脳にある2つの「注意機構」

青砥瑞人氏(以下、青砥):人間には大きく分けて2つの注意機構があると言われていて、これは脳的にもまったく違うシステムを使います。1つは「ボトムアップ注意」、もう1つは「トップダウン注意」と言います。「トップダウン注意」というのは、「今この「ト」(スライドの文字を示して)を見てください」と言って、みなさん「見よう」と思えば「ト」は見えますよね。

というのも、自分が脳に「あの『ト』を見よう」と指令を出すことができるのです。それをトップダウン注意と言います。「ボトムアップ注意」というのは、「なんとなく自分の脳内で選択して見ている」という時に働くものです。

この2つは、使っている脳の場所がぜんぜん違います。よく「アクティブラーニングが大事です」というのも、根源はこのトップダウン注意を使っているか、使っていないかなのです。そのディレクションが上手く引けているかどうかは、おそらく教育者や指導者の力量にかかってくるのだろうと思います。こういった仕組みをきちんと考えると、よりアクティブラーニングが「アクティブ」になるだろうと思います。

トップダウン注意を、しっかり意識的に導入することによって、メタ認知が可能です。実際に実験もされています。メタ認知して自分を俯瞰的に見ると、客観的に何か解釈しようという時に働く、前頭前野の中のとりわけ、rlPFCという脳部位が活性化することが分かっています。

何が重要かというと、脳の基本原則として「use it or lose it」とよく言われますが、「使われていれば(use it)その回路は形成され強固になるが、使われていないところは失われていく(lose it)」ということなのです。それが「use it or lose it」の原則です。

それは先ほど言ったような、エネルギーの観点からも説明ができます。いらない神経回路、シナプスを保っておくことは、それだけエネルギーの無駄遣いになるのです。それを刈り込むことを「プルーニング」と言いますが、そういう作業を実は脳が行ってくれているのです。

人間は生後8ヶ月の時が、このシナプスが一番多い。ここからはどんどんプルーニングされて、「いらないシナプスは刈り込む」ということを行う。そのため、若い頃の脳との違いがある。大人になってからの学習で、「なぜこれほど物覚えに違いがあるのだろうか」とみなさん思われますが、小さい子どもはたくさんのシナプスがあるからなのです。「シナプスを強固にする」ということを、がんばって何回も行えばいいのですが、大人になると「無くなったシナプスをなんとか結びつけよう」ということをやるので、学習し、何かを覚えていくという作業に時間がかかる。その違いがあります。

「気づき」が重要

青砥:メタ認知による「自分を意識的に客観的に見る」ことのポイントですが、今まで自分をなんとなく無意識的に見ていたつもりになっていることはたくさんあると思います。ただそれを、意識的なトップダウン、これを「無意注意」「有意注意」と言う人もいますが、「意識的に自分をきちんと見る」ために、「気づき」や「アウェアネス」が大切だとよく言われています。

無意識的に「なんとなく自分を見る」というところから「今自分を見なきゃ」という瞬間に気づかない限り、「有意注意で自分のことをきちんとメタ認知しよう」とはならないので、やはりこの「気づき」という観点が重要です。

有意識で自分のことを認知して初めて、学習という文脈になっていく。これは例えば、自分について学習する時によくあるのですが、「自分の理想像をしっかり立てなさい」「ロールモデルを立てなさい」。よく聞く話だと思いますが、とても大事なことだと思います。

これを目指していくことはもちろん大事ですが、脳の学習の観点から言うと、「しっかり自分のロールモデルを出す」ということに加え、「現在の自分を客観的にしっかり捉える」ということも必要なのです。なぜか?

人間の脳の学習システムは、「差分で学習する」という部分が非常に大きいからです。自分の理想像、かつ現在の自己が分かっているとその差分が生まれるので、そこに対して学習する。この差分の瞬間に出る神経伝達物質が、ドーパミンと言われています。

よく「快感」だったり「気持ちいい」といった分泌物としてドーパミンが挙げられることが多いのですが、実は主たるドーパミンの役割は、その記憶定着効率です。ですからネガティブに、裏切られた時などもドーパミンは出ます。ドーパミンから誘導されるβエンドルフィンが、気持ちよさの誘発に役立ちます。したがって、ドーパミンが多ければ、それだけβエンドルフィン、「快感」というものにも導かれやすいというのは真なのです。

イチローの「メタ認知」

青砥:ドーパミンをそういった快楽物質として捉えている方が多いかもしれませんが、主たる目的は記憶定着や、LTP(長期増強、Long-term potentiation)、神経細胞同士の結びつきを強固にするという役割です。

(スライドを切り替えて)

みなさんも知っている、ゲイツ、ジョブス、ピカソなど、この人たちにまつわる数字があります。この数字が何か、推測してください。……このクイズは絶対に誰も答えられないので答えを先に言いますと、「名言の数」です。「どれだけ名言を残しているのかな?」と名言サイトを調べてみたところ、これだけの名言があった。名言とは何か? みなさんは名言を持っていますか? 持ってそうですけど(笑)。

(会場笑)

名言というものは、なかなか言えるものではありません。自分の名言を言えるということは、よほど自分のことを振り返って、認識されているからこそ、アウトプットとして言葉にできているのだろうと解釈できる。

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