Alipayとアマゾン銀行は、かなり大きなプレッシャー

神田潤一氏(以下、神田):(瀧氏の話に)すっかり聞き惚れていました(笑)。

瀧俊雄氏(以下、瀧):やめてください(笑)。

:それでは、上(具体化しつつあるキーワード)はずらっとしゃべって、下(来るかもしれないキーワード)は、おやつみたいに見ていただければと思うんですけれども(笑)。まず、「来年(2018年)のキーワードは、なんだろうね?」ということで……堅そうなテーマと、ちょっとスペキュレイティブなテーマに分けています。

上(具体化しつつあるキーワード)は、例えば「横断的規制」の話であったり、「データポータビリティ」のお話であったり、来年の半ばから「キャッシュアウト」が可能になりますとか。ほかにも、今年(2017年)の8月に報道されて、たぶん一番みんなが動揺したものは、「Alipay」が来年、日本で使えるようになるということ。(具体化しつつあるキーワードに挙げているものは)だいたい、もうすでになんらかの予兆が出ているものかな? と思っています。

下(来るかもしれないキーワード)は、「Insurtech」とか「スマートスピーカー」とかです。「本当に(2018年に)きたら、すごく流行るよね」という、爆弾候補を入れている感じです。神田さん、どうしましょう? 気になるものとか、足りないものとか(ありますか)?

神田:「Alipay」と「アマゾン銀行」は来年、潜在的なプレッシャーとしてはかなり大きいと思うんですよ。それに、例えば(2017年の金融機関の変化として起こった)JコインやJ.Scoreとかは、Alipayが来年進出するということに触発されて、出てきた動きというところがあります。我々としてもこのあたりをすごく意識して、来年はビジネスを作っていかなきゃならないなと思います。そういう意味では(Alipayとアマゾン銀行は)日本のFintechにとって、すごく大きなプレッシャーになるんじゃないかなと思っています。

:最初(話の前半)で「外圧」という表現をしましたけど……(例えば)やはり外から黒船が来ると、(国内では)いろんな動きが出ますよね。当初は攘夷をやろうとしていても、意外と(外国の)意図を酌むこともあるわけです。やはり、「Alipay」ってパワーワードですよね。いろいろな省庁さんとかにお伺いしても、基本的にはどうしても、「(Alipayが入ってきたとして)日本の決済圏をどうするんだ?」という。

たまに、国防的な観点やデータの利活用の観点とか、いろいろな観点から議論されることが多いのですが。やはりこの(Alipayという)ワードを出すと、みんながちゃんと、前に進むような議論になりますよね。

神田:やはり、金融庁や経済産業省と話していたときも……というか、私はこの前まで(金融庁に)いましたけれど(笑)。

(会場笑)

神田:そのとき(の議論で)も、やはり最終的には、日本のユーザーのメリットがあればいいので……Alipayでもアマゾン銀行でもいいんだけれども。ただ、そうは言っても、やはり日本の金融システムのプレイヤーが、彼ら(Alipay)に対抗していくような動きをきちんと見せてほしいよね。

あるいは、やはりオールジャパンが勝ってほしいところはあるよねという。潜在的な話をしながら、「日本の金融システムへ、金融サービスをどうデザインしていこうか?」みたいな話はしていたので。Alipayやアマゾン銀行ですばらしい世界ができるのならいいけれども……ただ、そればかり(がいいということ)でもないよねという話もあります。やはり、安心できる国内プレイヤーに、しっかりプレイしてほしいなという分野です。

差別化に向け、主体的に動く金融機関が現れる?

:(この資料に)独断で「Nudge」を入れています。Nudgeって経済テーマが好きな方は追っている(言葉で)、今年の経済学賞のリチャード・セイラーが、キャス・サンスティーンと書いた本のタイトルなんですけど。要は、社食の入口に「今日は、野菜コースとお魚コースがあります」と書いておいて、実はその下に「肉も選べます」というト書きがあるとします。その表記と、「肉と魚(が選べます)」の表記を並べた場合で、肉を食べる人(の数)が変わるということです。

自由な意思決定に基づくんだけど、最初に見せるものによって、人間はちょっと誘導を受けるというタイプの意思決定を言います。マネーフォワードを経営していてよく思うのは、「当社には今、550万人の利用者がいます」という表現をするのですが、非常に真面目な層を相手にできている意識があります。

それで「(日本の人口の)残りの1億1,500万人を、どうやって相手にできるか?」というと、あまりお金の管理に興味はないけれど、結果的には良くなっていたいという層の人たち。そういう層に向けて、もっとサービスが出てくるべきではないかという問題意識があります。

そういう行政の考え方が、経済学賞(を受けた人の言葉)って、なんだかんだで翌2年間くらいは、いろいろな効果を持つことがあります。投資や貯蓄そのものを促進するというテーマにおいて、もうちょっとそういうこと(結果的に経済状況がよくなること)が、制度上可能にならないかな? という期待を持って、(「Nudge」という言葉を)ここに入れています。

神田:私は、ちょっとここ(Nudge)から離れますけれど……。

:どうぞ。

神田:来年は、地銀さんとか信金・信組さんの動きが、注目されるのではないかなと思っています。先ほどの(瀧氏の話で)オープンバンクAPIの議論がありました。だから、オープンバンクAPIとして制度に対応して、どんどん彼らがやらなければならない部分もあります。ただ来年は、そこを離れて、「もう自主的に取り組んでいかなきゃならない」と言って、APIにとらわれずに、どんどん先に進む人たちが出てくるのではないかなと思います。

114行から、「APIを2年後にやります」というアンケート(の回答)が出ていますけれども。当然それは、「制度への対応として実行する」という人たちです。その中で、「彼らとの差別化をするためには、自分たちがこの地域でなにをやらなければならないのか?」を、真剣に考えはじめる銀行さんが(2017年で)もうすでに、でてきているのではないかなと思っています。

来年は、そういう動きがもっと出てくるんじゃないかな? 例えば、「高齢者に向けて、銀行はなにができるのか?」「中小企業の生産性向上に向けて、なにができるのか?」とか。「地方の課題を、自治体と一緒に(どう解決しよう)」「我々(マネーフォワード)のようなFintech企業と一緒に、どう解決しよう」と、主体的に動き始める金融機関さんが出てくると思います。あと、系統金融機関と言われる人たちの動きも、おもしろいんじゃないかなと思っていますし、私はすごく期待しています。

:神田さんが(いろいろなところを)まわる中で、個人向け業務と事業者向け業務では、どちらが「おもしろそう」「変化が早そう」とかって、ありますか?

神田:金融機関さんが自分たちのビジネスとして、一番取り組みたいと思っているのは、やはり法人向けですよね。とくに、ファイナンスとかビジネスマッチングのかたちになると、自分たちのビジネスにもなるし、地域の経済や企業のためにもなるということで。そこがすごく、金融機関さんとしては刺さると思います。

一方で個人向けも、やはりきちんとユーザー・預金者を繋ぎとめておきたい。このFintechの時代になると、(金融機関は)ATMや店舗との近さなどでは選ばれなくて、コンテンツ・サービスの内容で選ばれるようになってくる。そうすると、「預金者が、どんどんメガバンクに奪われるんじゃないか?」という危機感を持っている人たちがいます。

そういう金融機関さんは、やはりリテールのユーザーコンテンツを充実させたいと思っている人もいるので、(個人向け業務か事業者向け業務かというと)どちらか一方ですよね。自分たちのビジネスや地域経済を考えると法人だし、預金者の繋ぎとめや獲得を考えるとリテールという感じです。

“クレジットカードは怖くない”世界へ

:下のスペキュレイティブなリスト(来るかもしれないキーワード)にいくと、「Insurtech」は、例えばjustInCaseさんのような、新しい保険向けベンチャーが、やや出始めています。あと、少額短期保険という枠組みがあるのですが、これはたしか、保険料総額で50億円というキャップがあります。あまり規模を拡大できない制約があると思っています。来年は、そういう制度に向けた話をもう少し、盛り上げられるといいのかなと思います。

「デビットカード」って、この1年間で使ったことある方は、どれぐらいいますか? Fintech調査以外の理由で(笑)。

(会場笑)

:(会場を見渡して)本当は、この中の半分ぐらいの人の手が挙がる世界にしたいと思っています。これは、上から3つ目の「カードコントロール」と関連する話なのですけれど。

要は日本人って、クレジットカードを使うのが、やはり怖いんですよね。「(現金として手元に)持っていないお金を使うのは、これほど怖いことなんだ」という思いがあるんです。でもデビットカードだったら、持っている以上(カードを使用した際、即時的に引き落とされるかたちでしか)使えないよねというところがあります。「カードコントロール」とは、アプリから「今しかカードを使えないようにしてやる」という、自分のカードに対して制約をかけられる機能のことです。

これは、技術的な素地はもともと存在しています。ただ日本だと、(例えば)VISAさんとかMasterCardさんの2社が、それにがんばって対応しても、多くの取引が別のネットワークで行われてしまうため、やりづらいところです。カードコントロールは、例えば「このクレジットカードは、日本以外では使えないようにする」と、逐一アプリなどで設定できるものになっています。

これが可能になると、クレジットカードは、もっと怖くなくなるはずなんですよ。やはり「怖くない」って、すごく重要なことだなと思います。最近キャッシュレスの番組とかに出ていると、とくによく思います。

:怖さを取り除きながら……(スライドを見て)その下に「NFC2.0」とあえて書いていますけど。やはりQRコードより、本当はNFC(非接触通信)で決済したいはずなんですよね。正拳突き一発で倒せるなら、それがいいはずだと(笑)。

なので、「2.0」とあえて書いているのは、Edyやnanacoなどの(カード)リーダーって、それ(対応するカード)しか読み取れないものが多いのですが、あれを全部読み取れるタイプにしてあげることが、すごく重要なのかなと思っています。

高齢者向けサービスに役立てたい「スマートパシリ」

:すみません、(キーワードを)全部読み上げると時間がかかってしまうので、最後にもう1個だけ。「高齢者向けサービス」を、もう流行らせる覚悟でやろうと思っています。

なぜかというと、これ(「高齢者向けサービス」)は、例えば介護(される状態)に近い方々のお金や、もう老齢の親のお金を、子どもと一緒に管理するタイプのサービスを指しています。あとは、認知症になってしまった方々の場合、どういうお金のケアができるかとか。そういうことって、銀行のAPIと組み合わせると(解決できる)。例えば、(実際に)お金を動かすことはできなくても、見守ることは、APIでできるんですよ。

今、いろいろな銀行さんのインターネットバンキング利用規約って、(ユーザーが)認知症になると、後見人はインターネットバンキングを使えなくなるんです。それって、お金を(ユーザーの許可なしで)後見人が動かせるから、という理由があるんですよ。でも、APIの合鍵機能で(情報の)参照権限だけを付したものであれば、後見人が安全に、ユーザーさんのデータにアクセスできるはずなんです。

なので、そういうことができると、金融機関の役割って、もっと「人」(として)の役割が戻ってくると思います。また、これらの悩みを解決できるなら、そもそも地方から都心にお金を流そうと思わなくなるはずですから、そういうことをやりたいなと思っています。

神田:私も、高齢者向けサービスはすごく大事だと思っています。今は「(高齢者は)スマホが使えないよね」みたいなところで、止まっていますけれども。例えば、「なんとか」×「なんとか」で、おもしろいものができるんじゃないかと思います。

例えば、「銀行×スマートスピーカー×Uber×高齢者向けサービス」とか。これだと、おばあちゃんがスマートスピーカーに向かって「今日、トイレットペーパーがなくなったので……あと牛乳と……あと、お金を3万円持ってきてくれないかな、〇〇銀行さん?」などと話しかける(笑)。

(会場笑)

神田:すると、その「〇〇銀行さん」が、そのあたりからお金を3万円引き出して、トイレットペーパーと牛乳を買って、Uberの誰かに預けて(おばあちゃんのところに)持って行ってもらうとか。

:「スマートパシリ」ですね(笑)。

(会場笑)

:いいですよね、そういうことですよね。

神田:そういうビジネスなら、(例えば)「(高齢者が)スマホを使えない」という問題を、「スマートスピーカーでお話しできちゃう」みたいなことで解決できる発想が、これから出てくるんじゃないかな? あるいは(そういう発想が)大事なんじゃないかな? と思って、個人的にはすごく期待しています。

:介護の現場とかで、なぜか若い大学生が大活躍するケースがあります。それは基本的に、(若い人たちは)やはりすごく小回りがきいて、AIみたいに(自分で)考えて動いてくれるということなんですよ。たぶんそれは、(少子高齢化で)若い人が少なくなる以上は、自動化された「なにか」になっていくはずです。

いやあ、もうおっしゃったとおりで……組み合わせることで、実はいろいろなことが、もっと楽にできるはずなんですよね。

人材の流動化に期待

神田:あと、最後に……。

:どうぞ。

神田:ごく個人的な予言というか、期待なんですけれども。人材が流動化していくんじゃないかな? あるいは、流動化していってほしいなと思います。私も、日銀・金融庁を辞めてこちらの世界に飛び込みましたけれど。

銀行さんが「(人員を)何万人削減する」「何店舗削減する」という話がどんどん出ています。優秀な人材が金融機関の中にまだまだたくさんいる中で、ああいう(人員・店舗縮小の)ニュースを見る。あるいは、こっち(Fintech)の世界の発展を見ると、「自分も、外に出てやってみようかな」という人が、増えていくんじゃないかなと思います。

実際にそういう人たちが、Fintechの人たちと一緒になって(活動して)いくと、ちょっと(流れが)停滞していると思われていた新しいサービス・新しい起業家が、どんどん出てくるような流れに、向かっていくんじゃないかなと思います。来年は、そういう動きが少し強まっていく。あるいは、私がそういう動きを強める役割を果たせたら、うれしいなと思っているところです。ごく個人的な話ですが。

:「来年もしっかり働く」という声明をいただきまして、ありがとうございます(笑)。

神田:がんばります(笑)。