ローカル・イズ・ビューティフル

山崎亮氏(以下、山崎):ご紹介いただきました山崎です。よろしくお願いいたします。

今、司会をしていた金原さんから、こういう連続のトーク、対談形式のイベントがあるとお聞きしました。「今、山崎さんは誰と対談したいですか?」と聞いていただいた。

「今もなにも、10何年も前から、僕は辻信一さんと話をしてみたいです」と話をしたら、金原さん本人も「会ってみたいです」ということで、すぐ連絡していただいた。そしたら辻さんが「行ってもいいよ」と言ってくれたので、喜び勇んで今日はここへ来ました。

みなさん、もうご存知と思いますが、『スロー・イズ・ビューティフル』。

スロー・イズ・ビューティフル―遅さとしての文化 (平凡社ライブラリー)

「なにかいい本ないですか?」と書店で聞かれると必ず挙げている本です。2001年に出ていますが、我々は2002年にこれを知ったんです。2002年の正月にたまたま本屋さんで手にして、読んだあと、うちの事務所のスタッフ全員に「これ絶対読んだ方がいい」と言った。

(私は)あまり本を読み返すことがないですけど、後ろのほうに「何月何日読了」と書いてあって、3ヶ月で3回も読んでいるんです。あまりそういうことをするタイプの人間じゃないですけど、すごく読ませていただいた本です。中はもう赤線ばかり引いて、3回読むと、どこが赤線かわからないくらい赤ばっかり。これ以上、線を引くのをやめたほうがいいと思ったのが、この本です。

ちょっと前置きが長くなりましたが、その辻さんに来ていただくことができた。今日は2時間あるということで、なんの打ち合わせもしていないですが、いろいろお話をさせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

辻信一 氏(以下、辻):よろしくお願いします。

みなさん辻信一です、どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

:僕はもし「誰と話したいか?」と聞かれたら、やっぱり山崎さん。

山崎:(笑)。本当ですか? うわっ! それは。

:本当です。ずーっとお会いしたかったんですよ。

山崎:恐縮です。ありがとうございます。

:そして山崎さんの本や、対談もけっこう好きです。

山崎:うわっ(笑)。すいません、前に座っているのを忘れて、子どものようになっちゃいました。

(会場笑)

山崎:僕にとって、めちゃくちゃうれしい発言なんです。

:言われていることは、みんな好きなんですけど、特に今、どういう文脈かを説明したいと思います。僕は最近、「スロー・イズ・ビューティーフル」とか「スモール・イズ・ビューティフル」とか、いろんなことを言ってきたんですけど、今は「ローカル・イズ・ビューティフル」。

山崎:おー。

:そういう合言葉でやっているんです。この11月にはその文脈で「しあわせの経済世界フォーラム」を11月の11日、12日に開催することを決めています。「しあわせの経済」という流れを日本に本格的に持ってきたい。その中心のテーマがローカルやローカリゼーションなんです。

山崎:なるほど。

グローバリゼーションの役割は終わった

:そうすると、そのローカリゼーションで、誰の話が聞きたいかというと、山崎さんがパッと出てくるわけです。コミュニティが、僕らにとってどういう意味があるのか? それから地域。ローカルは日本語で言えば地域なんだけど、地域という日本語がちょっと使いづらい。ローカリゼーションも「地域化」とはちょっと違う感じが……。

山崎:違いますね。

:僕は今、グローバリゼーションの終わりがすでに始まっていると考えています。グローバリゼーションの終焉はもう始まっている、そのサインは世界中にある。そして、このグローバリゼーションの終焉は、かなり大きな、いい意味でも悪い意味でも大変な時代になるだろうと思っているんです。

その先は一言でローカリゼーションだと思っているんで。もう1度、地域とかコミュニティを、根本から考え直さなければいけないと考えた時に、山崎さんが現場でやってこられたようなことが、すごく重要な財産になるんじゃないかと。

山崎:今日はぐっすり眠れそうです。ありがとうございます。なるほど、そういう文脈ですか。今度しあわせの経済世界フォーラムが行われるのは東京ですか?

:そうです。

山崎:東京に世界中の方々が来られる。

:世界のあちこちからゲストをお呼びして、1日目が一ツ橋ホール。2日目が僕が今教えている明治学院大学の白金のキャンパス、たくさん教室を使ってやる予定です。

山崎:もう情報は出ているんですか?

:そうですね。これ 見られるんでしょうか? 今、本格稼働までいっていないですけど、こういうホームページがあります。

山崎:本当だ。「Local is Beautiful!」になっている。

:ゲストの顔が少し出ていますね。この左のヘレナ・ノーバーグ=ホッジが、ご存じの人も多いと思いますけど、インドの北部ラダックに1970年代に外から入った最初の1人です。

それまで鎖国状態だったわけです。そこに入って、桃源郷みたいな所があると衝撃を受けた。それ以降、何十年にもわたって、そこを定点観測しながら世界について考える。今までの経済学が豊かさばかり、お金ではかられるGDPやGNPの豊かさばかりを追求してきたと。

いつの間にか非常に重要なことを置き去りにしてしまったんじゃないかと。ラダックという場所を1つのモデルにして、いろいろ考えようと。一方僕は、やはりヒマラヤにあるブータンに今まで20回行っているんです。

山崎:20回も行きましたか!

:20回行って、ヘレナと同じような意味で、あの国から発信されたGNHという、GNPをもじったGNH。つまり今までの「国民総生産」に対して「国民総幸福」というダジャレです。国王が言い始めて注目された国ですけど、このラダックやブータンから、もしかしたら今まで他の国々がそのために突っ走ってきた経済成長が、そもそもおかしかったんじゃないの?という問いかけが起こったんです。

そしてヘレナはそこから「しあわせの経済」という概念を打ち出して、有名な映画も作っています。『幸せの経済学』。これは全世界で多くの人に見られている映画ですけど、そして同時に「幸せの経済国際会議」という、世界中で会議を開き始めたわけです。それをいよいよ日本にも初めて持って来る。廣井(良典)さんはご存じなのかな?

山崎:はい。対談させていただきました。『コミュニティを問いなおす』。

コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 (ちくま新書)

:そう、僕も大好きな方です。ローカリゼーションでは、本当に日本を代表する人と思っています。

幸せのためにGO Local

山崎:そうか広井さんも来られますか。田中(優子)さんもご一緒させてもらいました。

:そうですか。

山崎:結とか講とか我々の分野で言うと連とか座。江戸時代から自分たちの地域を良くしていく、あるいは楽しむなど、いろんなことのために、人のつながりがあったということを本に書かれた。なにかの講演会でご一緒させていただいたんですが、すごく勇気づけられました。もともと、この国にはそういう感覚があったと。

ここ何十年か100年くらいは、少し忘れられてきたかもしれないけれど、そういうのがあったんだよと、位置付けてくれたので、すごくありがたい時間でした。

:僕はラダック、ブータンのすぐ横に日本の江戸があってもいいんじゃないかと。実は僕も田中さんとは本も一緒に作らせていただいた。それが『降りる思想』。

山崎:それも良いタイトルですね。『降りる思想』。

降りる思想―江戸・ブータンに学ぶ

:僕らがローカリゼーションを、どういう意味で言っているのかをちょっと見てもらいましょう。短いアニメです。

(動画開始)

みんなが本当に欲しいものってなんなんでしょうか? 友人や家族との時間、充分な食べ物、家、奇麗な空気と水、安定した気候。それらを誰もが享受できるそんな世界。でも現実の世界は、私たちの本当に欲しいものはますます手が届きにくくなるばかり。何が原因なのでしょう?

一言で言えば経済。正確にはグローバル経済こそが問題なんです。グローバル経済は私たちの税金が巨大企業への助成金として使われ、地域のビジネスが犠牲にされます。CO2排出量が増え、仕事が減り、民主主義ができ、大企業や大銀行にとって都合が良くても人と地球にとっては不都合なことばかりです。

今こそ冷静に、経済学者や政治家いろんな専門家の言うことに惑わされずに、できるだけシンプルに考えましょう。問題がグローバル化なのであれば、それと真逆の方向に進んで、地域のコミュニティと経済を応援していくのはどうでしょう?

あらゆる意味で、ローカル化のほうが勝っているのは明らかです。不平等や環境汚染を減らし、より良い仕事をたくさん生みだす。そして私たちを自然と、そしてお互い同士をつないでくれます。気候変動についてグッドニュース。うれしいことにこの変化はもう始まっています。どうしたらこの変化を後押しできるでしょうか?

1つ目、多国籍機関や金融機関に優位にはたらく貿易協定や条約に“NO!"と言いましょう。

2つ目、経済競争を公平にするよう政治家に圧力をかけましょう。巨大グローバル企業を優先している税金・助成金、規制を小規模でローカルなビジネスのために使えるよう訴えるのです。

3つ目、地域の取り組みに参加して草の根レベルから経済を作りなおすんです。“GO Local"世界が必要とする変化を起こすために。

(動画終わり)

未来は都会じゃない

山崎:辻さんがしゃべっているんですか?

:そうです。

山崎:(笑)。なるほど。

:というわけで、これが11月の世界フォーラムの話です。

山崎:この中で言うと、3つ目は僕らが普段やっていることだなと感じました。地域の草の根経済というか、地域の中での活動を、自分たち、地域の人たちで作っていく。これをお手伝いするのが我々の仕事なんです。

:そうですね、今、3つと言いましたが、最初の2つと3番目は、実は切っても切り離せない関係があると思うんです。

山崎:そうですね。

:よくヘレナはビッグ・ピクチャーと言うけど、やっぱり世界全体の大きな絵が見えないと、いろんな壁にぶつかります。

山崎:そうですね。

:だから地域を考えるときに、まずは、何でここまで地域が追い詰められてきたのか? そして、まるで田舎を捨てて都会へ出てくることしか未来はないんだと僕らは100年以上も考えてきているわけです。世界中がそういう流れを受け入れてきてしまった。

だから自分で思うんです。僕自身、この歳になって「勉強しなきゃだめだな」と。

山崎:ほう。

:ほんとに思うの。

山崎:知らないことが問題を大きくする。

:そう。だから僕大学でも、最近は教えようっていうよりは、必死で勉強しようよって、そういう感じになってきています。