学校のワークライフバランスのために

川島高之氏(以下、川島):(長時間労働がはびこる教育現場を)やめる、変える。白河さん、いろいろな企業に意見をよく聞かれてると思いますけど、行政も状況は同じだと思うんですけど。

白河桃子氏(以下、白河):まさに過去から仕事が増えるだけで、減らさないってところが一番問題なんですね。

川島:行政も多いでしょ?

白河:行政ももちろんそうだし、学校現場もたぶんそうだと思うんですけど、仕事ってどんどん増えていきますよね。だけど、本当に昔から残ってる仕事もそのままで。

だから、本当に負担だけが増えるだけで。働き方改革のテクニック的なところで言うと、とにかく「業務の棚卸し」を1回しないといけない。

それから、労働時間を把握しなきゃいけないですね。いったい何時間働いてるのか、部活は何時にしてるか、ちゃんとオープンに開示させなきゃいけない。

留守電を導入するだけで効果が出た

白河:あと、もう1個はすごい些末なことなんですけど、働き方改革のコンサルティングにワークライフバランスの考えを学校現場を入れた時に、労働時間の短縮に一番効いたのは何だと思いますか?

川島:効き目があったもの?

白河:そう。もちろん業務の棚卸しとかも全部やってるんですけど、実は、留守番電話です。

川島:留守電。

白河:留守電を入れるだけのことだったんですね。学校には留守電がなかったんですね。私もそれ聞いてびっくりしたんですけど。

そうすると、いつまでたっても電話に対応しなきゃいけない。もちろん、生徒さんが怪我するとか、(家から)いなくなっちゃったみたいな話は、もちろん対応しますけど。

やっぱり留守電が入ると、そこには本当の緊急だったら、録音、留守録とかに叫ぶじゃないですか。そこで精査できるわけですよ。「それは本当に今対応しなきゃいけない話なのか?」って。

だから、ある業務時間、ここで仕事を終わらせたい時間の後にもし電話をかけたら、学校が留守電になってたら、それを保護者の人たちがOKしてくれるかがすごく重要なんです。しかも、予算はないので、PTAが留守電を取り付けてくれて(笑)、そういうので対応するのはどうですか。

川島:だって、うちの学校だってね、年間は50万円から100万円ぐらい、特別予算で使えたんですよ。一般の予算と同じ、古新聞回収で。留守電くらい入れられますよね。妹尾さんは学校改善とか、どうですか?

3つのプロセスが肝要である

妹尾昌俊氏(以下、妹尾):はい。今日はちょっと飛ばしましたけど、そういう話をして、仕事のプロセス自体を洗い出さないといけない。企業人からしたら、これはごく普通の話なんですけど。

学校や教育委員会から見ると、普通じゃない、まったくおかしい話です。

学校で今、業務改善、多忙化対策ということで何が一番出てくるかっていうと、「会議をちょっと見直しました」「管理職向けにタイムマネジメント研修しました」とか、そういう表層的なことが多く出てくるんですよ。

それだけでは、さっき言ったみたいに、「過労死してる人は救えません」「おまえたち、本当に本気になってるのか?」と聞きたいです。学校現場も行政もがんばってる人ばっかりなんだけど、「本気になってるのか?」っていうことを僕は問いかけているんです。

3点申し上げると、1点目はさっき申し上げたように、仕事が「大変だ、大変だ」って言うんだったら、どこに本当にストレスを感じているのか、どこに本当に時間かけてるのかという、プロセスを洗い出す。ここは先生がやるのか、ここは学級担任任せで本当にいいのか、っていうのをやらないといけないんですね。

だから、そういうことが必要なのを学校向けによく言ってるんです。で、ちょっと保護者向けではないんですけども、保護者とか企業の方向けにその話をしてると、プロセスを洗い出すっていうのは、学校は苦手なんですよね。僕もそうですけど、よそ者の視点からもう少し客観的に見て言ってあげることも大事なんです。

そういう意味では、企業の、例えばITとかがんばってる人とか業務プロセスを洗い出すことを実はすごくやってます。それにぜひ協力していただきたい、というのが1点目。

2点目は、先ほどもいろいろありましたけど、教師がやらなくていい仕事は、じゃあ、誰が担うのかという話ですね。とはいえ、保護者もそうですけど、実は雑用係ってものすごく大変ですからね。そういうことを考えないといけないと思います。

別に雑用っていうわけじゃないんですけども、岡山県や横浜市は、教師業務アシスタントというのを、非常勤なんですけども、ちゃんと雇用してるんですね。プリントの印刷、集金の業務、チェック。そういうことはアシスタントさんにやってもらうわけです。

そうすると、劇的に教員の業務の負担が減るわけですよ。これは即効性があります。そこは予算がかかる話ですので、そういうのは教育委員会とかが応援してあげてほしいんですね。それが2点目です。

イクボスを受け入れる機運を

妹尾:3点目は、雑務的な仕事以外で、さっきの(父親が中心となって教師たちと企画する)流しそうめんや肝試しとかもそうですけど。お父さんの働きで、お母さんの負担が小さくなるこことって、もちろんいっぱいあるんですよ。

何が言いたいかというと、お母さんやお父さんは仕事持ってて、専業主婦も子育てが大変。僕なんか身にしみてますけど、大変です。

せっかく今日はイクボスの方とか、関心のある方が多くいるので言いますが。やっぱりそういう時に、企業としても、学校の入学式や卒業式だけじゃなくて、普通の時に「ちょっと学校にボランティアしてくるから」って、休みやすいようにしてほしいんですよね。

例えば、有給がとりにくいという話なんですよ(笑)。入学式とかは建前がつくけど、例えば普通の時に「肝試し大会するから、今日は仕事ちょっと休みます」とはなかなか言えないですよね。

だけど、そういうふうに学校や地域になるべく参加して、もちろん仕事もしっかりする。そういう人がカッコいいという、社会の価値観がだんだん変わっていってるかなと思います。せっかく今イクボスが多いので率先してやっていただけるといいと思います。

川島:その通りだと思います。僕は堂々とよく草むしりで会社休みました。「なんで悪いの?」って思います。だから、部下がそれをやってたら、当然「行け行け、一緒に行ってこい」って言いますね。

社会全体がワークライフバランスを考える

川島:やっぱりそういうような企業を増やしていかなきゃいけない、あるいは、イクボス的なマネジメントができる企業の管理職を増やしていかなきゃいけないと、そのへんはどうですか? 安藤さん。

安藤哲也氏(以下、安藤):人生100年時代ですからね。僕は、子どもが学校行ってる時がパスポートだと思って、地域に関わっています。

川島:地域参加へのパスポート。

安藤:もうパスポートとか作っといたほうが絶対いいと思う。子どもが卒業しちゃったら地域になかなか出づらいんですよ。だから、会社に毎日行って、そこで目一杯働いて。でも、それは定年で終わった瞬間に、もうなにも行くところなくなっちゃうので。

川島:地域の友達ぐらいになっちゃう。

安藤:そう。最後、終の棲家である家と地域の中で、どれだけ笑顔でいられるかっていう話になりますから。それが何年続くか、40年ぐらいありますからね、定年なってから。この先何年生きれるかわからないけども。

だから、学校の先生にも家庭や地域があると思って、そういうところで、自分も活躍できるような。やっぱり社会全体がワークライフバランスやっていかないと、難しいですよね。

川島:生重さん。

生重幸恵氏(以下、生重):例えば、自分の子どもの時、PTAとか地域にぜんぜん関係がなかった方で、○○重工というすごい有名な会社の管理職の方がいらっしゃいました。子どもの朝の学習の15分間の見守りに1回なってみたら、「子どもがものすごい怖い顔してるおじさんがいる」と、すごい慕ってくれて。

それを続けていたら、彼はやさしい笑顔を会社でも取り戻して、ものすごくいい調子になった。朝早く来て新聞読むのやめたんで、部下の机ふけるとか。

川島:ええ。

生重:そう。奥さんも子どもも、「お父さんは生まれ変わった」って言ってくれるようになったとか。だからこのように、チャンスをつくっていくことが大事ですね。そういうことを地域の中で工夫していくことが大事です。

学校側もそういうことをやりだしたら、先生たちが朝にミーティングができるようになりました。先生たちは、子どもが安全に学校に行ってるのを見て、学校の授業が始まるまでの間は、地域に全部を任せる。

近所の中学校は、中学生の話をお年寄りが聞きにきて、「よし、よくできた」っていったら、金色のシールを貼ったり。それを週に2日か3日やると、けっこうお年寄りの居場所になったりしています。

安藤:そうですね。そういうやることあったほうがいいですよね。(お年寄りたちは)やることないから、病院行って薬もらっちゃって、医療費上がってるだけなんで。地域で役割をどんどん与えたほうがいいと思います。それを僕ら、「イクジイ」っていうので今やってますけど。