アプリで1日100万件のタクシーブッキングが行われている中国

田中章雄氏(以下、田中):僕らはもちろん中国人でもないし、そんなにすごいリソースをもってるわけでもないんで、自分たちでできる、少なくとも中国で活躍しそうなベンチャーや活躍してるベンチャーに投資という形で、次の『PACIFIC CENTURY』を、21世紀の巨大な市場に挑んで行こうとしてベンチャー活動をやっています。

さっきの映像だとあまりにもキレイな映像だったので、もうちょっと汚いものをみなさんに見てもらおうと。こちらは実際にタクシーアプリが使われている現場ですね。見ていただきたいのは、TV局のアナウンサーのお姉さんが実際にタクシーを呼ぼうとしてるんですが、アプリを起動すると、その周りにいるこのアプリを実際に起動しながら運転している運転手さんが出てくるわけですね。

で、声で今どこにいてどこに行きたいってアナウンスすると、運転手の人たちから迎えに行くよってメッセージが来るわけです。

だいたい中国では去年では1日1万件で、多分これ今100万件くらいこういうアプリ経由でのタクシーブッキングが行われてます。今、付近の32のタクシーにメッセージが流れて、ソン運転手から「迎えに来るよ」と連絡が来ました。

日本でも、こういうアプリは日本交通さんが出してる同じようなものがあると思うんですけど、使われてる頻度というと、多分中国の1000分の1もないと思いますね。実際に、運転手さんからの詳細情報がきたので、今電話で場所についての確認をしてます。

モバイルの使い方は日本より中国のほうが遥かに進化している

田中:この女性が携帯を持ってなかったら、なんか薄汚い空気の悪い街しか皆さんの頭の中にないと思うんですが、こういうシーンの中で実際に日々使われているネットとかモバイルの使い方が、僕が個人的に見てる感じでは日本より中国のほうが遥かに進化してます。

ちなみにタクシー系アプリですと、アメリカのUberとかもすごく人気があるんですが、今実際に中国で1日に予約されてるタクシーの数の方が、Uberがグローバルでやってるよりもトランザクション数では大きいということになってます。

Alibabaじゃないですけど、非常にこういったもののトランザクション数が一気に伸びてる、っていうのが今の中国の現状です。

小野裕史氏(以下、小野):数だけじゃなくて、Uberよりも機能的に優れてる面がたくさんありますよね。

田中:はい。いろいろあるんですが、一応ネタとしてはこんなところなので、あとは小野さんに強引につないで欲しいんですけど(笑)。見ての通りですね、僕ら日本だけにいると、日本のメディアは中国の尖閣問題とか、そういう映像ばっかり流してて。

小野:飛行機が当たりそうみたいな話を聞きますからね。

田中:そういう話しか出てないんですが、実は経済の分野においてはもっと巨大なことが起きてるので、ぜひここに来てるみなさんは実際に一度中国に出て行く行かないは別として、知っていただきたいなと思ってこのへんを見ていただきました。

中国が技術開発の最先端をいくケースが増えてきた

小野:さっきの映像もそうなんですけど、今のを見て、なんだUberのパクりじゃんみたいに思いがちなんですよね。中国ってパクり多いじゃんと思われがちなんですが、最近は日本やアメリカのベンチャーより中国のほうが先を行ってるっていうケースが出てきて。

田中:たとえば、ここに来てるみなさんって普段Googleマップとか使ってる方いますか? 使ってない人がいたら、ここは場違いな所なんで帰っていただいて(笑)。

小野:ちなみにあの、AndroidユーザーでDolphin Browserってブラウザを使ってる人とか知ってる人、どのくらいいますか? あまりいないですね。

田中:これは今、中国の検索エンジンのBaiduが作ってる、Googleのライバルみたいなとこなんですけど、そこのBaidu mapsで北京の周辺を見てます。最近Googleもこの機能の一部をパクり始めたんですが、去年くらいからこういうのがすでにあって、この辺をお見せしたいと思うんですが。たとえば、この近所で今ホテルを探すとします。そうするとですね……。

小野:ちなみに今出ているのは食事とホテルと映画館と、その右はなんですか?

田中:映画館と、その隣はグルーポンで、その隣は場所のヒートマップ。で、こうやってその近辺のホテルが出てくるんですが、この中で気に入ったホテルがありましたら、そのままディテールを見に行って、もちろん検索と同じようにレビューとかも見れるんですが、大事な機能としては、このままホテルの予約ができちゃうんですね。

田中:これって実は、今年になってGoogleが一部この機能を、全世界じゃなく一部の国で始めたんですけども、Baiduってこれもう2年くらい前からやってるんですね。

市場の大きさが、新しいサービスを生む土壌となる

田中:そうやって、ホテルが見つかります。それだけじゃなく、映画も見に行こうと。小野さんがさっき言った映画館を見ますと、北京のこの近辺の映画館が出てきまして、じゃあこの映画館に行きますと。そうすると、今やってる映画がいろいろ出てくるわけですね。

田中:『トランスフォーマー4』の映画を見に行こうと思ったら、今からだと、ちょうど夜7時の映画がまだ見に行けるので、という風に選ぶとこの地図のアプリの中で映画館の座席表が出てきて、自分の好きな座席を選んで、ここでチケットを買うことができる。しかも、直接映画館に行って買うより安い値段で買うことができます。

小野:さっき一瞬ストリートビューみたいな画面がちらっとでてきましたが、Googleと同じようなことをBaiduとか、やってるんですか?

田中:やってます。Baiduのやつはもうちょっと進んでいて、ホテルとか公共のビルだと、ストリートビューだけじゃなく、中も見れます。建物の中も360度風景とかも見れるので。

昔は、中国はアメリカをパクってた部分が多いと思うんですけど、ここ3~4年の傾向見ると、アメリカよりもさらに進んだアプリやサービスとか出てきて。多分それって市場が大きい中であれだけたくさんベンチャーがあれば、みんな試行錯誤で新しいものをやってくっていうプロセスが起きてきてるはずなので、そこから生まれて来るものって非常に参考になると。

個人的には、昔はアメリカとかのものをコピって中国で移植するというビジネスが大きかったと思うんですけど、これからはいろいろ中国からパクって日本とかアメリカで展開するビジネスも全然あり得るんじゃないかなと最近、思ってます。ここでじゃあ、小野さんのほうにバトンタッチします。

日本でソーシャルゲームの人気に火を付けた「サンシャイン牧場」

小野:ちなみにさっき言った、Dolphin Browserってのは我々の投資先でもあるんですけど、知ってる人ちょっといましたね。見るとですね、シリコンバレーで作られたアプリかのような、洗練されたデザインだったりするんですよね。まさかこれが中国で作られているとは。武漢っていうあまり知られていないような田舎町でですね。

またちょっと話が変わって、ベンチャーの起こし方だっけ? 小林さん。ふたつがセットになったむちゃぶりなセッションをやることになってるわけなんですけど、その話をしたいなと思うんですが、冒頭の僕の話を聞いた方はちょっと出てくるところがあるかもしれません。

僕はもともとベンチャー投資をやる人間じゃなく、ベンチャーを作る側の人間だったので、今までどんなベンチャーを作るのに携わってきたかとか、どのようにできたか、といった生々しい話ですね。さっきの中国の洗練された映像とは全く違う話からしたいなと思います。

せっかくなので中国ネタからですね。「サンシャイン牧場」って知ってる方どのくらいいますか?

(会場の数名が挙手)

嬉しいですね、ありがとうございます。知らない方はお帰りいただく、わけではなくてですね(笑)、今はもうTVでいろんなスマホのゲームだとか、ソーシャルゲームだとかって言われていますけども、このサービスは日本で1番に火付け役になった原点ですね。

かつて華やかだったmixiのソーシャルゲーム。GREEよりもDeNAよりも先にmixiが1番最初に立ち上げたときに、3カ月で一気に300万人くらい、で600万人くらいを、1年弱で集めたんですね。

ソーシャルゲームのブームは日本より先に中国で起きていた

小野:今でこそ、その数字って大したことないんですが、当時は驚異的なスピードで集まったんです。今ではどこでもやってるかもしれませんが、彼らいわくこの会社が、ソーシャルゲームの農場ゲームの原点らしいんですね。Zyngaも彼らのゲームを真似したという。

田中:Zyngaよりも先に作ったという。

小野:この会社はですね、日本の会社ではなくて、北京にあるRekoo(レクー)という会社、田中が見つけてきて投資をしたんですが、最初のきっかけは、日本ではまだ誰もソーシャルゲームなんてやっていない中で、中国でめちゃくちゃ流行ってるというところからスタートでしたね。

田中:日本ではまだブームが来てないけど中国では数100万単位でこういうゲームをやってるっていうのが事実で。さっき小野が言いましたように、mixiがソーシャルゲームのプラットフォーム始めるっていう話を嗅ぎつけたので、いち早くそのネタを日本にもってきたっていうのが、この事例です。

小野:この会社はmixiのソーシャルゲームのオープン化、ソーシャルゲームをスタートしますよっていうタイミングで来て、いち早く成功したんですけども、この会社がどのように日本でも立ち上がったかっていう話をしたいと思います。

拉致監禁からスタートした事業の立ち上げとは

小野:ちょっとエピソードがおもしろくてですね、当然中国にはすでに会社があって、そこに我々実際に投資もしたんですが、日本展開をしたいと。mixiが始めるってことで、日本展開をしたいと。でも、日本にはまだ何にもなかったんですね。まず、我々何をしたかというと、とりあえず会社を作りましたね。

田中:登記して。

小野:とりあえず登記をしようと。Rekoo Japanという名前にしようと。でも、社長がいないと。とりあえず小野さんが前に経営をやっていたので、「小野さん、社長やってくださいよ」そんなスタートだったんですね。

日本法人というのは、本来投資する人間がその会社の社長やるなんてないんですけども、とにかく社長でスタートして、で、スタッフを雇わないといけないってことで。最終的に50人くらいスタッフは集まったんですけど、最初は誰もいなかったんですね。

どうしたかというと、田中の知り合いのソーシャルゲームのことが大好きな2人をとにかく会議室に集めて、僕がセッティングしてそこで始めました。で、ちょっと意気投合してですね。

田中:そのまま拉致して北京に連れていったと。

小野:そうなんですよ。そのミーティングの直後にですね、田中の方がもうアポイントを取っていたのでと言って。とりあえず2人に聞いたのはパスポートを持ってますかと(笑)。パスポート持ってるんなら大丈夫ということで、1週間後くらいでしたかね?

田中:その翌週には北京に行ってました。

小野:僕のほうはフライト2人分取ってあげてですね。その2人とも、現業があったんですよ。仕事やってたんですけども、もう飛行機取っちゃいましたからと。行きましょうということで北京に連れていって、その2人が最初のRekoo Japanのスタッフになったんですね。こんなふうに、言ってみればもう、拉致監禁からスタートして。

田中:非常に危険なビジネス。

小野:はい。そんなふうにしてても、今の日本のソーシャルゲームの火付け役になるような会社が出来上がったんですね。

社長が知らぬ間にゲーム内の課金メニューがはじまっていた

小野:このとき僕はすごい原体験があって、僕は社長をやっていて、中国側とやりとりをしていたんですけども、日本向けのサービスにとにかく僕が聞いてないようなことをどんどん中国側がやるんですね。

社長なので説明責任があるんですけど、知らない間にユーザーから教えられて「こんなのはじまってますけど」って言われて「知らない」みたいな。めちゃくちゃ前のめりなんですね。

このスピード感が大事だなと思っていたんですが、それに関して1番思い出深いエピソードがあります。mixiがこのソーシャルゲームを最初は無料で、広告モデルだけでやっていて……今では当たり前なんですが、課金ありますよね。いわゆるゲーム内の課金。

時間を節約するために肥料を買う、肥料を買えば早く食物を成長させられるんですけども、肥料にお金がかかる。そういういわゆる課金のビジネスをやろうということで、ずっと準備していたんですけども。

ある日、僕が家で楽しく夜の11時くらいですね、酔っ払いながらネットサーフィンをしていたら、突然僕の携帯がバンバン鳴り始めるんですね。何かと思って電話を取ると、知らない人からで、「あのー、もらえてないんですけど」とか言われて、僕は「は?」って思って。

僕も酔っ払ってるんですけど、この人も酔っ払ってるのかなとか思って、「何なんですか」って逆切れしてパッて切って。でも、そのあともバンバン同じような電話がくるんです。

何が起きたのかと、ふとサンシャイン牧場を見ると、僕が知らない間に勝手に課金のメニューが始まっていて。僕Rekoo Japanの社長なんですけれども、知らない間に課金が始まっていたんです。

ベンチャーは中国人のビジネススピードを見習うべき

小野:課金を始めるには「特定商取引法」っていう表示をしなければいけないんですが、そこに代表の小野裕史っていう名前と、僕が昔に伝えた記憶のある僕の携帯番号が書かれていたんですね。なんだこれはと(笑)。当時のユーザーは500万人くらいいたのかな。

田中:確か、当時はユーザーが肥料を買ったけど、決済のあとがうまくいかなくて、肥料が届いていないっていう。

小野:肥料が届いてないとかポイントが届かないとか、要はそういうクレームの電話だったんですね。僕が知らないとこで勝手に課金を始めて、人の携帯番号を晒して、何しとるねん! て感じなんですけれども、このスピード感は大事だなと思って。非常に、こっちが逆に負けてるなって。思い出深い話ですね。

ベンチャーってですね、色んな立ち上がり方があるんですけど、やっぱりスピード、すごく重要です。特に中国はスピード感、スケール感ってのもデカいんですけど、そういうところに1回でも触れる機会があると非常に鍛えられるというか。その後にも、実際につながったというエピソードですね。

田中:ひとつコメント加えると、さっき2人拉致した話がありますが、みなさんもこうやっていろんなベンチャーの人たちが集まって、いろんな機会があると思うんですね。多分迷うこともあると思うかもしれないけど、特にそれが今自分の未経験の体験で、おもしろいなってものがあったら、迷わず拉致されたほうがおもしろい道が開けると思います。

小野:僕が冒頭に言った「ノータイムポチリ」もそのときに使ってください。とにかく考えずにアクションしてしまうと。