ママの私生活ストレスNo.1は「旦那の態度」

小安美和氏(以下、小安):ありがとうございました。今、JALさんとGoogleさんにお話しいただいたんですが、既存の企業の中でどうやって働き方改革を進めていくかという事例として、2社に来ていただいております。

ここから、時間や場所に制約されない働き方そのものを生み出すことを実践されているお二方に来ていただいています。まず、リクルートホールディングスの二葉さん、お願い致します。

二葉美智子氏(以下、二葉):みなさんこんにちは。リクルートの二葉と申します。

今、私は「iction!」プロジェクトの事務局長を担当しています。私自身、この前はリクルートグループの女性活躍推進ダイバーシティ推進を約4年間担当してきたという経歴があります。

まずはiction!なんですけども。思いっきりほっぺをビンタされたかのようなピンクの手の形なんですが……。

ここに書いてありますとおり、これはリクルートグループ横断で進めているプロジェクトです。「育児と仕事のしやすい世界へ」ということで、女性に限らず、世の中でこういうことを両立しやすくなる社会にむけて、プロジェクト活動を進めております。

iction!プロジェクト自体は、大きくこの3つのテーマで掲げております。このあと紹介させていただく取り組みが、その延長線として進めているものです。

(スライドを見て)先ほど浜田さんがパートナーの話をだいぶされていて。ちょっと上から拝見すると男性も多くいらっしゃるので、1つだけお伝えすると、2番目ですね。けっこう育児と仕事の両立をされている女性の方が8割ほどストレスを抱えている。

私どもにはリクルートワークス研究所がございまして、働くファーザーと働くマザーのストレス調査を1年前ぐらいにやりました。

インターネットに載っているので、興味があれば見てください。わかりやすかったのが、ファーザーのストレストップ10はすべて仕事のこと。働くマザーのストレスはちょうど仕事とプライベートが半分ずつ。そして、プライベートのストレストップナンバー1が「旦那の態度」でございます。

限られた時間で成果を出す「ZIP WORK」

ちょっと男性の方が失笑しているので、次にいきたいと思うのですが。働き方と言っても……時間の概念、場所の概念、あるいは仕事と報酬の関係というか、契約のあり方など働き方は色々な要素が含まれています。

特に今回ご紹介させていただくのは、時間と契約のあり方です。具体的な取り組みを紹介させていただきます。

みなさんのお手元に資料を配らせていただいています。開いていただくと、僭越ながら私の写真と、これから紹介させていただく「ZIP WORK(ジップワーク)」の紹介記事があります。

まず、なぜこれに取り組もうと思ったのかを説明してまいります。「ZIP WORK」について、まずZIPとは圧縮するとか素早くシュッとやるという意味の英単語ですが、限られた時間で成果を出す新しい働き方という概念です。

資料には書いてありますが、大きく3つございまして。限られた時間で専門的な知識やスキルを活かして、それに見合う報酬と、大事なのはキャリアアップの機会があるというところで取り組み始めています。

この活動をスタートしたのは昨年9月からで、まずはリクルートの中で、こういう機会、ジョブを作ってみようということで取り組みまして。今まさに他社のみなさまにも、こういう仕事を一緒に作れないかとお声掛けをしているところです。

リクルートの中でフルタイムの社員がこれまで抱えていた業務の中から、より専門的な知識を活かした方が効率化だったり、個人にとっていろんなミッションがある中で、優先順は高くないんだけど、「組織としてけっこう重要なミッションなんだよ」みたいなことがあると思うんですよね。

それを試しに見ていただいたとおり、10時から16時とかですね。週に3日という形でスキルがある方っていらっしゃるのかどうかを募集してみました。

募集してみて、多くの方から応募していただきました。その方たちの「ZIP WORK」を希望する背景は、育児の方が多いのだろうと当初思っていたのですが、ダブルワークや家事、介護など、ここに書いてあるようなものですね。育児以外の理由が、想定より多かったということがわかりました。男性も1割ぐらいいらっしゃいました。

成果を下げず、効率化を目指す

多くの方がスキルをもっとより短い時間で活かせるような機会を求めていることがわかったので、具体例を簡単に説明します。

例えば今、実際に働いていただいている方なんですが、人事労務の仕事で、それに関する知識が必要なんだけど、そのプロを1人雇うほどのコストは持てない。でも、社内で育てるにはなかなか余裕がないということで、ちょっと分解してみたんですよね。

フルタイムの社員がやっていて、ウエイトとして1割から2割ぐらいやってたものをふと出してみたら、男性がいらっしゃいました。人事部長を経験されてて、社労士として独立された方ですね。ぜひそれならばと来ていただいていて、今週3日で働いていただいている。

また、SQLとかデータベースの構築の経験がある方の事例になります。「管理データをいつかまとめて整理しなければと思っていたけど、後回しになっていた」という仕事を分解して募集してみたら、女性で週4日、人事経験があり、かつSQLなどを使いこなせる。そんな方が就業されています。

今フルタイムで社員をしている方は、もちろん時間を短くすることも大事ですが、それで成果が下がっても仕方ないんです。成果を下げず、効率化を目指す中で、その業務を切り出して募集をしたら、新しい雇用が生まれたという一例でした。

ここに書いてあるとおりですね。これからはリクルート以外でもこうした取り組みが拡がればと思い、少し事例をご紹介させていただきました。

周囲の共感・協力がないと、地域での新しい働き方は作れない

小安:二葉さん、ありがとうございました。では最後、尾崎さんお願いします。

尾崎えり子氏(以下、尾崎):こんにちは。私は今33歳で、5歳と3歳の子供がいます。第二子を産んだ時に「さすがに家事育児をしながら都内への通勤は厳しいな」ということで会社を辞めました。

私にとっては、往復3時間の通勤は仕事継続の大きな壁でした。周囲のママ友に聞いても、同じような悩みを持っている方が多かったので地元・千葉県流山市に「シェアサテライトオフィス」を作ることを決めました。

クラウドファンディングで200万、そして自分の貯金は全部出しました。空き店舗だったボロボロの商店街を、みんなでペンキを塗ったりして、リニューアルして作りました。

シェアサテライトオフィス「Trist」を作って、まず最初に行ったのは、地域の場作り、コミュニティ作りです。ママだけが集まっても、働く環境は整いません。それをサポートするパパにも巻き込まないといけないし、地元のシニアの方々にも協力してもらわないといけません。

あと、当然ながら商店街、周りの病院、施設の人たちにも、この働き方に共感して協力してもらわないと、地域の中で新しい働き方を作ることを進められません。ママに特化せず、さまざまな地域コミュニティの多様化、拡大化をやってきました。

その次にで、離れた場所で働くために必要なスタンスやスキルを獲得するために、テレワーク前提のキャリア教育プログラムを作りました。マイクロソフトさんなどに支援していただきました。

プログラムはマインドセット、ITスキルセット、テレワークセットの3つです。なぜ自分は働くのか、自分の強みはなにで、どうだったら貢献できるのか。チームのメンバーがどういうメンバーで、どうやってチームビルディングをしていけばいいのか。

そういったマインドセットから、ちゃんとしたITスキル、ITリテラシー、……セキュリティだったり個人情報だったりもそうですし、当然オフィスソフトのアップデートみたいなところですね。

最後にテレワークをするためにクラウドを使って、どうやって効率的に共有をしていけばいいのかを学んでもらいました。その結果、キャリア教育プログラムの開始から3ヶ月で、5社のサテライトオフィスを誘致できました。

現在は流山で採用された方は25名。稼働率が150パーセントです。当初予定していた席数がもう埋まってきてしまって、セミナールームだったところを今、オフィスにリニューアルしているんです。

会社のように、成長機会を過度に求めない

今は働き方改革のためにサテライトオフィスが流行っていて、いろんなところにワーキングスペースができています。箱がすごく立派だとか、その周りがすごく自然がいっぱいとか。そういうハード面や環境面も大きな価値だと思います。

でも、私には立派な建物を作れるお金もなければ、流山はベッドタウンなので地方のような環境面を差別化ポイントとして作ることはできません。

そこで、私は「企業から選ばれる人材を地域で育む」というソフト面をポイントにしました。Tristの強みはテレワークを前提としたキャリア教育プログラムと地域のダイバーシティ化です。

キャリア教育プログラムと地域のダイバシティー化を進めると、地域で働く人が自立していくんです。自分のスキルを上げるために「これを学びたい」という欲求が出てきて、地域の中で先生を探すんです。

「もっと私、英語ができるようになりたいわ」というと、地域の翻訳家の方が朝来てくれて英会話の授業を開催するし、「もっとお金の勉強をしたい」というと、地域の税理士の人を呼んできて、みんなでその時間を作って学ぶんですね。

そうすると、どんどん勝手に成長していくんです。会社に研修とか成長機会を過度に求めずに、地域の中で自分のスキルがどんどんアップして成長していく。そうすると、どんどん楽しくなって自主的に勉強して、さらにコミュニティが拡大し、キャリア教育プログラムの質が向上し、加速し、自走する地域ができあがります。

今は労働人口が低下し、採用が非常に難しくなっています。「そんな中で「あの地域には優秀な人たちが相当数いる。しかも、自分たちでどんどんスキルアップするらしい」となると、営業しなくても、企業はその場所にサテライトオフィスを作りたくなるはずだ、と考えました。

初めは私自身、当事者ということもありました。ママだったのですけれど、やり始めるとシニアの方も障がい者の方が来て下さって。「昨日までバリバリ部長でしたが、でも今日からシルバー人材センターで剪定の仕事しかない」「もうちょっとやりがいを作れないのか」というので、「じゃあ一緒に新しい働き方やっていきましょうよ」ということを地域のシニアの方々とも一緒にやっていたりします。

「がんばれ」だけでは、自宅で仕事をするだけ

小安:ありがとうございます。ここからクロストークに入っていきたいと思います。前半のお2人は、どのように働き方改革を企業の中で進めていくかという観点。それから後半のお2人は、今まで企業の中で実は働けなかった人材をどう活用していくかをやっていらっしゃいます。

それぞれの観点で、社員の仕事をどうすれば減らせるのかをお話いただきたいと思います。

JALさんの中で、先ほど伝えられなかったところも含めて、風土やカルチャーがあるなかで、どうやって長時間労働を実質的に減らしていくのか。なにが障壁で、なにが一番効いたのかを補足していただければと思います。

埋金:そうですね。やはり1つは、今までのマネジメントのやり方を変えず「そのままがんばれ」と言っても、持ち帰って自宅で仕事をするだけになります。それができないような仕組みづくりをやりました。

あとは「チェンジマネジメント」ということで、マネジメントのやり方を変えていきました。部下がどこでなにをやるかを完全に前倒しでスケジュールをさせ、それを把握していったのです。フリーアドレスもそうですし、在宅勤務もそうですけれど、必ずしも自分の近くに部下が座っているとは限らないので。

今まででなら、近くに座っていてどんなことをやっているのかが肌でわかっていました。(在宅勤務によって)それがわからなくなるので、離れていても把握できる仕組みを作りました。

例えば、私のグループだとOutlookを会議の予定だけ入れるものにするのではなく、やる作業も入れていく。離れていても、いつなにをやるのかがわかるし、予定に対してどんなものが急に降り掛かってきてオーバータイムが出てしまったのかも見える化できます。

あと、我々は月1で勤務管理会議をやっています。組織管理職が全員集まって、自分のチームの状況などを全部レポートする。それに対する打ち手を共有する。そうすると、だんだん業務のコア化が進み、仕事の棚卸、見える化が実現し業際の整理なども進んでいきます。

「組織における価値」をまず突き詰めておく必要がある

小安:見える化、可視化がキーワードになると思うのですが。そもそも、どんな仕事をやっているのかがわからないから、ただ「減らせ」としか言えないとか。けっこういろんな企業さんで起こっていることかなと思います。

なので、JALさんの事例からの学びは、「可視化」がすごいなと思ったのが、月1でマネージャーを集めて、みんなで部下がどれだけ働いているかを可視化し、モニタリングすることです。

埋金:そうですね。パソコンのログと実際のタイムカードでどれくらい違いがあったかとか、オーバータイムはどれくらいなんのためにやっているのかが見えてきました。ここをしっかり見ていくのも非常に大事です。

小安:ありがとうございます。そもそもコア・ノンコア業務を可視化する。プロセスで言うと、二葉さんの取り組まれている「ZIP WORK」も、まずは可視化をしないと専門的なスキルを持った方を出せないんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか?

二葉:まさにそうですね。コア・ノンコアの可視化というと簡単に聞こえるんですけど、なかなか難しいんです。

でも、一人ひとりがそれをやるというよりかは、ある程度のマネジメントレベルの方が、その組織における価値とはなにか、その価値を最大化するためになにが必要か。価格に転換できるポイントはなにかなど、突き詰めていく作業がないとなかなかないと難しいとは思うんです。それをやってからじゃないとなかなか進まない部分もありますので。

みなさんの周りの業務の中でも、なんとなくああいう粒ってあるよなって、さっきも事例をお話ししたんですけど、考えようによっては出てくると思うので。まずそこからきちんと切り出しをしたり、効率化を図っていくという所なのかなと思いますけどね。

小安:なんとなく切り出せるんじゃないかは、けっこう目に見えないスキルだったりすると思うんです。言語化できるのでしょうか?

二葉:リクルートの場合で言うと、ミッショングレード制という人事制度を運用していまして。だいたい半期に1回振り返りとかするんですけど。メンバー一人ひとりにミッションを渡す時に、5つや6つぐらいのミッションに全部、ウェイトや成果達成基準を分けて目標を管理しているんですよね。だからミッションは比較的切り出しやすい部分はあります。

そういうことをされてる企業さんはそれなりにいらっしゃると思います。ミッションのテーマが5つあって全部できればいいですけど、なかなかちょっと進まないなみたいなテーマで毎年下のほうに書いてあるみたいなものってあると思うので。そこら辺をちょっと見直して見るということだけでもできるんじゃないかなとは思うんですけどね。

小安:なるほど。