ユーザーに求められる存在になれるか

徳力基彦氏(以下、徳力):僕があえてMERYの話をしているのは、僕はMERY以外のメディアは、報告書を見る限り完全にSEO目的の「記事はなんでもいいからページビューを増やせと」いう、さっき古田さんが説明してくれた、ある意味理念なきメディアの典型例になってしまっていたとは思うんですね。とにかく数字を埋めましょうと。なぜなら、10個作らなくてはいけないから。10個いけそうなテーマを作って並べてやります。

結果的に数値が目標だから魂が無い状態で膨らんでしまったんだと思うんですけど、MERYは比較的魂はあったと思うんですよね。ビジョンもあったし、読者にも愛されていたし。そういう意味で、たぶん直さなければいけないポイントが、いわゆるWELQ周辺とMERYはちょっと違うと、僕の中では思っていて。

WELQの話をしだすと、ちょっとあまりにマニュアルとかメディアの理念の無さとか考えると論点が多すぎて難しいなと思ってしまうんですけど。。MERYの場合、一応理念とビジョン的なものがありました。ただ、WELQと同様の著作権違反をしていたので一緒にアウトになりましたということだと思っています。

なのでMERYに関しては、僕からするとすごくもったいないなと思っていて。WELQとかに比べれば、よっぽどメディアとしての立ち上げ方はあっていたけど、閉鎖せざるを得なくなっちゃった。

ただ、古田さんが言うようにちゃんと編集者を、軸を入れてあげれば、ハッカー的な中川さんと編集者との組み合わせ、僕はあり得たのかなと思ってるので、いきなりMERYをサンプルに質問した次第です。すみません、いきなりMERYに飛んで。

ヨッピー氏(以下、徳力):さっきも言った通り、YouTubeとかニコニコ動画が生き残っていったのは何でかって言ったら、ユーザーから支持されてたっていうので。その意味で言えばMERYはユーザーからの支持というのを集めてたから、グレーゾーンでも渡りきろうと思えば渡りきれたと今でも思いますよ。

著作権の問題はあるけれども、誰かから訴えられたかというと、まだたぶん訴えられてないし。DeNAが一回閉じて、精査して、著作権上の問題を全てクリアしたうえでもう1回アップしますねっていうやり方をしてたら、たぶん生きててもおかしくないと思ってますね。結局、ユーザーがどう思うかじゃないですかね。

徳力:メディアをやるときに大事なのは、理念的なものと、それによってちゃんとユーザーに求められる存在になれるかどうか、ということですか。

ヨッピー:これ、別にメディアに限らずすべてのことがそうだと思うんです。AirBnBとかも、法律的にどうなんだっていう話になってますけど、結局使ってみると便利だから、まあいいかっていう話になりますから。

徳力:なるほど。

古田大輔氏(以下、古田氏):もちろんMERYのすべてがよかったわけではないですよね。僕、MERYのいち研究者ですけれども。いいコンテンツもいっぱいあるなと思ったんですけど、もちろん良くないコンテンツもあって。

「学芸大前駅を散歩してきた」みたいなコンテンツが、「間違いがすご過ぎた」っていう記事を書いた鳴海(淳義、BuzzFeed)が今そこに座ってますけれども。大間違いなコンテンツ。さっき、まさにヨッピーさんがおっしゃってた、明らかに行ったこともないのに作ってるようなコンテンツは、あるのはあったんですけど。

ちゃんとした編集者の人がいて、チェック体制がしっかりしてれば、それを防ぎながら本当に女子大生が楽しめるコンテンツを作れたんじゃないのかなと思います。

100パーセント正確じゃないといけない

参加者:すみません、ちょっと思ったんですけど、MERYとWELQの違いで、MERYのほうってヨッピーさんが言うみたいに、ユーザーの人が楽しいか楽しくないかとか、そういうのがあると思うんですけど。WELQって、ちょっと僕も不勉強なんですけど、薬事法とか薬規法に違反してる記事ってなかったでしたっけ?

古田:ありました。

参加者:ですよね。

徳力:WELQがあまりにも、明らかにアウトだったので、そこを起点に著作権の流れで全部が生まれたんだけど、ひょっとしたらWELQがなければ、全部燃えてないかもしれないですよね。

ヨッピー:本当にそうだと思います。

徳力:著作権の話というのは、他社もやってるところはやってるわけで。いまだにやってるところも、実はあるわけで。それはグレーゾーンを攻めてるのであると言われちゃうと、さっきの話で。まあそうですかって、「著作権の人がんばってくださいよ」っていう話で終わりがちの話ではあると思うんですよね。今日は著作権がメインのテーマじゃないので、それくらいにしておきますけど。

さっきの話はこれですね。学芸大学駅にもう学芸大学はないんだけど、大学があるみたいな記事になってるという話でしたっけ? 

たぶんライターにいっぱい書かせればいいじゃないっていうやり方でやっちゃうと、そういうネタがが混じってきちゃう。さっきの8割良ければいいっていうのではなく、100パーセント全部大丈夫にしなくちゃいけないという意味では、こういうやり方自体がリスクでしかないっていう話なのかなと、個人的には思いますね。

古田:100パーセント正確じゃないといけないと思ってるんですけど、でも人間だから、もちろん間違えるわけですよ。人間だから間違えるけれども、気合いとしては100パーセント間違えたくない。正確なものを出したいというのでやらないといけないと思うし。

間違ってたら、すぐにそれが間違ってるとわかったら、ちゃんと訂正しないといけないし、「どこをどうこう訂正しました」って書かないといけないし、そこをちゃんと正直にやらないとねっていう話だと思うんですよね。

倫理の境界線

徳力:次に信頼のほうの話に移りましょうか。メディアが守るべき倫理の境界線はどこって話じゃないって気もしてきたんですけど。我々はどこまでやれば、そこの境界線を超えているって言えるんですかね? ちゃんと正しくやろうとしているっていう。

商業メディアにおられる方は、当然そういう教育を受けて来て、たぶんある程度のこれが正しいみたいなのを学んでいて、だからそれを守る前提で古田さんは話をされていると思うんですよね。

僕みたいなメディア的には素人のブロガーでもコラムを書けてしまう時代において、当然、別にブログ自体は長く書いてますけど、いわゆる境界線とかの学習を一切しないままやってきちゃってるので悩んでいる次第です。ヨッピーさんはそういうのは習ったんですか?

ヨッピー:なにも習ってないですよ。 徳力:というのがあるじゃないですか。当然、社会常識でしょみたいな話はあると思うんですけど、そうじゃない人間からすると、「こういうラインあるよね」って言われても、「どこ!?」っていう。「何をやっちゃダメなの?」っていうのが。ヨッピーさんは、自分が正しいと思えばやるべきだっていう信念を持ってやると思うんですけど。

自分がブログを書き始めたころを考えると、正直なんにもそんなことを考えてなかったので。最初のころの記事を読むと、めちゃくちゃ恥ずかしいです。である調で言い切って、「○○会社は、そんなことやっちゃダメだ!」みたいな。けっこう言い切って書いてて、「こいつ、後から自分がこれを読むことになると思ってねぇな」っていう書き方を完全にしちゃってるんですけど(笑)。

人間ってけっこうそんなものだと思うんですよね。Twitterで炎上するのも、だいたいそういうパターンだと思うんです。そういうコミュニケーションをしながら、少しずつ学んで言う組んだと思うんです。今もたまに燃えますけど。

メディアの倫理の境界線を学ばないと情報発信しちゃダメなのであるって言われた瞬間に、僕もたぶん、前半8年くらい全部アウトなんですよね。当然プロでやってる方からすると、そう言う教育をちゃんと受けろよっていう話だと思うんですけど。

ヨッピー氏が書いたPCデポの記事

インターネットの可能性って、ロングテールの端にいた僕みたいな人間でも「こいつおもしろいこと書くな」ってメディアの人がオファーをくれるっていうところにあると思うんですよね。「僕の記事なんか載せていいんですか?」って言いながら、いつの間にかそれに慣れちゃう僕も、最近はちょっと気を抜いて書くようになっちゃうところがあると思うんですけど。そういう境界線の線引きはどうしていけばいいと思いますか?

ヨッピー:僕は、見てる人にとって良いものだったらいいじゃんって思ってますよ。

徳力:強いですねー。

古田:僕、ヨッピーさんに質問なんですけど、PCデポの記事を書いてたじゃないですか。あれって誰か、ダブルチェックとかしました?

ヨッピー:弁護士の友人には見せましたよ。友人じゃないな、僕の顧問弁護士に。

古田:最初に書いたものからけっこう修正しました?

ヨッピー:修正はしましたよ。腹立つのは、これね、アップ前にPCデポに見せてるんですよ。

古田・徳力:へー!

ヨッピー:そうなんですよ。僕がガーッと書いて、下書きの状態をPCデポの出て来た部長のおっさんに、「これ書いたから、確認して事実と違うことあったら今のうちに言っとけ」と。「明日の何時に出るからな」みたいなことを伝えてあったんですね。

それで、なにも言わないし、そもそも事実確認を店舗でしてるんですよね、僕。「細かいワード、これはこういうワードで合ってますか?」「合ってます、合ってます」みたいな。全部録音もして残ってて、それに基づいて書いてあって。

なのに公開してから、後からPCデポにすげぇ言われたんです。「これ、こういう意味じゃなかったです」って。それでなんなんだよってなりながら修正はしましたけど。

嘘の情報を流したくない

徳力:ここまで話題になるとは思ってなかったから、上司に言われて慌てたっていう話でしょうけどね。これは本当、僕も見たとき驚きましたからね。個人でここまでやるんだっていうのは。

ヨッピー:あと、サイバーエージェントの悪口を書いたときも、僕、公開前にサイバーエージェントに送ってますからね。「これで公開するからね」って。

徳力:それがヨッピーさんなりの、リスクヘッジっていう言葉はよくないかもしれないですけど、コミュニケーションのやり方ですよね。

ヨッピー:事実と違うことがあったら困るので。

徳力:いきなり目に見えないところからパパッと出してくるんじゃなくて、ちゃんといくよって言ってから殴るから、歯くいしばっとけよっていう感じかな。

ヨッピー:「BuzzNewsをぶん殴る」っていう記事も、あれもそうです。公開前に当事者に見せてますからね。

徳力:それはヨッピー流のコミュニケーションのやり方みたいな話ですよね。 ヨッピー:事実は事実として、しょうがないから書くしかないでしょ? ただ、これは事実と違うんですよってことがあるなら、公開前に言っといてねって。僕も嘘の情報を流したくないからって。

徳力:個人のレベルでやるには、それは良い気がしますね。逆に商業メディアだと当然見せずに、いきなり出してなんぼだと思うんで。その分、法務とガチで相談みたいな話だと思うんですけど。

実際、BuzzFeedではどうしてるんですか? ちょっと思わず、BuzzNewsって言いそうになっちゃった(笑)。

古田:BuzzFeedです(笑)。僕、この記事を読んだときに、すごいなと思ったんですよね。何がすごいと思ったかと言うとですね、これを見たときに、たぶん誰かのチェックというか、相談したんだろうなと思ったんです。記事を読むと、推測で書いてないんですね。ざっくばらんに書いているけれど、事実に基づいて書いている。

徳力:なるほど。