日本の保育の未来を語る「みんなの保育の日」

駒崎弘樹氏(以下、駒崎):よろしくお願いします。

塩崎恭久氏(以下、塩崎):はい、よろしくお願いします。

駒崎:それでは、大臣、どうぞお掛けください。

塩崎:ありがとうございます。

駒崎:ありがとうございます。大臣、先ほど来られていきなり「なんだここは!?」というふうにおっしゃられていましたが(笑)。

塩崎:初めて来ました。

駒崎:ここがニコファーレというところで、今、全国に配信されて、2万人を超える方々がご覧になっているという状況なんですね。

今日は4月19日、フォー・イ・ク、なので「保育の日」ということで。

塩崎:なまってるね(笑)。

駒崎:はい。全国で保育の素晴らしさを、そして保育の未来を語っていこうというイベントなのです。

そこで今日は、お昼からさまざまな保育業界のオールスターの方々がお話をされていて、どんな保育の未来があるべきなのかという議論をこれまで重ねてきました。

その最後のプログラムがこちらになるわけです。今日はですね、コメントも拾いながらぜひ、大臣に突っ込んでいきたいなと思っています。

安倍内閣は子育て支援を「ものすごくがんばっている」

いきなりなのですが、大臣。本当に政府は、保育に対してやる気があるのでしょうか?

塩崎:私は、第二次安倍内閣ができた時には、政調会長代理という、党のほうでの政策をやっていました。そこで最初に安倍内閣でやったのが、この“待機児童解消加速化プラン”を平成25年に作ったわけです。

駒崎:加速化プラン!

塩崎:政権がスタートしたのは平成24年12月ですから、そこからすぐに作った最初の大きなプロジェクトが、5年間で50万人の保育士を増やそうというもので、待機児童を解消するぞと言ってやってきました。また保育園の受け皿を作るということもやってきました。

それをやってきても、実はいろいろと野党からは批判をされていますが。

駒崎:まぁ、国会ではバンバン言われますよねぇ。

塩崎:けれども、ハッキリ言って受け皿を作るペースも、正直、民主党時代の2.5倍のペースで増やしてきているのですよ。

駒崎:なるほど。

平成28年度より保育士試験年2回実施の拡大

塩崎:そういう意味で、まず受け皿を作る。そしてもう1つは、やはり保育士さんが足りないということで。

駒崎:保育士不足ですよね。

塩崎:これをやっぱりたくさん作っていかなければいけないということで。実は、保育士の試験は年に1回しかやっていなかったのです。

駒崎:そうですね。

塩崎:これを最初にですね、特区に絡めた地域限定の保育士……つまり、「その県だけで一定期間働いて、それを越えれば全国で働けます」というのを作った。これを神奈川県の黒岩(祐治)知事と組んでやりました。

そして翌年に、実は1年に2回試験をやるということで、今、47都道府県全部で年に2回、保育士の試験をやってくれるようになりました。

駒崎:そうですよね。確かに昔は、年に1回しか保育士の試験が受けられなくて、僕も受けた時に1科目だけ落として、しかもそれが1問だけ落としたものだったので、あぁ〜っと思って。

1年後にまた受けなきゃいけないということだったのが、今では2回になったので、すごく便利になりましたよね。

全国一律保育士給与改善とキャリアアップ上乗せについて

塩崎:もう1つは、処遇改善もずいぶんいろいろとね。

駒崎:そこですよ、大臣。

塩崎:みなさん方にとって、一番気になるところではありますが。これについても、実は民主党政権の時は、デフレだったということもありますが、保育士の処遇がずいぶん下がっていたのですね。

駒崎:なるほど。

塩崎:それを平成25年から上げるようにしていって、今もずっと上げてます。

今年も新たに2パーセントの引き上げということで、まず全員についてやっていくと共に、今回は7年くらい経験をした人で、ちゃんと能力、経験があるということが認められた場合は、月4万円を引き上げる。

それから、中堅よりもうちょっと若い人で、がんばっている人についても5,000円上げるということでやっているのですね。

もちろん、財源がいくらでもあればどんどんやりますが。財源との相談だけでも、ギリギリいっぱいまでやるということ。

子育てを最優先に進めていく

それともう1つは、こうしたことに関しても、すべて子育ては優先的にやるぞという安倍内閣の方針で。実は消費税を引き上げることを前提に、いろいろなことが計画されていました。

駒崎:そうですよね。

塩崎:ご案内のように、2回引き上げを延期しています。最初の延期の時に、実は子育て支援についてどうするのだということでした。そこで予定通り、消費税を上げなくてもやるよと言って、処遇を含めて、ずっとやってきているということなのですね。

駒崎:なるほど。消費税を上げたら当てられるお金がないにも関わらずやるよ、と。

塩崎:そうですね。別に増税をしなくても、財源を探してきて、やりくり算段付けてでも、子育ては最優先で進めるということで。引き上げて7,000億使うということになっており、今で2回延期しています。

本来はあと2パーセント上げなければいけないわけですが、それを上げなくても7,000億やりましょうということになり、それで進んでいます。

駒崎:なるほど。じゃあ、わりとがんばってくれていたということですね。

塩崎:いや、わりとじゃないですよ、ものすごく!(笑)。

駒崎:そうですか! 失礼しました!(笑)。ものすごくがんばってくれたということなのですね(笑)。

女性の就業率が増えたから待機児童が減らない?

でも! でも、まだ待機児童、今年4月もバンバン出てきちゃっているじゃないですか。これ、そのがんばりの手を止めちゃいけないですよねぇ。どうなのでしょうか?

塩崎:この待機児童については、つい2日ほど前に、待機児童がたくさんおられる市長さんたち、けれども改善できたという人たちも含めて来ていただき、1時間ほどお話を聞いて、議論をしました。

それぞれみなさん、地域でがんばっていただいているのですが、我々は先ほど言ったように受け皿を作って、保育士さんの処遇もできる限り改善をして、そして養成もやってきたのです。しかし、残念ながら今まだ、2万人を超える待機児童がおられるわけですね。

聞いてみるとやっぱり、今年の4月も増えてしまったというところもありましたし、逆に改善したというところもありました。

ではなぜ、まだ全体として2万人以上もの待機児童がいるのかと言うと、それはこの4年くらいで、5ポイントほど女性の就業率が上がっているからなのですね。つまり、かつての民主党時代に比べて、どんどん女性の経済が良くなったということがありまして。

駒崎:ここは国会ではないので、別に民主党のことはおっしゃらなくても大丈夫ですよ。

塩崎:いやいや、それは現実だから。実際そういうことだから(笑)。

それで実は、経済に加えて、我々は安倍内閣になってから、「女性活躍進法」というものを作りました。やっぱり女性に活躍してもらわなければ国は良くならないということで、やっています。

したがって、大企業も中小企業もできる限り女性を雇おうということになりつつあります。そういうこともあって、女性がどんどん働くようになってきているのです。

待機児童解消加速化新プランの公表は6月予定

そうした中、一方で残念ながら待機児童がまだ残っているというのは、もう1つ要因があります。それは、保育を希望すれば手をあげられるようになったというのが平成27年度から始まったことです。前は休職中ではダメで、働いていないとダメでした。

駒崎:「保育に欠ける」じゃないとダメだったものが、必要な人は誰でもいいよと。

塩崎:そう。「欠ける」から「必要な人はどうぞ手をあげてください」としたところ、これでグーンと増えたのですね。そうしたことも重なって、まだ待機児童が2万人以上いるわけで、これを解消するためにがんばろうと。

平成29年度末までにゼロにしようと言っていましたが、平成30年度以降ゼロになるようがんばるために、今度総理が新しいプランを作るということで、だいたい6月になると思います。

それを今作るために、まず4月1日現在でどれくらい待機児童ができていて、さらに今度は、野党的に言えば、いわゆる“隠れ待機児童”というのもいるのではないかと言われていますが。

これは別に我々だけがやっているわけではなく、ずっとそうした形でやってきた定義を隠す必要はないから出しちゃえと言って出す。そして、実は市町村によってバラバラの運用をしているものですから、ちょっとそれではうまくいかないのではないかと。

一定の基準の中でそれぞれやってくださいと言って、1つに統一するのはなかなか難しいわけですが、できる限り考え方を統一してもらい、市町村にそれぞれ合う待機児童の定義でやってくださいと言っています。

嘘の数字ではなく真の待機児童数を追う

駒崎:そうですよね。例えば、横浜は「待機児童ゼロ!」とドヤ顔していますが、保育園に入れなかったから育休を伸ばしましたという人を「育休伸ばせるのなら待機児童じゃないですね」と言って外すわけですよ。“保留児童”といった新しいカテゴリーを作って。「じゃあいるじゃん!」みたいな(笑)。

そのデータって、フィクションじゃないですか。やっぱりそこは、女性がある程度働いて、「子育てしても働くよね」ということを見越して、就業率を女性の数に掛け合わせれば出るわけですから。

待機児童のような嘘っぽい指標を参考にしないで、上がった就業率から割り戻せば出るのであって。嘘の数字を追うのではなく、こちらを追っていけばいいんじゃないですか?

塩崎:それぞれの地域によって働き方も、女性でも違うし。そのため、それぞれの市町村が判断をしているわけです。

例えば休職中の人という定義も、休職であれば待機児童に……。ごめんなさい、育児休業中だった場合には、取っているだけでもう外しちゃうのですね。

ところが「確実に来年4月から戻ります」と決まっていても、育児休業中だと待機児童に入れないということをやっていました。

しかしそれは、やっぱり一人ひとり確認をして、本当に仕事に戻りたいと思っている人は待機児童にカウントしないと、不正確になる。

駒崎:そうですよね!

塩崎:ということで、今回はそうしたところを統一してください、と。一人ひとり、電話で聞くなり会うなり、ちゃんとそれぞれのニーズを聞いた上で、待機児童かどうかを判断してください、ということをやっています。

駒崎:ちゃんとそこはやるようになったんですね。

塩崎:4月からそうします。また、保育園には認証保育所というものがあります。これも地方によって、それぞれ定義がバラバラなのですね。

これも定義を明確にした上で、待機児童かどうかの判断をしてくださいということをやっています。今は多様な保育がありますので、そこのところの定義がハッキリしていないという部分もあるのです。

3月にまとめた「働き方改革実行計画」

駒崎:そこはもうぜひに厚労省にリーダーシップを取っていただきたいのと、あと働く女性が増えたこと自体はすごくいいことですよね。

でも働き方が今みたいに超長時間労働で親御さんが帰ってくるのがすごく遅い状況では、どうしても女性や妻に子育ての大変さが寄ってしまい、「もうワンオペ育児でボロボロだ」となってしまうわけですよね。

さらには、保育園も長く開けなきゃいけなくなるわけで。やっぱり働き方もね、ガッツリ変えていかないと。まあ、今回ようやく、某大きな広告代理店にガサが入ってくれて、なんかいろいろやってくれていますけど。

もっともっと、ダメな働き方をしている会社には、ダメだよとちゃんと言わなきゃいけない。そこはもっと厚労省自体の働き方がどうなんだという話もあり、強制労働省と揶揄されていますが(笑)。

でも、やっぱり働き方改革。ここにガッツリいかなければいけないと思うのですが、そのあたりの覚悟はいかがですか?

塩崎:実は、介護もですね、介護離職とよく言いますが介護も保育も、保育園の整備や、あるいは介護施設の整備など、これはこれで大事なんですね。

もちろん、介護士や保育士など、こうした人材を確保することも大事なのですが、実は今、駒崎さんがご指摘のように、働き方のほうが、辞めなきゃいけない理由の大きなウェイトを占めているというのが、我々でアンケート調査などをやってみると、圧倒的にそちらのほうが大きいのですね。

したがって今回、働き方改革をやりました。実行計画を、3月にまとめたのです。これからまた、さらに細かいことも決めていこうと言っていますが、この保育とか子育てに関しては、実は、男性の育児休業の取り方が、圧倒的に日本はダメなのですね。企業の文化というか、なんと2.65パーセントですから。

駒崎:そうですよ!

塩崎厚生労働大臣「今度は狂ったようにやる」

塩崎:これしか取っていないということで、スウェーデンなんか9割くらい取っているわけですから。そこのところはどうやって変えたらいいのかは、よほどのことをやらないと、おそらく企業の文化は変わらないのではないか。

本当は、3月末までに通す法律の1つとして、雇用保険法の改正というものがあり、育児休業の取得の仕方について決めるところがあるわけです。

しかし、そこのところでやろうと思ったのですが、なかなか答えが出なくて。とりあえず、育児が発生する。つまり、子供ができるということがわかったら、育児休業について考えなさいよということを言う、努力義務を課しただけです。

本当は私も、まあ、大臣でこんなことを言ってはいけないのですが、本当に義務化をして、少なくとも企業が「あなたは育児休業を取ったほうがいいのではないか」と持ち出すことを義務付けるというくらいやらなければいけなかったのですが。とりあえず、努力義務になっています。

ですが、それは事務方との話で、私が条件を付けたのは「今度は狂ったようにやるぞ」。狂ったような案をいっぱい作って、やらなきゃダメ。

駒崎:おぉ、なるほど(笑)。ちょっと放送コードに大丈夫かどうかわからないんですけども! そのくらい一生懸命やるというように(笑)。

塩崎:そうしないと、今までと同じような、あるいは延長線上のやり方では、たぶん男性が育児休業を取るようにはならないだろうな。つまり、企業は変わらないだろうな。相変わらず、とてもじゃないけど、なかなか言い出しにくいなぁみたいなことでいっちゃうので、それじゃダメだろうと。