仮想通貨プラットフォームを普及させ、世界を簡単にする

木村新司氏(以下、木村):このセッションは「仮想通貨の歴史、今後の展望」というところで、bitFlyerの加納社長にお越しいただきまして、パネルディスカッションをできたらと思っております。よろしくお願いします。

加納裕三氏(以下、加納):よろしくお願いします。

木村:では簡単にですけど、自己紹介をしていただけるとありがたいです。

加納:私、株式会社bitFlyerという会社の代表を務めています。

大きく2つのことをやっています。1つ目はビットコインやイーサリアムなど仮想通貨の販売所や取引所の運営、もう1つは仮想通貨の根幹技術であるブロックチェーンの研究開発です。

前者においては、現在ユーザー数100万人を突破し、仮想通貨の取引量で世界シェア20%(でおそらく世界一)の流動性を提供しています。後者では、当社独自のブロックチェーン「miyabi」が2016年11月に3大メガバンクが参加したブロックチェーン実証実験に採用されました。

直近では、この9月には全銀協が推進する実証実験プラットフォームを提供するパートナーベンダーの1社に選ばれており、「ファイナリティを備えるブロックチェーン・DLT製品」中で世界最速のプロダクトを大手企業さまに提供しております。

日本ブロックチェーン協会(JBA)の代表理事を設立当初から務めております。あとは海外、アメリカのサンフランシスコとルクセンブルク、シンガポールに子会社がありまして、近々ローンチを控えております。

日本から世界に向けて、当社の仮想通貨プラットフォームとブロックチェーン技術を普及し、世界を簡単にするのが目標です。よろしくお願いします。

木村:ありがとうございました。

パイロット志望からなぜビットコインへ?

木村:加納さんとこうやってお話するのは感慨深いです。実は加納さんと僕は、10年以上の付き合いでして。僕が就職する時に加納さんのところにOB訪問に行ったというのが最初なんです。

bitFlyerを創業される前はいろいろとやっていて、一度パイロットの免許も取られようとしていました。それくらいいろんなことをやられていて、その後にbitFlyerをちょうど2014年の……。

加納:1月。

木村:ですかね、設立されたと思うんですけれども。その時にパイロットではなくて、なぜ仮想通貨の世界に飛び込んでビットコインをやろうと思われたのか、教えていただけるとありがたいです。

加納:パイロットに関して話すと長いんですけど、フライトスクールはめちゃくちゃしんどいんですよ(笑)。まず海外だったんですけれど、アメリカだったから英語でしたし。

僕、飛行機が好きだったんです。でもソロのライセンスくらいの時に「次にグアムとサイパンを1人で往復してこい」と言われて、心が折れましたね。そして、やっぱりビットコインかな……。

木村:(笑)。

加納:というのは冗談で。ビットコインはもともと2010年くらいから知っていて、2013年10月くらいに前FRB議長のベン・バーナンキさんという方がいらっしゃって、彼が容認発言したんです。それまでほとんどゴミくずみたいな値段だったビットコインが非常にバーンって上がって「これだ」と。

もともと通貨の3要件を満たしていたんですよね。価値が保存できる・計測できる・移転できる。ビットコインは通貨としての機能をそろえています。ただ、信用されないとずっと思っていたんですよ。

政府が潰すだろうと思っていたし、こんな非中央集権的で政府の管理下にもなくて、誰でも発行できてしまうようなことは成り立たないんだろうな、と思っていたんです。そこをアメリカが容認するんであれば「じゃあやるなら今かな」と起業しました。

木村:それが2014年1月でした。

マウントゴックスの事件を経ても信じたビットコインの価値

木村:そして3月くらいですかね、マウントゴックスの事件が。

加納:2月ですね。

木村:マウントゴックスの事件(注:ビットコイン取引所であるマウントゴックスがサイバー攻撃を受け、ビットコイン約75万BTCと現金28億円が消失した事件)が起きて、2014年4月くらいにサービスをスタートされています。

加納:そうですね。

木村:それからすごく成長されていますけど。

その当時、今でも覚えているんですけど、いろんなベンチャーキャピタルを回って「ビットコインの会社には投資できない」とほとんど断られたじゃないですか。みんながほとんど否定的だった中で、マウントゴックスの事件が起きて、その中でも価値がつくと思ってやられてたと思うんです。

今振り返ってみて、加納さんはその時なぜ(ビットコインに)価値がつくと思っていたのか。今になって価値がついているかなど、どう考えているかを教えていただけるとありがたいです。

加納:まさにその2014年がかなりシビアで、マウントゴックスのせいでと言った方がいいと思うんですけど。詐欺師と呼ばれ、ファイナンスもかなり断られ、アメリカでも断られ。

ただ、やっぱりブロックチェーンもビットコインも絶対に世界を変えると信じてやっていたんです。うちのロゴをご存知ですか? 青いブロックがあって、真ん中に丸いオレンジがあるんです。このロゴ、実は僕がパワーポイントで作ったんです(笑)。

木村:いまだに変わってないですね(笑)。

加納:変わってないです。パワポで作りました。ブロックチェーンのブロックとビットコインのコインなんです。その2つが絶対にメジャーなテーマになると信じていました、当時から。

ビットコインに価値がつくかどうかは、すごく難しいです。技術的には、今思えばブロックチェーンという技術があるのでここにサポートされているんです。

そもそも、ブロックチェーンはセキュリティの低いシステムなんです。簡単にハッキングできて、簡単に……ダブルステートというんですけど、嘘をついて払ったり、そういうことができるシステムで、ビットコインは価値がないってことです。

ということは、ビットコインの価値は技術的背景に支えられているんだろうとは思っていました。ただ、お金に信用が生まれる瞬間は、過去にそんなにないとは思うんですけれども、ここはやっぱり人々が、その他の人たちがどう思うかなんです。

自分が信じるというか、渡した相手が信じられる。第3者がどう思うかを信じられるかと思っているんです。そこが信頼の連鎖が起きるところはなかなか読めないと思いつつ、ただ1回起こったら、なかなかひっくり返らないだろうなと思っていました。

「ビットコインは長期的に伸びる」と考える理由

木村:そうすると3年くらい前は、人々はまだぜんぜん信じてなかったけれど、システムは信用できたと。それで3年間いろいろ動いたけれど、実際にはビットコインのブロックチェーンがハッキングされたことはありません?

加納:ありません。

木村:それにともなって人の信用がついてきて……というところだと思うんですけども。

ビットコインの価格があるじゃないですか。価格ってどれくらいが適正なのか、そういういろいろ理由があると思うんですけど。加納さんは、ビットコインが例えば5万円でもいいな、20万円でもいいななど、いろんな見ている中でご自身ではどう考えているのか。今後どうなっていくかというのを教えていただきたいのですが。

加納:価格をいくら、というのはなるべく言いません。

木村:そうですね。考え方で。

加納:長期的には伸びると思っています。考え方の1つはまずビットコイン、仮想通貨は基本的には買いからしか入れません。なので、空売りするのはなかなか難しい。

ユーザーが増えるとみんなゼロスタートなんです。ゼロスタートなので、当然、買いからしか入れない。「ユーザーが増えると買い」という買い方が普通です。

もう1つは発散系だと僕は思っているんです。ある値に収束する要素があまりないです。例えば株だと、配当が5パーセントもらえます。配当1パーセントになってしまうと割高になる。PERが100倍だと割高。

そうすると、原点に回帰する力が働くわけです。割安すぎる、割高すぎる。なんとなく上がりそうだ、フェアバリュー、適正価格を求めて、それに向かって収束していく力が働くんです。

それに対して仮想通貨はすごく発散系で、なにか数式で出せるものというものがないといけない。そうすると上に跳ねるか、信頼を失って下に跳ねるか、すごく不安定な状態になります。そういった意味では振れ幅が大きくなりがちです。これはやっぱり大きな考えるポイントです。

新しい通貨が生まれる瞬間は、みんな信じられない

加納:こういった要素があった点で今までフェアバリューを探そうとした人がいるかというと、いるんです。

僕が知っているのは、2015年くらいにゴールドマンとバンク・オブ・アメリカ・メルリンチ、あとは国際決済銀行がレポートを出しかけていました。ゴールドマンが確か1300、当時まだ200、300ドルとか400ドルくらいだったと思うんですけど、1300ドルくらいではないかというレポートを見たことがあるんです。

これはトップダウンの考え方で、貨幣としての可能性という話とポテンシャルマーケットでの利用ケースの積み上げというボトムアップでなんとなく計算された動きのような気がします。

木村:そうするとJPモルガンの資料が正しくないと?

加納:JPモルガンさんが発言したのは1つの考え方だと思うんです。また同時にゴールドマンが言ったのは「まだ結果は出ていない」と。僕の好きなフレーズがあって、その中にお金、今は紙幣ですね。金本位制だった時に金が紙幣に変わり、人々は非常に懐疑的だったというのがあり、まさにその通りだと。

新しい通貨が生まれる瞬間というのは、信じられない。日本人ってセカンドライフや人間ドックも昔はやっていましたよね。

木村:そうですね。

加納:そういう経験もあるので、ビットコインもそうなんじゃないか、いろいろな議論が起こるのが自然なんだろうな、と考えています。その上でまだ答えは出てないんだろうなと言う気がしています。

木村:そうですね。その中でよく出る話は「ビットコインはゴールドなのか、通貨なのか」みたいな話があると思うんですけども。加納さんの見方として、ビットコインはどっちサイドなのか、それとも両方の性質を持っているのか。どう考えられていますか?

加納:ここは同じことを言っていると思っていて。ゴールドというのが基本的には物として使えないと仮定します。使えるのであれば、より実用的だと思うんですけど。CPUの配線など使っていますけど、抵抗が少ない。

なんと言うんですかね。実用資産なのか、いわゆる法定通貨というか。本来では価値を持たないものかというと、ビットコインは明らかにそれ自体は使うことができません。電子マネーですから。

木村:そうですね。

加納:そういった意味では、まさになにもないところに信用が生まれたということなのかな、と思っています。コモディティなのかカレンシーなのかみたいな話をすると、これは法律的な定義しかないと思っています。別に単にアセットであるという言い方でしかないかなという気がしていますけど。

価値保存として使われる?  流通で使われる?

木村:使われ方としては、価値保存として使われていくと考えているのか。どちらかといえば決済や流通じゃないですけども、送金も含めて使われていく方が多くなっていくと考えてます?

加納:価値保存で使うというと、価値を保存される設定で決済なのかスペキュレーションなのかという話でありますが、最初はスペキュレーションだと思うんです。ドル円も同じです。ドル円も資産なのか決済なのかというと、よくわからないです。スペキュレーション、デイトレーティングを使います。

木村:投機。

加納:最初は投機だと思います。実際、今そうなっているといって、最終的には決済に使われるという大義名分があるから買う人がいて、やっていると思うんです。これが最終的なゴールがない上で、スペキュレーションしているわけではないと思うんです。

そうなると最終的にどうシフトしていって決済に使いたいとなるか。でもそれがブロックサイズ問題があったり、今までリストアップできるかというところで懐疑的です。

そういった意味ではビットコインではちゃんとエコシステムが育っていて、決済に使われる。もしくは決済だけじゃなく中間通貨と言われています。ビットコインも表に出てこないというのもシステムとしてブロックチェーンを使うとか。そういったいろいろなユースケースが生まれてくると、よりサポートされてくるのではないかと思います。

木村:ありがとうございました。