ネイティブアドがもつ危険性

梅田優祐氏(以下、梅田):スマホ時代となり、未だ成功モデルを作り上げたメディアカンパニーがないなかで、どのような可能性があるのかということを中心にお話しできたらと思っています。

嶋さんが先ほど、ネイティブアドと有料課金、このふたつがキーワードになるんじゃないかというお話がありましたけど、もう少し詳しく聞かせていただけますか?

嶋浩一郎氏(以下、嶋):ネイティブアドは、すごい危険性と良いこと、ふたつをはらんでいると思うんです。ひとつ良い点から言うと、すごいクオリティの高い編集をやっているところと、クオリティが低いとは言わないまでもイージーな編集をしている媒体があったとき、PV自体が等価で売られていた際にネイティブアドにシフトすると、それぞれの媒体の質にあわせて料金が決まっていくという、クオリティの高い取材をするところにはお金がちゃんと入っていくんですね。

アメリカのYahoo!とかもネイティブアド戦略を目指しているように、記事が広告なのかよっていうところもあるとは思うんですけども、今、ちゃんと一次取材をするメディアをネットの上でビジネスとして残していくためには、ネイティブアドはひとつの手段なのかなと思います。

良い点はそこなんですけど、クライアントさんの意識がすごい問題だと思うんです。広告だからこういう風に書いてよって言うクライアントさんが相当出てきちゃうと思うんです。

これは広告ではない、っていうことをちゃんと理解してもらう必要があると思っていて、その商品なりサービスを媒体の見方で料理してもらうというか、批評してもらうというようなスタンスでやらなきゃダメだと思うんです。

ここは間に入る代理店の皆さんの難しいところで、起きることが目に見えている。作り手のクオリティによると思うんですよね。媒体の人格とか媒体の主張とかを見抜くセンスが、すごく広告を出すクライアントさんや間に入る代理店さんにとって重要になると思うんです。

メディアの編集力が試されている

北田淳氏(以下、北田):全く同意です。むしろ、雑誌の時もあったはずで、うちの雑誌のタイアップっていうのは国際ルールでプロモーションって表記を入れないといけないのです。入れないでごまかそうとしてきたメディアもあり、オーディエンスってやっぱり頭が良いから、これはおかしいぞって。それでどんどん潰れていったメディアが、今までいくつあったかって話だと思うんですよね。

それがスマホだのネイティブアドだのって話になると、あまりにも企業色が強いから外したりすると今度はメディアのクレディビリティとか、オーソリティみたいなものに関わってくるんですよね。

今うちの会社で検討しているのは、たとえばプロモーション表記みたいなものも、きちっとデジタルでも入れようと。非常にコンテンツクオリティが高いもので、かつ、きちっとしたポイントオブビューでメディアとしての切り口をもっているもので成立させるのが大事だと思います。

たとえば、「WIRED」がネイティブアドをやってます。WIREDはデジタルでもプロモーションの表記が入っています。企業の方々からの需要が高いんですね。WIREDの編集部を信用していただいているんだと思うんですが、本音は違うかもしれないですけど、これをWIRED側の切り口で料理して欲しいと。

結局そういう形で、うまく企業のプロダクトをコンテンツ化する。コンテンツのことをブランデッド・コンテンツと呼んでいますけど、切り口を与えると。そういう形で出したコンテンツっていうのは、きちんと数字もついてくるというのが実績としてありますので、うちの会社としては徹底したいなと思いますね。

媒体のもつ文脈が大事になる

:独自の視点をもっている媒体の方が、ネイティブアドのプライスが高くなっていくと思うんですよね。実は日本の媒体ってそういう風に売られてなくて、雑誌の売られ方だと30代の女性がターゲットになるとエクセルの表がまわってくるわけです。

「レディ」があって、「Mart」があって、「ESSE」があって、どれにしますか? みたいな選び方をするので、そういうのに慣れちゃっているクライアントさんとか代理店の人からすると、この商品はこの文脈で批評してほしいとか、この媒体のなかに入っていると良いなっていう感覚がないから、そこの嗅覚が大事だと思うんですね。

30代女性誌でいうと、たとえばESSEではコストコに行こうとか、冷凍の解凍テクニックとかが載っているわけじゃないですか。要するに家事を効率化したいっていう文脈の女性誌なわけじゃないですか。でも「LEE」には、テーブルウェアのカラーリングが載ってたりとか、これは家事をより楽しもうっていう文脈じゃないですか。

どっちに自分の商品を批評してもらいたいかっていうと、家事を効率化するっていう商品の文脈だったらESSEに書いてもらった方が良いし、家事をより楽しくするって文脈の商品だったら、LEEとか、Martに書いてもらった方が良いわけでして。

媒体のもつ文脈がすごく大事になってくるわけで、媒体のもつ文脈って記事1個じゃできないんです。

パッケージとしての世界観がそれを構成するので、それが課題ですよね。ネットニュースってスライスされていろんなところに配信されていったり、SNSに飛んでったりすることで拡散していくっていう良い点もあるんですけど、記事1個1個になっちゃうと、パッケージとしての世界観がなくなっちゃうっていう矛盾もある。

どうやって常連の購読者を増やすか

北田:うちもひとつひとつの記事をいろんなところに旅立たせていますけど、シンジケーションっていうところですよね。数字のトラックを追いかけるという意味なら、実は良いのかもしれませんけど。

梅田:シンジケーションっていうのは、配信契約。

:Yahoo!に配信するとか、スマートニュースさんに配信するとか。

北田:うちの場合はクオリティですので、ビジュアルとかコンテンツのクオリティとオーディエンスのクオリティに非常に重きを置いているわけですよね。たとえばYahoo!にVOGUEの記事が出ますよね、嬉しいですけど、来てくれた人がVOGUEに来たって気づいていないことが多々あるんです。

オーディエンスのクオリティを上げるためには、もっとうちのFacebookとか、ソーシャルの僕らのフィルターを通したオーディエンスを増やしていくっていうこと。

梅田:一見さんを常連さんに。

北田:そういう意味では、嶋さんがおっしゃったようにうちの世界観のなかで物事が動くようにしたいっていうのは強く思っています。

:ここが本当に難しいところなんですけど、スマートニュースだとソースが書いてありますけど、Yahoo!から来る人って下手するとこのニュース面白そうってクリックした記事がどこのソースから来たのか、そこに気づかずに読んでいる人って結構いますよね。

梅田:スマホの時代になり、PVの時代ではなくなっていくなかで、嶋さんのお話のなかで印象に残ったのが「媒体としての人格」。コンデナストも、まさにそれをトップブランドとしてやられているかと思うんですけど、そこがひとつのカギになっていくということがスマホ時代では特に大事ということでしょうかね。

人格をもった媒体をどう作っていくのか

梅田:先ほど北田さんのお話で非常に印象的だったのは、GQさんの場合はデジタルのタイアップの広告はタイアップ表記を出さないというお話があったと思うんですけど、それでも読者の方がたは離脱しないということですよね。クオリティの高いタイアップ広告であれば、ユーザーに関係ないという示唆なのかと思ったのですけれど。

北田:ぱっと見た目、これがタイアップなのか編集なのか分からない。そこのケアを編集部としては気を使っていまして、敢えて馴染ませてやっているというよりは、とりあえずすごくシンプルにタイアップをちゃんと作ろうとしています。

僕らは数字だけのメディアをやっているつもりはないですけど、数字で判断しがちですよね。クライアントのニーズはどこにあるかといったら、メディアがオーディエンスニーズを知っているというところ。僕らはオーディエンスを知っているつもりなのでインサイトが分かった上で、どういう展開をするといいかっていうことを編集者が決めるべき。だから、やるべきことを普通にやっているだけだとは思っています。

梅田:ありがとうございます。人格をもった媒体を作っていくためには、クオリティの高いコンテンツと、統合されたパッケージとしての世界観が大事というお話ですが、具体的そういうものを作っていくためにはにどうしていけば良いのか。コンデナストではどういう風にやっているのか。嶋さんが見られてどういう会社がそれを実現できているのか。

北田:うちの場合はコンテンツが一番重要で、コンテンツを作るエディターが会社の財産なんですよね。人格をもって、意思を持って、切り口をもってやるというなかで、プリントエディターはデジタルに抵抗感があったのでトランスフォームしてやるようにと。

無作為にやるのではなくて、トライアンドエラーは良いんですけど、実際にオーディエンスがどういうことを求めているのかっていうことを分かりながら、コンテンツコントロールというものを、エディターができるようになるっていうのが理想型なんです。まだ始まったばっかりです。

メディアが広告を売るには分かりやすい旗が必要

:NewsPicksのヨイショじゃないですけど、そういう世界観をもつ可能性はすごく高いと思っています。

NewsPicksのことをキュレーションメディアという人がいますけど、そうじゃないと思っていて、オリジナル記事を佐々木さん(佐々木紀彦氏)がちゃんと作っていくのと、配信されるニュースのセレクトの基準っていうのに独自の視点が出るんじゃないかなと思っています。

その後どういう世界観を作っていくのかっていうのは、広告を売る人の立場になったら分かりやすい旗を立てた方が良い気がしていて、テクノロジーのイノベーションに関してはこの媒体はすごい強いとか、ビジネスの世界で新しいリーダーが必ずここから登場するとか、そういう媒体なんだよねという特徴が出てくると良いのかなと思います。

梅田:頑張ります。ありがとうございます。

質疑応答-スマホになってもPV至上主義は変わらないのでは?

梅田:皆さんの方からご質問をいただければと思うのですが。

質問者:ネイティブ広告の課題で興味深いのは、PCは数を追ってしまっていて、数を追えば追うほどバイラルメディアみたいに皆が見る話題を投稿していくようになっている。

個人的には見る人が増えれば増えるほど、ショーニュース的なものの数が増えて、結果的にネイティブ広告的なものも数の多い方が単価も高くなりがちになっちゃうんじゃないかと悲観的に考えてしまいます。

さっき嶋さんがおっしゃったスマホになると媒体の特性が活かしやすくなるんじゃないか、というところでもうちょっと前向きになれるヒントをいただけると幸いです。

:媒体のクオリティにもよると思います。経済ニュースを中心に届けていくとか、ファッションとか、モードとか、カルチャーとか、そういったものに特化したメディアがあったときには、クライアントさんはそれなりの価格を出すようになると思います。

単純にPVが多いから出すというニーズだけではなくて、世界観をもって自分の商品を伝えてくれる媒体に価値はあると思っていて、今、スマホに移行するときにネイティブアドだっていって盛り上がって変化しているタイミングにあるので、そういう広告もあるよねっていうことでチャンスだと思うんですよね。

質疑応答-これからの時代に求められる編集者像は?

質問者:ネイティブアドとか、ある種のメディアプロデューサ的な視点が必要だと思うんですけどどういう編集者像を必要とされているのかということをお伺いしたい。

:さっき言ったように、ひとつの媒体を世界観をもって作るということが大事だと思いますし、ネイティブアドに関しては、クライアントさんの理解も含めて、最終的にはその媒体の読者のためになっているかどうかを守り通せるかどうか、言われるがままに書いているということはよろしくないと思います。

北田:うちの場合は、1番欲しい人材はマルチプラットフォームクリエイターです。うちの会社はプリントエディターとデジタルエディターで分かれてましたけど、マルチプラットフォームエディター1種類にしようとしているんですね。

結局プラットフォームとデバイスごとに、コンテンツを作り上げていかないと成立しない。でも、同じものを流していては意味がなくて、オーディエンスニーズであるとか、広告主ニーズであるとかを分かった上で作り分けると。非常に人材が乏しくて、これからの絶対的な職業だと思います。

質疑応答- PV に代わる指標として大事にしているものは?

質問者:弊社もウェブメディアをやっていて、先ほど指標のお話がありましたけれど、弊社もPVを換金しています。NewsPicsさんとして、PVではなければ1番大事にしている指標は何なのか。

もうひとつは、スマホ向けのメディアがこれだけ出てきているなかで、マネタイズというか、黒字化が難しいと言われているなかで、スタートしてからどれくらいで黒字化するのが妥当な目標なのかを教えていただきたいです。

梅田:我々が最も大切にしている指標はデイリーアクティブユーザー。毎日NewsPicksを開いて使っていただける常連さんがどれだけいるか。ふたつ目が、滞在時間。どれだけ長い時間NewsPicksに触れていただいているか。3つ目が、NewsPicksの特徴でもあるピック。ピックがひとつのコンテンツになっていきますので、どれだけピックしていただけているか。この3つを大切な指標としています。

ふたつ目の質問の黒字化というところなんですけど、来年中には黒字化しないといけないなと思っています。よくわかんないねって言っちゃうと、投資家の方に怒られちゃうので。来年黒字化します。

(会場笑)

今回のマネタイズセッションはこれで終わらせていただきます。北田さんと嶋さんに拍手をお願いします。