働きやすい環境を作れたのは「子供がいたから」

松下恭子氏(以下、松下):日本に特化した話で言うと、うちの会社の男子も、家族の手伝いで朝は奥さんと助け合いをしたり、そういう意味では、ちゃんと協力体制でやってるというのはすごくいいと思っています。

その部分はフレックスですよね。でも、やっぱり結果は出さなきゃいけない業界ですし、仕事なので。

だから、そういうところを、もっとマネジメントとしてサポートしていきたいと思っていますし、それをちゃんとコミュニケーションして、見せていかなきゃいけないなと。自分も忙しいので、できていないこともあるんですけど。やっぱりそういう体制があってこそ、人は長く、楽しく仕事ができるんじゃないかと思うんですよね。

浜田敬子氏(以下、浜田):ここで「男性だから」「女性だから」って言うのはあれなんですけど、例えば、どうして私が編集長のときに、そういった働く環境作りができたのかな、と考えると、私自身に子供がいたことが一番大きかったです。

分かるわけですよ。彼女たちがどんな状況か。

例えば、子供が病気になったら会社に来れないっていうこともすごくわかりやすいじゃないですか。でも、男性の上司だったら、彼女たちは、それを言うこともなかなか難しい。面倒くさいなって思われるんじゃないかと。やっぱり「『子供がいる人を雇ったら面倒くさいな』って思われたら嫌だな」って、彼女たちは言いにくかったのかな、と。なので良い環境を作ることができた要因の1つに、彼女たちに対する理解っていうのがあったと思います。

完璧じゃなくても続けることに意味がある

浜田:女性がマネジメントをすることの良さと、その反対の、デメリットみたいなものはあると思いますか?

松下:私が今いる業界自体、平均年齢がすごく若いんですね。うちの社員の中では、子供がいる人は男性のほうが多いんです。女性で子供がいる人のほうが、数で言うと少ないです。

私も子供が2人いて、妊娠6ヶ月くらいのときに面接を受けて。ビデオ面接だったのでお腹の部分は見えなかったんですけど、最後に、上司に「(妊娠)6ヶ月だ」って、立ってお腹を見せたんですよ。でも、外国の会社なので「I don't care」って言われて。だけど、「君に興味があって、君を雇いたいんだ」と言われました。(妊娠)6ヶ月末の人の採用をスパッと決めれる上司もかっこよかったですけど、会社自体がイケてると思いました。

自分の経験を通して、今後の男性にも女性にもそういったフレキシビリティを持った環境を作れるという意味では、自分の経験があるからできることだと思ってます。子育てが大変な時期って絶対あるじゃないですか。いくら見てくれる人がいても。

浜田:はい。

松下:トンネルの光が見えない時期ってあると思うんですよね。私ももがいたことがあります。そういうときって、やっぱり、家庭と仕事の行き来だけで終わっちゃうので、業界にネットワークを作りに行く時間が残ってないんですよね。

浜田:インプットする時間がないですよね。

松下:それも現状なので、それはもういいとして、すべてができるという考え方を捨てて、その何年間は、これとこれを自分にできる限りやるんだ、と。そういうメンタリティになったら楽ですし、自分の心の落ち着きも出てくると思います。そういうところで、なんでもかんでもやってしまおうと思うことが、辞めてしまおうという決断になってしまうこともあると思うので。

浜田:そうですよね。女性ってすごく完璧主義者だと思うんです。部下を見ててもそう思います。だから「100パーセントできないなら辞めちゃう」という決断になってしまいがちですよね。

松下:そうですね。それはあると思います。私はどっかでそれを捨ててしまいましたけど(笑)。物理的にできないので。

浜田:その決断をしそうになったときに、「いやいや、70パーセントでもいいから続けることに意義があるよ」ということを、先輩だったりマネジメントサイドの人が言ってあげることもすごく大事かなと思います。

松下:大事だと思います。それは、私ももっとこれからやっていけるかなと思ってますね。

海外と日本の違い

浜田:もう1つの問題として、私自身の経験でもあるし、私の部下の経験でもあるんですが。今、女性の管理職向けの研修の講師をやってるんですが、みなさん一様に言うのが、「自信がない」っていうことなんです。

要は、今、安倍政権になって、女性活躍法っていうのができて、ある程度の企業では「女性の管理職を増やしましょう」となっている。そうすると、今まであまり管理職の経験がない人でも、どんどんプロモーションで(管理職)に上げられてるんですよね。

だけど、いきなりその立場になってどうしていいかわからない、という悩みがすごくあって。1つは、本当に自信がないっていうケース。もう1つは、経験がないからどう振る舞っていいかわからないというケースがあります。本当にそこは、今の日本の難しいところだと思っていますが、海外はどうですか?

松下:海外と言っても、お国柄によってぜんぜん違いますね。私が住んでいたのは、アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツ、スペインとかですが、それぞれお国柄があるので、これがこうっていう感じではないですね。

ただ、全般的に言うと「自分にはこれができる」って手を挙げるカルチャーです。100パーセントじゃなくても、70パーセントでも、みんなリスクをわかりながら手を挙げるんですよね。失敗する人もいれば、その道を作れる人もいて、もちろん分かれて来るんですけど。どっちにしても、手を挙げてそのあとに考えるというスタイルで、私もどちらかと言うと、そっちで仕事の経験を積んで来ているので、その場に行くと、私は確実にそっちのモードになります。

でも、日本の環境でそういうスタイルでビジネスやチーム、人をリードするというのは、果たして効果的なのかと言うと、そうでもないんです。

なので、win-winという、インディヴィジュアルなものを尊重する文化の中では、それをやらないと前には進まないんですけど、それを自分の国で同じようなかたちでやることがいいのかと言うとそうじゃなくて。そこのバランスとかニュアンスをちゃんと汲み取っていける人材を作らなきゃなって最近思いました。

日本で働いてても、いろんなバックグラウンドの人がいます。そういう人たちと、どういうダイナミクスを作っていけるのかというのを模索しながら、失敗しながら、みんなが若いうちに覚えて、やれる環境を作るっていうのは、日本でもできないことじゃないと思うんですよ。

今、マーケットがオープン化して、ビジネスも市場も多様化している中で、いろんな人材とかバックグラウンドの方が来られているので、ぜひみんなにもそういった環境を経験してもらいたいなと思っています。

「自信がない」女性への処方箋

浜田:20代、30代前半くらいの女性たちに言ってわりと共感してくれる事があります。自信がない人に「あなたの同期で、明らかに自分よりも能力が低い、こいつできないなって思ってる人が、自分より先に課長になることを想像してみて」と言うと、みんな「絶対嫌だ」っていうんですよ。やっぱり悔しいし、嫌だって。

だから、漠然と抱えていてる不安とか自信のなさじゃなくて、もっと具体的に、「あの人ができるんだったら」と想像することで、たぶん、自分でもできるかもって思えるのかなって。

私自身もそうやってきたのと、もう1つ、私自身は2番手の女でいいと思っていたんですよ。編集長がずっと男性で、(私が)女性で初めての編集長だったんですけど。ずっと男性の編集長の下にいて、副編集長くらいが一番おもしろいと思ってたんです。

なぜかと言うと、全体の責任は編集長が取る。でも、ある程度の裁量は任せてもらえる、一番いいポジションだと思ったんです。裁量を持つとスピードを持って仕事をしていけるので、平の部員のときよりは、すごく楽しかったんです。

副編集長やっていた時、はじめは編集長というポジションがすごく遠く見えたんです。男性の編集長がどんどん決断して、すっごく大きな案件取って来て、お金も取って来る。ああいう図々しい営業とか、私にはできないって思っていたんですけど。やっぱり自分も経験を経てくると、1つの同じポジションにずっといるのに飽きてくるし、つまらなくなる。

そのときに、いろんな人事の巡り合わせで、『AERA』を経験していない人が男性デスクで編集長になったんです。そのときに「全部やって」と言われるわけです。わかんないから。それで、「え、編集長が本来やる仕事もやってんじゃん、私!」と思ったんですよ。「できるじゃん!」と。そのときから、どうしても1回編集長やってみたいなと思ったんですよね。

松下:そういうきっかけがあったんですね。

浜田:そういう具体的なきっかけがあったり、みなさんに具体的なきっかけを想像してもらう。自分がもしこのポジションだったら、自分だったらこうやるなとか、こうできるなっていうことをちょっと想像してみると、できないと思っていた漠然とした不安が、すこし解消されるんじゃないかなというのは思ってます。