国民はアベノミクスに満足していない

記者1:フランス10、ゲイレポーターのサカイユウトです。よろしくお願いします。世間の各政党への支持率を調査した統計では、自民党29パーセントで圧勝とのことでしたが、なぜここまで自民党の支持率が高いのでしょうか? よろしくお願いします。

田原総一朗氏(以下、田原):それはさっき言ったように、野党がなにも主張してないから。なにも主張していない。

具体的にいうと、過去4回選挙があって、いずれも自民党が大勝している。その時、選挙の時に、私は野党の各党首たちに「アベノミクスの批判なんて国民は聞きたくない」「もしあなたの党が政権を取ったらどういう政策を出すのか。アベノミクスに代わる対案、これを示してほしい」。

ところが誰も対案を示せなかった。国民はアベノミクスに満足してるんじゃない。不満があるんだけど、どこからも対案が出ないから仕方なく我慢している。これが現状です。

今回もユリノミクスっていうのを言い出した。私は期待したんだけど、中身はなにもなかった。

記者2:元國民新聞論説委員、フジタと申します。田原さん、戦争を体験した世代なんでおうかが……。

田原:え?

記者2:戦争をね、体験した。……まあ、軍歴はないでしょうが。

田原:はい。

戦時となってしまった場合…

記者2:戦争を体験した世代なんでおうかがいをしたいんですが。下手すると次期政権は戦時内閣、我々ももちろん1945年の占領から、朝鮮戦争、ベトナム戦争と、まあ、戦時ジャーナリストは多かったんですが、我々もしかしたらその戦時ジャーナリストになる可能性もある。

そうした時に、果たして田原さんが体験したような悲惨な戦争体験をせずに日本を守るためにはどうすればいいのか。それを具体的におうかがいしておきたいと思います。

田原:私は戦争を知っている最後の世代だと思う。私が小学校5年生の夏休みに、玉音放送がありました。小学校では5年生から社会の授業が始まる。

そこで1学期、この社会の授業で先生が、「この戦争は世界の侵略国であるアメリカ、イギリスを打ち破り、アメリカやイギリスの植民地にされているアジアの国々を独立させ、解放させるための正義の戦争である。だから、君らも早く大人になって戦争に参加して、天皇陛下のために名誉の戦死をしろ」と、こう教えられた。1学期。

先生だけでなくて校長をはじめ、あるいはNHKのラジオも、朝日新聞、毎日新聞、全部そう言っていた。ところが2学期になると、先生の言うことがまったく変わった。

2学期になると、先生が「実はあの戦争はやってはいけない戦争だった。間違った戦争だった。日本が侵略戦争をしたんだ。で、君らが平和のためにがんばらなきゃいけない。戦争が始まりそうになったら、身体を張って戦え。」。

それから、1学期までは英雄だった東條英機さんをはじめ、軍の幹部が占領軍に逮捕された。1学期まではラジオも新聞も東条さんをヒーローだと扱っていた。

2学期になって、占領軍が東条さんたちを逮捕すると、ラジオも新聞も「逮捕されるのは当然だ」と書いた。いかに東條や軍の幹部が悪いことしたかとこぞって書いた。

これが私の原点で、大人たちが最もらしい口調で言うことは信用できない。とくに偉い人の言うことは信用できない。国家は国民を騙す。マスコミもまったく信用できない。これが私の原点で、今もそう思っています。

司会者:じゃあ田原さんも、私たちを信用してはいけないんですね?

田原:なんで?

司会者:だってメディアの方だから。

田原:あなたは実はマスコミを信用していないと思う。だからジャーナリストやってるんでしょ?

司会者:そうそう。イエス(笑)。

トランプと金正恩、どちらをインタビューしたい?

司会者:じゃあ次のご質問。じゃあ私のほうから質問を。今までのご発言はどちらかというと政治家的な観点からだったんですが、もう少しジャーナリストの視点からお聞きしたいことがあります。

先ほどの話なかでトランプ、そして安倍さんの話が出ていたんですけど、もし田原さんがインタビューをするチャンスがあった場合、トランプのインタビューをしたいですか? それとも金正恩のインタビューをしたいですか? もし機会があればどっちがいいですか?

田原:もちろんトランプのインタビューをしたい。金正恩なんておもしろくないと思う。

(会場笑)

つまり、いかにアメリカと戦うかということしか言わない。

『朝生』はどんどんタブーに切り込んできた

記者3:フリーランスのコヤマです。(田原さんは)日本の政治家はダメだと。日本の……。

田原:ダメだとは言っていません。

記者3:そうですか?

田原:信用しないと言ってるだけ。

記者3:日本のマスコミは信用できないと。よくわかりました。しかし、これはニュースでもなんでもなくて、多くの日本人はそう言ってます。

田原:思っています。

記者3:ええ。そこで、これをよくするにはなにが必要なんでしょうか?

田原:私は、日本が間違った戦争に入り込んだのは、基本の基本は、言論の自由がなかったからだと思います。私はこの言論の自由は、自分の命をかけても守らなきゃいけないと思っています。

一例を言いますと、さっきの『朝まで生テレビ!』が始まった翌年、昭和天皇の病気が重くなって危篤状態になった。そこで編成局長に、「今こそ天皇問題をやりたい。天皇の戦争責任を問いたい」、こう言った。「バカヤロー」って言われた。この「バカヤロー」のやり取りが4回ありました。で、最終的には「わかった」と、「テーマ変える」。

その年に、韓国のソウルでオリンピックが開かれた。そこで、「『オリンピックと日本人』でやる」と言った。編成局長は「それはいい」と賛成した。新聞で予告したタイトルは「オリンピックと日本人」。

ところが、『朝まで生テレビ!』は午前1時過ぎ、つまり夜中の番組です。で、生だから、実は「天皇の戦争責任」をやりました。編成局長をだましたわけです。翌日、編成局長に謝りに行きました。ところが、番組は視聴率が非常によかった。評判も非常によかった。編成局長が「田原さん、悪いけど大みそかにもう1回やってくれ」。

(会場笑)

それ以後、『朝まで生テレビ!』は、もうタブーにどんどん挑むということをテーマにしています。

その1つ、日本にいる韓国系の連合、北朝鮮系の連合、両方出てもらって、北が正しいか韓国が正しいか、討論をやりました。「大討論になり、殴り合いになり、下手すると殺し合いになるんじゃないか」と思ってた。

ところが、実は大した討論にならなかった。「北も南も、本当は仲がいいんだな」と思いました。そういうことがありました。

女性宮家の創設や女性天皇について

記者4:フランス10のオイカワと申します。先ほど「日本には保守がない」ということでしたけど、ユーロ圏に限っては、今、左翼も右翼も両方財政緊縮路線で、極右と極左だけが社会保障をやろうという状況になっているので、それはちょっと日本とは違うなと思いました。

それで質問なんですけども、田原さんは女性宮家の創設や女性天皇については、どのようにお考えなのかをおうかがいしたいと思います。

田原:もちろんいずれも大賛成です。天皇自身もその両方は実現したいと思っています。反対しているのは日本の右側です。日本会議とか。

日本の右側は天皇を敵だと思っています。「あんなのはお祈りさえしてればいいんだ」と、「沖縄に行ったり、サイパン行ったり、ペリリュー島行ったり、あるいは、靖国に行かなかったり、とんでもない人間だ」と。右翼にとって天皇は敵です。また、天皇はその日本の右翼と戦っていると思います。

さらに言えば、安倍内閣の多くの閣僚が日本海に入ってます。彼らは天皇を敵だと思ってるわけです。

司会者:先ほどの話の中で「日本の政党はどこも変わらない。みんなリベラルである」とおっしゃっていましたけど、日本共産党は例外として、それはさておき。先ほど別の話題で(田原さんは)「タブー」とおっしゃいました。

「日本は変な国だ。ほかの国とは違う」とおっしゃっていましたけど、ヨーロッパが日本に対して1つ考えてほしいのは死刑廃止についてです。この点に関してはどのように考えていますでしょうか>

田原:実は昔、京都大学に高坂正堯っていう教授がいました。私はとっても信頼してました。高坂さんと私の意見は、「死刑は廃止しない。しかし、死刑は廃止しないけど、執行しない」という意見で一致しました。

司会者:今でも同じ考えですか?

田原:はい。

安倍氏曰く、「憲法改正する必要がなくなった」

司会者:あと2問くらいしか時間ありませんので、女性の方どうぞ。

記者1:AFP通信社のハセガワと申します。ちょっと選挙のことに話を戻したいんですが、この選挙は自公で勝つというような世論調査の情勢出ていますけども、選挙が終わってから、今度、安部さんがどんなことに取りかかるというふうにご覧になっていますか? とくに、どんな政策に、手をつけるというふうにご覧になっていますか?

田原:小池さんの希望の党が憲法改正に賛成なので、私は憲法改正に手をつけると思う。ここで1つ大事なことを申し上げたい。

実は去年9月に安部さんに会った、もちろん1対1でね。その時に、「衆議院は与党で3分の2を取って、こないだの選挙で参議院も3分の2を取った。いよいよ憲法改正だね」と言いました。

もう言ってもいいと思いますが、実はその時安部さんが「実は」と、「田原さん、大きな声じゃ言えないけど、憲法改正する必要がまったくなくなりました」と言いました。「なぜ?」と聞きました。

そしたら、「実は、集団的自衛権の行使を決めるまでは、アメリカがやいのやいのとうるさかった」。(リチャード)アーミテージ(アメリカ元国務副長官)や(ジョセフ)ナイ(国際政治学者)が声高に叫んでいた。

日本でも岡崎久彦(元外交官)、北岡伸一(政治学者)、中西寛(政治学者)たちが、「集団的自衛権をやるべきだ」と盛んに言ってました。読売新聞や産経新聞も盛んに言ってました。

ところが、集団的自衛権の行使を決めたら、アメリカはまったくなにも言わなくなった。満足したんでしょう。だから、憲法改正する必要はない。ただ、この後があります。「ただ、日本の憲法学者の7割近く」、実は63パーセントなんですが、「自衛隊は憲法違反だと言っている。だから、憲法に自衛隊の存在を明記したいと思う」。

私は「安倍さん、それは誤解だよ」と言った。実は憲法学者の63パーセント、確かに朝日新聞の調査で自衛隊は憲法違反と言っている。しかし、だから憲法改正をしようと言ってるんではなくて、逆です。

今の自衛隊は軍事力世界第7位。当然ながら、交戦力も戦力もある。だから、今の自衛隊は憲法違反。だから、軍縮をすべきだっていうのが、憲法学者の意見です。そういう話をしました。

メディアに政治の圧力がかかることはあるのか

記者2:田原さんは2年前にもFCCJ(日本外国特派員協会)にいらっしゃったと思います。その時に田原さんは「政治的な圧力がメディアにかかっている」と記憶しております。

当時、3人のキャスター、アンカーが降板させられている時期なんですけども。その後その見方というのは変わったことはございますでしょうか? そもそも、そういった政治圧力というものが、この2年間あったのかどうかについてお話しいただけますでしょうか?

田原:日本では、具体的に政治圧力はないと思っています。なぜならば、私は3人、総理大臣を失脚させています。でも、私は逮捕もされてない。で、政治圧力はないんだけども、実は、ほとんど新聞社やテレビ局の幹部が自主規制をするんです。「こういうことをすると政府ににらまれるんじゃないか」とか。99パーセント、新聞社やテレビ局の幹部の自主規制だと思います。

もしも総理大臣や官房長官が具体的な圧力をかけたということをすれば、私が総理大臣や官房長官に「とんでもないことをする。やめろ!」と言いますよ。で、総理大臣を失脚させます。

(会場笑)

今回の選挙の投票率はどの程度になるのか

記者3:ありがとうございます。私自身はドイツ人なんですが、(日本では)どうしても有権者と政治の間のギャップがあるように見えます。日本では左派の有権者が、リベラル、左派の政党がないがために、投票したい政党がないんじゃないか。

田原:いや、左派ありますよ、共産党。

記者3:(リベラルの有権者が投票したい政党が)ないのではないかと思っている節があります。今回の選挙は結果的に投票率はどのくらいになると思いますか?

今までは50パーセントくらいの人が投票所に行かないということがあったんですけども、今回はもう少し投票率は良くなると思いますか?

(投票率は)60パーセントぐらいいけばいいと思ってる。日本人というのは不思議な民族で、あまり政治に対する不信感を持ってないんですね。この20年間に実質賃金、18パーセント落ちています。アメリカやヨーロッパなら不満のデモが起きる。日本はデモも起きない。

司会者:(記者5を指して)若いから最後にチャンスを!(笑)。

記者5:田原さん、はじめまして。タレントでありフリーランスのハリー杉山という者です。ジャーナリストの息子です。

この時代、昔あった紙だけではなく、この時代は例えばInstagramとかSNSとか、さまざまな分野で誰でもジャーナリストになりえる時代だと思うんですけども。そういう時代の中でジャーナリストを目指すという人々に対して、1つだけアドバイスがあれば、それは何になるでしょうか?

田原:1つは好奇心を持つこと。2つ目はあらゆることを疑うこと。

司会者:田原さん、どうもありがとうございました。

おっしゃったことが正しかったかどうか、選挙のあとにまたお目にかかることができたらと思います。