植物ほど知性的なものはない

辻信一氏(以下、辻):最近、僕、植物にハマっている。

山崎亮氏(以下、山崎):植物にも知性があるらしいんです。

:今、本当にたくさん本が世界中に出ている。ぜひ興味のある方は見ていただきたい。今、植物の知性が非常に重要なトピックなんです。一見、僕らは脳だけが知性だと思っているから。

山崎:そうそう。だから、植物の知性というと、メタファーのように聞こえる。植物に脳はないから、「じゃあ、なにか植物がやっていることが知性的に見えるの?」みたいな話だと思っていたら、「脳だけが知性じゃないかもしれない」という話がある。

:そう。まず、デカルト。いわゆる近代思想の父です。ある意味では、現代にいたる近代的ないろんな常識の始まりです。

彼が言っていたのは、人間は心と物から世界はできている。二元論です。心というのは人間のものだから、あとは全部、物。だから、動物もみんな機械だと思っていた。

それがだんだん、動物たちにも心があることがわかってきた。そして、実はダーウィンでさえ、植物の知性をちゃんと言っていたみたいです。公に言うと、まずいので……。

山崎:あの時代ですからね。

:そう、でも、友達への手紙なんかを見ると、「植物ほど知性的な生物はいないかもしれない」なんて思っていたみたいです。とにかく、植物の知性は生物学の中で、今ではわりとメインのトピックになっています。

そうすると、植物でいうと、さっき根っこの話をしたけど、小さなそこらのplantsみたいな、あの小さなものでも、根端、毛根みたいな目で見えないような根っこの先端を全部合わせると2,000万ぐらいある。

山崎:2,000万。

:その2,000万の一つひとつが、いちいちどこかからの司令で動いているわけじゃない。一つひとつ、四六時中、ありとあらゆる状況にちゃんと反応しているわけです。ある意味では、2,000万の一つひとつが小さな脳みたいということなんです。

そして感覚も、五感と言いますけど、それは動物によってみんな違うんだけど、なんと植物の場合は、感覚がないどころか20感。

山崎:少なくとも20感。

マインドセットを変える、今なら間に合う

:少なくとも20感。そう考えてみると、僕らは進化を、弱いものが強くなっていくとか、劣ったものが優れたものになるとか、右肩上がりで自然の歴史を考えたり、生物の歴史を考える。そして人間の歴史も、劣ったところから優れたものへ、低いところから高いところへ、貧しいところから豊かなところへ、全部右肩上がりでいまだにやっているわけです。

山崎:確かに。

:もうそれが成り立たなくなった。その意味では、この結末がどうなるかは、もしかしたら人類が滅びるぐらいの壮絶な結末かもしれない。そういう意味じゃ、すごい災難です。僕らはそういう時代に生まれてきたんだから。僕らよりひどいのは、僕らの子どもたちとか、そのまた子どもたちですよ。

でも、ある意味では、僕は「マインドセット」っていうんですけど、今までの右肩上がりみたいなマインドセットを根本から考え直して、そしてもう1回生き方を最初からデザインする。これまたすごいエキサイティングな時代に生まれ合わせたのかもしれない。

山崎:アインシュタインの言葉をよく引用されていますね。

:そう。アインシュタインの言葉は、「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットで、その問題を解決することはできない」。書けた?

山崎:(笑)。

:もう一度、「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットで、その問題を解決することはできない」。

これは、ある意味じゃ当たり前のことなんです。例えば3.11、福島でああいう事故が起こった。そうすると、巨大な問題を僕らは抱え込んだ、あるいは巨大な問題を抱えていたんだということに気づいたわけです。

じゃあこれどうすんだと。この問題を解決するためには、相変わらず同じ右肩上がりの経済でできるのか? だって、そのマインドセットが問題を引き起こしたんだから、同じマインドセットで解決することはできないよと。

でも、ほとんどの場合、僕らマインドセットまでいかないです。小手先のことをやり続けてしまう。

山崎:もう福島ぐらいの問題になっちゃったら、そのマインドセットを変えるのってすごく難しい気がするけど、いったん我々が今議論をしている地域のところまで落とすと、そこだったらまだマインドセット的なるものをちょっと変化できる可能性があるなと感じる。

過疎。「若い人がどんどんこの地域から出ていっちゃってるけど、それはなぜだろう?」とか、「まあ、やっぱり金が儲かったほうがいいんじゃねえか」とか「便利なほうがいいんじゃねえか」というマインドセットのまま議論をしていると、「じゃあ、うちの町にも有名なカフェの店を入れよう」となる。

山崎:有名なハンバーガー屋さんを入れようとか、「こっちが便利になれば、若い人は残ってくれるんじゃないか?」みたいなアイデアしか出てこなくなっちゃうんです。そっちにいったら、「東京、銀座に来たほうが絶対いい」ってますます思っちゃうわけです。そのマインドセットではないこの地域の話をやっぱりしていかないといけない。

だからやっぱり、回りくどいけど、「我々にとって幸せってなんなんなのか?」みたいなことをもう一度問い直さないと、いいアイデアが出てこないです。

日本を変えるために、まずは地域から

山崎:だからワークショップとか地域でやらせてもらうときに、時間をかけてやっているのは、マインドセットという言葉。僕は辻さんから教えてもらいましたが、そういうものです。

なにか発想するときの基本的な考え方を、まずみんなと共有しておかないと、7.5センチ角の付箋に書かれるあのアイデアが、どれも「これ無理だな。これやっても、全部東京に人が流れていくだけになっちゃうな」という意見しか出てこないんです。

だから、まずあの付箋と模造紙を使う前がけっこう大事。その前にいったいどういう話やどういう知識や、さっき勉強とおっしゃいましたけど、まさにインプットなところにいいアウトプットはないです。まず学んでもらって、マインドセット的なるものを変えてもらう。

でも、1ヶ月空けて行くとまた戻ったりする。これを何度も何度も変えて、ちょうどいい塩梅になってきたときに意見出してもらうと、これはけっこう機能する。地域ならではのアイデアが出てくることが多くなります。

日本全体のことは僕も変えられないかもしれないけど、それぞれの地域ごとだったら少しずつ変えられる気がします。

:まったく同感です。地域というのは、まだマインドセットの中に完全に収められていない部分もたくさんある。少なくなったとはいえ、まだマインドセットのこの合間にあるようなものがあると思う。それが非常に重要だと思います。

だから普通は地域といった途端に、「金にならないだろ」とか、「都会に行ったほうが稼げるだろ」とか、だいたいこういうマインドセットが来るわけです。それってじゃあどういう発想なのか?

山崎:そうですね。そうだよ。

:でも人類の歴史考えてみたら、みんなそれぞれの場所でみんな生きてきたわけです。お金になる、ならないに関わらず。

それから、さっき言っていた遊び。自分が楽しいことも、すぐにマインドセットがかぶさってってくると「でも、そんなことやってどうやって生きるんだ?」と親が子どもに言う。子どものほうももうちゃんと知っているから、もう親がなにを望んでいるものか知っているから、「これは本当に好きで楽しいけど、そうは言ってられないよな」となってしまう。

だから、そのマインドセットが完全にかぶさってない部分を、僕らは大事にしていくべきです。そういう意味では、若い人たちのなかにそういう部分を発掘して、刺激して、それを可視化していく。それが教育者の、学校の務めだと思う。

あらかじめ「いい就職して」というマインドセットを押し付けちゃったら、非常にクリエイティブなものも全部、窒息しちゃう。

コミュニティデザインは「儲かる」

山崎:そうですよね。もうそれは地域で遊びだったり、遅さであったり、のらりくらりすることが大事だと、僕らも本を通じて学んだ。今日初めてお会いしたけど、辻さんからいろんなことを学んできたものを、我々の言葉に直しながらも、地域の人たちになんとか理解してもらおうとしてやる。マインドセットが変わらないときはいろいろ言われますね。

「そらあんたらここで働いているわけじゃないし、そんなんでどうやって食っていくねん?」みたいなことをすごく言われます。賛同した人の中にも「だけど将来のことを考えると……」など、「自分に息子や娘ができて大学まで行かせようと思うと」とか、本当そんな心配ばっかりがいろいろ出てくることになります。

さらにいうと、うちの親はもうずっと心配しています。「コミュニティデザインなんていうことをやって、お前は食っていけるのか?」と今でも心配されます。

でも、大学の教員を一方でやっていると、間違って委員会とかに呼ばれたりすることもあるんです。委員会なんかで、大学の先生と並ぶ。発言をしてると、「山崎さんみたいなまちづくりね、これも大切ですけど、儲からんですわねえ」という、同情にも似た言葉をよくかけていただくんです。

最初は「ええ、そうなんです」なんて答えて「やりがいが……」なんて話していたんですけど、だんだんめんどくさくなってきて、「めちゃめちゃ儲かりますよ!」と言うようにしてみたんです。

(会場笑)

山崎:そしたらその先生が「ああ、そうでしょう……え、えっ?」みたいな、「儲かるの!?」みたいな感じになるんです。

でも、「儲かる」という言葉をいろんな意味として捉えたいなと思ってるんですよね。多様な儲けという。貨幣として儲かるというのは1個それも1つだけど、地域って友達や先輩がたくさん手に入るという、友を儲けるということがあってもいいような気がするんですよ。

:言葉そのものを拡張しちゃうのね。

山崎:そうそう。儲かるをね、あまりお金だけに変えないほうがいいと思う。

今まで250くらい地域をお手伝いさせてもらっていて、ワークショップは100人ぐらいでやりますから、単純に2万5,000人ぐらい、いろんなところに「お前、食えんくなったらうち来いよ」って言ってくれる人がいる。すごく心豊かに生きていくことができた。

あと、うちの事務所は、季節ごとにすごい贈り物を送っていただくんです。「新米穫れたから送るぞ」と、80キロが送られてきたりするんですけど、「これどうやって運ぶんや?」となる。あと「新そばを打ったから」といって冷凍で送ってくれる。こういうのもやっぱり我々にとっては儲けです。

あるいは、地域に行ったら、地域の人たちがお国自慢をしてくれますから、いろんなところへ連れていって、いろんな歴史や文化を教えてくれる。これも、もし本を書くときなんかは、相当いろんなアイデアになっています。食事に連れて行ってもらう。そういうのも小さく儲けです。

感謝の言葉。これも脳は儲けとして信号を受け取ってるみたいです。「あんたら来てくれてありがとう。助かったわ」「最初は大阪からうさん臭い奴が来たなと思ってたんやけど、3年間やってみて、あんたら来ーへんかったら、この時期大変なことになってたと思うわ。ありがとう」って言ってくれることも、例えばお金に換算したら年収どれぐらい上がるのと同等ぐらい僕らはすごく満足できる。野暮だからそんなお金に換算しないですけど、でもやっぱり僕らはすごく儲けとして感じている。

ここにはたまたま「8種類の儲け」と出しましたけど、友達、贈り物、地域の情報……最後に業務の費用です。我々が働いたものに対してお金もらうという。

この金額だけで儲かっているかどうかで捉えちゃうと、「儲かってません」ってシュンとしていなきゃいけない。けど、多様な儲けがある仕事であると言えば、ボロ儲けの仕事だと思っています。