「受難と克服」がファンを魅了する

武者慶佑氏(以下、武者):おもしろい。じゃあちょっと……。

平澤直氏(以下、平澤):さあ、行きましょう。

武者:一番ボリュームが多いのを読んで、あとは質問タイムにしましょうか。

平澤:そうですね。

武者:「今回のテーマが劇場アニメということで、短い尺のアニメを主題に長尺の映画を製作するといったギャップ(ネットやテレビで誰でも見られる作品を劇場限定にする、無料で見られる作品を有料で見られる作品とするなど)があった場合、そのギャップをユーザーに対してどのようなプロモーションで埋めていくのか、知りたいです」。なんかこう、直接的な回答を(笑)。

平澤:そうですね。

武者:今、課題を抱えていらっしゃるんでしょう。

平澤:なるほど。例えば短い尺のアニメを長尺にする例で、すごく成功したはしりの例って『鷹の爪』とか。

武者:『鷹の爪』ですよね。

平澤:『鷹の爪』ですよね。「私を愛した黒烏龍茶」。たいへんな名作ですけれども。

武者:(笑)。

平澤:あれは作品自体がすごくネタ性の高いもので、映画自体もネタとして作っていった、あの事件性。あの作品にだんだん人気が出てきて、「人気が出てきたから無茶なことしちゃいました」「おいおい大丈夫か?」みたいな事件性そのものをお客さんと共犯関係になって楽しむという空気はありましたね。

そういうふうに小さく始めて大きく育てるっていうのって、アイドルも基本そうなっていますし、『電波少年』そうですけど、「受難と克服」と言えばいいんでしょうか。

無茶振りがあってそれを克服してるうちにだんだん大きくなって、また無茶してまた無茶して、ついに劇場来ちゃった、みたいに作っていくと、初期から入っている人は応援してくれるし、そしてあとから入ってきた人も、「俺が入ったあとまた大きくなりそうだからしばらくつきあう」みたいなループが生まれることがありますね。

「盛り上がってる感」が友達を誘いやすくする

武者:ストーリーで消費していく、じゃないですけど、その成長曲線とともに、ある時からお金払ってでも消費してもいいという。初音ミクも「これがライブするってどういうこと?」みたいなところがありますよね。

平澤:まさに。たぶん、今、お客さんの中で楽しそうな集団を見るというのが楽しいし、あと盛り上がってる場所にいるってけっこう大きな快楽だと思うんですね。

武者:応援上映的な?

平澤:例えば、「これからまたどんどん人がどんどん入ってくるに違いない。運営側もこれからどんどん宣伝を投下するに違いない」というある種の安心感というのは、お客さんをどこかに動員していくときや、劇場に来ていただくときにすごく大事な感じありますよね。盛り上がってる感。

武者:「私が愛してるものは、これまだまだいくぞ」みたいなところってことですね。

平澤:そうですね。そうすると、自分が参入したときよりも、自分がファンになったときよりもそのあとさらに人が増えるって、お友達を安心して誘える空気って出るじゃないですか。「今、すげえ熱いんだよ、あの場所。人どんどん来ててさ」って言って人を誘いやすいんですよね。

ちょっと前だと、例えば、アナログゲームのコミケみたいな「ゲームマーケット」というものがありまして。

武者:はい。

平澤:毎回毎回、2割ずつぐらい参加者が増えていってどんどん大きくなっていったんですね。それで、「このシーンは今おもしろいです」みたいな感じで人に勧めると、アナログゲームに興味のない人でも「あ、今、人数増えてるだ。じゃあちょっと行ってみようかな」みたいな。

「流行りに乗っておこう」というと言い過ぎですけど、流行ってる場所に行ってみたらなにかおもしろいものがあるかもしれない、という空気は出せるかもしれないですね。

小さく産んで大きく育てるという戦略

武者:テクニックでなく、やっぱり盛り上がってる感じを作れるように設計しておかないといけないというのはあるってことですかね?

平澤:そうですね。おっしゃるとおり。クリエーションに話を移すと、短い尺のアニメってどうしてもショートコントとかになりがちで、深いドラマとかすごくきつい展開とか、重厚なストーリーみたいなことってなかなかできないんですよね。

なので、それをどう逆手に取るか。劇場に行くっていうときに、たぶんそれまでの満足と違うタイプの満足が得られるというと、ちょっとみんな「おお?」ってなると思うんですよね。「今回の劇場はちょっと俺が観ていた短尺のシリーズと空気が違うんじゃないか。大丈夫か?」みたいになるかもしれないので。

短尺のシリーズの延長としてやっぱり安心して観られる安心感をどう作るかっていうところはあるかもしれないですよね。クリエイティブっぽく言うと。

武者:そうですね。確かに。

平澤:だから、あんまり簡単に誰かが死んだとか……例えば『鷹の爪』だったら、誰かが死ぬみたいな宣伝を果たしてするべきなのか、みたいなところはあるかもしれないですかね。

武者:直接的な回答じゃないかもしれないですけど、先を見据えて仕込んでおくというのはあるかもしれないですね。最初の時点から。

平澤:はい。あとはプロモーションのやり方として、むしろ最初をものすごく小さくするというのが実は順当かもしれない。

武者:スーパーコアファンづくりからやっていく。

平澤:それこそももクロファンもね。NHKの裏でやったり、ヤマダ電機の前でシャッター前でやったりという姿勢が、応援しようという人を作っていくじゃないですか。

武者:それ、実はアイドルの数字も全部取っていたので、ももクロの成長曲線は数字で見れますよ。

平澤:おっと? すばらしい。

武者:……というのはいつか言いたい(笑)。

平澤:そうですね。それは見てみたいですね。ということで、あくまでプロモーションでということでいうと、小さく生んで大きく育てるということが、結果として、その小さい時期に来てくれたお客さんに「これは俺のものだ」と思ってもらうきっかけになるんじゃないかなと思いますね。まあ、あくまでご参考までということで。

カルチャーマーケティングを考える「SHAREPOP」始動

武者:という感じでございます。一応これで終わりました。なにか会場のほうからご質問があれば少しご回答して終了かなと思っておりますが、いかがでございましょうか?

平澤:さあみなさん、早い者勝ち、早い者勝ち。いかがでしょうか?

武者:今日は大満足ということでいいんですか?

平澤:大丈夫ですか。劇場絡みでもよろしいですし、武者さんだったら逆にSNSについてのこととか、僕だったらアニメについてとか、なにかそういうことでもぜんぜんウェルカムですけれども、いかがでしょう?

武者:大丈夫ですか。どうですか? ない。よーし大満足!(笑)。

平澤:個別に聞きたいとか、「ほかの人にはこの質問すら聞かせたくないのだ」みたいな方がいらっしゃれば、個別につかまえていただいて質問いただければと思います。

武者:じゃあ、そんな感じで本日終わりなんですが、1個だけ予告させてください。エヴァンゲリオンフォントで(笑)。

(会場笑)

武者:1個、KAI-YOUさんというメディアとシェアコトで、SHAREPOP(シェアポップ)というのをやります。

なにをするかというと、カルチャーマーケティングをもうちょっとちゃんとやろうかなと思ってまして。「アニメのタイアップどうしようかな?」と考えるんじゃなくて、アニメを消費するという文化。アニメを消費する人のやり方・文化・志向みたいなところをもう少し理解して、カルチャーと組むということ。

「Instagramでどうプロモーションしようか」じゃなくて、「スマホ写真を撮るってもう文化だよね」みたいな。それとどうやってやるかっていうこととか。そういうふうに文化とやるっていうようなことをもう少し考えていこうかなって思って、シェアポップというBtoB向けのメディアを作ろうと思っています。

そこにポップカルチャー全般の領域をいろいろ網羅した上で、メディアのKAI-YOUさんの情報力や影響度をしっかりと使わせていただいて、分析とか企画とかをできるようにしていきたいなと思って鋭意製作中でございます。8月ぐらいにスタートしようと思っておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。

以上です。本日は誠に、平澤さん、ありがとうございました。

平澤:いえいえ。こちらこそありがとうございました。これを機会にまたみなさんといろんな議論ができればと思いますので、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。

武者:ありがとうございます。

平澤:ありがとうございます。

武者:ありがとうございました。

(会場拍手)