働き方や事業化のプロセス、どう変わるか

記者4:東洋経済のナガタキと申します。お2人に1つずつお願いします。

まず、宮坂さんなんですけれども、Zコーポレーションについて、方向性やご興味をお持ちの分野など、あるいはその分野をどうやって探していかれるかとか、どんな体制で事業化を目指していかれるかとか、そのあたりを教えていただきたいのと。

もう1つ川邊さんに、若返りというのが今回の1つのポイントとなっているんですけれども。ネット業界で周りを見渡すと、生まれた時からインターネットがあるような世代が起業していたり、スピード感だったり新しいものに目をつけるスピードっていうのはすごく目を見張るものがあるなと思っております。

そういうなかで、ライバル関係をどう意識されているかとか、ヤフーの体制がどう変わって、実質的には働き方だったり、事業化のプロセスがどんなふうに変わっていかれるかをもう少し具体的に教えてください。

「Z」ではヤフーでやれないことを

宮坂学氏(以下、宮坂):まず、Zコーポレーションでどういうことをやるのかでありますが、ちょっと繰り返しになっちゃいますけど、まずは新しい体制、トランジションがやっぱり優先だと思ってるので。

今、頭と時間をそちらに精一杯使ってるんで、具体的に詳細のところまではまだみなさんにちゃんと言うほど固まっていないというのが現状です。そこはちょっと、ご理解いただきたいと思います。

ただ1つ、「Z」というのは、「Yahoo!」の次、「Y」の次ということで、Zという名前にしているんですけど、やはりヤフーでやれないこと、やらなかったことを探していくことが必要ではないかなと思ってます。

最近、経営の本とか、聞きかじりの知識ですけど、イノベーションを起こすには、「知」を深化させていく、深みを持たせていくっていうことと、それから「知」を探索していく。まったく新しい探索をしていくこと、2つ大事だということがあって、「なるほど、その通りだな」と思いました。

やはりどうしても事業を回して成長させていこうと思うと、探索っていうのは探索コストがかかって、探索するわりにはものにならないことも多いので、どうしても今ある事業を掘り下げて、知の深化のほうにいきやすいんですけど。

やはり知の探索がないと未来が作れないということで、漠然としたコンセプトになりますけど、知の探索をやるような、冒険をやるようなことをやってみたいなと思っています。

なので、ヤフー自身もこれから既存事業をデータを使ってもっとイノベーションを起こしていきますけど、それはヤフーでやればいいだけですから、今のヤフーのドメインに当てはまらないようなことで、非常におもしろそうなものが世界に起きてると思うので、そういったものをまずよく考えてやってみたいなと思っています。

ベンチャーとテックジャイアントの両ばさみ

川邊健太郎氏(以下、川邊):2点目のほうですけれども、記者さんもおっしゃられてましたけれども、客観的にヤフージャパンを見ると、片方は、気鋭の若手ベンチャーから突き上げられ、片方でいうと、テックジャイアントと言われるものすごく大きなグローバル企業との競争が激しくなり、両ばさみの状態になっていると思います。

これに対して、我々がどう戦っていくのかというのは、経営上の大きな課題であると認識をしております。

具体的にはまずベンチャーに対しては、やはり大きなインターネット企業ならではの戦い方をしていくべきだと私は思っております。それは現在のユーザーの多さであり、組織力であり、資金力であると。

そうではないスピードですとか、若い力ですとか、そういったものでベンチャーはやってくると思いますけれども、我々はそういった大きなインターネット企業ならではの力を活用して戦っていきます。

未来は予測するものから作っていくもの

川邊:一方で、テックジャイアントは、我々よりもさらに大きなインターネット企業ですから、これに対してどう対抗するかは、大変悩ましいところではありますけれども、やはりこれは、先ほどから申し上げている「データの力」というものが重要になってくると考えています。

確かにテックジャイアントは、世界的に大きな企業で世界中に根を張っていると思いますけれども。こと日本に関しては、おそらくヤフージャパンは日本に住まれる方がもっとも使ってくださっているサービスであり、もっとも日本に住んでいる方についてデータを持っている会社ですので、これを利活用することによって、そういった大きなテックジャイアントにも競り勝っていくというようなことをこの新体制で実現していきたいと思っております。

また働き方改革ですけれども、これはこの6年の宮坂体制でも数多くのことを行い、成果が出た1つの分野であると思っております。これは継続をしていきたいと思います。

なぜならば、やはり今、未来というものは予測するものから作っていくものに変わってきているんだと強く認識しています。そしてその未来を作っているのは、意志ある個人が、IT技術を活用して、本当に作っていっているんだなというのを体感しております。

そうすると、未来を作れる意志ある個人に、いかにこの大組織であるヤフーの中に入ってもらって、彼らにのびのびと未来をいかに作ってもらうかが、会社としても大変重要なテーマとなってきますので、そういった働き方改革というのは、ますます柔軟に、意志ある個人の人たちがもっとも働きやすい環境に変えていきたいなというように考えております。

社長の一番大きな仕事の1つは、社長を作ること

記者5:週刊ダイヤモンドのオオヤと申します。宮坂さんに質問です。今回の社長交代について、いつ頃から考えて、どのように川邊さんに伝えたのか。また、今回の社長交代について、ソフトバンクグループ、とくに孫(正義)さんとどのようなやりとりをしたのか教えてください。

あと川邊さんに1点質問なんですけれども、データの会社になったときの、どうやってデータをお金に変えていくのかというのが、今までと比べてどう収益が増えるのかよく見えないので、そこについてもう少し具体的に教えていただければ幸いです。

宮坂:いつからということでいうと、実は社長になった時から、ある経営者の人に「一番大きな仕事の1つは、社長を作ることだよ」というふうに言われていまして、「確かにそうかもしれないな」と思っていました。

なので、その時から常に、私は創業社長ではありませんから、実質2代目社長になるんですけど、やっぱり3代目、4代目、5代目、6代目に円滑に社長人材を作っていく仕組みまで、というとちょっと大げさですけど。そういうことができるような組織・文化にすることが1つ仕事ではないかなと思っていました。

そういう意味でいうと、意識としては、2012年ぐらいからちゃんと計画的にやらないといけないなというふうには思っていました。

データの会社にならないとダメ

宮坂:具体的にはやっぱり2年ぐらい前ぐらいから、スマートフォンのシフトでいうと、数字の面で見ればスマホのほうが比率がトラフィックとか売上も増えてきた時期もありましたし、社員にも「データの会社にならないとダメだよね」という話を始めていました。

これまでは彼はメディアのバックボーンが非常に長いんですよね。非常に経験としてあるんですけど、ECとか決済とかやったことがなかったので、そのあたりから川邊に、「EC・決済をちゃんと1回やってみたらどうだ?」ということで、CEOをやりながらで負荷はけっこうかけたんだと思うんですけど、やってもらったりしていて。

そういったかたちで、明確にいつからということではないんですけど、初期の頃からいつも頭には置いてやっていたつもりです。

最終的には、11月に食事とかをしている時にそんな話にもちょっとなって。最後は、もちろんこれは取締役会で話し合うことですから、今、名前の出た取締役のソフトバンクの孫さんを含め、アメリカ側のAltabaの取締役も含めてよく話をして、最後に候補者の中から彼に絞り込んだというのがプロセスになります。

データが富に変換されていく時代が来るのでは

川邊:2点目のご質問ですけれども、おっしゃるとおり、データの力を最終的には富に変えていくというのがやらなければいけないことだと認識をしています。それをどうやってやるのかというのは、まさにこれからの課題であるわけですけれども、既存事業と新規事業でそれぞれあると考えています。

既存事業に関していうと、先ほども申し上げたとおり、今ヤフーが最終的にお金に変えていること、代表例でいいますと、広告事業、もう1つはEコマース事業、そしてこれからはFinTech事業だと思いますけれども、これの効果がデータの力で高くなったり、効率が上がったりするということで、全面的に効いてくるということになります。

そしてもう1つ、これは新規事業ですから、先ほどのZコーポレーションも含め、インターネットというよりかは、データドリブンそのものがビジネスになっていくというような新しい事業が生まれてくると思いますけれども。

例えば、先ほども申し上げたとおり、この20年でいうと、インターネットを取り入れることによって事業を強化していくことをしない会社はなかったわけで、この20年、インターネットを取り入れることについて莫大なソリューションのビジネスが生まれたわけです。

ここからおそらく10年20年は、今度、そこでたまったデータを利活用することによって、それぞれ各社の事業の効果を上げたり、効率を上げたりすることにおける、そういったデータソリューションのビジネスが大きくなっていくと思いますので。

例えばでいうと、Yahoo! JAPANは、そういうところにもデータの利活用を心得ていたり、あるいは日本に住む方のいろいろな行動データを最も持っている会社として、各企業さんに提供していくことができるのではないかなと考えておりますので、そういったところでおそらくデータが富に変換されていくというようなことが起きるのではないかと考えております。

川邊氏の魅力は突破力

記者6:読売新聞のタカイチと申します。まず宮坂さんに1点おうかがいしたいんですけれども、複数の候補がいらっしゃったなかで、川邊さんというのはどういったところを評価されて、(社長を)任されることに決められたのかという、理由を教えてください。

また、川邊さんについては、ヤフーの今の競争環境をどのように分析されていらっしゃって、そういったなかで、ご自身のこれまでの経験もふまえて、どのようにご自身の力を発揮できると考えているかを教えてください。

宮坂:1点私のほうからですけど、彼とはけっこう付き合いが長くて、入社も……長いもんね? 

川邊:もう18年ですね。

宮坂:18年になるので。僕は(入社して)21年になるんですけど。まあそういった意味で付き合いが長い、気心が知れているということがあります。仕事としても、2007年から直接僕の部署に異動してきてもらって、僕が声をかけて移ってもらったんですね。「お前、ちょっとこっちこいよ」という感じで移って、それから10年。

川邊:2007年に宮坂さんの下に行ったので、ちょうど10年ですね。

宮坂:まあ10年以上、いろんなことを相当一緒にやってきて、気心も知れているし、もちろん喧嘩もよくやっていたんですけど(笑)、彼だったらと。

一番の強みにあるのは、突破力みたいなところじゃないかなと思いますね。多少強引にでも物事をグッと進める力がすごくて、今のヤフーにはそれがすごく重要なんではないかなと思って、いろいろな候補者の強みを見ると、今のヤフー(の社長)には彼がいいのではないかと思いました。

やはり根源的にインターネットが大好き

宮坂:もう1つ、事業でいうと、今のヤフーの売上はメディアの広告の売上とeコマースの売上でほとんど説明がつきます。彼は両方の責任者としてやっているということもありますので。

そういったキャリアのバランスのよさとか、あとはCOOとしてずっと支えてくれてましたので、そういった連続性も含めていいんじゃないのかなということで、最終的には川邊を指名したということであります。

川邊:2点目として、若干同じことの繰り返しにはなるとは思いますけれども、競合環境は先ほどご説明したとおりです。新進気鋭の若手ベンチャーからは突き上げられ、テックジャイアントはますます強くなり、そういう経営環境のなかでやっていくことになると思っております。

一方で、自分や自分のチームの強みは、そういう競合環境を何とかする力というよりかは、やはり根源的にインターネットが大好きであり、インターネットが社会を変える力を信じきっていて、であれば「こういう未来をつくっていこう」というエネルギーに溢れているということが、おそらく最大の強みになっていくと思っております。

インターネットあるいはデータドリブン、こういったことに対しての情熱や理解力を武器に、すでに孫さん、井上(雅博)さん、宮坂さんがつくってくださった莫大なユーザーベースと資金力等を活用して、それを強みにしていきたいなと強く思っております。

思い切りがいいエピソードの枚挙にいとまがない

記者7:すみません、今のお話の流れで、宮坂さんが(川邊氏の強みとして)「突破力」というところをあげられましたけれども、とくに具体的に、こういった場面で川邊さんの突破力を感じたという、何かエピソードがあれば教えてください。

宮坂:いっぱいあるんですけど、最近だったら、昨年紀尾井町のオフィスに引っ越しまして、そのときに「どういうオフィスをつくろうか」という話がありました。僕はオフィスというのは長いこと使うわけですから、やはりこれからの若い人につくってもらうのがいいんじゃないかと思って、川邊くんをプロジェクトリーダーにして、「自由にデザインしていいよ」という丸ブリ、全部お願いしたんですよね。

唯一(お願いしたのは)「人が混じり合うようなオフィスにしてほしい」と。どうしても、半径5メートルだけで生きていくオフィスもやっぱりありますので、「もっと人が出会えるようなオフィスにしてほしい」とお願いしていたんですけど、そうしたら彼は「フリーアドレスを全部に入れよう」という話をしてきたんですよね。

僕だったらたぶん、半分くらいはフリーアドレスにするんですけど、「やる以上は全部やったほうがいい」ということとかを見ると、思い切りがいい、突破力には枚挙にいとまがないかなと思います。そういった思い切りというのが非常に彼の持ち味だと思うし、今のヤフーには求められている点ではないかなと思っています。