動画市場はいまだ開拓されている最中
吉田浩一郎氏(以下、吉田):最初のテーマは、このセッションの題名でもある「動画の未来」。今日は満席に近いぐらい、みなさんに参加いただいていますが、やっぱり動画はインターネットにおける一番重要なコンテンツだと思います。
今までの新聞、あるいはテレビ、映画、YouTube。いろいろありますが、それのリプレースになるのか、それとも新価値になるのかも含めて、動画の未来はどうなっていくと思われますか? まず藤田さんのほうからお聞かせいただければ。
藤田晋氏(以下、藤田):非常にざっくりとした(質問ですね)。
吉田:(笑)。
藤田:(答えが)非常に難しいんですが、この2017年4月現在、ここで仕事をしていて本当に感じるのは、この市場はものすごく産業が混沌としている。これからなにがユーザーに支持され、なにがビジネスモデルとして成立するのか、まだみんな手探りのなかでやっているという感覚があるんです。
AbemaTVの準備が始まったきっかけとなったのが、Netflixが日本に上陸した時です。当時、かなり制作費を使ってドラマを作るうわさがありましたが、それによってテレビ局がどう対応していくかという議論が起こり、それがきっかけとなって我々はテレビ朝日と提携し、このAbemaTVをスタートしたんです。
最初は正直、テレビ局と組まなくても我々が発注したり仕入れたりすればできるんじゃないかと思ったんです。それが、AbemaTVを始めてみてテレビ局の存在は必要不可欠だったということがわかりました。そもそも、テレビ局がいないとAbemaTVの一番主軸となっているニュースが作れないんです。
それと、日本に来ているメジャーなコンテンツ。ワールドカップや、WBCももちろんそうですし、ドラマも含めて、コンテンツはほとんどテレビ局に集まっているんです。
それに、この狭いテレビ画面の中で圧倒的なクオリティを何年も作り出してきているテレビ局の制作のレベルはとんでもなく高い。サイバーエージェントが自社で番組を制作しようとしても絶対にかなわないんです。AbemaTVはテレビ局と一緒にやらないとありえなかったと思います。
そのようなかたちで、AbemaTVを1年やってきて、競合が出てきたらそこそこ嫌だなと思ってたんですが、まったく来る気配がないという(笑)。
吉田:(笑)。
藤田:正直、今年1年で200億の赤字を出してるので、これにみんながドン引きしたのか、……なんか競合がやって来ないから寂しいみたいなところがある。まあ寂しくはないんだけど。
本当に、自分たちだけの勝負というか、このビジネスモデルが成立させられるのか、ユーザーを集められるのかやっていますが、突発して伸びた1月は抜いたとしても、実力値でMAU(月間アクティブユーザー)が800万ぐらいなんです。それで今、外部の調査会社の結果を見てみると、NetflixやHuluと比較すると、無料であることもあってAbemaTVが圧倒的に一番なんです。
逆にいうと、一番一番で800万ぐらいということは、まだこういう動画市場が開拓されている最中であって、市場があるわけではないと言える。
そもそも僕もインターネット黎明期からずっとこの市場にいるのでわかるんですが、過去に「メールビジョン」とか「AmebaVision」など、動画に対するチャレンジをしてきたんですけど、インターネットの動画技術があったとしても、インターネットで動画を見る習慣がなかったんです。ただ、スマートフォンが出てきたこと、さらにWi-Fiが普及してきたことによって、急速に市場ができつつあるのが、まさに今置かれている状況。今後はこのようなかたちで事業をやっている会社が、いかに展開していくかで開拓されていく市場です。
若者のテレビ離れではなく“デバイス離れ”
吉田:動画の未来という意味で、今、テレビ局としても毎日テレビを配信されていると思いますが、彼らから見たすみ分けは、どういうところですか? 逆にいうと、そちらに奪われるとも思えるじゃないですか。テレビ朝日さんの温度感とか関わり方はどんな感じですか?
藤田:まず、テレビ全体的に若者のテレビ離れと言われています。サイバーエージェントの20代の社員に「テレビを持っているか?」と調査をしたら、3分の1は持っていないんです。そもそも家にテレビがない。今、電車に乗っても新聞を読んでいない状況。要は、若者がそもそもテレビの前に座って見ないという状況がけっこう広がっています。
なおかつ、テレビ朝日に関していうと、ドラマは刑事もの、医療ものが多いから顕著ですが、シニア層に的を絞って成功しているケースが多い。もちろん、それだけでは決してないですが。
そういう意味で、すみ分けというか、AbemaTVで若者向けのコンテンツを制作し、若者向けのクライアントを獲得し、地上波のほうではシニアが中心になるという。ある程度自分たちの中ですみ分けができるようになってきています。
吉田:テレビ局さんとしては、テレビ離れが前提のなかで、そこを埋める新しいメディアとしてAbemaというものを捉えている?
藤田:僕はテレビ朝日の番組審議委員を5年やっていて、バラエティ番組にしても報道番組にしても見ますが、ちゃんと見てみると、僕もテレビを離れていたタイプですが、やっぱり相当おもしろいんです。
なぜ見ないのか? やっぱりテレビの前に座らなくなっただけで、見ればおもしろい。のぞき込んでいるスマホで使いやすいかたち、ユーザビリティの高いものに加工して送り込んであげたらいいんじゃないか。このAbemaTVはユーザビリティを非常に強く意識したサービスなんです。そういう意味で、テレビ離れというより、テレビのデバイス離れみたいなものだと思うんです。
だから(テレビ局は)コンテンツを作る能力は圧倒的に高いので、それをAbemaTVのようなかたちで、手元にすぐに見られるよう送り届けていくように頭を切り替えた。
吉田:そういう意味だと、ほかのテレビ局もおそらく危機感としては一緒のはずじゃないですか? 今お話しいただいた部分はあると思いますけど。
藤田:なぜ混沌としてるか。例えば、日本テレビはHuluをやっている、NHKはNHKオンデマンドをやっている、あと各局が使っているTVerもある。
例えば、TVerは無料で見れる広告モデルなんです。ドラマの見逃し配信などが中心ですね。Huluとかフジテレビオンデマンドは、いわゆるNetflixに近しいもの。すごく伸びているものでいうと、Amazonビデオです。それは月いくらという定額課金のもの。
いろんなビジネスモデルやサービスが入り乱れ、DAZNとかスポナビみたいなものも出てきている。それはスポーツ中継をやっているので、いろいろなものが入り乱れている。ビジネスモデルもさまざまです。
吉田:ありがとうございます。そういう意味では、AbemaTVさんはテレビの新しいかたちというか、未来を作っていると、私は受け取りました。
動画のデータとしての価値
一方でC CHANNELの森川さんは、動画の未来をどう描いていらっしゃいますか? 既存のメディアからの価値の変遷も含めて語っていただければと思います。
森川:僕はもともとテレビ局にいました。
吉田:そうですよね。
森川:いろいろなテレビや事業をやりましたが、映像産業はもともと映画で始まっています。映画はフィルムと劇場、その2つのセットが生まれてから映画という産業が生まれた。テレビが出た時は、生放送とテレビ受像機が生まれた。ある意味、制作する機械と見る機械が同時に変わることでイノベーションが起こった。
今回、スマートフォンが出てから、スマートフォンで撮って見る時代が来るんじゃないか? それがきっかけで、そこからどう落とし込もうかなと思っていたんです。
僕自身、以前、検索の事業をやっていて、いろんな情報があるなかでだんだん検索のニーズもテキストから写真になって動画に変わってきた。なので、ある意味、動画のWikipedia的なものができたらいいなというのが最初のきっかけでした。