通訳時代の失敗談

西澤ロイ氏(以下、ロイ):でも、そうやって体当たりで通訳になられたってことは、けっこう失敗体験とかもあったりするんじゃないんですか?

奥村美里氏(以下、奥村):いや、ありましたよ、けっこう。

ロイ:ほうほう。

奥村:例えば、最初に通訳デビューしたのシンガポールのセミナーで。講師の人はアメリカ人、あ、カナダ人かな。それはぜんぜん問題ないんですけど。セミナーって感想のシェアの時間とかあるじゃないですか。

ロイ:はいはい。

奥村:それがみんなシングリッシュで。

ロイ:あー。

奥村:シンガポールの訛りが入ってて、ぜんぜん何言ってるかわからなくて。もう1人いた「君ならできる」とか言った人も、アメリカに5年ぐらい住んでて、彼のほう見ると(首を強く横に振っていて)。

(一同笑)

「わかんない」みたいな言われて。それで、2人で謝りました。「すいません、わからないです、訛りが強すぎて」って言って。

ロイ:それ、しょうがないですよね。

奥村:そうですね。台本もないので、ぜんぜん何を言ってるのかわからなくて。いや、シングリッシュは本当に、5回ぐらい行かないと理解不能。今もたぶん、訛りが強すぎると理解不能だと思うんですけど。

上村:へぇ。

ロイ:僕も留学中に、南部、ジョージア州に留学したので、南部訛りがあったりとか、先生がインド人とロシア人だったりとか、けっこう訛りって大変ですよね。

奥村:そうですね。でも、すごい自信満々なんですよね、訛ってるのに。

ロイ:あー、そうそう。インド人とか、聞いてる人が誰も理解してなくても、満々でしゃべるんですよ。

奥村:そうそう。

ロイ:マシンガンで。あれ、ちょっと見習わないと。

奥村:そう。本当に見習わないといけないと思います(笑)。「わかってるかな?」とか思わないんでしょうね、きっとね(笑)。

ロイ:(笑)。

上村:あくまでも自分の気持ちを伝えてる。

奥村:そうそう、「わかるはずだ!」みたいな。

「5歳児で考える」が生まれたきっかけ

ロイ:そんな美里さんが、なぜ『英語は5歳児の日本語で考えると面白いように話せる!』みたいな話になったのか、ちょっとそのへんを教えてください。

英語は5歳児の日本語で考えると面白いように話せる!

奥村:私、セミナーとかけっこうやってまして、そこで生徒さんとかから、「これ、英語で何て言うんですか?」ってよく聞かれるんですよね。

ロイ:ほうほう。

奥村:例えば、「『魂のこもった作品』って、英語で何ですか?」とか。

ロイ:魂のこもった作品。

上村潤氏(以下、上村):よく映画とかで、熱く語る時にそんな言葉出てきそうですよね。

ロイ:じゅんじゅんだったらなんて言います?

上村:えっ!

(一同笑)

ロイ:「この映画は魂こもった作品です!」。

上村:This movie is……。

ロイ:This movie is……?

上村:魂、……soul、spirit。

(一同笑)

奥村:そうきますか!(笑)。

上村:soul spirit ガンガン、みたいな。

(一同笑)

ロイ:ガンガンって(笑)。

上村:ガンガンって、もう(笑)。

ロイ:そこでどんなふうにアドバイスされたんですか?

奥村:いや、いっぱいあるんですよ、「『牙城を崩す』ってなんて言うんですか?」とか。

上村:あ、牙城を崩す!(笑)。

ロイ:これ……。

奥村:とか、「魚の『スズキ』は英語で何て言うんですか?」とか、そういうのいっぱい聞かれて。それで、いつも「何を言いたいんですか?」っていうことをよく言うんですよ、私は。

ロイ:うんうん。

日本語をそのまま英語に訳そうとしても難しい

奥村:「いったい何を言いたいんですか? 簡単に言うと何なんですか?」。例えば「魂のこもった作品」だったら、「いい映画」とかじゃないですか、要するに。「いい映画」って英語で何ですか?

上村:ん、何だろう。great movieとか?

奥村:そう。それでいいんですよ、別に。だから「魂」soulとか言わなくてもいい、ってことなんですよ。

ロイ:うんうん。確かに。

奥村:「牙城を崩す」とかも、ビジネスマンの人は、けっこう大きい、big wordsって言うんですけど、なんていうか、いつも話し慣れてるから、それを英語に訳そうとして、語彙がないから挫折、みたいになるんですけど。そうじゃなくて、そもそもその日本語自体を簡単にすれば、英語にするのは簡単だと。

例えば「牙城を崩す」って言った人に、「じゃあ、何が言いたいんですか?」とかって言ったら、30秒ぐらい考えて、「『マーケットシェアを取る』ってことですよ」って言われて。

ロイ:あー。

奥村:だったら別に、get their market shareとかでいいじゃないですか、簡単に言うと。

上村:まさにそのままですよね。

奥村:そんな経緯があって。私は通訳をやってましたけど、じゃあ通訳やっていたからといって、英語辞書の単語を全部知ってるわけじゃないんですよ。でも、言いたいことは全部言えると。

じゃあ、何が起こってるかっていうと、言い換え能力が高いんだなっていうことを思ったわけですよね。なので、日本語を簡単にすることができれば、good movieとか言えるわけじゃないですか。っていう感じです。

ロイ:なるほど。

奥村:この「5歳児」って、もしかして語彙も覚えなくていいし、簡単にしゃべれるんじゃないかと思いまして、そのメソッドを公開しております。

ロイ:もともと自身でやってらっしゃったことを説明しようとしたら、こういうかたちで「5歳児の日本語で考えればいい」と、そういうふうにまとまったってことですね。

奥村:はい。

「スズキ」をどう表現する?

ロイ:なるほど。それで、さっきの「スズキ」、「スズキ」はどうします? この魚……。

上村:「スズキ」?

奥村:なんか「メインはスズキか豚です」みたいなことが言いたかったらしいんですよ、本人は。

上村:あー。えー、でも、……「豚かスズキ」だったら、meat or fishになりますけど。

奥村:そうそうそう。

上村:何でしょうね、「スズキ」だったら白身なんで、white fishとか?

奥村:そうです。それでいいんですよ。

ロイ:おー。

上村:「『スズキ』って英語で何て言う?」って言われると、さっぱりわかんないですけど(笑)。

奥村:そうですよね。

上村:とりあえずwhite fishとは言いますね。

奥村:それでいいんですよ。だってアメリカ人とかって、魚って、samonぐらいしかわかんないですから。

上村:そうなんです?(笑)。

ロイ:tuna。

奥村:そう。tunaとsamonぐらいですよね。

ロイ:そんな感じ。

奥村:「スズキとか言われても……」って感じだと思いますよ。

上村:逆にそう言われても、向こうがわかんないんですね(笑)。

奥村:そう、「何それ?」みたいな(笑)。そうです。

上村:あー、最終的に「white fish」って言えば、「Ah, OK」となるわけですか。

奥村:そうそう、「白身なんだ。ふーん」みたいな。

ロイ:だって、例えばファーストフードとか行くと、chicken、beaf、porkって言うけども、魚はfishしかないんです。

奥村:そうそうそう。

上村:あー、確かに。

ロイ:Filet-O-Fish(フィレオフィッシュ)みたいな。

奥村:そうそう。

ロイ:そこで魚の名前出てこないですよ。

上村:スズキバーガーとか、なさそうですもんね。

奥村:(笑)。エビバーガーとかもないですもんね。

ロイ:あ、エビ。日本人は好きですけどね。

上村:あー。

奥村:そうです。

上村:なるほど。これはロイさんの本でも、見せていただきましたけど、言い換え能力は本当大事だということを、読ませていただいて再認識しました。