イタいことの大切さを熱弁

大谷:今日はそれぞれ感じの違う講義で面白いですね~。さあ、そして、最後の講義でございます。最後の講義は、お笑い芸人エハラマサヒロ先生になります。授業タイトルは、「イタいことの大切さ」。それでは、エハラ先生、よろしくお願い致します。

(会場拍手)

エハラマサヒロ(以下、エハラ):どうも、北斗晶です。よろしくお願いします。ね~、今日は新日の(佐々木)健介の話でもしようかなと思っているんですけど……ふざけんじゃねーよ! なんて雰囲気してんだ、テメーラほんとに。コストコ行ってこいコストコ(笑)ってね。そういうものまねをやっているエハラマサヒロといいます。お願いします!

(会場笑)

この前までの先生の講義が、真面目でしっかりしすぎて、最後に出るの、あっちで足震わせてましたよ。

正直、こういうところでお話をさせてもらう機会なんて、なかなかないんです。普段は舞台でお笑いをする仕事で、本当に真面目に話をさせていただく機会はないんです。なので僕は話術もないですから、ちょっと退屈かもしれないですけど、エンディングトークやと思って聞いてください。

(会場笑)

さっきまでで、授業は終わって、ここからはエンディングトーク。今から、僕がたどってきた芸歴や考え方を通じて、みなさんになにか伝わればええなと思いますので、ちょっと聞いていただきたいと思います。

私、エハラマサヒロというピン芸人をやっておりまして、先ほどちょっと芸歴をご紹介いただいたんですが、25歳でデビューというよりは、19歳でデビューしたんです。けど、コンビを経て、25歳でピン芸人で、今ちょうど10年ぐらいやっています。

芸歴は15年なんですけど、最初の5年間は紆余曲折があって、25からピン芸人で、今10年たってるというところなんです。

R-1グランプリというピン芸人の大会に出させていただいたり、ものまねをやったり、歌ったり、ミュージカルやったり、踊ったりしてるんですけど、基本的にトークはめちゃくちゃ苦手なんです。

ちなみに、僕のこと知ってるって方、いらっしゃいます? あ、どうもありがとうございます! Thank you for the people!

(会場笑)

文法とか、気にしないでくださいね。学はないですから、まったく(笑)。トークができればトーク番組に出ているんです。見たことないでしょ? 

(会場笑)

西野亮廣から学んだ「イタい」の重要さ

基本的に歌って、踊って、ものまねしているだけなんです。だから、トークができません。それをわかっていただいた上で聴いていただきたいんですが、僕は結構、吉本の中でも異端児というか、変わってるとすごく言われるんですね。

今日は「イタいことの大切さ」というタイトルでやらせていただくんですが、「イタい」という言葉。芸人用語でよく使われることが多いんですけど、知らない方のために言うときます。芸人って「あいつイタいな」とか、よく言われるんです。

すごく便利な言葉で、割とネガティブに使われることが多いです。例えば「あいつファンの女の子にちょっと手を出してイタいな~」とか、「身内に手をつけて、あいつこそこそ内緒で、いろいろやっとんねん、イタいな~」とか。「あいつ芸人なのに絵本描いてるで、イタいな~」とか。

(会場笑)

よく言われるんです(笑)。よく使われる「イタい」という言葉。芸人の中では、すごくネガティブに使われるんですけど、これを僕は、昔、ものすごく言われるのがイヤでした。

イタいと言われないように、ずーっと直していこうと思っていたんですが、あるときから、イタいほうがいいんちゃうかなと思ったことがいっぱいあったんです。

さっき言いましたけど、キングコングの西野 亮廣さん。今、絵本描いていらっしゃるんです。絵本作家の先生なんですよね。

僕、大阪のNSCという吉本の学校を出て、芸人になったんですが、西野さんには1年目からすごいお世話になってるんです。キングコング西野さんは、1年目からすごいスターやったんですよ。

いろいろとあったけれども、「自分はスターになりきれへんかった」と言って、西野さんが絵本に移行した流れを、僕は近くで見せていただいてました。周りの人たちからは、「あいつとあまり付き合わんほうがええで」とか「あいつイタいから、芸人の中からハブられんで」とか言われてましたけど。

でも、"キングコング西野"はスターやし、僕はイタいと言われようが何しようが実力出してる者のほうが上やないかと思っていたんです。

「イタい」というのは、要は「人と違うものを持っていること」だと思うんです。よく言うじゃないですか、「自分だけ信じて突き進め」とか。でも、はっきり言って、どこの社会に生きていても、自分をつらぬけるほど、実力あると思えなくないですか?

自分で自信持ってできるって思っていたり、絶対最高や、100点やと思っていたらつらぬけるけど、いろんな人がいて、いやいやこの世界でもこんなすごい人がおる、あ、俺よりもっとできる人がおるって思ったりして、そんな中で生きていて、俺最高やと思えることって、ほぼないと思うんですよ。

コンビも解散、うまくいかない日々

そうなったら、もう無理やりそういくしかない。目立つ方向を考えるしかない、と。そう思って昔、漫才師になろうと吉本興業に入ったんです。まず僕はコンビでやっていたんですけどダメで解散して、また組んで解散して。3度目組んで、また解散して……って(笑)。

歴代の相方、全員仲いいんですけど、3回も解散したら、たぶん、俺に原因があるんやろうなって思いました(笑)。じゃ、ピンでやらなしゃーないやろと思って、ピンになったんです。

3回目のコンビは、劇場でも割と中腹まで行ってたんですけどね。レギュラーライブにも出て、順風満帆かなと思っていたんですけど、レギュラーライブにずっと出ているのに、自分らだけ、ぜんぜん仕事が増えなかったんです。

周りの同じレベルの人間は、割とポンポンポンって営業が入ったり、ちょこちょこゲストの仕事が入ったりしてるんですけど、僕らのコンビだけ、レギュラーライブに出てるのにまったく仕事が入らない。僕らの後輩とか、下のレベルの人とかも仕事が増えている。なんでかな? ってずっと考えていた。

要はライブに出て、まあまあの笑いはとっているんですど、なにも突き抜けていないんですよ。よくいるコンビ、よくあるネタ、まあまあウケるベタなネタとか、そういうことをやり続けていると、霞んじゃって、周りからは見えなくなっちゃうんです。突出するものがない。

まったく面白くなくても、キャラクターがものすごく立っているコンビは、すぐ仕事がきたりします。特化しているから。あ、そうなんやと思いました。

僕、ものまねが得意で、いろいろやらせていただくんですけど、実は漫才の中にモノマネを入れるのが、すごくイヤだったんです。ものまねって、ぱっとやったら、すぐウケたりするんですけどね。先ほど北斗晶はスベってましたけど。

(会場笑)

大抵はそういうのをチラっと入れると、ウケたりするんです。だから、漫才の中で入れたらウケるんですけど、目先の笑いをとるのがちょっとイヤで、プライドで漫才には入れないと決めてやっていたんです。でも、どうしようもないなと思って。あるとき、ものまねをちょっと入れたネタをやったんです。

そしたら、ものまねきっかけで、他の仕事がポーンと決まったんです。あ、そうなの? って思いました。ネタがウケるウケないは関係なく、このコンビしかできないことをやってないとダメなんだと。

よく芸人の中では、「ネタは名刺や」って言うんです。「ネタは名刺だから大事にしーや」って。だから僕、面白いネタを作ることだけを、ずーっと考えてたんですけど、途中から変わって、自分らしいネタ作らないと、何もつながらないなと思うようになったんです。

例えばコンビでボケのほうだけものすごく背が高いとか、デカさとかをイジったネタってすごくわかりやすいじゃないですか。

あと、コンビの掛け合いがものすごく面白い、ケンカしてたらものすごく面白い、とか。突っ込みのほうがでくの棒で、まったくなにもしない。それを逆にイジるのが面白いとか。

コンビによってカラーがあると思うんですけど、そういうカラーがある人だけができるんだと思うんです。正統派でもオーソドックスを完璧にやって出てきている人って、少ないと思うんです。もちろん、いるにはいるんですけどね。

じゃあ、自分がどこをどうしたらええんか、どう表現したらええんか、周りは自分のことをどう思っているのか? それを、ちゃんとリサーチしてマーケティングして初めてアピールできるなって考えたんです。

うっとうしい顔がエハラの武器だった

で、気づいたんですけど、僕の一番得意なところ、人より突出しているところって、うっとうしい顔やったんですよ(笑)。イヤな特技でしょ(笑)。めちゃくちゃ歌ったりダンスとかしてて「イエーイ!」ってめっちゃカッコつけとるやん、あいつっていう(笑)。ちょっと腹立つっていうのが、特技だったんですよ。

(会場笑)

だから、そういうネタを作ることにしたんですよね。けどそれって、芸人からしたらものすごくイタいことなんですよ。お笑いの舞台で、みんなの前で「イエーイ!」って、ミュージシャンかぶれで「イエーイ!」って言っているのが。「あいつホンマに、なにが面白いのあれ?」って、すごく言われたんです。すごく叩かれたんですけど、それがあったから、今も僕、仕事続けていられると思います。 若手のとき、劇場にいると、イタいヤツってすごいイヤがられるんです。ハブられるんですよ。僕も昔はなんで自分がイタいって言われているのかわからなくて、直そう直そうとしていたんです、ずーっと。

その頃、割と先輩にもフレンドリーに行ってたんですけど、お笑いの世界ってわりと年功序列が厳しいんです。挨拶とか礼儀に厳しいとか、みなさん、よく耳にすると思うんですけど、先輩には気を遣って気を遣ってっていう、そういう世界やったりするんです。けど、僕はわりとフレンドリーに「ああ、いいですやん」みたいな感じだったんです。

そうしたら「あいつ先輩に超なれなれしくない?」「すげーイヤなやつじゃん、イタいなー」って、言われたんです。それを直さなあかんなって思って、いろんな先輩に対して、ボケもせず、ただ立ってるだけになったんですよ。

ほんならある時期、ある先輩に「お前は昔のイタいときのほうがオモロかったけどな」って言われて。いや、どっちやねん思って。

(会場笑)

ちょっと迷って、めっちゃイタいと言われて嫌われたから立っていたのに、昔のほうが面白かったって(笑)。これね、僕も芸歴15年で今だったらわかるんです。後輩を見ていて、ちゃんとしていればちゃんとしているほど、別に触ることもないから、なにも面白みを感じないんです。

変な人とか、声めちゃくちゃでかいとか、すごくなれなれしいとか、そっちのほうが、ちょっと覚えるし、印象に残る。だから、そっちのほうが絶対にいいんだって思った。

僕は、すごく一般人になろう一般人になろうと、周りのみんなと真逆のようにしようと思ったんですけど、これが一番の「悪」だと思った。もう飛び抜けるくらい飛び抜けたほうがいい。そっから、吹っ切れて、変わっていくようになったんです。