タムくんの絵で深まった歌の世界

岸田:それで、けっこう僕が中学生ぐらいの時に中国によく行ってたんですけども、上海とかもその時に初めて行って。僕、香港映画とかも好きやったんです。ジャッキー・チェンとか。

そういうのに九龍城とか出てくるじゃないですか。Kowloon Castle。古い上海の街とか。ああいうのにすごい憧れがあって。なんか古くて、ちょっと危ないみたいな。

そういう街を舞台にして、主人公がなにかの理由で、例えば家族と離れて住んでたりとか、自分のホームタウンじゃないところに1人でいたりとか、そういう孤独というんですかね。孤独な気持ちとかを書いていったんです。

そんで、結局、ストーリーを書いていくんですけど、「蟹が食べたいな」ということになったんですけど。

タムくん:(笑)。

岸田:うーん、なんか難しいです。自分ではなかなかうまく説明ができないですね。でも、タムくんのビデオに説明をしてもらった感じがします。

タムくん:まとめたわ。一生懸命。

(会場笑)

タムくん:でも、聴いてて、ちょっと色とか合ってるかもね。ハートとか。

岸田:すごく……。

タムくん:ハートのことじゃ?

岸田:うん、そう。ハートのことですよね。

タムくん:すごい昔の残ってることですよね。

岸田: そうそう。俺はこの「ハーン!」というのが好きでしたね。

(会場笑)

馬場:なんかちょっとだけ、はじめの歌詞のほうは若干ネガティブな感じなんですけど、「上海蟹食べたい」のところはすごく一気にポジティブな、ファンタジーってさっき言ってましたけど、そういう感じになって。

それがすごくより、音だけでも感じるんですけど、タムくんの絵が加わって、なんかもう、ミラクル起きてるなと思いながら見てました。

タムくん:というか、これ見てわかるのがすごい。日本人。俺もよくわかってない(笑)。

(会場笑)

岸田:でも、たぶんわかったことをやるとおもしろくないって思ってる人もいっぱいいて。わかったことをやるのがおもしろい人もいっぱいいるんですけど。僕はわからないことをやって、「わかるかも」みたいなぐらいのが好きで。

馬場:答え出てない……あ、どうぞ。

タムくん:本当、本当。最近、僕、人生で習ったことが、わかるって思っちゃうじゃん。自分が。例えば、これを読んで、この情報を読んで、「私、この情報わかりました」、思うじゃん。

岸田:インターネットとかを見たりとか。

タムくん:実はそのわかった情報が違うし。本当のことじゃないし。

岸田:そうですね。

言葉や感覚を伝えるということ

タムくん:昔、地球がフラットだったとか、みんなその時代のみんな地球がフラットだっていうのがわかったっていうことがあったじゃん。実はわかることがない。

岸田:うん、ないと思う。

タムくん:全部、嘘になる。変わる。だから、それぐらいの、ぎりぎりまだわかってないぐらいがいいかもね。のほうが本当かもね。

岸田:歳を取ってやっとわかったときに、「いや、わからないなぁ」って言えるおじいさんになりたいですねえ(笑)。

タムくん:(笑)。「それ知ってる、知ってる」とかだったんですか。そういう人だった?

岸田:うーん、僕はそうでしたね。

タムくん:おお、本当?

岸田:昔ね。でも、最近は思ったよりも、僕はこの仕事を、音楽の仕事を20年ぐらいやってて、たぶんわかってきたこともあるっていうふうに最近思ってたんですけど。

うまくいくときは「俺、わかってる」って思ってたりするんだけど、うまくいかへんときに「ぜんぜんわかってないな」ってなったりするんですよね。

最近、大学で大学生に授業をしてるんです。生徒たちに教えてると、教えることは僕は1年生というか、まだぜんぜんキャリアがないわけですよ。一生懸命やるんですけれども、生徒は教わることが上手なので、ぜんぜん……。

タムくん:教わるってどういう意味? 教えてもらう?

馬場:教えてもらう。

タムくん:ああ。まあね。

岸田:だからその時に、僕のほうが知識はいっぱいあるって思ってたんですけども、実際教えると、さっきタムくんが言った「知ってると思ってるだけで、ぜんぜん俺なんも、知ってるけどわかってないわ」みたいな感じになったんですよね。

その時に、音楽を作ってて自分はこれは知ってるとか、例えば「ここがドで、ここがミで、ここがソでしょ」って「普通そうよね」ってなるようなことでも、その時にどういう音を弾かないといけないかって、そのときにならないとわからないんですよね。

でも、知ってると思ったら「普通こうですよね」というふうになるのをやめようと最近は思ってて、みたいな。なんかちょっと上手く言えないですけど。

タムくん:わかる。

岸田:ついつい、やっぱり知らないことがあったときにインターネットはすごく便利ですけど、Wikipediaとか見たらわかるし、でもぜんぜんわかってないと最近思うんですね。自分の生活に近いものであればあるほど、知らない。

ぜんぜん知らないことというか、例えば、僕はアンコール・ワットとか行ったことがないから、アンコール・ワットってどんなんかなと思って調べたら、そんなには入ってこないんです。知らなさすぎて。だから、こんな感じかなって思うんですけど。

例えば、牛乳のミルクの賞味期限ってわかる? いつまで飲めるかって。あれを調べていつまでっていうのって、例えば10日って書いてあったら「10日間なんや」って思うんですけど、最近は自分で飲まないとわからないと思うようにしています。なんとなく。

タムくん:じゃあ飲んでみるんだ? 過ぎても。

岸田:うん、ちょっと過ぎてて飲んだら……。

タムくん:どうだった?

岸田:酸っぱいです。酸っぱい(笑)。

タムくん:それはそうだ(笑)。

馬場:そんな身近なところまで、けっこう今気づいて変わってきてるというような感じなんですね。

岸田:うん。ちょっと膨らませた話をしましたけど。

馬場:ありがとうございます。

岸田:いえいえ。

「L R」展はなぜ選択をテーマにしたか

馬場:あとお聞きしたいことがありまして。でも、時間が迫っていて。でも、今回の展示についてもお2人にお聞きしたいんですけど。今回、この「L R」展にした、「選択」をテーマにした理由をお聞きしたいです。

タムくん:なんかラッキーなことに、つながってる。いま言ってることといまの展示。

俺、最近、気がついたことが、ずっと選択があるの。例えば、今、「どういう言葉使おう?」とか。例えばイヤなことされたら、普通は怒る。

でも、考えてみたら、怒ってもいい、許してもいいじゃんと。怒る前にちょっと時間があるの。その怒る前の時間が選べる。許そうか、怒ろうか。スローモーションに見えてきた。

だから、この牛乳に書いてるやつを信じるか信じないかとか、じゃあこの書いてる情報が好きか嫌いかの前の時間がある。

だからどっちにしても、例えばじゃあ、結局牛乳の書いてることを信じました。飲まないことにする。それを選んで、結果が出るじゃん。

じゃあ飲んでも飲まなくてもどっちにしても結果が出て、じゃあ酸っぱかったから、次飲むか飲まないかという選択がまた出てくるじゃん。酸っぱくて、みんなに教えるか教えないかとか。ずっとそういうことなの、木みたいにパパパッて生まれていく。

でも、その爆発する前の瞬間がどこにもある。同じ。そのまだ決めてない自分、「これがいい」「これがよくない」って決める前の自分が気がついたの。

それが「L R」展の名前の中に、実は真ん中(のスペース)もあって、そのときの自分が気持ちいいってわかった。

岸田:LとRの間に?

タムくん:LとRの前、選ぶ前。

岸田:選ぶ前のね。

タムくん:そこが本当。「Lが正しい」「Rが正しい」じゃなくて、LとRはただの選択、ただの結果。でも、本当の……。

岸田:自分のやりことというのは……。

タムくん:今、本当のピュアなところが、その前の瞬間。それがわかってきて。例えば、じゃあ今日は帰って「くるり、まあまあだな」とか考えるとか「くるり、すげえな」と「この曲いい」「この曲、なんかまあまあだな」とかいうのがあるじゃん。普通に。それはもう気にしない。最近。僕は。

ただの地球がフラットだと同じく変わっていく。好きなんだけど、来年は嫌いとか。今はまあまあと思うけど、来年「これいいじゃん」ってなるから、そういうのも気にしない。全部、嘘、その気持ち。

本当の気持ちが、気持ちになる前のピュアな気持ちが気にしてる。そこになれば、全部嫌いでも好きでもなく、すごい平和な自分になって。それが感じてもらいたい。この展示で。

岸田:僕も最近似ています。日本語で「思い込み」という言葉があるんですけど、僕はわりと思い込みが強かったんですけど、それをやめたんですよね。

思い込みをやめることというのは、もしかしたら誰かにとって、疑うとか、あるいは「これはこうだから」といって可能性を逃したりとか、そういうのがめんどくさくなってきて。

タムくん:めんどくさいよね。

岸田:そんで、僕が最近思ってるのが、なにかを決めようとする前に決まってるものは、すごいスピードでLかRかどっちかにいくようにして、決まらないものは1回戻る。家に帰るというか。そうしようと最近は思っています。

それでパッと決めたら、けっこう怒られました。

タムくん: (笑)。

岸田:やっぱり思い込むと、なんかめんどくさい。

タムくん:思い込むね。僕、こんなふうに岸田さんとしゃべったの初めてなんです。こんな顔を合わせて。

選択前の自分も大事

馬場:今日が初めてなんだ?

タムくん:今日は2回目ぐらいです。1回目が1分だけぐらいでした。

岸田:そうですね。

タムくん:でも、人の顔見て「この人はどういう人なんだろう」って思い込んじゃう。

岸田:ありますね。

タムくん:インターネットで探して、「ああ、この人はこういう曲作ってる」「昔はこういう写真」とか、そういう情報で思い込んじゃう。「この人はこういう人かな」と。噂とか聞いて。そういうのをやめましょう(笑)。

岸田:ああ、そういうのはね。

タムくん:そういうのは決めるというか、やめることにしました。私。でも、普通に「この人はこういう人、そういう人なんだろうなあ」ってはまだ思うけど、思ったら「ああ、これは思い込みだ」って気がついて、自分の真ん中に戻ってくることにしてるんです。

だから、この展示はそういうこと。これを普通に見て、家帰ったら気がついてほしいのは、「まだ決めてない自分もいるよ」っていうこと。

例えば「この人嫌いだった」とか「嫌うことにしました」というのを、実はただの真ん中じゃない、自分だけ変わっていく。だから、そんな思い込まないほうがいい。変わるから。

岸田:変わりますね。僕は35歳ぐらいに好きな食べ物がぜんぜん変わったんですよ。最初それは「なんでこんなに変わったんやろ」って自分で思ってて。

具体的には、僕は辛いものがぜんぜん昔は食べられなかったんですけど、急に辛いものがすごく好きになったんですね。魚は、white fishって言うんですかね、白身が好きやったんやけど。

もうその時ぐらいに突然イワシ、sardineとか、あとサンマっていうんですかね、青い魚、あれが一番好きになって、自分のヒットチャートみたいのが全部変わった時があったんです。

その時にすごく「なんでやろ?」って思ったんですけど、その時に「ああ、これはたぶん歳をとったんや」思って、「自分の体が変わったんやな」と思って。

それから、今でも思うのは、やっぱり変化って怖いときがあるんですね。なにかが変わるとか。それで不安になったりとか、でも変わるときっていうのは、体が変わったり、環境が変わったり、天気が変わったり。だから、仕方がない、しゃーないって思うようになって。

タムくん:「しゃあねえ」って言ってもわかるよ(笑)。

岸田:わかる? しゃあねえ。しゃあねえのよ(笑)。だから、なんか……。

タムくん:自然だよね。

岸田:そう、自然。そうすると、あんまり迷わなくなりました。それまではいっぱい迷ってたんですけど。おっさんですよ。

タムくん:楽しい(笑)。

岸田:楽しいね、おっさん。

タムくん:意外と楽しい。

岸田:こんなに楽しいと思わなかったです。

タムくん:思わなかったわ。

岸田:みんなもおっさんになってみればいいと思う。おっさんもいるけど(笑)。

(会場笑)

タムくん:女の子でも(笑)。

岸田:女の子でも、お姉さんとかでも、おっさんになってみたらいいと思う。

タムくん:大丈夫、時間?

馬場:時間そろそろなんです。

タムくん:でも、まとめたじゃん。

馬場:え?(笑)。

(会場笑)

タムくん:まとめたよね。今。

馬場:まとまりました。ありがとうございます。

岸田:おっさんになるって。

馬場:みんなおっさんになったらいい。おっさん、羨ましいなというところで(笑)。