ハンディキャップを持つ人たちへの理解

太下義之氏(以下、太下):ロンドンの話に集中してしまい恐縮ですけれども、ロンドン五輪の時は、文化プログラムにおいて、障がい者の芸術活動にフォーカスが当たりました。「アンリミテッド」という名称の一連のプログラムだったのですが、Unlimited、すなわち「限界なんかないんだ」というメッセージです。

そして、さまざまな障がいを持ったアーティストが、さまざまな表現を試みていきました。これがものすごくインパクトを持ってイギリス国民に伝わったので、実はこのアンリミテッドがいまだに続いているのです。

さらに、文化庁および東京都もその流れを受けて、障がい者芸術の振興に力を入れてやっていくことになると思います。一方で、ご案内のとおり、日本では「障害者差別解消法」が施行されています。

この法律の文言が非常に興味深いのです、もちろん差別をしてはいけないんだと、それを解消していきますと書かれています。ただし、解消していくためにはお金がかかりますよね。それに対して「合理的な配慮をせよ」というふうに書いているのです。非常にいい作文というか、用語だと思うのです。

ちゃんと考えていかなくてはいけない、だけどいきなり社会は変わらないから、できるところからやっていこうということです。

この「合理的配慮」というのをこれからやかなくてはいけないのですが、さきほどのアンリミテッドもそうですし、スーパーヒューマンもそうなのですけれど、どちらかと言うと、やる側の、障がいのある人にフォーカスが当てているものです。

だけど、実はスポーツもアートもそうですけど、すごいスターが出てくるためには、普通に障がいのある人たちがスポーツを楽しみ、文化を楽しむという環境がなくてはいけないですよね。

例えば障がいのある人、耳の聞こえない人は芝居を気軽に楽しめない状況にありますけれど、それはそのままでいいのか、とか考えていかないといけないわけです。では、それに対して合理的配慮とはどういうことをするのかということを、私たちは考えていかなくてはいけないのです。

長谷部健氏(以下、長谷部):はい。そういったことは本当に重要ですし、チャンスだと思うんです。だから、今まで頭でわかっていても、例えば(実際に競技を)見ると、エモーショナルに感じることが絶対たくさんあるはずだし、そこまでの準備の段階で……。

渋谷区はおかげさまで会場になっているので、原宿駅前の代々木の体育館と、東京体育館と。国立競技場の外側は一部渋谷区なんですけど、ほとんど新宿区なので国立はあんまり強気には言えませんが(笑)。競技数で言うと、パラで言うとパラ卓球、パラバドミントン、ウィルチェアラグビーというような種目なので、それはもうどんどん応援して。

もうリオの時からやってるんですけど、練習場所を開放したり。日本代表チームなのに練習場所がないというふうに困ってるんです。

だから渋谷区は積極的に貸して、そこに区民に見にきてもらったりとかたくさんしてですね、多くの人にファンになってもらいながら意識を変えていくっていうことはやっているので、それがうまくレガシーになるといいなぁと思います。

スポーツ応援に一石を投じる

あともう1つ思うのは、障がい者のこともそうですけど、もう1つ、1個レガシーを作りたいなと思っているのは、応援の仕方。これがやっぱり大きな課題かなぁと思っていて。チアアップするということですけど。

ホームアンドアウェーの考え方で言うと、日本人ってやっぱり応援があんまり上手じゃないところがあって。野球とかも、揃って応援したりとか、なるじゃないですか。 でも、これはフェンシングの太田選手が言っていて、彼の持ってきたデータを見て非常におもしろかったのが、例えばサッカー。いちばんわかりやすく言うと。

欧州も全部主要リーグがありますよね。どこのリーグも、大概ホームアンドアウェーの成績を見ると、ホームのほうがやっぱりいいんですよ。5割を超えてくるんですよね。5割とか6割近く行く。レアルみたいなああいう大きなスタジアム持ってるところはもっと高いかもしれない。

日本のJリーグを全部見ると、平均5分5分なんですよ。だからホームもアウェーもないんですよね。だからやっぱりそういった応援の文化が根づいてないから。

その証として、数年前に、テニスの伊達公子さんが、溜息をつく観客にちょっと愚痴をこぼしたのがバズっちゃって、わーって言われたときありましたよね。でも「あー」ってため息をつかれるとやる気なくなっちゃうのよ、っていうのは、それは本音だと思うんですよ。だから、「あー」ってついたあと、「がんばれー!」ってもう1回盛り上がるとか。

海外見てるとそうなんですよね。そういった応援の文化みたいなのをアスリートから聞いたり、あとは、ズンチャカの話ばっかりして恐縮ですけど、応援の仕方を、楽器とか、みんなで考えたりしてもおもしろいし。

あと、応援するためにはその競技のルールを知らないといけないので、それは前提ではあるんですけども、「日本チャチャチャ」だけじゃない、なんか新しい応援文化みたいなものもできるといいなぁなんて思ってますね。それもエンタメだと思うんですけどね。

太下:今、「ズンチャカ」の話題が出ましたけど、先ほどちょっと楽屋でお聞きしたら、ズンチャカのボランティアは、延べで300人以上もいるそうですね。

長谷部:すごいですよね。

太下:すごい人数の市民運動というか、活動になってきてると思うんですけど、こういう盛り上がりに対して、行政として後押しするために、どのようなことをやっていったら良いと思っていらっしゃるのでしょうか。

長谷部:なかなか難しいんですけれども、おもしろいイベントをやればそれは人が来るということだと思うので、今ある芽が出てるものはしっかりと応援していく。「応援していく」っていう言い方も上目線……。「邪魔しない」?(笑) 行政的には、なんかすぐルールがあってあれできない、ああできない、ってなっちゃうじゃないですか。

太下:規制を緩和していこうということですね。

長谷部:そうそう。だから、むしろ邪魔にならないように。

太下:たとえば、センター街にピアノを置いてしまうといった方向ですね。

長谷部:はい。「今までダメだと思ったけど、やればできるじゃない」っていう話ですから、そういったことはどんどんトライしていく。そこに魅力を感じてそのイベントに参加しようっていう人も増えてくると思うので、それは大切かなぁと思いますね。

渋谷を優れた国際都市にするには

太下:2020年に向けて、その中心的な舞台になる渋谷区は、本当にこれから楽しみだと思います。

長谷部:エンタメって言うと、すぐ音楽や演劇、映画に(考えが)行っちゃうんですけど、もちろんそれはそれで大切なんですが、さっき言った応援も含めて、他の視点ももうちょっと持っていたいし、冒頭に言ったITの普及というのも相当進んでいますから、それを活用した、なにか応援だったり、盛り上げ方というのも出てくると思うので。

渋谷がエンタテインメントシティでいるためには当然、昔「ビットバレー」って言われた時期があって、ああいった空気感もまだまだ必要だし、もっとみんながいろいろ街に来てインスパイアされるような街でいたいし、イノベーションが起きる街でいたいし。

区長になってから思うのは、海外に行ったりすると「渋谷のメイヤーか!」って言われて、知ってる人が多いんですよね、ありがたいことに。

なのでやっぱり海外ともつながれる、ハブになれるチャンスがあると思うので、そういったことはどんどん積極的にやっていきたいなぁというふうに思っています。

太下:ちなみにオリンピックを自治体が応援するというと、キャンプ誘致が盛りあがっていますけれど、当たり前なのかもしれないですけど、わりと有名な国ばかり、みなさん誘致したがるわけですね。アメリカとかヨーロッパとか。

実はオリンピックにおいて、過去にどの国がどのぐらいメダル獲っているのか、という統計を見ていくと、当たり前かもしれないですけど、実は国の経済力と見事に比例してことがわかります。

一方で、最近経済力をつけてきて、しかも日本とつながりが深まってきてるのに、過去1回もメダルを取ったことがない国がいくつかあります。例えばミャンマーとか、カンボジアもそうです。

例えば、渋谷区が区を挙げてミャンマーを応援したとしましょう。3年間たって、オリンピックでもしメダルを獲ったとしたら、大変なことになるのではないかと思います。おそらく、ミャンマー国民で渋谷を知らない人はいない、みたいなことになると思います。

長谷部:なりますかね。もちろんそういう話があれば積極的にやりたいし。でも今は、どっちかというと、競技を応援することを考えています。さっき言ったパラ3種目は、日本以外のすべての国を応援するように、区民と会話をしていこうと思っています。

やはりパラの会場を満員にしてこそ成熟した国際都市だと胸を張って言えると思うので、自分の国だけじゃなくて、他の国同士が、有名じゃない国同士がやってても、やっぱりみんなが応援する。リオはやっぱりそれがすごかったらしいんですよね。

太下:ブラジルは、ラテン気質で、オープンマインドですからね。

長谷部:本当に偏見もないんですよね。

太下:そうなんですよね。

長谷部:やっぱりそれは学びたいなというふうと思いますね。八百万の神で学ぶ国ですから、やっぱりそういうところはしっかりと取り組んでいけたらいいなぁと思います。

太下:はい、いろいろとお話を伺ってきましたが、いよいよ時間が来てしまったようです。本日は本当にありがとうございました。

司会者:それでは長谷部区長、そして太下様、貴重なお話、本当にありがとうございました。

(会場拍手)