3Dのデジタルイノベーション事例を紹介

野崎省二氏(以下、野崎):みなさん、こんにちは。今ご紹介にあずかりました、ダッソー・システムズの野崎と申します。これから1時間、お話しさせていただきたいと思います。最後までおつきあい願えれば幸いでございます。

今日は、タイトルにありますとおり、3次元のデジタルデータを使って産業と都市・自治体の未来をどんなかたちで作っていくことができるかというところをお話しさせていただきたいと思います。

私は大阪出身なもので関西弁でないとしゃべれないので、言葉が少しお聞き苦しい点もあるかもしれませんが、そこはご容赦をいただければと思います。

では、こちら(スライド)がこれからお話しさせていただくアジェンダになっておりますが、まず最初に、ダッソー・システムズといっても、なかなか名前が知られていない。一部のものづくり企業の方でご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単にご紹介をさせてください。

そのあと本題に入っていきます。今回のCEATECの主題でもあります、「CPS/IoT」ですね。この時代においての3Dのデジタルテクノロジーがどのように活用されていくのかというところのお話をまずさせていただいた上で、そのあとに2つ。

産業、ものづくり企業においての3Dのデジタルイノベーションの事例。それから都市ですね。自治体向けの3Dにおけるデジタルイノベーションの事例ということで、最新の情報をお届けできればと考えています。

まず、私どもダッソー・システムズのご紹介を少しだけさせていただきます。弊社のダッソー・システムズというのは、(スライドの)赤枠で囲まれているところになるんですけれども、フランスに本社を置いておりまして、Groupe Dassaultというホールディングスの一員というかたちになっています。

主にものづくり企業さま向け、有名なところでいくとトヨタ自動車さんなどに、そういったソフトウェアを開発して販売・サポートさせていただいている会社です。

姉妹企業には、有名なところを挙げますと、Dassault Aviationという航空機メーカー。飛行機好きの方でしたらミラージュやラファールというとすぐ思い出すかと思いますが、こういったメーカーもございます。実は私どもも、36年前に、このDassault Aviationの中で飛行機を開発するために3Dテクノロジーをやっていたメンバーがスピンアウトしてできた会社になっています。

あとはフランスらしくワイナリー、Chateau Dassaultというものも持っていて、日本でも飲んでいただくことができますので、ぜひワイン好きの方は一度ご購入いただければと思っています。

36年間、技術のイノベーションを起こしながら成長

弊社、ダッソー・システムズ自身なんですけれども、先ほども申し上げましたように、Dassault Aviationという技術の会社から来ているということもあり、非常に科学技術が大好きな会社で、創業以来36年間ずっと、そういった技術のイノベーションを起こしながら成長してきている会社です。

(スライドの)一番右に「長期的な視点」と書いていますけれども、IT企業にはよく買収とかそういった危機がありがちなんですが、弊社は先ほどのグループおよび経営陣、創業家で株式の過半数は常に保有しています。

実際ユーロネクストに上場はしているんですけれども、安定株主で過半数は常にキープしているということで、今まで買収の危機にさらされることなく、これからもおそらくそうだと思いますが、非常に長期的な視点で経営を進めさせていただいています。いわゆる長期的な視点で技術のイノベーションを起こしながら成長してきた会社です。

ここはマーケットでも一定の評価をいただいていまして。(スライドの)左側は、毎年1月にスイスのダボスで行われるダボス会議で発表される「世界で最も持続可能性のある100社」というランキングなんですが、今年の1月の発表では、弊社は11位という非常にいい位置に並びました。

ソフトウェア企業だけで括ってみると弊社はダントツの1位なんですが、2位がMicrosoftさんで全体で75位ですので、先ほど申し上げた「長期的な視点」ということでは非常に評価をいただいているのかなと思います。

(スライドの)右はけっこう有名ですよね。『Forbes』さんが毎年8月に発表される「世界で最もイノベーティブな企業100社」というランキングですけれども、こちらで今年は64位をいただいております。

この両指標はほぼ毎年100位の中に必ず入っているというかたちで、マーケットでも長期点な視点で技術のイノベーションを起こしながら、というところは一定の評価はいただいているのかなと思っています。

こういったイノベーションに長くつきあっていただいている私どものお客様。(スライドを指して)こちらはものづくり企業の一覧、私どものお客様の例ですけれども、自動車や飛行機、船、産業機械、ハイテク等々、12のインダストリにわたって世界中のお客様を抱えています。

日本企業もいくつか入っていますが、こういったお客様企業とともにイノベーションを起こしながら成長してきています。日頃こちらのお客様方には非常にお世話になっているということで、改めて感謝申し上げたいと思います。

日本法人も23年前に設立されまして、現在はスタッフ約600名で営業させていただいています。東京に本社を構えていまして、名古屋、大阪、豊田に支店を構えています。

国内のものづくり企業はなんらかのかたちで弊社のソフトウェアを使っていただいているのかなと思います。一番有名なところでいくと「CATIA」というCADがあるんですけれども、多くのお客様でご利用いただいています。

それから、後ほどもご紹介しますが、経団連さんや新経連さん。それからこちらの今回のCEATECをやっておられますJEITAさん等々、いろいろな団体にも参加をさせていただいています。

ダッソー・システムズにとって、実は日本は世界で2番目に大きい国なんですね。一番売上が大きいのはアメリカなんですけれども、日本が2番目に重要な市場となっています。その重要市場に対して、私どもは昨年R&Dの拠点を開設をしまして、日本の重要なお客様の声を弊社のソフトウェア開発により活かしていくということもスタートさせていただいています。

また、微力ではあるんですけれども、日本経済のほうに貢献したいということで、昨年12月に経団連さん、今年3月には新経連さんにも加盟させていただき、経産省さんが主催している「ロボット革命イニシアティブ協議会」でもアドバイザリーボードメンバーとして参画させていただきました。

フランスの企業ではあるんですけれども、日本の経済・社会に微力ながら貢献させていただきたいということで、日本に地に足着けて、日本のお客様と向き合ってビジネスをさせていただいているという会社です。

「エクスペリエンスの時代」になにができるか?

では、弊社の紹介はこのぐらいで終わらせていただいて、弊社の得意な3Dを使って、これからのIoTや、私どもは「エクスペリエンスの時代」と呼んでいるんですけれども、こういった時代にどういうことをやっていけるのかということを少し考えてみたいと思っています。

(スライドを指して)JEITAさんのホームページから引用させていただいているんですが、いわゆるCPS/IoTということですね。ここに来ていらっしゃるみなさんには説明するまでもないんですけれども、JEITAさんのホームページでも非常に詳しく解説されています。

一言でまとめてしまいますと、センサーやネットワークの技術で集めた情報・ビッグデータを分析をする技術を使って、今までは見ることができなかったようなこと・事象を圧倒的に見える化していこうということです。そうするとなにかヒントが得られるんですね。新しいビジネスの創出につながるだとか、課題解決につながるというところですね。

そういった情報を使って、サイバーとフィジカルのそれぞれの空間で連携をし合いながらいろいろなことをやっていくという話になるのかなと思います。

今日の主題の1つは、私どものお客様でもあるものづくり企業にとって「じゃあこれはどういう意味があるんだろう?」ということを考えてみたいと思います。

これもよく出る事例ではあるんですけれども、例えば世の中で今起こっていることを圧倒的に見える化できると、販売動向を細かな角度で分析したり、製品にいろいろなセンサーをつけることでその使われ方を集めてくることによって将来のニーズを予測したり、将来の製品開発の参考にしたり、ということができるかと思います。

もしくは、これもインダストリ4.0でよくある話ですけれども、工場もしくはサプライチェーンにこういった技術を取り入れますと、生産やサプライチェーンの見える化を圧倒的にしてあげると、生産・物流効率の改善ができます。もう一歩踏み込むと、そことお客さんをつないで、「マスカスタマイゼーション」という言葉も最近ありますけれども、こういったところにご活用いただけるのではないかと思っています。

ものづくり企業の戦略は大きく分けて3つあって、ここ(スライド)に書いてあります。

上にある「customer intimacy」というのは顧客緊密性。お客さんのニーズにどれだけ寄り添いながらお客さんの求めるものを市場に出しているかということです。下のほうは「operational excellence」。いわゆる効率化ですね。

もちろんこれらは非常に重要です。こういったところを差別化の要因の1つとして、競合他社に対して差別化をして競争していくものづくり企業もたくさんいらっしゃいますが、「これだけで十分でしょうか?」と。本来ものづくり企業にとって求められるものはなにかというところを考えていくと、やはり製品だと思うんですね。

やはりものづくり企業というのは、製品を設計・製造・販売して初めて利潤を得るというかたちになってくると思います。もちろんほかにも稼ぐ手段はあると思うんですけれども。

そうするとやはりその製品がより高い値段で、しかもできるだけ長い間売れてくれると、もちろん売上が上がりますし、利益率も高まってうれしいわけですよね。ですので、やはり売れる製品を作りたいというところがあるかと思います。これが、もう1つのものづくりの企業の戦略でいうと、「product innovation」という範囲になると思います。

もちろんこの3つ、customer intimacy、operational excellence、product innovationというところを組み合わせて、みなさん、企業の戦略を立てられているんですけれども、本質的にはやはりものが売れないといけない。

売れる原因としては「コストが安い」などいろいろあるんですが、売れないとなかなかやっていけない。持続可能性、サステナビリティに近づけないというところがあります。

デジタル・ツインから「エクスペリエンス・ツイン」へ

では、「今の消費者から受け入れられる“売れる製品”ってどんなところを目指してるんだろう?」というところを少しお話しさせていただくと、これももう使い古された言葉でみなさんもよくご存知だと思うんですが、経験経済ですね。エクスペリエンス・エコノミーと言われます。

性能がよい製品やスペックが高い製品といったものはもちろん選ばれるんですけれども、それだけで消費者は高いお金を払わなくなってきているんですね。

製品の性能やスペックといったものではなくて、消費者はその製品もしくはサービスから得られるエクスペリエンス。もちろん、いい体験、すばらしい体験、感動できるような体験ですね。こういったものに対しては非常に高いお金を払ってくれる。こういう時代になってきているとよく言われているわけです。

では、今日の私のプレゼンテーションの主題、「デジタルで、とくに3Dのデジタルの技術で、エクスペリエンスを再現するってどういうことなんだろう?」ということを1つ考えてみたいと思います。

このCEATECの1つの主題でもありますが、IoT。いわゆるモノのインターネットと呼ばれるものですね。もう1回考えてみますと、いわゆるモノにセンサーや通信機能をつけていろいろな情報を集めてきて、今起こっている消費者のエクスペリエンスを圧倒的に見える化をしてビジネスに活用しようということです。

これをサイバーな空間でフィジカルにあるものをデジタル化してあげて、フィジカルの空間で起こっているものをサイバーの空間でも同じようにコピーしてきたものは「デジタル・ツイン」と呼ばれますね。デジタルの双子です。リアルのワールドにあるものをバーチャルの空間でデジタルの双子を作ってあげるというのはよく言われる話です。

私どもダッソー・システムズでは、デジタル・ツインをもう少し広げたかたちで物事を考え始めています。「エクスペリエンス・ツイン」と書いているんですが、「モノをデジタル化しよう」と言っています。

これはなにかというと、今起こっている消費者エクスペリエンスではなくて、これからものづくり企業が開発して販売してユーザーさんに使ってもらう、未来の製品の消費者エクスペリエンスをデジタル空間で創出しようと。

開発者の意図どおり、物理法則に従ってバーチャルの空間で再現して、それをビジネスに活用していく。エクスペリエンスできる双子をバーチャル空間で作っていこうという話です。

言葉だけで言っていてもわかりにくいので、絵を用意しました。(スライドの)左側がデジタル・ツインですね。これは工場の例ですけれども、よくある話です。インダストリ4.0とよく聞くかと思いますけれども。

工場のいろいろな設備にセンサーをつけて、弊社のソフトウェアで3次元でデジタル化したものを、その工場からセンサーが得た情報を使って動かしていただける。いわゆる現在のエクスペリエンスの見える化を行ってオペレーションを改善していこうという流れになると思います。

今、私が申し上げているエクスペリエンス・ツインというのは、今ビデオに出ていますけれども、これは今ある車ではなくて、自動車メーカーが開発しようとしている製品なんですね。例えば、手前はABSがついていて、奥はABSがついていない車です。低μ(ミュー)の路線に乗っかってフルブレーキを踏んだあと、さらに普通の路面に戻ったときにどんな挙動を示すかということを(検証している)。

車を1つのシステムとして捉えて、メカ、機械もの。エレキ、電気もの。それからソフト、制御するソフトウェア。こういったものをすべて統合して設計・開発する。開発の意図をこのエクスペリエンス・ツインに埋め込むわけですね。

最近1Dシミュレーションというものが流行っていますけれども、そういった物理法則に従って運動方程式を解いていきながらシミュレーションした結果がこういうかたちになっている。

今ないものなんだけれども、未来の製品によって消費者が得るエクスペリエンスを創出してあげることによって、製品の魅力を向上していこう、と。いわゆる売れる製品を作りたいわけですね。製品の魅力を向上していこうというところが大きな主題になってくるのかなと思います。

ボーイング社の開発に使われた「3DEXPERIENCE」

リアルのもので試作を繰り返すとすごいコストがかかるんですけれども、バーチャルな世界なのでいろいろな可能性・エクスペリエンスをここで検証することができます。その繰り返しをバーチャルの中でやっていくと、製品の魅力はどんどん向上させていけるのではないかと考えています。3Dでやるエクスペリエンスなので、私どもはこれを「3DEXPERIENCE」と呼んでいます。

例えば、私どものファーストユーザーは実はボーイングさんで、ずっと弊社のソフトウェア使っていただいてるんですが、有名な787の開発をする時、弊社のソフトウェアを使って3DEXPERIENCEを実現していただきました。

これもよく聞く話ですけれども、ボーイングさんもそうなんですが、日本でいうとJALさんやANAさんのような、いわゆるエアラインさんが求める要求をベースに機体の開発をしてたわけなんですけれども、787はそうではない。エアラインではなくて、ボーイングの飛行機に乗っていただける乗客のみなさんが機内でどんなエクスペリエンス、体験をするかということをベースに開発しよう、と。

例えば、飛行機によく乗られる方だったらよく感じることだと思うんですが、気圧がおかしくなって耳がつーんとしたり、空気が乾いてくるので肌がカサカサになってしまったり、ということがあるかと思います。そういった場合、いかに地上と同じような適切な機内圧や湿度を保てるか。

もしくは、例えば窓際に座った人は景色を楽しみたいと思っているんですけど、窓が小さかったり、なかなか楽しめない。じゃあどうやったら強度を保ったまま大きな窓をつけることができるのか。 

湿度にも強くて、圧力にも耐えて、しかも大きな窓をつけても大丈夫な機体を作りたいというときに、ボーイングさんは新しい材質としてこの炭素繊維複合材ですね。コンポジット。

これで機体を作るのはすごく難しいんです。設計もすごく難しいんですけれども、技術のイノベーションを起こして、こういったパッセンジャーのエクスペリエンスを実現しようとされたわけですね。

これに、私どものそういった3DEXPERIENCEをできるソフトウェアをいくつかご提供させていただいて、コンポジットの難しい機体の設計であるとか、微力ではあるんですけれども、製造のサポートをさせてきていただきました。こういったところが実践例ですね。

メカ・エレキ・ソフトの情報を統合

少し技術的な要素になりますが、この3DEXPERIENCE、エクスペリエンス・ツインをやっていこうと思うと、今、私どもでは3つの技術要素、要素技術が必要になると思っています。

(スライドの)一番左がモデルベース・システムエンジニアリングですね。一般的にはシステムエンジニアリングとか、あとモデルベース開発といったものを組み合わせたものになりますけれども。

先ほども申し上げた、メカやエレキやソフトウェアの情報を統合的に開発をしていって、製品をあとからすり合わせるのではなくて、最初からシステムとして開発をしていくという方法。

今度は真ん中ですね。そういったメカ・エレキ・ソフトの情報が統合されたものを使って、バーチャルモデルを使ってシミュレーションをしていく。これもリアルの挙動を物理法則に従って忠実にバーチャルで再現しています。

最後、シミュレーションした結果などを使いながら、最近非常に気軽にバーチャルリアリティも楽しめるようになってきましたが、そういった没入環境の中で体験を実際していく。

これは今3つのビデオで、自動ブレーキ、高速道路での自動運転、シミュレーションと体験のところの一連の流れを見ていただいていますが、こういった3つの技術要素が非常に重要になってくると思っています。

もう1つ重要なところが、これらの要素技術によって、バーチャル上でできるこのエクスペリエンス・ツインをバラバラのツールの中でやっていくのではなくて、ものづくり企業にとっては1つのプラットフォーム上でこれらが有機的に連携する意味がすごく大きいんです。

いわゆるトライ&エラーをバーチャルでやりたいので、設計変更とかがよく起こるんですけれども、設計変更が起こるたびに違うツールでやり直しをしていたら大変なんです。これを一連の流れの中でやっていけるというところが非常に重要です。

弊社の宣伝になって申し訳ないんですが、「3DEXPERIENCE プラットフォーム」というものづくり企業向けのプラットフォームを用意させていただいて、こういったそれぞれのアプリケーション、システムエンジニアリングやシミュレーションやバーチャル体験をやっていくアプリケーションを提供させていただくとともに、それらを有機的につなぐようなプラットフォームを用意させていただいています。

みなさんプラットフォームというと、例えば音楽だとiTunesとか、動画だとYouTubeみたいなものがすぐ思い浮かぶと思うんですが、ものづくり向けのプラットフォームといって思い浮かぶものっておそらくないと思うんですね。実はあんまりないんです。

しかし、私どもはものづくりをやっていく上で重要なエクスペリエンス・ツインをメディアとしてインターネット上で流通させて、ものづくり企業が各部門ごと、もしくはサプライヤーさんやその先の消費者のみなさんに流通させて、その方々がビジネスに活用していくというプラットフォームを開発して、今提供を始めています。これが「3DEXPERIENCE プラットフォーム」というものです。

先ほどご紹介した豊富なアプリケーション群を組み合わせて、ものづくり企業の業務改革を後押しすることができるのではないかと考えています。

グローバルな拠点間をプラットフォームでつないでいく

(スライドを指して)これは概念的にEnd to Endでものづくり企業のプロセスを出しています。

真ん中でズバッと切れていまして、前半がいわゆるコトづくりと呼ばれている部分ですね。設計図面を出していく部分になります。この設計図面の中に消費者の体験をどれだけ取り込めるかということになってきます。

後半が、そうは言っても、ものづくり企業はバーチャルでものを作っただけでは儲からないんですね。それをリアルの製品に製造して、物流でお客さんのところまで届けてはじめて儲かるわけですから、相変わらずものづくりという考え方も非常に大事になってきますが、これらすべてのプロセスをプラットフォームで管理していこうというかたちになります。

(スライドを指して)これは細かいところは割愛しますけど、どういうことかというと、そういったものづくり企業の中でシステム設計やエンジニアリング、製造、物流、調達、サービスなどいろいろな業務がありますけれども、その業務ごとに使われるデータのモデルがすべて一連で関連づいていきながら一気通貫で管理をしていくことができる。

そうすることによって、繰り返し行われる設計変更にも非常にロバストな体制で、プロセスで設計開発を進めていただけるのではないかと考えています。

もう1つ。先ほど申し上げたように、例えば企画の方や開発の方、製造の方をプラットフォームでつないでいくということが大事だというお話をさせてもらいましたが、地理的にバラバラになったグローバルな拠点間をつないでいくということも、製造業では非常に重要です。

後ほどお話しさせていただきますが、グローバルに製造・調達を最適化していく時代になったときに、どこの地域に行っても同じデータを常に持つことができるかというところは、ものづくり企業が非常に苦労されています。

例えば、よくあるんですけれども、同じ情報が複数のデータベースに入っていると、同期化、レプリケーションと言われるものを起こさないと情報を共有することができませんし、同期化には時間のタイミングのずれがあって、それが原因でミスを引き起こすこともありますよね。

グローバルに1つのデータベースでつないでいくことができるということも、ものづくり企業にとってのプラットフォームの1つ重要なポイントであると思っています。

デジタル技術で実機検証を削減

ここまでは、3Dのデジタル技術を活用してどんなことができそうかというところをざっくりとご紹介させていただきましたが、ここからは、いろいろな技術を使ってどんなことをやっていってるんだろうという事例や、ものづくり企業と都市に向けた事例なども踏まえて、ご紹介をさせていただきます。

では、まずものづくり企業向けのお話をさせていただきたいと思います。これは先ほども出てきたスライドですけれども、この中ではまず前半のコトづくりのお話。そのあとにモノづくり側のお話をさせていただきたいと思います。

コトづくりのほうのお話は、先ほど出てきた3つの要素技術が、今どんな最新のテクノロジーとして使われているかというところを一つひとつご紹介をさせていただきます。

一番最初のシステムエンジニアリングやモデルベース開発という部分です。こちらにいらっしゃるものづくり企業のみなさんは、最近よくこういう絵を見られるかと思います。いわゆるV字開発というやつですね。

商品の企画からメカ・エレキ・ソフトウェアをそれぞれで開発をスタートしてあげて、あとからすり合わせをする。これは日本企業は得意で、20~30年前はこのすり合わせ技術が海外の製造業を席巻したわけです。すり合わせを行って製品を仕上げていくというやり方をやってきたんですが、これが通用しなくなっている。

なぜかというと、製品の中でソフトウェアの要素が占める割合が非常に高まってきているんですね。すり合わせでやっていけるほど単純な製品ではなくなってきたということです。今、ものづくり企業は非常にコンプレックスな製品を開発されています。

ですので、あとからすり合わせるんじゃなくて、最初からものをシステムとして捉えて、全体検討していこうというところが1つの大きなポイントになります。そうすることによって、製品として本当にこの性能がお客様の要求を満たすものになっているかというトレーサビリティも取りながら開発していくというやり方です。

つまり、物の形ではなくて、性能を基軸にしたかたちで設計や検証プロセスということをやっていこうという話になります。

もう少し申し上げますと、今までの製品開発は企画でいわゆる性能の目標を決めているわけですけれども、それをベースにして3Dで設計をするんですね。

これは3次元CADを使うとか2次元のCADで図面を描くとか、はたまた、今はもうほとんどないと思いますけれども、ドラフターで線を引くとか。どのツールを使おうが関係なくて、頭の中では常に3次元でものを見ながら考えて設計を行うんですね。

その3次元で設計を行ったものを図面に落として、試作をして、その上で実機検証するんですけれども、よくあるのが、実機検証してみると性能未達という話で、もう1回また前に手戻りを起こしていくというかたちですね。ここに非常に多くのコストがかかっているし、時間もかかって、製品開発の期間が伸びて市場に投入するのが遅れるということがよくあります。

これが、近い将来はこうなってくるんじゃないかなと。

すでにこういった取り組みを始めてる企業もたくさんいらっしゃいますが、本格的にこういう時代がそろそろ来るのではないかなと思っています。

性能目標に対して1次元のCAE。1DCAEと最近よく言われますが。いわゆる物理方程式を解いていくなかで、その性能設計を行っていく。機能ばらしを行って、性能設計を行ってから、その性能を3次元に転写していくというかたちですね。いわゆる性能設計と機能設計を行うことによって、このV字の左側、前工程のほうで性能を担保するんですね。後ろ工程になってから「あ、性能未達だ!」ということがないように、前工程で性能を担保する。

それから実機の検証も、その前に3次元のCAEの自動化なんかも進めていきながら、デジタルの技術を使って、そういった実機検証自体を削減していこうという流れもあるかと思います。

開発のところで出てくるデジタルなデータは、先ほどから申し上げているプラットフォームの技術を使って全体を管理していけると、全体の効率化にもつながってくるという話です。

リアリスティックなシミュレーションの世界

例をご覧いただきます。これはプジョー・シトロエンさんでやっていただいた事例なんですけれども、車のオートバックドアがありますよね。このオートバックドアを、3次元のみならず、その前にロジカルデータから1次元の制御モデルを作っていって、性能の設計を行っている例です。それを3次元でシミュレーションしています。

これは車のオートバックドアです。普通だったら開け閉めができるんですけれども、「後ろに自転車を乗せたときにどうなるか?」という検証をしています。

これは、もちろんソフトウェアの中で制御の部分を作ってやることができるんですが、例えば前の機種の制御のフォームなどを使っていきながら、3次元のバーチャルなデータを動かして挙動を確認する。そうすると前のボードでは、ドアがちゃんと自転車の分重たくなって、開かないということがわかりました。

これをバーチャルな世界で最初に全体検討して、いわゆるメカもエレキもソフトも組み合わせて検討していくと、「この問題はメカで解決するのか?」「いやいや、ソフトウェアの制御を変更するのか?」「電気系統なのか?」「メカの場合、例えば自転車を乗せる重心位置をどこか変えてあげればいいのか?」などなど、いろいろな可能性をバーチャルの中で模索することができるんですね。

この場合は、少し制御の仕方を変えてあげることによって、実際に前の基盤もうまく使っていきながら、ドアが開け閉めを普通にやっていけるというようなことをやっていました。

非常に単純な例で申し訳ないんですけれども、このようなメカだけではなく電気の情報や制御、ソフトウェアの情報を一緒に合わせながら設計・開発を行っていくことが重要になってきます。

今のように設計したものを使うと、今度はシミュレーションの世界です。リアリスティックなシミュレーションの世界というところで、テクノロジーとしては非常に発達をしてきています。

(スライドを指して)ここがマトリクスになっているんですが、横軸は「マルチフィジックス」と書いてあります。世の中にある物理特性というのはいろいろあって、こういった物理特性の違うものを組み合わせながらバーチャルな世界でのシミュレーションをしていくという技術。

縦軸は「マルチスケール」。非常にミクロの、分子レベルの小さいものから、後ほどご紹介する都市のような大きなものまで、システムとして捉えられるもの、マルチスケールでの解析・シミュレーションが求められてきているという時代がやってきています。

マルチスケールでの解析・シミュレーション

例をいくつかご覧いただきます。車とか飛行機とか簡単な例が出ていますが、これは一般的に物理特性としてもよくある、金属といったものです。もちろん流体などもやることができます。こういったリアリスティックなシミュレーションというのは、長年ずっと培われてやってきたものです。

このような技術をベースにして、これは少し極端ですけれども、例えば人間の身体も今はバーチャルモデルでシミュレーションできる時代が来ています。私どももサポートさせていただいているこの「Living Heart Project」というものがあるんですけれども。

心臓の拍動、心臓も電気信号で動きますので、心臓の拍動をシミュレーションしたり。あとは個人個人の心臓モデルをバーチャルで3次元化することによって、手術をする前にどこに悪いところがあるのかを3次元で見たりして「どういう手法で手術をしていこうか?」と検討できる。医療の世界でこういったシミュレーションを活かしているという例も最近出てきています。

もちろん目に見える世界だけではなくて、最近はIoTの時代になってきて通信がすごく重要になってきているんですけれども、あちこちでこういった通信が行われているなかで、電磁場の影響ということを見極めていく。

自動車と自動車間の通信は、これからコネクテッドカーの時代が来ると非常に重要になってくるんですが、目に見えない世界もシミュレーションを使って見える化をして、問題があったらあらかじめ解決をしていただけるという世界観ですね。

もう1つの軸、マルチスケールのお話をさせていただきたいんですが、いわゆる原子・分子といったミクロの世界から都市のようなシステムの世界まで、これを一連の流れでシミュレーションできないかということが最近始まっています。

例えば、これはリチウム電池のマルチスケール解析ということで、リチウムイオン電池の材料の設計を分子レベルの材料シミュレーションからやって、電極構造の設計。それから実際に電池パックとしてなったときの熱輸送の設計なども、全部バーチャルの中でシミュレーションしていって性能を検証していくということですね。

最終的には、「リチウムイオンバッテリーが電気自動車に搭載されてどんな性能を示すのか?」「パソコンに搭載されてどんな性能を示すのか?」、もしくは「電気自動車が都市の中を走ったときにどういう充電、放電のサイクルになるのか?」などなど、ミクロの世界からマクロの非常に大きなシステムの世界まで、一連の流れのなかでシミュレーションしていくところもできる時代がやってきています。

その分子構造のレベルのシミュレーションです。これも弊社ソフトウェアなんですけれども、ご紹介をさせていただきます。

例えば、日々薬品や材料の開発などをされている方は、その材料もしくは薬品の機能を強化していかなければいけない。なにか副作用みたいなものがあったら、その副作用を抑えるためになにか変えていきたい、ということを日々開発されているわけです。そういった材料の開発や薬品の開発をやっておられる方に使っていただいている、分子レベルでのモデル設計およびシミュレーションのソフトウェアです。

バーチャルで行われる車の衝突実験

こういった世界が実際に現実のものになってきています。こういった材料の分野からものづくりを革新していこう、モノを設計する前にまずそのモノに搭載される材料から見直していこう、というところはもうすでに先進的な企業で多く始まっています。

ものづくりの最後になりますが、バーチャル体験の部分ですね。これは最近VRなども非常に発展してきています。これはVRではないんですけれども、先ほど申し上げた1次元のシミュレーションや3次元のシミュレーションを組み合わせて解いてあげた。というか、同時にリアルタイムにシミュレーションをしながら運転しているんですけれども。

これはただのゲームじゃないんですね。本当に物理法則に従って、このレーシングカーが運転者の指令に従ってどういう挙動をするかということをリアルタイムにシミュレーションしながらエクスペリエンスしていくことができるというかたちですね。

将来出てくる車のバーチャルでのエクスペリエンス。これも没入環境に入れてあげることができるんですが、そこでやっているような話です。

それから、ずっと昔から培われている技術で別に新しくもないんですけれども、最近はこの衝突のシミュレーションの結果もリアリスティックに見たいという要望があります。

これはホンダさんでやっている事例です。無垢なデータではなくて、こちらに今見えているような、これはbody-in-whiteですけれども、このようにリアリスティックにですね。

これはもうボディも入ったかたちですね。ガラス部分だけは割れないのでバーチャルデータだということがわかっていただけると思うんですけれども。

こういった衝突の実験をバーチャルのなかでやっていって、それをリアリスティックに見ていくと、本当にそうなったときのエクスペリエンスがよりわかりやすくなる。本当に乗客がどんな体験をするかということがわかりやすくなるということで、こういった活用の仕方もしていただいています。

もちろん、営業やマーケティングもですね。これはアウディさんの例ですけれども、作った3次元のデータのコマーシャル。アウディさん非常に革新的なコマーシャルよくやっておられますけれども、ああいったものもバーチャルでやられていますよね。こういうかたちで使ったりであるとか。

それから、みなさん車買いに行ったときに販売店行ったら、自分がほしい色の車が実車がなかったり、なかなか確認できなかったりみたいなこともあると思いますが。こういったときも、バーチャルなデータで自分のほしい車、色やオプションを確認していただくために3次元のデジタルテクノロジーを使っていただいたりしています。

ものづくりのお話をさせていただきましたが、このようなかたちで、3つの技術要素をやはりプラットフォームでつなげていくというところも重要なんですよね。

このあたりをやっていただいている企業モデルで、ヨーロッパにAKKA Technologiesさんという企業があるんですけれども、自動運転のタクシーの開発をされています。「Link & Go」という車です。複数の拠点をクラウドでつなぎながら、システムエンジニアリングから物理設計までやっていただいています。この例は、後ほど都市のほうでもう少し詳しくお話をさせていただきます。