ライドシェアの観点から見た交通業界の今

松舘渉氏(以下、松舘):ご紹介いただきました、株式会社未来シェアの松舘と申します。本日はよろしくお願い致します。

台風も接近しているということで、なるべく延長しないよう、ちょっと巻きで行きたいと思っております。

本日は「AIを活用した公共交通」について。これはどういったインパクトがあり、今後の世の中をどう変えていくか、その辺のイメージを共有させていただきたいと思っております。

それから我々が取り組んでいるスマートアクセスビークル(Smart Access Vehicle, SAV)。我々は「サブ」と呼んでおりますが、その技術のご紹介。それと、この技術は「公立はこだて未来大学」が研究の中心となって進めてきたのですが、これを社会に役立てようということで会社を起業致しましたので、そのビジネスモデルや今後のプランなども共有させていただければと思っております。

会社の紹介の前に、インテリジェント・トランスポート・システムの現在を少し紹介させていただいて、それから我々の取り組みを紹介させていただこうと思っています。

まずはライドシェアという観点から、みなさんご存知の「Uber(ウーバー)」や「Lyft(リフト)」。日本でも一部始まっていますが、世界ではライドシェアで料金を下げていこうという動きが活発になっています。

(スライドを指しながら)これ2年前の記事ですが、楽天がLyftに3憶ドルも出資しています。ライドシェアと言ってもあんまりピンとこない方もいるとは思います。Uberも国によって成功している所も失敗している所もありますが、やはりこういった企業が大きく投資に踏み出すということが、だいぶ前から始まっています。

(スライドを指しながら)これはつい最近、4月くらいですね。ソフトバンクが中国版Uberのような会社に20憶ドルくらい出資しています。なぜこんなに多額の投資が動いているのか。そこにはやはり戦略や期待があるわけで、今日私がお話しさせていただいた後に「こういうチャンスがあるんだ」ということを少しでも分かっていただければうれしいと思っております。

世界で注目されてるライドシェア

ライドシェアの動きとしては、昨年の暮れくらいですが、新経済連盟という主にIT企業やベンチャー企業が集まって、日本の規制を緩和していこう、規制を破壊して前に進めようという動きを活発にしています。

この新経済連盟は昨年、ライドシェア推進のための提言「ライドシェア実現に向けて」を経済産業大臣や国土交通省に出しています。つまり、「UberやLyftなどを日本でもどんどん解禁していけ!」と、そんなことを謳たり、提案書を出したりしています。

やはりライドシェアというものが海外で普及している中で日本だけ駄目なのでは筋が立たない。今の交通事情もどんどん良くしていく、みなさんに便利に使っていただくような形に持っていかなければいけないのは事実だと思いますし、こうした民間での活動もだいぶ活発になってきております。

それから、UberやLyftだけではなく、交通に関するサービスは、世界を眺めるといろんなビジネスが始まっています。

すべて成功しているわけではありませんが、さまざまなアイディアをもとに、さまざまなサービスが実際に始まっていて、中には上手くいっていないものもありますが、本当に活発な業界だと思っております。

これは私も去年くらいまでけっこう注目していたんですが、Bridj(ブリッジ)というサービスです。マイクロ・トランジット・サービスと呼ばれる形態で、ボストンでサービスしていたと思いますが、要するに比較的中距離の移動交通ですね。それを乗り合いで運んでいく。仮想バス停という形で、「私はここに行きたいんです」という予約をすると、何分後にバスが停まるので、そこにみんな集まって、一緒に乗り合って移動しましょう。端的に言うとそんなサービスです。

なので、その時のエリアの需要のもとにみんなが集まりやすいような場所を仮想バス停として立てて、そこを中継する。そんなことを始めたサービスです。残念ながら、最近の記事によると行き詰まってしまったようです。すこし注目していたんですが、残念ですね。

一方で、これはシンガポールでサービスを行っているSWAT(スワット)というライドシェアリングです。物騒な名前ですが。サービスをはじめたのはここ1年か2年前くらいですね。シンガポールの南北12キロくらいの縦長のエリアを設定して、朝のラッシュ時間帯の7時~10時くらいに、通勤に使う方をターゲットにして「予約すると乗り合いで目的地まで運ぶよ」というサービスを展開しています。

どうやらこちらは活性化しているようで、最近もまた資本金を集めてサービスを拡大していくような動きが見えています。これは上手くいっている事例ですね。

前日までに事前予約して、その予約のもとに、どこで乗ってどこで降りたいか数百メートルおきに設置された仮想バス停を指定すると、バスが来てくれるという、そんなサービスですね。これも1つのライドシェアの1つの形態だと思っています。

ライドシェアと言っても、アイディア次第でいろんな形態のサービスが世の中に産まれていっています。

交通サービスに関する日本の動き

一方、日本の動きです。今どういう状況かというと、当然ながらライドシェア、とくにUberなどが海外から聞こえ始めて、タクシー業界は非常に危機を感じているわけです。かといって、日本の動きとしても「そんなものは断固反対だ!」と唱えているだけではなくて、やはり、もっとユーザーに便利になるようにと動きはじめています。

それから今のタクシー業界の矛盾も解決しなければいけないということで、(スライドを指しながら)これは昨年の10月くらいの記事ですが、全国ハイヤー・タクシー連合会(以下、全タク連)でも、「乗り合いも解禁していかなければいけないんじゃないか」「ライドシェアをやらなきゃいけないんじゃないか」と。ライドシェアだけではないんですが、タクシー業界の改革をするということで(ライドシェア問題対策委員会が作成した取り組み案が)11項目くらいあって、それに取り組んでいっているという状況です。

中には初乗り料金を下げるとか、これは東京でも今年から始まりました、初乗りを410円にしてちょい乗りができるようにしようとか。あとは、事前確定型の料金にする。最後までサービスを使ってみないと料金が分からないタクシーのメーター制は、かなり異常なサービスだと思います。たいていのサービスは最初に使うか使わないか、料金が提示されて納得のもとに使います。ですが、タクシーだけがそうなっていない。これを事前確定型の料金にしていこう、と。

それからライドシェアやダイナミック・プライシングというものもありますが、要は繁忙期は高くなるし、そうじゃなければ安くなるなど。あとは、JTBが昨年福岡のほうで「JTBジェロンタクシー」という名前で実証実験的に、完全定額のサービスをしたり。高齢者向けに「70歳以上の方はこのエリアだったら乗り放題です」という月額定額の乗り放題サービスなんかも始めています。

こんな形で、いろんな動きは日本の中でも進んでいるようです。(スライドを指しながら)これは4月、国土交通省大臣が声明を発表しています。「相乗りタクシーを解禁していこう」と、新経済連盟に押された形というわけではないと思いますが、少なくとも国を上げて規制緩和をやっていきますよ、という意思表明をしています。

移動しやすい、交通を利用しやすい環境をつくる

相乗りや定額など、実は日本の一部の地域でも既にやっている所も沢山あります。とくに交通空白地帯と呼ばれているような所ですね。バスもタクシーもないような所で、住民の利便性を上げるために、違うルールでやっている所があるんです。

基本的には今のタクシーのメーター制運行を外れるようなことをやるには地域公共交通会議という地域の交通関係のみなさんの同意のもとに、「このエリアだったらやって良いよ」という許可があって初めて運輸局の許可が出るという形です。

ですがそのエリアは限られており、「なんでこの町だったらできるのに、隣の町に向かってライドシェアで行けないのか?」などの不満もあります。隣の町を含めると、そこも含めた地域公共交通会議の中でまた許可を取らなきゃいけないので、これがなかなか進んでいかない。国土交通省はこれを解禁して来年度から始めるような勢いで、そうした発表をしています。

ですので、今年中に実証実験を重ね、どんな影響が出るのかデータを取りつつ、来年にはこれを解禁していくという方針と思われます。

それから、日本交通系のJapan Taxiでは、タクシーをアプリで呼んだら来てくれる、配車アプリの「全国タクシー」を作っていますが、ああした先進的な取り組みをしつつ、事前確定制や相乗りなどもやっていかなければならないと謳っています。

海外からいろいろなサービスがやってくるのを、日本のタクシー会社は戦々恐々としているわけではなくて、本当にできる改革を進めています。

Japan Taxiさんがおもしろいのは、タクシーの後部座席にタブレットを置いてそこに広告流す。「いずれこれでタクシー運賃はタダになる」、「広告収入だけで人は運べるようになるんだ」と、そんな夢を語ったりしていて。やはり本当に移動しやすい、交通を利用しやすい環境を作っていこうということを、献身的にやられているところはやっていると感じますね。