日本の労働力不足、実はメリット

安部敏樹氏(以下、安部):また余談していいですか?

伊藤健吾(以下、伊藤):いいですよ。

安部:海外の人と話していると、「日本ってすげえうらやましいよ」と言われることが最近多くて。「日本って本当に少子化で子どもがいなくて、若い人がいなくていいですよね」って。

なぜかというと、テクノロジーを使ってイノベーションを起こそうと思うと、基本的にはそのイノベーションの邪魔をするヤツというのは、雇用がない人なんですね。テクノロジーは基本的には雇用を奪っていくので、「雇用を奪われると困るよ!」という意見が出てきます。

アメリカに行っても、ヨーロッパに行っても、基本的に移民とかいて失業率が高くなりがち。最近アメリカは調子良いので結構ましな数字出ていますけど。あと新卒一括採用がないんで失業率はとくに若い人が高いんですよ。そうして若年層の失業率が高いと、皮肉なことに若者がテクノロジーを導入することを拒むんですね。テクノロジーを導入しようとすると、自分の仕事がなくなることがわかっているから。

だけど、日本って、誰が見ても労働力不足で、失業率が時期によっては3パーセントを切っているわけじゃないですか。「そんなの実現可能? 完全雇用の域にあるんじゃない?」というレベルまできちゃってるわけですよ。

そうすると、労働力不足が背景にあるのでテクノロジーのリプレイスがすごくしやすいので、世界中から見るとうらやましい環境にある。社会課題解決に対して、あまり障壁なく、「どんどん勝手に技術とか使ってやっていいよね」となっているので、今の日本はすごくおもしろいタイミングにあるかなと思っていますけどね。

伊藤:AIやロボットが発達しても、それがリプレイスされる。上(高年層)も減っていくからみたいな?

安部:そうなんですよ。リプレイスしていくには、とくに国民合意が一番の邪魔になるので、その時に規制があまりかからなそうだとか、国民が「いよいよ人足らなくてやべぇ」とか言ってくれそうだぞ、という雰囲気が本当に大事で。

その雰囲気がこの国にはあるので、その意味ではここからたぶん10年、20年ぐらいで技術とかも持ったソーシャルベンチャーがたくさん出てきて、産業としても伸びていくし、いろいろなところで社会課題を解決するのが金になる時代になるような気がしますよね。

伊藤:2025年は、いわゆる団塊の世代がみんな後期高齢医療の対象者になる。もう完全に破たんしますからね。日本の医療費が50兆円を超えていて、日本の予算は50兆円ですから。

安部:本当にそうですよね。お金の話で言うと、日本はGDPが500兆円ぐらいあるじゃないですか。計測の仕方はいろいろあるんですけど、いわゆるガバメントマーケットと言われているだけで20~30パーセントぐらい使っているんですよ。

世界中で見てもガバメントマーケットは超巨大で、全体の2~3割、GDPの2~3割使っているわけです。

ここに対して民間が入っていけていないことに問題があると思っています。本当は民間が入っていけると、お金にもなるし、行政費用の削減にもなる。また社会問題は世界中どこにでもあるんで産業としても輸出もしやすくなっていきますよね。この際に1つ大事なのが自治体を変えるという話です。

行政が縦割りであることの弊害

例えば、獣害と言われる社会問題のイメージつく人、どのくらいいます? 獣の害と書いて、獣害。「あ、あれだ」ってわかる人。

(会場挙手)

安部:例えば、どんな獣害イメージされますか?

参加者2:イノシシ。

安部:イノシシ、そうですね。サルもあるし、カラスとかいろいろあります。どうやって解決するか知ってます?

(参加者2、答える)

安部:よくご存知で。中山間地域の獣害問題って、一番クリティカルな解決策というのは、基本的にはいかに里山保全をするかという論理になるわけですね。

ところが、自治体が入るとなにが起こるかというと、例えば、○○町の自治体が鳥獣被害対策課という課を作ります。役所が課を作ることで社会問題は公的な問題として扱われりやすくなり、”獣害”という問題がそこで形式上できあがります。ところが少し違う角度でぜんぜん別に過疎地域対策課という課があり、その他にも里山保全課とかもできてたりします。

ここに予算を全部別に分けて、ここでは林業をやって、ここでは「ハンター雇って殺して」みたいな話をしているわけですよ。この予算って、全部横に1つまとめて、どこか民間に出してあげて、問題解決したらいくら(報酬があります)という風ににしたほうが、本当は解決しやすいんですね。

だって、根本解決は出てきた獣を殺すよりも、里山という人の手が入ってしまった自然林、人工林をどうしていくかというほうが中長期的には解決策になりやすい。

そこにお金のインセンティブをつけてあげたほうがいいんだけど、実際は表面的な事象ごとに別の課・別の予算となってなかなか実行できていない問題があります。

ある種、民間が特区とかを使って事例を出してしまって、お金の流れも変えていけると、そこにお金も一気に動くし、問題解決もするような気がしています。たぶん、自治体と一緒に変えるロールモデルを作って、それを横展開するような事業をしたら、おもしろいですよ。

伊藤:そういう話で次の話につなげていきたいなと思います。スタートアップでそういうことをやって、自治体も含めたそういう人たちが(問題解決)やることに対する、デメリットやできないことを「じゃあ、民間でやったらどう?」という話をされたと思うんですけども。

スタートアップでやっていくことによって、やりやすかったり、逆にやりにくかったりはもっといろいろあると思うんですよね。そのあたりをそれぞれ話していただきたいなと思ってます。

教育や子育て事業の苦労

安部くんばかりしゃべっているので、佐々木さん。今までやっていて、先ほど挙げていただいたようなことについてどうですか。

佐々木久美子氏(以下、佐々木):やりづらい(笑)。

伊藤:やりづらいんですけど、(安部氏が)ずっとしゃべってるから(笑)。

佐々木:もうそのまま聞いておきたいな、って(笑)。

伊藤:安部くんの講演会になっちゃうので(笑)。メリットというか、やりやすいと思われることがどんなことがあるのか。スタートアップをやっているからこそ、その取り組みが早くできたりだとか、まあ、クイックにできる、と。

逆に、自治体がやっているようなことは、スタートアップだと要件が合わなくてできないということもあったりします。そういうことも含めて、やりづらさもいろいろあると思います。

教育や子育てで、自分の会社や事業でやっていることの中で、「スタートアップだからできてるよね」「だから、こう成長できてるよね」ということ。逆に、それが「もっとこうなればいいな」みたいなことがあれば。

佐々木:はい。私たちはソフトウェアを開発しているので、ソフトウェアというサービス上での「行政にやってもらったらいいな」ということが、とくになくて。自分たちでどんどん作って、市場に出していくことができています。

それとは別に、TECH PARKという民間学童保育は、やはり子育てや教育のことが入ってくるので。なぜ事業化したかというと、始めたら継続しなければいけないので、継続していく責任として、事業化しないとコストもかかります。

伊藤:単なる思いつきじゃいけない。

佐々木:そうです。運営のこととか、直接お子さまをお預かりしたりとか、人に関わることなので、責任を取れる範囲でやりたいと思って事業化した、ということがあります。

そこに対する世間的なことは、私たちはスタートアップなので、ボランティアではできないから、どうしても運営費がかかってしまいます。家賃や人件費がどうしてもかかってしまいます。そこに対して事業化や収益構造を作らなければいけないので、一人頭でお金をいただかなければいけないんです。

そうなると、どうしてもお金が払える人しかこられないことになるので、また違う問題が出てきます。じゃあ、保育園とかそういう学校教育とかがどうしてできるのか。

やはり国からお金が出ていたりとか、そういった税金でまかなわれている部分って非常に多いんですけれども、民間になってしまうと全部をまかなわなければいけいない。けっこうお金がかかるんですよね。

だから、私たちが自力でやれるのはここまでと言う範囲があるので、それを解決する時に補助金がない。ということで、「じゃあ、お金がない人はこれないんですか?」ということになります。「教育=タダ」みたいな、教育にお金がかかることへの意識があまりないということを、どう伝えたらいいのかなというのは(苦労してます)。

伊藤:本当にスタートアップ的な取り組みにできそうなところですよね。直接的に(お金を)もらうだけじゃなくて、お金の違う取り方というか。直接関与しない別の人が結果的に支援などをすることで、メリットがある人たちからスポンサーを取るだとか。

15年の子育ての末、起業

佐々木:それを一応最初考えて、いろいろなところとお話をしていこうと思ったんですけれども、やはり、とくに私たちは福岡という特色があります。実は「東京とかでやりませんか?」という話は非常に多くて。

「東京に持ってこい」「カナダに持ってこい」「千葉に持ってこい」みたいな、関東圏からのお話は非常に多いですね。あとは中国だったり、いろいろなところからお話いただくんですけれども。

私がどうしてこういうものを作ったかというと、私が働きながらエンジニアになったので、子育てをする時に、やっぱり仕事をしながら子どもを育てるっていうところにすごく課題がありました。

「どうやったら仕事をしながら子育てできるのか?」「安心してどこかに預けられるのか?」ということを、エンジニアという仕事をしながらずっと考えて、もう約15年ぐらい働きました。その中でなにも世の中にはできなかったので自分で作った、というのが正直なところなんですね。

別に事業化して儲かろうと思って作ったわけではなくて、わりと「女性活躍」「女性もどんどん働け」と言われている中で、やはり、結婚より子育てのほうが敷居が高いので、そこに関することは世の中にないです。会社としてそれを吸収するほうが一番早いんじゃないかな、と思います。

会社が人の働き方とか含めて、吸収したほうがいいんじゃないかなと思って作った、というのもあります。そこをどう理解してもらうのか、というところを企業にお話しすると、「今回はちょっと、まだ……」という反応だったので(笑)。起業が一番スタートしやすかった、というのが実情です。

安部:「市と一緒にスキーム作ってやりましょう」という話にならないんですか?

佐々木:私が始めた時っていうのが、私があまり行政とか、そういったところにコネクションがなかった。(役所には)行ったんですけど、やはり行政さんのほうでは、もともと学校にある学童保育に力を入れたいということで、「そっち(学童保育)でお金をかけたいから、民間の予算はないですね」と言われました。

その代わり、学童保育に関しては、とくに県も市も行政がなにか認可がいるわけではないので、一応届け出は出しているんですけど、そういう規制もなければ補助もない、みたいな感じの(笑)。

行政と協業する上での注意点

嶋根秀幸氏(以下、嶋根):その行政で言うと、市長がすごく大事だと思っていて。その人が今なんのテーマに興味があるかによって、その割り振りがまったく変わってしまう。

高島(宗一郎)市長は、今年だと「防災をやりたい」というイメージがあったので、そこに対してはドワーッと来るけど、それがなかったらなかなか。教育や少子化など、そういった部分にはなかなかないですよね。

安部:そこは、来場しているみなさんは認識のずれがあるかも。そもそも首長というのはすごい予算を巨大に持っているように見えるんですけど、自分で好きに使えるのって本当に少ないんですね。

しかも、役所の中と地域を相当掌握しないと、ラディカルにやれないです。首長に話をしたらすぐ通るというのは、それはかなりレアケース。(福岡市の)高島さんは、かなりそのへんがしっかりしているので。だから、防災とかも「けっこう突っ込みますよ」とおっしゃった。

あと、教育の話で言うと、うまくいっているかどうかは別として、尼崎市の事例がおもしろいと思います。

いろいろな団体が入ってきて、ある種の教育バウチャーで経済的なインセンティブがちゃんと働くかたちで、貧困層の子どもたちも自分たちで選んで学童に行くとか、なにかグレードの高い別の教育機会を手に入れられるように試みている。

あそこまでスキームを一緒に作れるようになると、だいぶ変わるようなイメージがあるかなと思うんですけどね。そこらへんの協働モデルとかは考えていらっしゃったりしないんですか?

佐々木:行政と組む時間のかかり具合を考えた時には、私はすでに子どもが(小学)1年生を過ぎていました。今までとあまり変わらないので、その時にほしかった施設なんですけど、その間は両親がいないとダメだという自分の実情もあり、その準備をしていたら子どもが卒業してしまう。

まず自分の課題を解決することが重要だと思いました。自分の経験からじゃないと語れない人なので、まずはそこからという感じですね。不特定多数の人を救えるほどの力が私にないけれども、せめて身近なところから。社員や周辺にいらっしゃる方、地域。私の場合は狭い範囲でしか考えられていない、というのが実情ですね。

伊藤:海外で僕の後輩がやっている話です。アメリカなんかだと学校以外の教育、アフタースクールがすごく流行っています。そもそも(日本の)学校でなぜか知識の詰め込みをやっていて。

「学校こそいろんな生徒と交われるから、そこは社会的なことを経験させるべきであって、覚えなきゃいけないことは家でやればいいじゃん」みたいなことを(後輩が)言っています。「結局、学校がそっちをやってるんだったら、自分たちはアフタースクールでその経験を作っちゃおう」みたいなことをやっている男がいるんですね。

大企業と連携していくのうがどうか

収益源は、もちろん参加されるところで参加費を取っているんですけど、やはりその教育に対して意義を感じている大企業からスポンサーを取っていたりするんですよ。自治体や行政からお金を取るんじゃなくて、実は大企業と組んでやったほうがいいんじゃないかと思います。

佐々木:一番最初、事業化する時にはそういうモデルも検討しました。そのヒアリングをけっこうしたんですけれども、やり取りをするまでものすごく時間がかかったので、行政と一緒でちょっと時間がかかりそうというのが結局問題としてはありました。

伊藤:でも、今はけっこう、オープンイノベーションだなんだとか、大企業もすごく積極的じゃないですか、いろいろな取り組みをするのは。

佐々木:実は、TECH PARKがあるビルが西鉄さんのビルなんですね。上には福岡市のこども未来局さんが運営している児童館があって、その下に私たちの施設があります。あのビルができる前に、西鉄さんとバスロケーションシステムを平成13年に設計しました。

伊藤:今も動いてる?

佐々木:そうです。今はまだそれが動いています。そのつながりで、私が「子どもを預かる場所を作りたいので、場所を貸してください」と言ったのがきっかけだったんですよ。

伊藤:レートは安くなったんですか?

佐々木:それで結局、「ビルができるから新しいところに入れ」と言われて、「いやいや、空いてて安いところから始めよう」と思っていたんですけれども、「新しいところがあるからどうですか? グルーヴノーツさんも来ませんか?」という話だったので。それで正式に、そのきっかけもあって自分が(起業)しました。

なので、オープンイノベーションというわけではないですけども、西鉄さんのご協力がなければ、あそこには作れなかったというのが実際あります。

伊藤:実際、お金もかかったんですか?

佐々木:そうですね。あ、お金をもらったわけではないんですけど、入居する時、私たちはスタートアップなので、たぶん与信もぜんぜんダメだったはずなんですけれども。私たちをいい場所に入れてくださって、西鉄さんの努力の賜物というか(笑)。

伊藤:嶋根さんのところも行政とやられていると思うんですけれども、今後、大企業と連携とか、防災のところでどういうところを狙っていきたいですか?

嶋根:いや、めちゃめちゃやりたいんです。1つは、今までのやり方の防災はやりたくないんですよね。新しいものを作るというところで。おそらく今まで脈々と続けてきた防災の組織などからすると、新しいやり方を構築すると、どうしても「不謹慎だ」「わかってない」となると思うんですよね。   その部分を解決する時に、大企業が持っている新しい技術、信頼性を取り入れたうえで、それを実証実験するように持っていくところはやってみたいんですよね。でも、実証実験を現場でやるってかなりトリッキーだし。

伊藤:実際になにか起こった現場でということですか?

嶋根:そうなんです。実は去年、熊本の震災で(Mistletoeの)投資先のHOTARUの水循環のシャワーシステムを使いました。

実は(それまで)使ったことがなかったんですよ。そこの代表が「どうしても熊本で使って、それを被災地に届けたい」と言うから、「じゃあ、行ってこい」と言いまして、行ったんですね。

結局、被災者の方に使ってもらうんじゃなくて、なかなか暑い中、そこに来ているボランティアの人が水浴びれないから、その人たちに使ってもらったんですよ。非常に好評でした。うまくハマった例なので、下手をすると行った時に「なに考えてるんだ?」という話になります。

ある意味そこの部分は、スタートアップでギュッと入れる部分があっても、一方で大企業の信頼されている製品とかも、「今までは防災に使っていなかったんだけども、使えるよね」という方法とかも使っていきたいなと思っています。

伊藤:なるほど。安部さんは相当な数の社会課題を実際に見にいくこともやっているし、それこそ大企業を連れていったりもするんですか?

リクルートは「いいヤツ」を採る

安部:けっこう、そうですね。今だとリクルートさんとかと、役員、部長、社長、全員の研修とかやったりしますね。そこから事業が出てきて社内ベンチャーコンテストで準優勝して事業化しているとかの事例もあります。他にも、新卒採用の時に社会課題の現場にスタディツアーでグループにして連れて行って、人事がその様子を見て、それで採用決める、というような協働もあります。

伊藤:それはなにを見てるんですか?

安部:課題設定をどうするかというのが一つ。どこの企業でもこの能力がある人をとりたいですからね。それと、初めて会った人たちとちゃんとコミュニケーションとって協働しながら社会課題の解決策を考えるってのが面接とかでは見えない評価をできていいですよね、と。

伊藤:なるほど。

安部:実際、新卒が現場に行って、そこで課題設定して解決策の話をするので、チームビルディングする力とかも見られるということです。

伊藤:なるほど。リーダーシップがあるかどうか、とか。

安部:そうですね。アセスメントとしてもいいですし。やはり、大企業そのものが「社会課題を解決していくんです」というメッセージングになるので採用の母集団形成が変わります。「社会問題に関心のあるいい人材が来ますよ」ということなので。

大企業はいいですね。なにがいいかって、中の人がとにかく善良ないい人を採っているので(笑)。

伊藤:(笑)。

安部:いや、すごい大事な話で。

伊藤:それはありますね。

安部:大企業の基本的な採用プロセスってやっぱり勉強になるんですよ。リクルートホールディングスの人事部長やっていたような方にもリディラバで働いてもらっているんですが、彼はひたすら採用や人事について、当たり前ですけれどもう鬼のように詳しいんです。

一緒に面談しながら、「いい会社はどんな採用してるのか」というのを彼から学んでるわけです。学んでわかったのは、「基本いいヤツ採ったら大丈夫」という(笑)。

(会場笑)

安部:賢いとか、スキルがあるとか、大事なんですけど、まずいいヤツ。それが最も大事です。そうじゃないと集団行動をちゃんとやっていけないとか、いろいろな調整ができないということなんだと思います。大企業はすごく「いいヤツ」を採りたい人たちなんだなと思います。そしていいヤツをちゃんと採ってる(笑)。

伊藤:いいヤツって、すごく曖昧ですけど(笑)、いいヤツってどういうことなんですか?

安部:いいヤツというのは、要素で言えば例えば「素直な人」ですかね。ほら、ここにいるみなさんの中で半分ぐらいしかいいヤツいなくて。

(会場笑)

安部:なぜかというと、「起業しよう」と言っているヤツらって、なにかしらとがっていたり、ちょっとネジが外れたりしているじゃないですか。俺も多分あまりいいヤツじゃないですよ(笑)。

伊藤:(笑)。大企業の中ではいい人じゃないかもしれない。

佐々木:私はいい人(笑)。

安部:たぶんそうです(笑)。半分ぐらいだからね。あと、嶋根さんはどっちかなんですけど。

嶋根:(笑)。

安部:大企業というのはいい人の割合が高いんですよ。ただ、その分、とがってはいないんです。そこらへんは、いい人たちというのは、社会課題についてちゃんと説明すると、「そうだ、そうだ」とけっこう関心を持ってくれます。とにかく善良な方々なんで。

大企業である以上、すでに社会インフラの可能性が非常に高いので、その意味で言うと、なんらかの社会的な役割をかなり果たしている自負もあるかもしれません。そういう自覚も持ってらっしゃる。

そこから広げていくと、まだまだCSR的にやれる範囲がいっぱいありますよね。ベンチャーと大企業が提携するときも「社会課題を解決しましょう」という同じ方向に向けると、協業しやすいです。

ただ1つだけ言うと、別に大企業じゃなくて、スタートアップでも、社会問題について詳しいわけではない人が多い。知らないが故になんとなくビジネスにならないイメージがあったり、問題を表面的に捉えてしまっているという課題があります。

それゆえに、なんとなく「これやりきったら、事業になりそうだね」「これやりきったら、将来的に人に寄与するなにかが生まれそうだよね」という実感が得られない。大事なのは、そういうところを共通認識持てると(大企業と)提携がしやすいんじゃないかと思いますけどね。

伊藤:実際、スタートアップと一緒に「大企業はこうやったらいいじゃん」みたいなものを支援するのが、リディラバで事業になりそうなんですけど。

安部:(一瞬考えて)ちょっとやってみます。お力貸していただけると。(笑)

伊藤:ちょっとやってみる?

官民で共通認識を持つのが重要

安部:実は今、ソーシャルセクターのR&D(研究開発)センターを作りたいなと思っていて。ソーシャルセクターって技術開発を全然してきてなかったんですよ。やる気のある、情熱のある人はいるんですが、足らないものが多すぎる。

そんな中で最近は少しずつ経営の支援ができてきました。おかげさまで以前に比べればNPOやソーシャルセクターに経営ができる人たちが増えてきました。ですが、やはり技術がないんですね。ソリューションがない。事業を作るというのは人がいて、経営ノウハウがあって、技術やソリューションがあって、資本があって初めて成り立つ。このなかでいうと技術とかソリューションが今この分野には一番弱いんじゃないかなと。

でも、日本は数千億円を研究費用に毎年使っているんだから、いろいろな研究機関が探せばあるんですよ。ちゃんとした研究者を連れてきて、そのソリューションを社会課題の現場で事業化して現場に実装していくのを支援したいと思っています。これは企業の研究リソースやエンジニアリソースにも言えるかもしれない。

とにかく企業、官僚、研究者などマルチセクターで社会問題の現場に集うような機会をたくさん作っていきたいんですよね。今でも役所の研修や企業の研修でも使ってもらえるので、同じタイミングでみなさんを現場に連れて行けないかな、と。

そうすると、役人の人は「そうか。俺らが規制緩和どうにかしないといけないな」と考えてくれます。大企業側は「大企業としては、こういうことができます」と考えてくれます。ベンチャーだったら「一番早く現場でこういう開発できます!」みたいな感じになっていくのではないか、と。

時間を共有して、現場を見て「これが問題だね」という共通認識を持ったうえでスタートすることがやはり大事です。それをもう少しやっていきたいですよね。

伊藤:課題に一番近いところでそれをやったほうが効果も高いし、やれることにもつながる可能性が高いんですね。

安部:そうですね。人間って非常に大らかなんで、一緒にいたら、「こいつ、いいヤツだな」って思っちゃうんですね(笑)。

伊藤:(笑)。

安部:それが大事だなと思ってて(笑)。

伊藤:いやいや、やっぱり一緒にいるぐらいで、そうは思わないよ(笑)。

安部:同じ問題を見ていて、「この問題なんとかしたい」という共感が生まれるわけですよ。

伊藤:共感は大事ですね。

安部:時間と共感を使って、その上で具体的にできそうなことが見えてくると、「じゃあ、やろうか」となるじゃないですか。課題の現場のほうが出やすいというのは確かにあることだと思います。

伊藤:なるほど。