1年に1回、上司とキャリアの相談をする

曽山哲人氏(以下、曽山):今おっしゃった「強みを理解していますか?」って問いがあるじゃないですか。それって、リーダーは強みを理解するために、なにかやってる取り組みとか習慣とかあったりするんですか? 会話の中でとか。

谷本美穂氏(以下、谷本):ツールはないと思うんですね。でも対話は従来GEの中で大事にしてきているカルチャーで、1年に1回は上司と自分のキャリアの相談をするとか、常に自分の強み、あと改善点を書く項目もありました。強みを考えることはカルチャーとしてあったと思うんですよね。

曽山:それって、なにか強みと改善点を書くフォーマットがあるんですか? 

谷本:ありましたね。しかも、改善点に関しては、本当ひどいんですよ。改善プランみたいなものまであって(笑)。

曽山:そこまで持ってかないといけないんですか。

谷本:そう! それは昔あったんです。それをね、やめたんですよ。

曽山:ほう。

谷本:この成長支援のPerformance Development、PD@GEになってからはそれはやめました。そして、「Considerインサイトっていうことにしましょう」となっています。

曽山:なるほど。

自分の成長スピードに合わせて面談日を決める

今後、面談自体はもちろんやるわけですよね? インタビューとしては。

谷本:やりますね。

曽山:インタビューっていうのは、上司・部下は年に1回、キャリアに関するガッツリした面談みたいなのですか?

谷本:はい。

曽山:それは時間はどれくらいかけるものなんですか?

谷本:一番おすすめしてるのは、1時間はお話をしてあげてくださいね、と。

曽山:けっこうガッツリですね。

谷本:あと、これも1年間に全員が一斉に同じタイミングで面談するというのは、ちょっと変なんじゃないかっていう声もあって。みんなそれぞれに自分の成長のスピードが違ったり、オポチュニティが空くタイミングは、それぞれに違うので。

曽山:部署が空いたりとか。

谷本:はい。なので、上司と部下とで決めてもらって、1年に1度どこかで話をしてもらいます。キャリアの相談も含めて日頃から信頼ある関係づくりができているかどうか。これがピープルリーダーに今後やってもらいたいことなんですね。

曽山:なるほど。

ポイントは強制ではなく「推奨」

それはもうふだんの対話も、けっこう面談とかはあるもんなんですか? 1on1みたいな。

谷本:ありますね。1on1ありますね。

曽山:グローバルカンパニーの人に聞くと、1on1インタビューってけっこう普通みたいな感じで聞くんですけど、どれぐらいの頻度でやってるような感じなんですか?

谷本:みなさんそれぞれに決めてもらってますけど、月1だったり、2週間に1回だったり、多ければ1週間に1回だったりとかなんじゃないですかね。

曽山:あ、そんなになんですね。

谷本:ただ、ポイントは、一人ひとりの自分の期待されている成果があって、そこに向かっていくために上司と1on1をしているのであること。1on1をすることが目的じゃないと思うんですよね。

曽山:そうですね。

谷本:なので、それがプロジェクトによっては毎週必要な人もいれば、その関係性の中では1ヶ月に1回でもいいっていう人もいるだろうし、要はゴールに向かってなにをしなきゃいけないかっていう、その1つの過程と考えています。

曽山:なるほど。私たちも月1面談を、10年前から管理職にお願いしたんですよ。そうしたら、面談がちゃんとできてる部署は、突然の退職相談とか、突然「異動したい」とかはなくて、ちゃんとキャリアがわかってるっていうのがある。

ただ、ポイントにしてるのは、強制じゃなくて推奨にしていること。信頼関係ができていれば別に面談なんかしなくてもいい。だけど、できる前は頻度多くやっておいたほうが、変化もお互いわかるしっていうことで、「それは上司と部下で決めてね」なんて話をするんです。GEも、頻度はとくに決めてるわけではないんですね。

谷本:うん、そうですね。先ほどの例ですごくいいなと思ったのが、いかに早くその人の気持ちの変化とか、やる気レベルが落ちていればそれをつかみ察知するかは、人事にとってすごく大事じゃないですか。なので、この社内ヘッドハンターっていう仕組みは、聞いていて本当にすばらしいなと思います。

語りかけることで人は変わる

曽山:例えば、山田太郎くんの天気の推移が、36ヶ月分ぐらいあるんですよ。データと名前、あとは天気の推移があるので、どうへこんでるかとかがすごく見えるんですね。

谷本:これ、大雨だとどうなるんですか? 曽山さんが飛んでくるんですか?(笑)。

曽山:いやいや(笑)。それもあるんですけど、基本的にその単月の天気ではあまり動かないんですよ。

谷本:あ、そうなんだ。

曽山:この天気の変化があった時が、すごい大事で。例えば、晴ればかり続いてて、基本的にポジティブなのにバーンって下がったとか。あと、雨なんだけど、コメントがいつも書いてあるから大丈夫だねって思ったら、雨なのにコメントが入らなくなったとか。となると、なんか言いにくいものがあるんじゃないかと思って、声をかけたりとかするって感じですね。

谷本:なるほど。

曽山:毎月だいたい50~200人、月によって幅がありますけど、直接メッセをするとか、連絡するとか、面談するとかを、ヘッドハンターチームから連絡する。

私の場合は、フリーコメントのところに「曽山さん、ランチに行きましょう」とかってあると、僕がメッセをして、実際にランチに行くっていう(笑)。

谷本:すばらしい。

曽山:運用して3年ぐらい経っても、まだ実効果を味わってない人もいるわけですよ。毎年150~200人ぐらいGEPPOを通じて異動してるんですけど、そのメンバーとかは、「これに書いたから動けた」ってわかるんですけど、それ以外のメンバーとかは「本当にあれ見てんの?」とか、声がたくさんあるんです。

ある時、会社全体のイベントで、「『曽山さん』って書いて、『飲みに行きましょう』とか『ランチ行きましょう』って書いてくれたら、必ず僕が返事するから」って言って、そうしたらバババッて来て、バババッて返して、一緒にみんなで飲みに行きました。

そういったことをやって、小さくても打てば響くというのが伝わるのがすごい大事なことなので、意識してやるようにしてます。

谷本:いいですね。語りかけることで人は変わっていくので、大事ですよね。

曽山:そうなんですよ。あと、部署で集計っていうのもできるので、部署で集計してその濃度の変化を見ていく、っていうこともやったりしてます。そんな感じですね。

谷本:はい。

リーダーは異質なものに触れ、内省する

曽山:他になにか論点があれば、私もどんどん触れていきますけど。

谷本:強みを見つけるというところで、価値観のお話をされてたと思うんですが。GEの中ですごく気に入ってやってるのは、自分のリーダーシップストーリーの話をしてもらうっていうセッションですね。

次世代リーダー研修では、自分のことをみんなの前で5分間ぐらいにまとめて、「自分はいったい誰なのか?」「なにをしたいのか?」「自分のリーダーシップとは?」っていうことを話すんですよ。

曽山:ほう。

谷本:そうすると、ビジネスのプレゼンと違って、自分のことを話すってものすごく難しいんですね。多くの人たちはそこで初めて深く自分のことをすごく振り返るんですよね。

先ほどおっしゃっていた、「自分がどういうことを言われて育った」「どんな過去の経験があった」「自分を形づくっているものはなんなのか」という価値観を振り返ることでで、自分の強み、パターンが見えてくる。これにはまったく同感です。

あと、さっきちょっと「楽しい」っていう言葉で思ったんですけれども。楽しいも大事なんですけど、逆に「自分が苦しい時にどうやって自分が這い上がったか?」「どうやってその逆境を乗り越えたのか?」という経験からも自分の強みを見つけられるチャンスがあると思っています。なので、あえて自分の失敗や苦しいことを振り返ることもやってますね。

曽山:なるほど。

谷本:これはリーダーシップ育成の中で、いろいろ試した中で思ったことなんですけど。さっきの異質なものに触れて内省するって本当に大事だと。

自分が逃げられない環境や逃げられないチャレンジにあった時に、どうそこから先に進んでいくか、ポジティブなところに自分を持っていくか。これってリーダーシップを鍛える大きな1つの要素なんですよね。必ずみんなそういうことはあるので、それを振り返ってもらう。これは強みを知る1つヒントなんじゃないかと思いました。

曽山:確かに、修羅場の中で強みが出てくるっていうのは強烈にありそうですね。苦しい時に、っていう。

リーダーシップストーリーはジャパンプログラム独自のもの

その「リーダーシップセッション」って今おっしゃってたやつ、5分ぐらいって話しましたけど。

谷本:リーダーシップストーリー。

曽山:あっ、リーダーシップストーリーですね。 これはどういう時にやるんですか?

谷本:これは1年間の次世代リーダープログラムがあるんですけれども、その1年のうちに1回、どこかで5分間。そしてプレゼンにはビジネスリーダーをみんな呼ぶんですね。なので、プログラムメンバーと、あとリーダーと、あとできれば上司の方にも来ていただいて、その人たちの前で5分間プレゼンをするということです。

曽山:何人ぐらい参加するんですか?

谷本:何人ぐらいだろうなあ、20〜30人というところだと思いますね。あと、グローバルリーダープログラムなので、がんばって英語でやってもらっているケースもあります。

曽山:なるほど。まさに僕が聞きたかったのは、リーダーの育成のプログラムなんですけど、リーダーの育成プログラム、1年間っておっしゃいましたけど、これには選抜されて何人かがまず入るんですか? 1年の任期で。

谷本:プログラムにもよりますが20人ぐらいですね。

曽山:20人ぐらい。それはジャパンの中で?

谷本:ジャパンにもグローバルにもプログラムはあります。リーダーシップストーリーはジャパンプログラム独自でやっています。

曽山:この20人は年齢はどれぐらいの方々なんですか?

谷本:どうでしょう。年齢幅はありますよ。

曽山:グレードとか職階とかはあまり気にしないとおっしゃっていましたが。

谷本:そうです。でも、イメージで言うと30半ば~40半ばぐらいじゃないですかね。

曽山:なるほど。

原体験がわかる「イキイキイジイジチャート」

じゃあ、この人たちが自分のリーダーシップストーリーを5分ぐらい、こういうスライドとかを使って? それとも、口頭だけで?

谷本:スライドを使って。

曽山:5分ぐらい?

谷本:そうです。

曽山:これは、同じ日に20人ぐらいやるんですか?

谷本:さすがにそうすると、ちょっと疲れちゃうので(笑)。

曽山:疲れちゃいますよね、聞く側もね(笑)。

谷本:そう(笑)。なので、1年間に分けて。

曽山:そうかそうか、順番で。おっしゃっていましたね。

谷本:その後にリーダーから質問をしてもらう。けっこう厳しい質問が来たりするんですよね。

曽山:あ、けっこう質問が出るんですね。

谷本:はい。

曽山:なるほど。実際、僕らも1つ使ってるものだと、モチベーショングラフってよくWebで検索すると出てくるものがあります。例えば、子どもの頃から時間軸は横軸で、縦軸が自分の大変だったとか、楽しかったとかみたいなグラフで。上に行くと楽しくて、苦しいと下みたいな、こういうグラフですね。

谷本:私、「イキイキイジイジチャート」って呼んでる(笑)。

曽山:「イキイキイジイジチャート」ね、そっちのほうがいいね。それ、採用(笑)。

谷本:はい(笑)。

自分を形づくる危険、強みと弱みを話す場

曽山:それは、そういうのを作ったことがあるんですか?

谷本:会社内でよくやりますよ。

曽山:どうやって使われるんですか?

谷本:リーダーシップストーリープレゼンでも使いますし、最近の使い方は、さっきの「信頼」、Trustを築くセッションでよく使います。

曽山:まさにTrustセッション。

谷本:ええ。チームで10名ぐらい輪になって。できれば、オフィスじゃないようなリラックスできる場所に連れていって、ソファとかに座って(笑)。

曽山:今日みたいな日じゃないですか。

谷本:今日みたいな、こういう感じです!(笑)。リラックスした雰囲気の中で、自分のイキイキイジイジチャートを共有します。それに加えて必ず書いてもらうのが、まさに自分の強みです。自分で認識している自分の強みと、自分の弱みトップ3。

そこに私はもう1つ加えて、「あなたのパッションはなんですか?」っていうことも聞いてみますね。「なにに対してすごくモチベーション、情熱を持ってるか?」っていう質問ですね。

曽山:なるほど。

谷本:それを輪になって、1人3~5分ぐらい、要は自分を形づくっているものはなにかっていう経験と、自分の強み、弱みを話すんですね。そうすると不思議なもので、だいたい強み、弱みって自分の過去の経験にリンクしてるんですよね。

あともう1つの発見は、弱みは周りの人が見ていて、「この人の弱いところ、こういうところだよな」っていうことを本人も認識してる、ということがわかるんですよ。

曽山:なるほど、一緒にやるんですね。

谷本:そんなにギャップはないんですよ。そこに、さっきの「寄り添う」っていう言葉の通り、安心感というか、「あ、なんだ。本人もわかってるんだ」っていう。それがわかると、その人を見る目が変わってくるんですよね。次の仕事の場面とかでその人の苦手ところを見ると、「あ、そういえばそういうこと言ってたな」「だから、悪気があってやってるわけじゃないんだ」と。

曽山:「これ、言ってたもんな」と。

谷本:うん、そうそう。「ここでちょっと助けてあげたいな」とか。これがね、お互い深く知ると、そこで一歩寄り添えるようになるっていう。

曽山:それ、めちゃめちゃいいシートじゃないですか。「イキイキイジイジチャート」っていうネーミングなんですか? なんか10人ぐらいで。

谷本:イキイキイジイジチャートは社内で勝手にネーミンングしました(笑)。

でも、やってることは、イキイキイジイジチャート。