仕事の実感と人事評価

大久保幸夫氏(以下、大久保):テレワークについて、樋口さんと酒光さん、いかがですか

酒光一章氏(以下、酒光):テレワークについて係は、働き方改革の実現計画にもあるとおり、進めていくことになっています。

従来、テレワーク対策は、労働時間の管理をどうしているかとか、怪我をしたときにどうするのかとか、どちらかと言うとそういうマイナス面を考慮しながら、マイナスがなるべく少なくなるような感じで進めてきたきらいが、行政としてはあります。

しかし、やはり、それだけではいけなくて、とくに、通勤時間を短縮することで得られるものがあったり、テレワークだからこそ十分に働ける方もいっぱいいらっしゃるわけです。

このような方々が働けるようにしていくためには、どうしたらいいのかという観点から、よりしっかりやっていこうというのが、今、政府の方針だと思っています。まだまだ施策面では「がんばりましょう」とか、声かけ中心にはなってきているんですけれども、制度的に使いやすくすることが大事だと思います。

役所でもテレワークをやっていて、私も1回だけやったことあります。私の考えでは、1つは、テレワークをやって「仕事をやった」という実感があり、かつ、それがほかの人にもわかるようになれば、もっとテレワークしやすくなるのではないかと思います。

でも私がやっているときなんか、たぶん休んでいるものとして、淡々とほかの業務が進んでいたと思うんですけれども笑。それが、テレワークをしていても、例えば仕事の相談をして、こちらからも指示をして、あるいはこちらでも作業して、というやりとりが頻繁に行われるとか。ちゃんとテレワークで仕事をしているという実感があり、かつ、人事評価などでも、テレワークに関係なく、やった仕事の成果が評価されているとなると、テレワークはより進みやすくなるんじゃないかなと思います。

日本のサービス業の生産性の低さ

樋口美雄氏(以下、樋口):まち・ひと・しごと創生会議で、都道府県別の働き方改革を進める「地域働き方改革会議」というものがあります。私が参加している「働き方改革実現会議」では、指定都市の「地域働き方改革会議」をサポートするということをやっているんですね。

そのなかでも、テレワークがトピックスとして出てきました。どういうことかと言いますと、首都圏の企業というのは、多くの女性が働いている、活躍している企業だというイメージが、地方にはあるんですね。

ところが、統計を見てみますと、決してそんなことはない。女性の比率は確かに高いんですが、その圧倒的なところは、20代30代の女性。40代を過ぎてからは、女性が低くなります。

なぜ、これほど実態とイメージが違うのか考えると、東京の企業は、だいたい半分の人は、1都3県の、3県のほうから東京に通勤している人が多いんですね。したがって、長時間通勤になる。実は、第1子を出産してから、継続就業している比率がもっとも低いのは、神奈川県です。続いて、奈良ですね。そのあと、3位、4位というところに、千葉、埼玉が来るわけですね。

やはり、子どもを抱えながら、往復で通勤時間2時間を超えて、また長時間労働をするというのは、スーパーマンでなくてはいけない、とても無理だということで辞めていることが多い。そこで、通勤の問題を考えていくということからテレワークの話題が出てきたんですね。

ですが、おっしゃるように、期待するほどは増えていない。その理由は、やはり先ほどおっしゃった、どこまで自由裁量で取り組めているかということです。

私も経験していますが、いつも側にいて、仕事が計画的に進んでいかない時にも必要性に応じて声を掛けられる。こういったところから考えていかないと、やはり、まずいのではないかなと思います。

実は、同じことが先ほどの長時間労働の話でも言えます。18ページのところで出てきた「本来業務」「周辺雑務」「手待ち時間」の話です。なぜ、労働時間が長いかというと、「手待ちの時間」の比率が高いということなんですね。これを見た途端に、「あ、トラックドライバー」と思いました。

例えば、自動車の部品納入について、自動車メーカーが、タイムリーに部品を持って来てほしいという場合、逆にドライバーさんが外で待っている時間が長いということがあるかもしれません。そうすると、それぞれの企業のなかで、いかに効率化していくかということだけでは限界がある。やはり関連企業と一体となって、この問題を考えていかなければいけない。

業界というくくりでも同じです。これだけ価格競争やサービス競争が厳しい中では、過剰サービスは止める、なんて言っていられないわけですね。顧客のほうがそれを望む。そうすると、それを減らすと、売上が落ちますよね。ですから、1社だけで過剰サービスの対応を止めるのは、非常に難しいと思います。

業界をあげて、例えば、「百貨店は月曜日は毎週休みにしますよ」という約束にしたらどうだ、というようなことを言ったことがあります。このとき、独禁法違反になるかどうかということを、厚労省を通じて公正取引委員会に調べてもらいました。当時は、まだ判例がないので、わからないということだったんですが。

ただ、新聞社は休刊日として月に1回取り組んでいますよね。やっていないところもあるんですが、多くのところは休刊日にしています。

ということは、競争条件というものは、顧客が望んでいるわけですから、企業間で同じにしていかないと、なかなか解決しないということがあるのかなと思います。

よく、日本のサービス業の生産性は低いということを言います。それに対して、高いのはどこかと言うと、フランスだっていうんですね。フランスのサービスの質がどれだけ高いだろうかということを考えると、私自身はあまり高いと感じたことはない。なぜこんなにお客を待たせるんだということを、いつもスーパーのレジで考えている。

むしろ日本のほうが、24時間営業をやったりしているにもかかわらず、なぜ1人あたりの生産性が低いのかということを考えます。24時間営業するということは、果たして、どこまで付加価値の増加につながっているでしょうか。

フランスでは、キリスト教の影響もあって、多くの企業、百貨店、それからスーパーも含めて、日曜日には閉店するわけですね。そうすると、買い物客は、逆に平日か土曜日の昼間に限って買い物をする。利便性は、日本のほうがずっと高い。にもかかわらず、それが付加価値につながっていかないということがあります。

そこから、サービス業はなにが生産性なんだろうかということを考えていると、物的生産性ではない。例えば、ほかの企業と差別化を図っていくかとか、そうした経営の問題として考えていく必要があると、今日、示されたと感じました。

海外の労働時間に対する意識

大久保:三好さん、このテレワーク、なかなか活用が進まなくて、悩んでいらっしゃることもあるということですね。

三好:今、競合関係はやはり、労働時間やいろいろな制度を考える上で、外せないところだと思います。

当社もグローバルに展開しているなかで、オーストラリア、フィリピン、あるいはミャンマーなどに出張することがあります。

そうした海外の拠点では、18時を過ぎて、社員がいるなんてことは、まずないわけで、残っているのは日本くらいなんですね。オーストラリアの子会社に行ったときに、本当に18時くらいになると誰もいなくなっちゃうので、残っているのは日本からの駐在員だけ、みたいなことになるんです。

仕事はそれで本当に終わっているのか、という話を聞くと、けっこう柔軟に対応しています。帰ってから、住んでいる地域の仕事だとか家族としての仕事が終わったあとに、テレワークを使える環境にしています。かなり柔軟だなと感じました。

その従業員は、たまたまパートタイムで、1週間の5日間は出社してないんですけれども、人事課長をやっている。「そんなことできるんですか」と聞くと、休みの日を、権利として考えているわけではなくて、なにかあれば、柔軟に対応するという話をされていました。

競合関係ということで言うと、国際競争という観点でグローバル基準にする考えもあるのではないでしょうか。味の素さんが、就業時間を16時半にされたと聞きました。こうした取り組みを、踏み込んで取り組まれている先進事例という点で注目しています。

弊社のテレワーク自体については、マイナーな改訂になりますが、この春に時間単位の在宅、あるいは上限の回数を撤廃する、などした結果、活用している従業員がけっこう増えています。

キリンの本社で言うと、以前はだいたい1割くらいの人が活用していましたが、直近で、「とりあえず使ってみよう」というキャンペーンをやったことで、3割くらいの人が使うようになりました。まだまだ、このような工夫でも利用者が増えるのかなと思っています。

大久保:テレワーク、我が社も導入していますが、やはり全員でやることがすごく大事ですよね。まずは役員からやらないと、絶対に会社全体に浸透しない。

うちも最初、「かえって面倒くさいかな」と思っていたんですけど、ある会議でほとんどの役員がテレワークだった。それから、自分もやってみよう思い始めたことがありました。

あと、やはり、マネジメントの問題があります。ノーマルのマネジメントをやろうと思ったら、絶対にテレワークは進まないんです。マネジメント、管理ということもセットで考えなければいけないテーマだと思います。

転勤が働き方を拘束する

柔軟な働き方について、次は副業や兼業について考えたいと思いますまずは全国就業実態パネル調査の結果をご覧ください。

副業をしているのは、比較的、収入所得が低い人のほうが多いんですよね。これは、いわゆる昔からの副業ですね。いくつかの仕事を組み合わせて、生活に必要な所得を得る働き方だと思います。

一方、本業で所得が高い人のほうが、副業での収入が多い傾向もあるということがわかりました。さらに言うと、本業の所得が高い人は、本業と同業種、同職種の副業に取り組んでいるという傾向があるんですね。

つまり、自分自身がある領域のプロとして仕事をする上で、自分のリーチを広げていくということで、外の仕事の場を使って自分自身の成長にフィードバックをしているのであろうと想像できます。

また、近年、副業、兼業にも、バラエティーが出てきたのかなという感じがしています。いかがでしょうか。

樋口:今回、働き方改革実現会議のメッセージを出す上で、最後まで残したのが、この副業、兼業の問題と、転勤の問題です。

転勤については、これから考えていこうとしています。やはり管理職ではない人の多くが、全国転勤をしていくという仕組みは、世界的に見て非常にめずらしいものです。ワークライフバランスが崩れていることにもなります。

さらに、厚労省の調査結果でも、そのほとんどは単身赴任でした。「帰ったら子どもが大きくなってました」というような話で、結局なにがワークライフバランスなのか。ましてや、夫婦で共働きということになったときに、お父さんは北海道、お母さんは九州、「子どもはどこへ」という話になるわけですね。

同時に、先ほどの、まち・ひと・しごと創生会議からも、かなり強烈に議論しています。

大手企業は、工場長とか、支社長などの重要ポジションの人材は、地方に転勤していって、だいたい2年、3年で、その街もわからないまま帰っていく。「まち・ひと・しごと」として、地域の雇用を作ろうということになったときに、とても重要な問題として、やはり人材がいないことが出てくるわけです。

このように、まだまだ働き方についての拘束が非常に厳しい。逆に、転勤をしなければ、昇進できないという企業もかなりあるということから、これを考えようということです。

副業、兼業を阻害する要素

それと並んで出てきたのが、この副業、兼業についてです。これについては、法律というよりも、それぞれの企業の決まりというかたちで、副業、兼業禁止という規定を設けているところが多いですね。

ある意味では、今までの正社員の、企業と従業員との関係性を、如実に示している1つだったんですね。要は、企業のほうは雇用保証、生活保証をする。その代わりに、拘束はかけるよということで、「無限定正社員」という言葉で示されるような、仕事は選べないし、残業もしなければいけない。転勤もある。

こうしたことと同様に、副業、兼業についても、雇用と生活を保証するんだから、ほかの仕事はしなくても、我が社の仕事に全力を尽くしてほしいというかたちでやってきた。もちろん、守秘義務という問題というのはありますが。

ただこれは、「許可制」というか、副業、兼業をするということを申し入れて、同業他社はだめですよというような規定を作ることによって、解決するんじゃないかと思います。

今回の調査結果で一番興味深かったのは、副業、兼業している人たちに「成長している」と考える人たちが多かったことです。やはり、開業や起業の問題を考えていくと、これは、オランダの例でもよく出てきますように、まさに、本業をしながら、ほかの仕事をして、だんだんにウェイトを変えていくという働き方があると思います。保証がありながらも、開業することができるという仕組みを作っていくというところからですね。やはり、縛り付けるよりは、ほかでも自分で仕事をすることができるというような状況も作っていたほうが、企業にとってもプラスになるんじゃないか。ということから、オランダはこのように踏み切ったということだと思います。

大久保:酒光さん、副業、兼業については企業の就業規則上の問題ですから、労働法対応できないわけではないと思いますが、周辺的な問題もいろいろとあるような気がしますね。

酒光:おっしゃるとおり、兼業、副業について、禁止するようなルールがあるとか、法律のルールがあるということは別にないのです。ただ、やはり規範的には、1つの会社にずっといるだろうということを前提にして、いろいろな法律なり、企業のルールができていることもまた事実です。

例えば、先就業規則で兼業、副業禁止をしている会社は非常に多く、だいたい9割くらいと言われています。

厚生労働省が就業規則のモデルも出しているんですけれども、実はそこにも兼業禁止というルールが書いてあるわけですね(笑)。その点を特に意識して作っているというわけではないと思いますが、それを見て、そのまま写して、自社の就業規則にしている、という中小企業も多いのかもしれません。

次に労働時間について。副業、兼業の場合、今のルールでは労働時間を通算することにしています。要するに、原則として、合計で8時間、あるいは、週40時間以内でないといけない。だから、元の会社で8時間、40時間働いてたら、これ以外の仕事は本来時間外労働というかたちになっています。これは、別の会社で副業、兼業をするというようなことをあまり想定していないからです。

一番大きな問題は、社会保険(年金、健康保険)、あるいは雇用保険等々です。これらに、通算して加入するということはないので、例えば、20時間未満の仕事を2つ行っていても加入できないという話になってしまいます。

つまり、ルールとして、兼業、副業を押し留めようということは、本来はないんです。しかし、結果的に阻害しているものは、いくつかあるのかもしれないということで、今こうしたことについても、研究会などを設けて研究しているところです。

ですから、過労になってはいけないというのは前提として、法的にも、できるだけ兼業、副業をしやすい環境作りをしていく方向で、今後進めていくことになるだろうと思います。

大久保:ありがとうございました。