックっていうのは噓発見器じゃないんですよ。この言説のこの事実は何を根拠に言ってるのか、これ調べるのは大したことないんですよね。やっぱりやってるかどうかですよ。あるいは、やろうとするか。日本のメディアには、それをやろうという意識は今のところはないんです、基本的に。

金井:私自身はロイターというところで、何秒の差で記事を出す出さないというような、「早く出せ!」というようなことをずっとやっていたので、今おっしゃられたようなスピードと正確性というのは相反して、非常にきついというのはよく理解できます。

そのうえで、対策といっても万全ではないですが、スピードを出しつつ、でも、誤ったものを出してしまった場合には、とにかく訂正をきちんと出すということが、「間違ってて恥ずかしい」ではなくて、きちんと訂正をして正しいものを出すことが、正しいというか、よいということが、もっとメディアに広がってほしい、ということが1つ。

もう1つは、やはり流しっぱなしになっていたもの、それが正しくても正しくなくても、振り返るということ。1回流したら終わりではなくて、「これはどうだった」という検証をするということも、すでにされていると思いますが、もっと広がるということが大切なのではないかなと、そういうふうに思っています。