ワンパンマン原作者との邂逅

石橋氏(以下、石橋):WEBコミックって当時流行ってて、WEBコミックランキングとか、あと新都社さんですとか、ああいうところで連載してる、ある意味素人ってわけじゃないんですけど、アマチュアの作家さんの漫画を読むのが趣味というところがあって。

まあ、もちろん、過去にも『WORKING!!』って高津カリノさんとか4コマ作家さんとかをデビューさせたこともあったんですけども、Webコミックでやっている作家さんにすごい人がけっこういっぱいいて、やっぱりONEさんのファンだったんです。

山田玲司(以下、山田):ONE君、うちの番組に出てくれてるんですけど、あいつがたしかガラケーでカシャって写真撮ってWebに上げていた、あれを読んでいたんですか。

石橋:太陽マンはまだ見てないんですけども、『ワンパンマン』の初期からは読んでました。それはあまり仕事にしようと思ってなくて、純粋にエンタメとして楽しんでたんですけども。でも、これよく考えたら、実は商業誌よりも楽しみになってる自分があって。

山田:あー、いつの間にか。

石橋:いつの間にかONEさんの更新がすごい楽しみになって、ONEさんが就職をして、しばらく更新がなくなっている間は楽しみがなくなっちゃって。

山田:えー、そうなんだ。すごい。

石橋:そうなんです。で、僕も仕事が少し一段落した段階で、だったら、ほかにも有名な「だろめおん」さんとかもそうなんですけど。

山田:全員ここに座ってますよ。

石橋氏がONEを世に出した

石橋:そうですね。彼らをいっぺん集めて1個のサイトをつくったら、ものすごい人も来るし、あとよく考えたら、自分の会社で原稿料を払えば、自分も彼らの漫画の続きを読めるし。

乙君氏(以下、乙君):おーっ、公私混同!

山田:これが一番正しいでしょう。自分が読みたいから。

石橋:そうなんです。だから、お金出すから漫画描いてくださいって感じだったんです、読みたくて。

乙君:なるほどね。そうかあ。

山田:ということで、この人がONE君を引っ張ったんですね。この人がだからモブサイコを立ち上げた。石橋さんが立ち上げた。すごくない? モブサイコは、うちの番組、相当特集しました。この漫画やばいっていって。

石橋:当時は平だったんですけども、モブサイコのネームが送られてきた瞬間に、何の権限もないんですけど、連載オッケーですって電話しました。

山田:えーっ、かっけー! あれって、ルックが本当に、何というか商業誌レベルじゃないじゃないですか、ルックが、絵のレベルが。でもおもしろいという。それをオッケー出すという。

石橋:商業誌レベルというか、僕はONEさんのファンなので、ONEさんの漫画ですから、ネームが送られる前から、僕連載オッケーだったんです(笑)。

山田:信者だったんだ。

石橋:そうですね、もう信者でしたね、はっきり言って。今でもまだ。

山田:じゃ、逆に、めっちゃめちゃ描き込んだ原稿を載せまくってる雑誌も多いじゃないですか。ああいうのはどう見てたんですか。

石橋:やっぱりこれ、何かお金の話とかになっちゃうんですけど(笑)。まあ、コスパというのはあります。僕の当時の説得で、あまり高い原稿料とかだと上の企画通らないじゃないですか。

だから、あまりアシスタントさんとかをたくさん雇って、すごい作画されても、それだけの作家さんの生活守れるほどの原稿料を会社として出す自信がなかったので、もう絵はいいですと。おもしろければいいですみたいな。それで、逆にだろめさんなんかは本当にすごい絵を描いて。

山田:あいつは1人でも描いてますから。

石橋:そうんですよね。速いですし。

山田:やめろっつってもやってますからね。

石橋:まあ、そういう事情もあって、逆に言えば、絵じゃないって僕は当時思ってたので、まあ、新都社に載ってるいろんな漫画家さんが好きだったので、まあ、内容だと。

山田:1つの流れ、いわゆるインディーズを引き上げたという。インディーズをメジャーに引き上げたという。

WEB漫画の特異点

石橋:僕らふだんネームで漫画読むの慣れてるんで、あまり完成原稿じゃなくて、ネームの段階で見てるので、実は絵の描き込みとかそこまで気にならないところが。

商売として世に商品として出すときは、もちろんクオリティが大切なのはわかるんですけども、自分としてはネームでもいいから先読みたいというタイプだったので。

立川氏(以下、立川):当時としてはけっこう珍しい編集だったんじゃないのと思うけど。

山田:あれ立川さんはどう見てたんですか。ONE君が登場したとき。

立川:だから、僕らの言葉で言うと、昔はやった言葉で言うと、うまへたみたいな。

一般的に紙の雑誌では、どっちかというと、うまい人をみんな探してたじゃない。もう絵のクオリティが物を言うというんですか。

内容がおもしろいのが一番というのは、言ってみれば当たり前なんだけど、何となく内容が何が一番おもしろいのかが、要するに自分でわかんなくなっちゃった人が、あれは編集も含めてですけど、多くなってきて。

絵がとりあえずすごいといいんじゃない、押し切れるんじゃねえというふうに編集もそう思いがちだったんです。

山田:いや、その時期、すごい長いですよね。

立川:そう。あれだよね。だから、玲司さんも言われたことあるでしょう。

山田:いやいや、すっごい言われましたよ。というか、おびえてくるんですよ、だんだん長くやってくると。

最初は「うるせえ、絵なんか関係ねえ、俺の漫画はおもしれえ」って言って何とかなっていた時代が、だんだんマンネリになってきて、だんだんこの後若いやつもあらわれて「どうしよう」というときに、できる努力が絵の密度を上げるしかなくなってくるんです。

そこのはったりをきかせて、何とか編集をだまそうという漫画家と、基準がわかんなくなった編集者が、とりあえずその密度でクオリティは保証できてると言ってしまうという。それはあったんじゃないかな。

立川:そうだね。特に紙の雑誌はその傾向強かったと思うんだけど、Webはそのころも割かし若い新人の作家も含めて、この人がまさにONEさんにはまってたみたいに、「あっ、おもしれえ漫画いるな」というので。で、絵柄もアマチュアみたいな人がいて、だから、昔、紙の雑誌が元気のよかったころは、うまへたオッケーでやってたわけです。

山田:そうですね、80年代のスピリッツは。ヤンサンもそうだよ。森繁ダイナミックが載ってたからね。

「おもしろければいい」という基準

立川:それが紙のほうがだんだんそうならなくなってきて、本自体も売れなくなってきたし。

でも、Webの中ではけっこうその辺自由に描いてる人たちがいて、それはアマチュアの人たちが同人誌っぽくやってた場合も多いでしょうけど、それで、何だよ、紙のほうに載ってるやつより、こっちのやつのがおもしろいじゃんと思った人がいて、まあ、彼もそうでしょうけど。

で、自分の裏サンデーってとこで、まあ、サンデーの裏側ですからね。ゲリラですから。だから、それでやってみたいと思ったんじゃないですか。

石橋:当時、僕も新人作家さんの担当をするのが好きだったので、それを逆に上にプレゼンする側じゃないですか。自分の中ではすごいおもしろい出来のネームなんですけど、この人は絵がねとかいって、これで企画ボツとかになるとすごい悔しくて。

でも、「絵なんか描いてりゃうまくなるんだよ」みたいなのが、僕は正直、自分が描けるわけじゃないんですけど思ってたので、そういう側からの裏サンデーってところもありました。

絵というのがすごい厳しかったので、僕が多少口が出せる範囲では、もちろん絵はうまいにこしたことはないんですけど、何か表情が描けたり、演出がちゃんとしっかりしていれば、まずおもしろければ、それでいいだろうという。

乙君:そのおもしろければいいという基準って、編集者さんによって違うんじゃないですか?

立川:だから、さっきのどういう人が向いているのかということで言うと、一番何でもおもしろがれるやつということになっちゃうのかなって結局思っちゃうんですけど。何をおもしろがるのかというのは、もちろん人によってあるから、そこが違いになるのかな。

乙君:熊谷さんに、僕がもし新人作家で持っていって、これは全然おもしろくないよって言われたときも、諦めるなみたいなことですか。

(会場笑)

立川:そういう例もあると思うんですよ。

乙君:立川さんは読んでください! みたいな。

立川:だから、そのおもしろくないと思った観点が、さっき出てた絵のことなのかもしれないし、絵がそもそもだめだねというところで例えば熊谷君が外してる。でも、おもしれえじゃんと思うやつもいるかもしれないし。まあ、なるべくいろんなやつに見せたほうがいいとは思います。

石橋:ネーム原作という手もありますしね、逆に言えば。

しみちゃん:そうですね。

乙君:玲さんも、今まさにシカーダを。シカーダが急にマンガワンに。

石橋:ありがとうございます。

乙君:あれはどういう経緯だったんですか。2巻発売だしみたいな。

熊谷:そうですね。だから、1巻の1話目から今載っけさせてもらってるんですけど、2巻が出るときに、何かこのタイミングで読んでくれる人をふやしたいなという。正直な話、月間スピリッツよりもマンガワンのほうが読んでくれる人全然多いんで。

乙君:でも、それは本当に。俺もマンガワンをダウンロードして、毎日、もうチケット使って、回復するのを待って読んでるんですけど、何と言えばいいのかな。あれ読みやすいって言うの? もうマジでどこでも読めるじゃないですか。

だから、質問でも来てるんですけど、コンビニで立ち読みしてたりとか、で、気に入った作品は単行本で買うみたいなのがまだ一般的なスタイルじゃないですか。それを、もう根底から覆しちゃって。で、無料だから。しかも、古い漫画も同時に入ってくるじゃないですか。

マンガワンの手塚治虫作品について

僕感動したのが手塚治虫作品が、これもう前に番組で言ったんですけど、手塚治虫のあの名作中の名作たちが毎日それぞれ違うあれで出て、それを今、しかも全巻一気じゃなくて小出しにしてくるじゃないですか。あれ誰が考えたんですか。

石橋:編集部でみんなで考えたんですけども、僕としては、漫画アプリとかは歴史がないので。

裏サンデーはサンデーの名前があったからまだよかったんですけど、サンデーの名前使ったときに、人はすごい、1日に130万人来るんですけど、やっぱり歴史の重みがないんで、じゃ重みがある人は誰かとなったら、神様にお願いしようかなということで手塚。

山田:収益はどうしてるんだというコメントがありますけど。

石橋:収益は、もちろん普通にチケット収入というか、チケットを消費して読んでくれる方もおりますし、あと広告です。広告収益ですとか、あとちゃんと紙のコミックスも出してますので、電子書籍も出してますので、そちらの収益が、何とかそれで回しております。

乙君:それで何とかおまけをね。

石橋:そうですね。

乙君:ちょい出しみたいな。

石橋:おまけマンガもちょっと買ってもらったりとか。

乙君:何か古いものを一緒に読ませるというのがすごい。もう紙だと無理じゃないですか、だってページ数決まってるから。

だけど、マンガワンってランキングじゃないですか。だから、1位手塚治虫『きりひと讃歌』みたいな。その下に『ケンガンアシュラ』みたいな。もう、だろ君とかONE君とかも友達ですけど、手塚治虫と戦ってんだって思うと、すごい夢のある何か。

だから、何と言えばいいのかな、俺はアナログのほうの人間だから、ちょっと取っつきにくい部分があったんです。だけど、あっ、こういうふうにしてどんどん幅を広げていくことができるんだなというのは、ちょっと俺は感動しましたね。

留美子さんにも言って。やばいっすよっつってね。

制作協力:VoXT