国にとっては「生き方改革」

小室淑恵 氏(以下、小室):次に小林さんにおうかがいしたいと思います。この社会、1社1社ということではなくて、この社会全体として働き方改革というのは、どういう必然性があるか? やらないことのリスクは何なのか? というところを少し大きな観点でお聞かせいただければと思います。

小林史明氏(以下、小林):今日、私がみなさんと共有したいことは、2つ大事なものがあると思っています。1つは、働き方改革というのは会社にとってはそうかもしれませんが、この国にとっては生き方改革であるということ。

2つ目は、この人口減少という時代はこれから60〜70年、付き合っていかなきゃいけないわけです。これを暗い時代だと捉えるのは簡単なことなんです。ですが、むしろこの大きな社会変化を逆手に取って、チャンスに変えるんだと。

そういうことを共有できたら、この会は私たちにとって、とてもありがたいものになるなと思っています。なぜこういうことを申し上げるかというと、実は1年半くらい前から、私たちは若手で政策提言をしてきました。

小泉進次郎、小林史明、村井英樹、ここを中心にやってきたんですが。そのときに定義したのは、戦後復興の大ベンチャーが第一創業期で、素晴らしく成功をした日本の創業モデルだとするならば、この国はまさに2020年以降、第二創業期に入ってくる。

第二創業期のバズワードは「人生100年時代」

小林:この変化は何かというと、1つは人口減少。2つ目は人生100年時代の到来。3つ目がテクノロジーの圧倒的な進化。このように定義をしました。ちなみに今日、私のNTT時代の先輩の世耕さんが、「コネクテッドインダストリーズ」という言葉はバズワードだ、とおっしゃった。

一方で、「人生100年」もバズワードですね。これを言い出したのは私や小泉進次郎さんなんです。政治が言ってバズワードになって、今変わって来た。これは何が大きく変化をするかというと、人生の生き方の中で、「20:40:20」というスパンだったと思うんです。

20年学んで、40年働いて、20年老後。でも、これにプラス20年オンしてきたときには、私はこう考えています。石川善樹くんという研究者が言ってるんですけど「25年ごとに人生を区切って春夏秋冬。どこにピークを持ってくるか?」と。

スポーツ選手だったら25歳、「春」がピーク。でも、もしかしたらサラリーマンや社会人だったら50歳がピーク、「秋」ぐらいかもしれない。このなかでどうしていくか? っていうことなんですね。

そんななかで、なぜ働き方改革か? というと。やっぱり人口が減る。これが暗い時代だ、となってしまうと、より一層、私たち若い世代は結婚や子育てを諦めてしまいます。ちなみに私も34歳独身です。あとで働き方改革と未来の話は小室さんから突っ込んでいただくとして。

今の若い人たちについて。そうですね……じゃあどう明るくするか? といったときに、社会の働くルールを変えて、人が減るからこそ今までチャンスがなかった人にチャンスがいく。今いる人たちの価値が高まっていく。こういう社会像を示していくことが、「将来安心だ」と。

「人口が減っても大丈夫だ」っていうこの前向きの楽観を生み出して、そして2090年ぐらい。先の話になりますが、人口をもう1回増やせる。こういう状況をつくるということが、この働き方改革と、少子化対策やいろんな政策パッケージ。総務省として出しているなら「テレワーク」とか。こういうことだと思っているんです。

ですから、個別の政策ではなくて、どんな社会を目指していくのか? ということを共有していくことが重要で。それは危機感とともに、前向きな楽観を共有することが重要なんじゃないかな? と思っております。

2100年の人口は現在の4割に

小室:ありがとうございます。「前向きな楽観」のあとに、私からは少しシビアな話も追加しておきたいと思います。前向きに変えていかなきゃという問題意識のもとになんですけれども。スライドの方を見ていただければと思います。

なんで働き方改革をやるのかっていうのを、6枚目くらいですね。昨年、総理にお時間をいただいてお話をしたときに、総理が1番注目されたのがこのスライドだったんですが。

これは2014年に増田寛也さんが、「選択する未来」委員会で作られたグラフです。黒い点線の方が、今のままいった場合の日本の人口です。

2100年には現在の4割になります。その4割ぐらいの人口の国はほかにいくらでもあるので大した問題ではないんですが、そのうちの41パーセントが高齢者というところが最大の問題です。これ以外に年少人口、子どもがいますから、それらをすべて足すと7割近い。それを3割の労働力人口で支えるんですね。

その状態は、ほぼ財政破綻なんです。なので客観的に見ると、今は財政破綻に向かってフリーフォールを落ちているところなんです。この黒い点線は今の出生率の場合なんですね。

一方で、出生率が今すぐ2.07程度になったとすると……というのが上のグレーのラインです。2100年に現在のだいたい6〜7割程度で下げ止まって、そして高齢化率が27パーセントぐらいで上げ止まるんですね。こうなるとかなり成熟したいいラインをずっと走ることができて、上に行くか下に行くかで、もう雲泥の違いなんです。

財政破綻をふせぐタイムリミットは2年

小室:それで、そのことを決められるのが、実はあとたった2年、というのが1つのタイムリミットです。次のスライドも見ていただきたいんですけれども。

日本は第一次ベビーブームがあって、第二次ベビーブームがあって、第三次がありませんでしたので、第二次ベビーブームの女性が出産期を終えたら、母体数が激減するんです。

今、どこにいるかって言うと、日本の女性の出産点をプロットすると、44歳が0.0……何パーセント。事実上ほとんどゼロに近くなるんです。今、団塊ジュニア女性は42〜43歳。私も団塊ジュニア、42歳なんですけれども。

ということは、そのボリュームゾーンが出産期を一斉に終えてしまったら、どんなに出生率が上がったって、出産数が増えないですから。絶対数がいなければ支える側がいなくなりますので、年金の払い手がぜんぜんいなくなっちゃうということなんです。

さらに今、この女性たちも働き手として使わなきゃいけないですから、「働きながら、子育てができる!」という気持ちを、この1〜2年以内に。「そういう社会になった!」という実感のもとに駆け込み出産をしてくれると、だいぶ遅れてきた第三次ベビーブームが起こりうるんです。

実際に私たちがコンサルした企業さんでは、だいたい3年ぐらいコンサルすると、出産数が1.8倍とかに増えてくるっていうのがみえていて。これをいかに作れるかによって、2100年の社会から「あのときの政権がちゃんと判断しなかったから今があるんだよ」って、ずっと責められるんですよ! というお話を。今、グッとやらなきゃいけない理由というのをお話しました。

小林:ここでぜひ気付いていただきたいのは、2090年。1個前のページで、人口が下げ止まる……もう1個前か。

人口が下げ止まるのは2090年なんですよね。そこまでは、やっぱり人が減るっていう時代をみなさん、企業も生きていくということを共有して。どういうふうに全員参加型にするか? テクノロジーをいれてどんどん省力化していくか? そんななかで値段を上げていくか? こういうことを一緒にやらなきゃいかん、っていうことと。

もう1つは、私たちも「消費税の使い道を変える!」と言って「国難だ!」って言ってやりました。その前に子ども保険というのを提案して、ものすごくボコボコに怒られて評判が悪かったですが。それは「国が、社会全体で子育てを支えるんだ」という大きなメッセージを届けたかったんですね。

いつまでも子育ては家族の責任って言ってたら、これはもう、子どもは生まれないです。ですから、社会全体っていうことは企業もそうで。なので規制緩和をして、企業型保育所をどんどんやっていただきたい、っていうことをやってきました。

規制の隙間で運営する「コトフィス」

小林:三菱さん……千葉さんところも何か新しいチャレンジをされるって言ってましたが。そのように企業も子育てを支えるというふうに、どんどん展開してもらったらなって思っているんです。

小室:千葉さん、もしよかったら、ぜひそのお話を。

千葉太氏(以下、千葉):よろしいですか?

小室:はい。

千葉:あまりよくない言い方になってしまうかもしれないですけど。今の保育所の問題について「規制緩和、規制緩和」と言いながら、やっぱりまだまだ規制が多すぎて。「本当にこれで少子化対策できるのかな?」って思っているのが正直なところです。

テナントさんといろんな話をしても、やっぱり一番出てくるのは子育てと「保育施設がないんだ」という、みなさん一緒の悩みなんですね。ビル側としては、そういったものを用意することによって、テナントさんがそのビルに魅力を感じてくれる。場合によっては少し高いお家賃も払ってくれるわけですから。

たとえ、安いお家賃であっても、そういう施設を設けるっていうことに対してはものすごく前向きなんです。ですから、このビルで保育施設を作らないか? ここでできないか? いろいろ検討するんですけど。必ずだめになっちゃうのが建築基準法や消防法、東京都のいろんな運営基準があって。

既存不適格是正っていうんですけど。それをやるためにはビル全体を改修して。場合によっては何十億円かけなきゃいけない。この保育所を1個作るのに、何十億円かけられないだろう、ということで全部断念してしまうんですよ。そんな実態がございますので、我々はその合間をぬって、隙間みたいなところで今「コトフィス」と言って、「子どもと一緒にオフィス」。

お母さんが近くにいて、こういうことをやればある程度認めますよ、みたいな基準がありまして。そういういろんな調整をしながら、消防署さんにもご理解いただきながら、なんとかそれをやっていこうとしてるんですけど、そういうことではなくて、本当に、普通に保育所がつくれるようになっていくと、もっとこういう問題対策ができるんじゃないかなと思っていますので、ぜひよろしくお願いします(小林氏に向かって)。

小林:総務省が消防署を所管していますので、今日宿題をいただいたんですね(笑)。あの千葉さんと一緒にやりたいと思います。あの、同じフロアにお母さんがいて、子どもが隣の部屋でガラス張りで見えている場合は、これは保育じゃないんですね。

だから、保育の基準に満たさなくてもできちゃうんです。ですから、こういう抜け道というか隙間があって、やれることっていうのもけっこうあったりします。まあ本当は隙間っていうよりは壁自体がなくなることがいいと思うので、それはがんばりたいと思いますが。ぜひどんどん前向きに一緒にやりたいと思います。

小室:ありがとうございます。今のお話を聞いて本当に感じるのは、三菱地所プロパティマネージメントさんが、数年前まで「コトフィス」の発想が出る会社だったか? ってことなんですね。そういうかたちで、単にテナントに入ってもらうだけではなくて、こういう1つの投資をしたらこれだけの付加価値がでるのでは? というところで、子育てと絡めた発想が出てくる会社になった。

これ自体が、おそらく働き方改革をやったことによる発想のイノベーションと非常につながっているなと。コンサルに入っていて、風土をよく存じ上げているので「変わったなあ」と感じています。