地球の歴史を知る手がかり「同位体地球化学」とは?

マイケル・アランダ氏:地球は、形成されてからの45億年の間にさまざまなことを乗り越えてきました。ほとんどの地球の歴史はプレートテクトニクス、つまり大陸プレートが動くことにより形成されてきました。大陸同士は、整然と動き回るのではなく、予想できないような仕方で関わりあってきたのです。

大陸は中心の岩がその場所に固定された状態で、くっつきあったり離れたりしてきました。地球の表面はテクトニクスにより勢いよく突き上げられ、大気によりまた沈みます。それにより何年もの間に大きな変化が引き起こされてきました。

地球の歴史の初期の頃、そこにはまったく石がありませんでした。つまり、その頃の状態について私たちは研究することはできません。地球が生まれた時、それは溶解した物体で、常に小惑星が衝突していましたから、その頃の記録を保管できるほど安定していませんでした。

ですから、地球の地質の歴史は、安定し始めた35~30億年前頃になってようやく語ることが可能になります。これらの非常に古い岩は、日付が書いてあるわけではありませんが、その奇妙な化学物質はそれがどれだけ古いものであるのかを教えてくれます。それこそが「同位体地球化学」と呼ばれるものです。

各原子は核の中にある決まった数の陽子と中性子とともに存在します。さまざまな成分は核の中にある陽子の数により決まります。それゆえ、原子の各成分はみな同じ数の陽子を持っています。

しかし中性子の数は通常多少の違いが生じることがあります。例えば、炭素には6つの陽子がありますが、自然の炭素中には6、7、または8つの中性子が含まれます。そのような炭素の変種は「同位体」と呼ばれ、それは陽子や中性子がいくつ含まれているかに応じてその名前が決まります。

ですから炭素核の中に陽子が6つ、中性子が6つある場合には、炭素12、陽子が6つと中性子が7つ含まれる場合には炭素13、などというようになるのです。

異なる同位体の中に異なる数の中性子が含まれるので、それぞれの原子の重さは異なります。その差は微量ですが、地球化学にとってそれを分離させ、それぞれにどれくらい含まれているのかを計算するのには十分です。

同位体の中には時間の経過とともに減衰するものがあります。例えば炭素14の場合は、陽子の数が減少して窒素14に変化します。ウラン238の核は減衰をし続けると結果的に鉛206に変化します。その減衰のプロセスにどれくらいの時間がかかるのかはわかりますので、減衰した同位体と前駆物質の割合を比べれば、その物体の年齢を比較的正確に推定することができるのです。

ウランが鉛になるまでには非常な長期間を必要としますので、異なる鉛の同位体の割合は、それを含む岩の年齢を知る上で非常に有効な情報源となります。

これは同位体地球化学のできることの中で、1つの単純なことにすぎません。同位体の割合は自然のプロセスのさまざまな結果を、放射能だけでなく、変えることができるのです。

窒素同位体の割合は鉱物中に含まれる炭素が一度光合成に使われたかどうかを教えてくれます。それにより、過去のあるときに生物が存在したかどうかがわかるのです。また、硫黄同位体は鉱物が地球の表面近くで形成されたのか、地中深くで形成されたのかを明らかにしてくれます。

同位体地球化学は世界最古の岩についてさまざまな情報を教えてくれます。そして、そのような古代の岩は私たちが大陸の歴史について学ぶ助けにもなります。それにはプレートテクトニクスがどのように動いてきたのかという情報も含まれます。

プレートテクトニクスのしくみ

プレートテクトニクス、地球が玉ねぎのようにたくさんの層があるゆえにそれがあるのです。その層の中には固形のものも、流体のものもあります。最も外側の層は、明らかなことですが、固体です。そして岩石圏という、大陸と海をつなぐ層もあります。

その下にある層はもっと液状で、岩が浮遊しています。その動きは大陸を動かし、それがプレートテクトニクスであるというわけです。

しかし、注目しなければいけないのはこの点です。すべての岩石圏が等しい状態ではないのです。大陸を支える地殻は海底下にある殻よりも厚みがあり、密度が高くありません。その大陸地殻は非常によく浮きます。

直径何千キロもある平板状の岩が浮かんでいるのを想像してみてください。つまり、海洋地殻と大陸近くが出会う時、海洋地殻はその下に入り込み溶け込む傾向があります。それを「サブダクション」(プレートの滑り込み現象)と言います。

大陸地殻はその上を進み、また再び衝突する日までそのままでいます。そうなると、各大陸の一部分は30億年以上前から存在しているということになるのです。そのような超安定した大陸の塊を、「クラトン」と呼びます。それは、丈夫で浮遊性の岩でできていて、30億年ほどの間、プレートテクトニクスによって溶解することなく存在してきました。そのなかの若い岩でも、約5億歳です。

地球がまだ溶岩性の液状だった時、密度の高い成分がゆっくりと中心核に向かって沈んでいきました。ちょうど油が水の上に浮かぶのと同様に、密度の低い成分は表面に浮上する性質があります。ですから大陸地殻はほとんどがシリカを豊富に含む、比較的軽い岩でできています。この軽い岩が冷却され、凝縮すると、この惑星の表面に、コルクのように浮かぶようになるのです。

その小さな浮かびやすいコルクは互いにぶつかり合い、どちらかが下に潜り込んでしまうことはありません。これらは互いにくっ付き合います。しばらくたつと、大きな浮遊するコルクの塊となるわけです。このような塊は安定してくると大陸となるのです。

それは40億から25億年前の始生代の時に起こりました。始生代のクラトンは初期の大陸の核を形成し、それ以来ずっとくっついたままなのです。

地質学者はほとんどの大陸の形成は大昔に起こり、それ以来そのままになっていると考えています。もちろんそれは数え切れないほど何度もプレートテクトニクスによって再アレンジされてきましたが、実際ほとんどの陸地は始生代の頃に存在していた陸地と同じなのです。

超大陸パンゲア

しかし比較的軽い岩はいまでも地球の中から時折湧き上がってきて、新たな陸地を形成することがあるということが、いくつかの証拠により明らかになってきています。みなさんもパンゲア大陸について聞いたことがあるかもしれません。それは恐竜の時代に存在した超大陸のことです。

地質学者はパンゲア大陸が、この惑星の一時的活況のサイクルの中で超大陸が形成されたり別れたりを繰り返す中で、唯一残った超大陸であると考えています。

どうしてそうなったのかはわかっていませんが、その大きな分厚い大陸地殻の塊の下には大量の熱が集まっているという仮説があります。時が経つと、その溜まった熱はマグマ上昇流となって吹き出し、超大陸を分解したというのです。ちょうどビリヤードの玉の塊がスローモーションで分散するような状況です。

そして分解した破片が跳ね返って再び他の破片と一緒になるのです。大陸地殻は沈み込む代わりに互いにくっ付き合うからです。そのサイクルが続きます。

地質学者は今まで地球の大陸がどのように動き回ってきたのかを大体理解することができています。岩をパズルのピースをマッチさせるように合わせることによりそうしてきました。

プレートテクトニクスは南アメリカとアフリカがいかにぴったりとくっつくかということをベースに、初めて語られました。その2つの大陸は昔、1つの大陸、パンゲア大陸だったのではないかという主張がなされたのです。

それより古い超大陸を見つけるのもそれと同様ですが、非常に難しいことです。地質学者が使う主なツールは「古地磁気学」というものです。これは地球の磁界は定期的に逆転するということに基づいています。

岩が形成される時、その中に含まれる磁気ビットはその時の地球の磁界に沿って整列します。つまり、磁性粒子を含む岩は、その岩が形成された時の地球の磁界がどこであったのかを反映しているということです。磁界の逆転は数千年に一度起きるので、これにより、何十億年前に起きたことを知る上で、非常に多くの情報が得られます。数学を用いることにより、その岩が地球のどこにあったのかをなかなか正確に当てることができるのです。

パンゲアより前の超大陸

地球の歴史において大陸がどこにあったのかという疑問は答えるのが非常に難しく、いまでもわかっているとは言えません。しかし、それを探求するために用いることのできるツールはいくつかあります。

そして地質学者はパンゲア大陸ができ上がる前の超大陸についてのアイディアをいくつか持っています。私たちは一番最初の大陸をウル大陸と呼びます。それは小さな島々からなる、初めての大きな島でした。ウル大陸ができたのは30億年ほど前のことで、今のアフリカ大陸、オーストラリア、インド、多分南極大陸の一部分もそれに含まれていたのです。

実際、ウル大陸はパンゲア大陸ができた時に一度分解しただけでした。30億年も存在できた大陸だったなんて、大した大陸です!

そのほかの証拠によれば、36億年ほど前に、ウル大陸より古い、バールバラ大陸があったとされていますが、それがあったという証拠は確実ではありません。

ウル大陸は時が経つとさらに新しい大陸、北極大陸、南極大陸、そしてヌーナ大陸といった大陸にくっ付きました。ちなみに、これらの大陸名はおかしなものが多いように思えるかもしれませんが、分解するとほとんどものが、くっついた大陸の名前をくっつけたものであることがわかります。

例えばヌーナ大陸は北ヨーロッパ(North Europe)と北アメリカ(North America)の頭文字をとったものであるということがわかります。

これらすべての大陸は19億年ほど前に最初の超大陸を形成するために集まりました。それがコロンビア大陸となりました。コロンビア大陸は約15億年前まで存在しましたが、その後分解しました。分解した破片は跳ね返って再びくっ付き、超大陸ロディニアを約11億年前に形成しました。

山脈が生まれるまで

ロディニアの後は、非常に短期間の間、パノティア大陸と呼ばれる超大陸があったと言われています。しかしそれも4.5億年から2.5億年ほど前までにはパンゲア大陸となりました。そして1.7億から1億年前にパンゲア大陸は、現在の私たちが住む大陸へと分解したのです。

大体2.5億年後にはまたもう1つの超大陸を生み出すことになるでしょう。もし北米と南米が引き続き西方向に流れて太平洋を越えていけば、ロシアに行き着き、アメイジア超大陸を作り上げることでしょう。

このように大陸が互いに押し合いをすれば、我々が住む表面に影響を与えないわけがありません。その結果として生まれたのが山です。構造プレートの境界線はよく山脈を生み出します。海洋地殻が大陸地殻の下に沈み込む時、大陸地殻は上に盛り上がることによりそれを補います。

南アメリカのアンデスはその良い例です。弾力性ある大陸地殻が2片合わさるとき、その結果はさらにドラマチックなものとなります。大陸地殻は沈み込むことがない代わりに、上に持ち上がる傾向があります。

山々は基本的に同じプロセスを経て形成されますが、そのぞれぞれの形は大きく異なります。その違いを生み出す鍵の1つが、その年齢です。北米にあるアパラチア山脈は現状では丘のようにしか見えません。

つまり、景色の良い、アジアの最も偉大な山であるエベレストがあるヒマラヤ山脈などの、他の山脈と比べると比較的なだらかな傾斜があります。

しかしアパラチア山脈は昔、ヒマラヤよりも高い時があったのです。アパラチア山脈とヒマラヤ山脈はそのでき上がった過程が非常によく似ています。ヒマラヤ山脈はインド亜大陸がアジアにぶつかってできました。インドはそこに着くには海を渡らなければなりませんでした。つまり、北側の海洋地殻がチベット高原の下に沈み込んだのです。

しかし亜大陸が厚い、クラトニック大陸地殻にぶつかると、インドとチベット高原はダイレクトにぶつかり、そこが盛り上がってアコーディオンのような形状を作り出しました。

これが起こったのは比較的最近のことで、過去4千万年ほど前のことです。実際、これはいまだに生じていて、ヒマラヤ山脈はいまでも成長しているのです。

しかしその成長は風化や侵食の影響を受けています。多くの時間をかけて、風化は山脈を大きく削ってしまいます。それが、アパラチア山脈に起きたのです。

アパラチア山脈は北米とアフリカのプレートがパンゲア大陸を形成する際に合わさってでき上がりました。2つの大陸プレートがぶつかってそれぞれ譲らないので、それは今のヒマラヤ山脈くらい高く崇高な山となっていた可能性があるのです。しかしそれは5億年ほど前のことで、5億年の間、たくさんの雨風によりアパラチア山脈は削られてしまいました。

巨大な大陸がぶつかり合って、別れる。山脈が生まれ、風化する。そのような現象を我々が直接目にすることはないかもしれませんが、岩を研究することによってそれを学ぶことができるというわけです。