会社は人のモチベーションを殺す仕組みもある

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):この前、ホリエモン(堀江貴文氏)といろいろと打ち合わせしてたときに、彼が「サロンで漫画つくろうよ」と言っていて。「いや、それ、ちょっと大変すぎで無理ですよ」と僕が弱腰な発言をしたら、「いやいや、サロンのやつら、マジすごいから」「うちでやってるアニメのプロジェクト、こんなんだぜ」と言って、いきなり見せられたんですよ。

そのサロンの人たちは全員素人ですよ。アニメをつくったことのない人たちが「アニメをつくってみたいよね」と言い出して集まって、「どうする?」「よし、アニメをつくりたいっていう、クラウドファンディングやろう」と。集めた700万円ぐらいのお金でアニメをつくり出してるんですよ。

そこには、回収しないといけないこととかなにもないですよね。だから、ただただアニメをつくりたいだけ。「堀江さん、これ、どこかで流すんですか?」と聞いたら、「YouTubeで流して終わるんじゃないの?」みたいなことを言ってるんですよ(笑)。

(会場笑)

だけど、その700万円でアニメの制作会社のところに発注に行ったりしていて、全員素人なのに途中を見せてもらったら、プロがつくるのと変わらないようなものができ始めたんですよ。仕事をやってる素人だけでつくってそんなことができるんですよ。

やっぱり、人ってモチベーションほど重要なものないなと思って、会社という仕組みが人のモチベーションを弱めてしまう仕組みでもあるなと同時に思っています。

井上英明氏(以下、井上):そうですね、それ、よくあります。

佐渡島:ホリエモンサロンの場合、さらにすごいのは、例えばその中で本ができたとかアニメがうまくいったとなると、収益はそのプロジェクトをやった人たちが勝手に回収していいんですよ。

となると、うまくやっていけば1万円払っていても、もっと稼いでくることができる。そういう互助でビジネスができるような場を提供する、その基本理念みたいなのを用意するということのほうが経営者として、重要なんじゃないかなとも、最近思い始めています。

これからの会社のあり方

井上:ちょっと話が違うんですけど、僕の友達で牛角などをつくった西山(知義)さんが「社長としてとくに一番いい仕事ができる時間は?」という問いに、「ヨーロッパや海外に行ったときの帰りの飛行機の中が、社長として一番いい仕事ができる」と言ってるんですよね。

僕もよくわかるんですよ。海外に行って、いろんなものを見て、刺激をバリバリ受けてるじゃないですか。そのあと、飛行機の中で、10時間なり11時間、電話1本来ない密閉された空間で、ビリビリ感じた刺激をまとめながら、「こんなビジネスをやろうかな」「あんな店つくろうかな」というときは、会社に1週間いるときよりも、もっとクリエイティブで社長としても本当にひらめきがバンバン出てくるんです。

僕、飛行機の中で映画とか見たことないですよ。やっぱり飛行機の中でなにかものを考えたりする時間が一番、僕にとっていい仕事だなと思います。

もう1人はトライアスロン仲間で、彼も飲食なんですけど。彼も新幹線の中の時間が大好きだって言うんですね。「新幹線はけっこう時間がかかるから、ここで集中して仕事ができる」って言ってたんです。実は僕も今朝、飛行機で来たんですけど。東京から福岡に来るときは飛行機だとあっという間に着いちゃう。だから、これからはわざと新幹線にしようかなと。

(会場笑)

いやいや、本当に思ったんですよね。だから、会社というのは、青山にあるかどこにあるかよりも、自分にとってなにかが湧き出てくる空間を維持する人間の集まり。その時間の集合体になれば僕は極めて強いんじゃないかなと思います。

ホリエモンはエンパワーするのがうまい

会社というのがあって、毎日決まった時間に行って、そこでタイムカードを押してという時代はとにかく違うなっていう感じがしますけど。そこら辺、どうですか?

村上浩輝氏(以下、村上):まさにサロンの話、すごくしたいなと思っていて。堀江さんがサイバーの藤田(晋)さんに「ホリエモンサロンの人は自分でお金払って、すごく能動的に献身的に動いてくれるから、(給料払って)会社やってる人はわけわかんないんだよね」と言ったというのをなにかで聞いて(笑)。会社をやってる身として(藤田氏)は「おっ、おう……」みたいな感じで答えるしかなかった、ということを言っていたんです。

会社をやってる身としては、昨今、労働基準法もすごくうるさくて、仮に社員がやりたいと言っても、「今日は早く帰りなさい」と言わなきゃいけなかったり。いったいなんのための会社という仕組みなのか、ということを思っていて。

堀江さんのサロンって1万円で4,000人でしたっけ?

佐渡島:今2,000人。毎月すごい勢いで増えだしていて、止まらなくなってるんですよ。

村上:あれがバーッと集まってるのは、堀江さんの知名度でもあると思うんですけど、なにかコツってあるんですか?

佐渡島:いや、集まってるのは知名度なんですけど、堀江さんがやっぱり変わったのは、ファシリテーションを学んでいるんですよ。サロンでみんなをエンパワーする仕方が超うまくて。

村上:へ~。

佐渡島:だから、ホリエモンサロンにいる人たちは、みんな今まで自分になかった能力が発揮されて、「今までできなかったことができている」ということが喜びでずっとそこにいるんですよね。

村上:なるほど。

佐渡島:堀江さんが「いやいや、そのやり方、ひよってるだろ」とか、なにか駄目なことを言ってると「ダメ」、いいと「いいじゃん」と言って促進させる。ほとんど「いい」「ダメ」だけを言って、背中を後押しするだけという感じなんですけど。それがうまいんですよ。

村上:なるほど。堀江さんもコミュニティプロデューサーというか、マネージャーということですね。

佐渡島:堀江さんはTwitterの使い方、Facebookの使い方を本当に世界一わかってる人だと思います。だから堀江さんと一緒にいるとすぐスマホいじり出すんですよね。そういうときに、僕は「それ、今どういう返信してるんですか?」と言って、見せてもらったりすると「これに対してこういう返信するんだ」というのが、超勉強になるんですよね。

なぜ数値化が大事なのか

井上:僕は今聞いていて、昔のことを思い出したんです。ドン・キホーテの創業者である安田隆夫さんに聞いたんですけど「ハードワーカーがいる会社も確かに強いけど、俺はもっと強い会社を知ってるんだ」と。なにかというと「ハードワーカーよりもハードゲーマーがいる会社が最強だ」っておっしゃったですよね。もうゲーマーになったら、やめろとか帰れって言ったって帰らないんだと。休みの日も家でやってるんだと。

「ゲーマーの集まってる会社ほど強いものはない」とおっしゃって。「ゲーマーにするには何をしたらいいかわかるか?」と言われて。おっしゃったのは、「ポイントを与えなきゃいかん」と。

ゲームというのは、ゴルフでもダーツでもなんでも点数が出るから、競い合っておもしろくなったり、自分の点数が上がったり。さっきの成長と言ってもいいかもしれないんですけど。自分のハンディが上がったとか、やっと100切れたとか、今日はダーツで何ポイントだったとか、点数が出ないとゲームにならない。

そういった意味で、例えば「自分の会社だと初めて入ってきた人間でも、白い靴下を売ってみろ」と。昨日までは1日平均10足売れてたけれども、「はい、君は一生懸命やってみなさい」って言われると、10足以上、一生懸命売ろうとするらしいんですよね。15、20足売れると「じゃあ、今度は紳士服やってみよう」とやらせる。そうすると、1日平均10枚売れてたと。

「じゃあ好きにやっていいからやってみな」というと、これも一生懸命やりだす。今度は「紳士服ができるんだったら、婦人服も含めて洋服全部やってみろ」と。そうやって、ゲーム感覚でポイントを与えながら、どんどん、その子の成長を感じさせながら任せていく。このゲーマーになったら強いと言われていたんですね。

それ以来うちも全部、数字を出さなきゃいけないなということで、各店の前年比や人権費、もろもろ数値化しています。

ボランタリーの限界をどう超えるのか

ゲーム感覚でやるというのは非常に大事じゃないかなと感じますけど。その辺の成長というか、数値化みたいなところ。

佐渡島:わかったほうがおもしろいですよね。可視化とか。

井上:そうですね。

佐渡島:すごく重要だと思いますね。だからホリエモンサロンでは六本木で祭りをやって、いくつもの場所でイベントをやるというのを、全部サロンのメンバーだけでやっていますね。代理店に頼むと数千万から億ぐらいかかるようなイベントを全部ボランティアスタッフだけで回していて、その仕組みが本当にすごいです。

でも、それを経験した人たちにとって、会社じゃ絶対に得られない自信を得させてくれた場所ってなっている。そのコミュニティに対する愛みたいなのがすごくて。ただ大混乱も起きてますけどね、いつも(笑)。

井上:グロービスに非常に似てますよね。このあすか会議も、生徒の方がやられてたりという部分で。

佐渡島:そうですよね。

村上:どう炎上してるんですか(笑)。

佐渡島:炎上というか、みんな素人っぽい感じだったりするから。例えば、誰かに登壇の依頼をすると、急にいろんな人が話してくる。例えばチャットで、僕に登壇の依頼が来たときに、「このぐらいの額でお願いします」と来たら、仲間内のチャットと勘違いした人が「あ、さっきの金額うそうそ、安くしといて」みたいなのが来たりして(笑)。

村上:(笑)。

佐渡島:普通にやってると絶対起こり得ないようなことがいっぱい起きてたりするんだけど。こっちもサロンを観察したいからそれも楽しんじゃうからぜんぜんオッケーなんですけど(笑)。

村上:サロンの話を聞いたときに、堀江さん側とか運営側からすれば、たくさんの人が能動的にやってくれていいんですけど。ある種、ボランタリーの限界というか。仕事としてやっていない分、自分の興味があるところはワーっとやるけど、意思統一がうまく図れなかったり。

いざイベントをやるとなったら、本来は誰かが仕切らなきゃいけなかったりするはずで、ある種、軍隊的な会社組織であればバーッと指示がいって滞りなくやれる。そこの理想と現実のギャップがちょっとあるんじゃないかなと。

佐渡島:それは堀江さんが失敗を許容してるんですよ、会社じゃないから。だから、1回目とか別に失敗しても全然オッケーとしていて。誰が仕切る人かを決めないといけないっていうことを、ホリエモンサロンのなかでルール化されて、プロジェクトが起こると「はい、仕切る人誰?」というのを出してるんです。

村上:なるほど。

佐渡島:そこの失敗の共有がでかいですね。