世界初のギネス認定「変なホテル」

岩爪猛氏:今日は、少し大げさなタイトルになっていますが、世界初のギネス認定ホテルということで、長崎県のハウステンボスに2016年3月、「変なホテル」というロボットホテルがグランドオープンいたしました。

私は、開業準備室の責任者でした。当然、ロボットホテルの話もありますが、すでに多くのメディアで話されているので、みなさんにこの場所でご紹介するまでもないでしょう。本日は、私自身が世の中に伝えようとしていることをお話をさせて下さい。

ハウステンボスは2017年3月で25周年を迎えることができました。ハウステンボス株式会社のグループでハウステンボス技術センターという会社があります。主に、建築やIoT、ロボット、テクノロジー、テクニカルの分野を先導している会社です。テクノロジーとテクニカルはあえて分けています。テクニカルは、職人技、人の手でなにかを仕上げることを意味します。ですから、あえて分けさせていただきます。

そのハウステンボス技術センターで、IoTの導入先導や、サービス業界においてのロボット、自動化の導入コンサルティングを私が担当しています。ハウステンボスでも「変なホテル」でもなく、ハウステンボス技術センターのコンサルタントとしてお話を聞いていただければと思います。

文系が造ったロボットホテル

私はIoTやロボットなど、いろいろな仕事をしていますが正直、理系でもなく、根っからの文系です。

ホテルを開業させるときも、「ロボットホテルを開業させる」というテーマに対して、理詰めで何かを計算して造ったのではなく、あくまでも直感的に、自分が「こうだったら便利じゃないか」という考えで造りました。専門家でもありませんし、みなさんのほうが逆に専門家かもしれないと思います。

「変なホテル」は、建築コストや、ロボットだけではなくて、いかに効率的で有効的なホテルを建てるかということで、さまざまな手法を取り入れました。

多難な道のりを経て2016年3月、グランドオープンし、現在にいたります。せっかくですので、まずはこちらの映像をご覧いただいて、すでにお越し下さった方もいるかもしれませんが、どんなホテルか映像をご覧いただきたいと思います。

(ホテルの紹介映像が流れる)

未来に前向きになること

補足でお話ししますと、東京大学生産技術研究所の建築チームや鹿島建設様のみなさまに設計を依頼して建てたホテルになります。宿泊もすごく心地の良いホテルです。ぜひ、ご宿泊ください。よろしくお願いします。

テクノロジーとかIoTに対しての向き合い方ですが、ここからは私の持論です。2013年頃から変なホテルがオープンするまでは、世間のみなさまがあくまでもテクノロジーやIoTに対して、なんらかの希望があったのだと思っています。

それは具体的ではなく「こうなればいいな」「ああなればいいな」「本当にこんな未来がやってくるのかな」という希望でした。それが13年から16年頃だと思います。

そして現在は、実際にIT、IoTやテクノロジーを取り入れて、より便利にしていこうと言う雰囲気になってきました。世間のみなさまが、やっと1歩だけ前向きになった時期と思っています。

これからは「ロボットに任せる時代」になる

その状況で時代が、やっと私自身の考えに追いついてきた。「ロボットでホテルなど運営できるわけがない」と言ましたが実際には問題なくオーペレーションだけでなく収益も上げています。

それでもまだ、みなさんの中には「うーん、ロボットかぁ」という感じを持たれている人がいらっしゃると思います。その昔、「ロボットは人の仕事を奪うんじゃないか?」とすごく言われました。

私は、多くのメディアから多くの取材を受けました。ロボットは人の仕事を奪ってしまうので、「人はいったい何をするんですか?」という質問が大半だったと思います。

人の仕事を奪うなんてとんでもない話で、ご承知のとおり人手不足でまったく人材がいない状況だと思いませんか? 求人で募集しても応募者がいないですよね? 私も、一緒に仕事をしてくれる仲間が欲しいぐらいで、ずっと募集しています。

加えてすごく早いスピードで高齢化が進んでいます。次世代の人間が育つまでに、高度成長期を支えた人たちは、どんどん退職してしまいます。当然、時代も進化し技術も発達していますが、昔からの知識や流れなど非常に役立つことも、次世代に受け継がれていないなかで、どんどん人が減っている状況です。

ですから、人の仕事を奪うなんてとんでもなくて、単純な仕事はロボットに任せる時代になっています。

これから2020年には、東京オリンピックがあります。その先には、1970年を思い出させるような、大阪万博の誘致なんていう動きもあるなかで、いよいよ国や自治体も、ロボット活用に対して前向きになってきたと思います。

今まではロボットと人が融合するなかで「人の仕事を奪う」と誤解されてきた時代だと思いますが、これからは最新のIoT技術やロボットを、より活用し「共存する」社会ができあがります。

人間とロボットが共存するには?

思い出してください。2007年の6月28日に、アメリカでiPhoneの初号機、最初のバージョンが販売されました。今は、当然のようにスマホが身近にあります。iPhoneの販売からたった10年弱でロボットがサービスするホテルが現れました。

ガジェットを持つことでIoTに馴染んだ。その結果、ロボットがサービスするホテルが現れ、注目されたのだと思います。

そして仮想知的労働者が実際にサービスを提供する社会が構築されています。これまでにも日本は、非常にすばらしい工場があります。ファクトリーオートメーションが進み、大量ロボット技術が入っていたと思います。

それが実際に、普段の生活の中にロボットが入り、単純な仕事はロボットに任せる。そして人間はよりクリエイティブな仕事に時間を費やせる時代がやってきました。

AI・人工知能のメカニズム

最近では、ただ単純に最先端技術を入れる、ロボットをなにか代替するというだけではなく、大きな変化が見えてきました。

ここ1、2年で人工知能という言葉がすごく盛んに飛び交うようになりました。今は、人工知能の第3次ブームです。2000年頃が人工知能に対して冬の時代と言われていました。人は見向きもしなかったんです。ところが、今また人工知能にみなさん興味がある。

「なんでかな?」と考えました。iPhoneが発売されてからスマホが手元にあるようになり、人は多くの情報を得るようになりました。それから10年以上経つ中でデータも蓄積されてきた。

人工知能はデータの塊です。百貨店であれば、お客様が欲しい靴を、蓄積されたデータをもとに会員情報とリンクさせて、「こんな靴いかがですか?」「こんな色が似合いますよ」と示します。過去の売買履歴からも、その人々にマッチする商品をおすすめしたりする。そういった多くのデータを活用しているところです。それだけ多くのデータが一気に蓄積されました。

ちなみに、第1次人工知能ブームは1960年代です。その頃のデータ蓄積量は現代の比になりません。ですから、やっと人工知能が使い物になる時代になりました。

伝統文化にITやロボットが進出

そして今、本来であればヒューマンタッチでコミュニケーションをとって、IoTやロボットとまったく無縁のところが、この世界に進出してきたなと見受けられます。

Apple Watchの場合は、このベルトのところがエルメスだったんです。これでも、エルメスという超一流のスーパーブランドがこういった先進の端末に目を向けたと思いました。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、ルイ・ヴィトンのスマートウォッチです。最低価格は30万切るぐらいだったと思います。タンブールという時計は、スイスの腕時計職人が、一つひとつ、ていねいに組み立てています。

ところが、この製品はAndroidを搭載したスマートウォッチです。ルイ・ヴィトンのタンブールホライゾンは、アメリカのシリコンバレーで組み立てているそうです。

伝統や歴史を重んじるような世界にまで、IT、IoTやロボットが進出してきているというのが私の感覚です。

深刻な人員不足

この流れで、私もチャレンジをしています。誰もが知っているクラシックな一流ホテルで今、「変なホテル」で実証的に入れたロボットより、さらに最新の技術を使ったポーターサービスを実現します。

事例です。チェックインに関わる人、フロントに1名。ベル係は2名、お部屋へのご案内係と、荷物運びの係がいます。計3名のスタッフが1組のお客様に対応しています。

チェックインの流れですが、お客様がチェックイン手続きをしてる間に1名の荷物係がお客様の荷物を先に裏動線から客室へ運びます。お客様が説明や手続きなど諸々を終えられた時点で、別の係がお部屋にご案内します。

ここには3名必要です。「じゃあ人件費を1名減らそうか」というご相談がありました。今、開発実証例として、フルサービスのホテルでも十分通用する高品質なポーターロボの導入を予定にしています。

やはり3名もかけていられないです。今は人手不足なので3名も1ゲストにかけている場合じゃない。当然、高級ホテルなので十分なおもてなしをしたいです。「なにかアイデアありませんか?」ということで相談を受けました。

旅行会社での挫折

ここまでは、私も深く考えなかったですが、「こんな現実があるのか」ということで、いろいろ自身も考察をしました。

ホテルを例にあげると、今までの流れであれば、貴重な人材を反復運動的部署へ配属します。当然、接遇マナーも知らないし、ホテルの知識も知らないし、いきなり入社してマネージャーになれるわけでもないです。

現場を知って、一定のルーティンワークをこなして、その中からいろんな想像ができるスタッフだけがマネージャーになって、支配人になっていく。課長になって部長になっていくという流れだったと思います。

残念ながら、昔のやり方はなかなか通用しません。これを反復運動過多損傷的現象と表現しています。仕事が嫌になるみたいです。自分も思い起こせばそうだったんです。いいことばかり思い描いているから、つらいことがすごくストレスになってしまって、「この仕事に向いてないんじゃないかな」と錯覚します。

自分は昔、旅行会社に入社しました。企画も添乗員も営業もやっていました。ハワイに行ったりヨーロッパに行ったり、海外が好きだったので、世界を股にかけて仕事ができると思っていました。

ところが、中央アジアや中近東の方面のお仕事ばかりでした。中央アジアの代表国とも言えるインドには40回近く行っています。20年近く前の話ですから、現在のように発達していませんし、国際電話も満足に繋がらない地域へ、先輩にいきなり連れて行かれた。

聞きなれない航空会社で「生きて帰れるのかな」と思ったりもしました。「こういう仕事をいつまでも続けられるのかな?」と、そういう悩みに陥ったことがあります。

若い人はみんな、そんな悩みに陥ります。でも、そうなる前に有能で勉強できる人たちが多いですよね。その人たちを会社は大切にするべきです。

IoTやロボットに対しての向き合い方

ある程度の研修で反復運動の仕事は学び、貴重な人材は、クリエイティブなテーブルに着いて、より経営層を支えるような役割を果たします。その中で経営学を学び次世代の経営陣になるように育てるのが僕の考えです。

人数が少ないので働く環境も劣悪ですし、なかなか満足に休みも取れなかったりするので、非常につらい思いをしてるのは事実だと思います。ですから、こういった貴重な人材は頭を使う仕事に就いていただいて、IoTをたくさん活用し、いい職場・いいサービスを提供し、世の中をよくするべきです。

私は、実際にIoTとかロボットに対しての向き合い方に、ステップを踏んでコンサルタントとしてご案内しています。

1つはプランニングと実施の検討。「いきなりやりましょう!」と言って「このロボット買いなさい」「このロボット入れなさい」と言ったところで、困惑されます。

そのロボットを入れ、システムを組んで、どれだけ便利になって、より業務が効率化できるかをプランニングします。それを経営者の方に検討していただきます。

その結果、じゃあ一度試しにやってみようとなった場合に、実施と運用後のオペレーションの確認です。私の場合はホテルの立上げ経験を活かします。

突然ロボットが止まったり、チェックインする機械がエラーを起こして使い物にならないことも想定されます。運用開始後のオペレーションにいたるまで寄り添い、機能するまでご一緒する。それが自信のコンサルティングとしての考え方です。

意匠性を大切にしよう

当然、ハウステンボス技術センターはロボットを開発してる会社ではありません。弊社が先導させていただいて、先進技術を融合させる時は、デザインも重視します。

「意匠性を大切にしよう」デザインやコンテンツ作りや、ロボット、IT・IoT技術の導入先導と同時に建築などをすべて1ストップでマネジメントします。その中で多くのみなさまへIoTを広めようというのが私のやり方です。

できないと思ったらできません。「できることを考える」を私はおすすめしています。私は外資系ホテルに入りました。面接では知らされていなかったですが、公用語が英語でした。留学もしてたので、そこそこ英語は使えましたが、突然そんな環境に落とされて、どう対応していいかわかりませんでした。

そして大きなイベントを任されました。何千人という単位でホテルに押し寄せる大きなイベントでした。入社して、半年もたたないうちに責任者をするように命じられました。

メンバーは2名ぐらいだったと思いますが、それで何千人も捌くという、わけのわからない状況になりました。徹夜もしましたし、しんどい思いもしましたけど、やり遂げました。

できないことなど何もない

ホテル開業プロジェクトではロボットを入れて、「本当にサービスできるのかな?」と周りから散々言われました。しかしながら現在にいたり、ご存知の通りです。

ですから、できないことは、なんにもないと思います。専門外の人がやろうとしてもできることだと思っていますので、私だけでなくて、みなさんがロボットだったりIoTを広める役割を担ってください。

誰かがやるではなく、みなさん個々がロボットやIoTに向き合って、前向きに1歩を踏み出していただければという思いがあり、今日はお話しをしました。

短い時間ではありましたけれども、こういう機会をいただけて非常に感謝しております。本当にありがとうございました。

(会場拍手)