アスリートのセカンドキャリアは?

高木新平氏(以下、高木):高木新平と言います。自分の会社では企業のブランディングとか、そういうことをやっています。そのほかではCAMPFIREの家入さんだったり、お金のデザインの谷家さん、または為末さんとも一度ご一緒させていただいたこともあり、「この3者のトークを仕切れるのは僕しかいない」ということで、突如アサインされて今日モデレーターをさせていただきます。

では、簡単に一人ひとり自己紹介してもらいます。まずは家入さんからですかね。

家入一真氏(以下、家入):CAMPFIREの家入と申します。よろしくお願いします。僕らは「お金をなめらかにする」というものをミッションとして、クラウドファンディングである「CAMPFIRE」、あとは「polca」というアプリ、あとはレンディングとか、そういったお金にまつわるスタートアップをやっています。今日はよろしくお願いします。

為末大氏(以下、為末):為末と申します。このメンバーなのは、僕はアスリートのセカンドキャリアというのを自分のテーマでやってきたので、たぶん今日のセッションに呼んでいただいたんだと思います。

仕事なんかを谷家さんとご一緒したりとか、あと家入さんは、1回だけ見かけて、その後2年、リアルでようやく会ったみたいな感じで(笑)。ごめん、僕にとってはもう、ちょっとポケモンみたいな(笑)。

(会場笑)

はい、よろしくお願いします。

谷家衛氏(以下、谷家):お金のデザインの会長をやっています、谷家と申します。

もともと僕は運用をやってきました。しかし、やっぱりこれからの日本にとって、人口が減っていき高齢化していく社会のなかで、まだ人口が増え経済が成長する世界に投資をして、世界に貢献して、その配当を受け取りながら自分を思い切り表現するような人生を送るというのが日本人にとって一番……まぁ一番多くの人が幸せに過ごせるやり方なんじゃないかと思っています。そこで、お金のデザインという会社を創業しました。よろしくお願いします。

高木:というわけで、トークを自由に進めていきます。

引退したアスリートに立ちはだかる「セカンドキャリア問題」

高木:まず為末さんにおうかがいしたいんですけど、アスリートのセカンドキャリア問題というもの自体を教えてほしいなと思いまして。たぶんみなさんもわからないかなと思うので、「アスリートのセカンドキャリアってどういう問題なのか」ということから、どういう認識されているかを教えてください。

為末:ありがとうございます。なんでセカンドキャリア問題が起きるのか。これにはまず1つ、文化的な要因が大きいんですね。

オリンピックに出るアスリートが「同時に医師免許を獲得するために勉強してます」ということが、アメリカの選手で実際にありました。

しかし、日本の選手でそれをやるとけっこう「日本を代表する選手が競技に集中しなくてどうするんだ?」というような協会への批判があったりするという背景があります。なので、日本の選手の場合、デュアルで進むというのが社会的にはちょっとやりにくくなっています。

また、けっこう目の前のことにやっぱりどうしても一生懸命になるんですね。IOCは15~17歳までが選手が社会貢献に目覚める大事な時期で、その後はもうほとんど周りが見えなくなるというふうに定義をしているんですけど。

そういう意味で、高校生を過ぎたあとは、もう選手は(競技に)没頭してあとは引退までいってしまうということがあると思います。引退した途端に急に自分で「あれ、次なにやるんだっけ?」と、ハッと気がついちゃうということがあります。

2つの問題があります。1つは、アマチュア競技の場合は引退した時にお金がないので、なんとか働かなきゃいけないというのですぐ社会に出るんです。しかし、スキルがなかったりしていろいろ難しい点が多いわけです。

もう1つはアイデンティティの喪失の問題。これはたぶん最近で一番みなさんの記憶にあるのは清原(和博)さんとかがそうだと思うんですけど。次に自分をなにで定義していいのかがよくわからなくなるということがあります。

「半分はアスリートのせいじゃないか」というのが今までやってきて感じてることなんですけど、もう半分は、そうは言っても社会の環境整備があればずいぶん選手も変わるんじゃないかと思っていて。

実際にやる気がある優秀なアスリートも多いので、そういう選手が引退したあとに今度は社会で実際に働く側で価値を生み出すようにする。これは、今後も労働人口が減っていくなかでも重要なことじゃないかと思っています。

私はどっちかというと個々の選手との対話をずっとやってきたんですけど、今回はシステム上、そういう選手が引退後の人生でちょっと考える余白を作るとか、または心配する領域を若干弱められるとか、そういうことのサポートになるんじゃないかと考えています。ちょっと長くなりましたけど、そんな感じです。

高木:ありがとうございます。

「声をあげられない人たち」を社会としてどう包摂するか

高木:実際に、これは正しいかわからないですけど、ニュースでアメリカのフットボール選手の6割ぐらいが自己破産する……みたいな。

家入:へえ。

為末:はい、そうですね。

高木:そうですよね?

為末:(自己破産する選手が)70パーセント近いと言われてるんですね。

高木:というのは、それはもうけっこう個々人の問題じゃなくて、社会システム的にというか、自己破産せざるをえない状況があるのかなと思いまして。それを今回はお金のある種仕組みを作って変えていこうということですけど。家入さん、ここに対する思いをお願いします。

家入:(笑)。

高木:今の為末さんの課題認識もあったと思いますけど。

家入:そうですね、僕らはお金にまつわるスタートアップで、よくFinTech企業って言われたりするんです。「じゃあ、FinTechってなんだろう」という。まぁ、金融のテクノロジーによるアップデートだと思うんですけどね。「じゃあ、そのアップデートっていったいなんなの?」というのが、僕らが常に問い続けなきゃいけない問題だと思っているんです。

「お金を持っている人がさらにお金を持つ」という方向のテクノロジーももちろんあるとは思うんだけど、僕らはそうではなくて、「声をあげたくてもあげられない人たちにいかにお金が流通する世界を作っていくか」というところをミッションとしていろんなプラットフォームをやっています。

先ほど谷家さんがおっしゃったように、これから先の経済とか少子高齢化みたいなものが進んでいくなかで、アスリートに限らず、例えばアーティストの方や、学びたいけど学べない学生も出てくると思います。いろんな領域においてお金だったり、仲間集めだったり、サポートしてくれる人がいないために声をあげたくてもあげられない人たちは、どんどん増えていくんだろうなと思っていて。

そういった方々をどうプラットフォーム……要は仕組みとしてサポートしていく、そしてその先に今度は社会としてどうそれを包摂していくかみたいなものを考えていく必要があるなというのはすごく思っています。

スポーツ界での評価=引退後の社会での評価、ではない

高木:今、2020年が東京オリンピックがあるということで、けっこう若いアスリートとかも、テレビなどで毎回特集されたりとか、けっこう注目を集めがちだと思うんです。しかし、2021年以降けっこうバタッとそういうのもなくなっちゃうというか。けっこうそういう懸念もあるかなと思っているんですね。今の家入さんのそういう仕組みを作っていくというのが、アスリートに限って言えば2021年以降、けっこう重要になってくるのかなと。

ある種、オリンピックというのは1つの社会的ムードというか、インフラだと思うんですよね。アスリートにお金が集まったり注目を集めやすかったり。しかし、それ以降はやっぱりアスリートは生きづらくなるというか、チャレンジしづらくなる社会が来るんですかね。実際に21年以降を、どう考えていますか、為末さん?

為末:協会の数字を調べると、やっぱり陸連も補助金や助成金の比率は高いんですね。これ、日本の協会の特徴なんですけど。totoくじとかそういうお金だったりするんですけど、ほかにもいろんなところから来たりするんですが。

これを、2020年を超えたあとに「引き続きスポーツにこれだけのお金をください」と言いたくても、「いや、これちょっと学べない子どものほうに回したほうがいいんじゃないの?」という議論が起きるときに、「いや、スポーツのほうが大事なんです」と僕は言い切れないんじゃないかと思うんですよね。そのときまでに自主財源でちゃんとやっていけるようにするというのが、まず協会の大事なところです。

一方で、選手に落ちる強化費の数字も変わるということなので、選手たちもやっぱりサポートしなきゃいけない選手は協会がサポートしつつ、自立する選手はやっぱり自立しなきゃいけないという方向にいくと思うんですね。

だからその時に、海外の選手も実際にそうなんですけど、ちゃんと自分で自分のキャリアと競技を両立させながらちゃんとやっていくというのが、今までのような競技集中型で許される一部の選手以外はそれを考えなきゃいけなくなるんじゃないかと思うんですね。

もう1つ別の問題は、逆にいうと2020年まではサポートがたくさんあるので、言葉は悪いんですけど、多くの選手が現役を続けすぎてしまうということが起きると思うんです。2020以降に一気に引退がドドドっと出てくる。

スポーツ界はメダル数が評価基準で、引退した選手の人生が良くなるというのは評価基準じゃない。だから、そこはスポーツ界に期待するのはちょっと厳しい気がするので、世の中のほうが引退した選手側とか、2021以降の選手側をやるっていうのは大事な気がしてます。

さっきも言ったように選手は集中しているので、みんながメダリストになるって自分では信じてがんばっている。だけど、オリンピックが終わって、(メダリストに)なれる人とそうじゃない人がいたときに、ふっと次の人生へ進む際のクッションというかサポートというんですかね。それが大事になる気がしています。

アスリートのセカンドキャリア問題は、今後の日本経済に通じる

高木:人間って、けっこう遠くのことを考えるの難しいじゃないですか。2020年って言ったら、もうみんな2020年のことを考えちゃっています。

あえて1人ひとりに話を振っていきたいんですけど。谷家さんに振っていきたいんですけど。THEOでやられていることには長期運用というか、ある種お金を分散投資して自分の資産を安定的に回すというものがあります。

アスリートってどちらかと言うと、2020年だったら「2020年にとりあえずメダル獲得する」など、一気に年俸が決まってガッと年収が入ってみたいな。そういうのになりがちというか。それをもうちょっとなめらかにするというのも近いのかもしれないですけど、うまく人生を長期的に見るみたいなことが必要だと思われるんです。そこに関してなにかしら谷家さんの考えというか、あります?(笑)。

谷家:難しいですね(笑)。ちょっとずれちゃうかもしれないんですけど。家ちゃん(家入氏)とか為末さんと話すと、本当にいろいろ考えさせられるなと思っていて。

THEOをやる前にアイザックという学校を作ったんですけども、そのときに為末さんや家ちゃんと話していると、「子どもたちが幸せになるのに、なにが一番大事なのかな」というのをすごく考えるようになったんです。

為末さんの話を聞いていて、普通の人も同じ問題を抱えているんだけど、スポーツ選手ってそれが極端にわかりやすいかたちになっているなというふうにすごく思ったんですね。

メダルを目指して一生懸命やっているときというのは、すごく充実感もあってすごく幸せなんです。しかし、そのあとピークを超えて……本当はスポーツ選手で成功する人というのは能力も高いし、、運もあるし。スポーツ選手で成功するというのは、普通にビジネスマンで成功するよりもはるかに難しいことです。

なので、(アスリートになるということは)すごく恵まれた才能を持っているはずなので、いったんスポーツでピークを迎えたあと、次にまたいろんな新しいことをやればいろんなチャンスがあるはずなんです。

しかし、自分のピークをスポーツのほうで測ってしまうと、わりとそのあと満たされないものがあって、それでいろんなことをやってしまう。さっきの清原さんとかもそうかもしれないですけれど、同じ分野で自分を表現しようとしてなかなか難しいのかもしれない。

2020年以降難しいというのは、単にスポーツ選手だけじゃなくて、実は日本経済自体も大きく見ると同じような状況にあるかもしれない。今から社会保険が、65歳から68歳と言われていますけど、これをどんどん遅らせていかないと財政も保たない。

いろんなことを考えるとみんな同じようなところにいます。その中で今までと同じようにスポーツでスポーツ選手がいい成績をとることと同じように、経済でも大会社の中で出世することだけを考える、あるいはお金持ちになることだけを考える社会の基準に合わせたような目標を自分に持とうとすると、なかなか簡単じゃない。

そういう中では日本は、合計するとまだお金持ちの老人の立場に世界の中ではいるので、これから成長する世界に投資をしてその配当を受け取る。そして、もっと自分を表現する人生を歩むというのが実は一番いいんじゃないかなというふうに、為末さんとか家入さんと話していてすごく思うようになりました。

高木:なるほど。わかりました。谷家さんの熱い想いが伝わってきたと思います(笑)。

「セカンドキャリアがスポーツしかない」と、意見を言えなくなる

今のお話を踏まえてなんですけれども、今回はCAMPFIREとTHEOでアスリート支援プログラムというものを始めます。為末さん、その内容ってご存知ですか?

為末:ざっくりは聞いてます。

高木:それを聞いてどう思われました? 実際にお2人のそういう想いもありつつ、こういうことを活動として始めると。

為末:さっきの話をうかがうと、アスリートに限らず多くの人にとって人生はある意味、お金どころじゃないって感じがするんですよね(笑)。

それどころじゃなくて、いろいろ大変なことがある中で、アスリートのキャリアに関して言うとせめてお金のことくらいは考えなくてもいいクッションがあるといいなっていうのが1つ思ったところなんですね。

もう1つは「1社スポンサー」の良いところと悪いところというのが。スポーツ界にはありまして(笑)。分割して支えられているといいんですけど、そこだけに紐づいていると……なんて言うんでしょうね。スポーツ界でいくと「自分のキャリアがスポーツしかない」と思うと、スポーツ界のことに関して一切意見が言えなくなるんですね。自分のセカンドキャリアがそこしかないので。

高木:なるほど。なるほど。

為末:「スポーツ選手はなにも言わない問題」が、実はあります。選手はキャリアが多様化したりサポートする人が多様化することで、僕は選手の声ももうちょっと多様化するんじゃないかと思っているんですね。気にしすぎなくてよくなるというのかな。

なので選手をみんながサポートするというシステムとか、現役中はそれなりにお金が入る選手が多いのでそれが緩やかに引退後に向けて分配されるみたいなものがあると、選手の側の表現が変わってくるんじゃないかと期待しているところですかね。

高木:確かに、CMとか広告主ありきで支えられているアーティストよりも、個人が完全に課金しているというかファンがめっちゃいるところのほうが強いですよね。けっこう自由に発言できたり、自由な活動ができていたりする。

先ほどの為末さんのアスリートは1つのことしかやっちゃダメだ問題も、もしかしたらいろんな個人に支えられることによって「俺はこういう生き様だから」とやることで、また応援してもらえるみたいな。

為末:だから例えばこれ(テーブルの上の飲み物を指して)が毎回同じ飲み物じゃないといけない縛りがあるアスリートって、いっぱいいるわけですよ(笑)。

そういうのも含めてだけど、本当は控え室で話すとおもしろいアスリートって多い気がするんです。そういう感じで、僕はもっと選手が自由になってくれるといいなという気がするんですけど。

高木:なるほど、それもありますよね。