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Wikipediaはなぜ”タダ”で記事を書いてもらえるのか? 人のやる気を引き出す、3つのキーワード

Wikipediaはなぜ”タダ”で記事を書いてもらえるのか? 人のやる気を引き出す、3つのキーワード

「報酬でパフォーマンスが変わる」という定説は、名門大学の科学者が行なった実験によって、全くの誤りであることが証明されました。では、人のやる気を引き出すにはどうすればよいのか? Wikipediaとマイクロソフトの「百科事典競争」を引き合いに、米副大統領の主席スピーチライターとしても活躍した作家のDan Pink(ダニエル・ピンク)氏が、生産性を上げる3つのポイントを解説しました。(TEDより/この動画は2009年に公開されたものです)

スピーカー
Dan Pink(ダニエル・ピンク) 氏
参照動画
やる気に関する驚きの科学

名門大学の学者が発表「高い報酬は最悪のパフォーマンスを生む」

例を挙げます。証拠を提出しますよ。私は話をしに来たのではなく、申し立てをしに来たことを忘れないでください。お集まりの陪審員の皆さん、ここに証拠があります。ダン・アリエリーは私達の時代が誇る経済学者ですが、彼と3人の仲間たちが、MITの生徒を対象にある実験を行いました。生徒達にクリエイティビティ、運動スキル、そして集中力を必要とするタスク・ゲームをやってもらいます。 いいですか? ゲームが良くできれば、その分報酬もアップするんです。結果を見てみましょう。「もらえる報酬が多ければ多いほどパフォーマンスも上がる」—これが成り立つのは、機械的な作業をするときだけでした。 DP7 DP8 しかし! 報酬がもらえると参加者がわかっているとき、本当に初歩的で、簡単に頭を使えばできる作業に関して、彼らのパフォーマンスが下がりました。「もしかしたら、このMITの生徒だけがそのような反応をしたのかもしれない。よし、インドのマドゥライへ行って同じ実験をしてみようじゃないか!」と実験の場を移しました。 生活水準はMITの生徒よりも低いです。アメリカで実験したときに用意した同じ報酬は、アメリカではそこまでの価値でなくとも、マドゥライの人々にとってはより大きな価値を持つということです。全く同じ実験を行いました。沢山のゲームを用意し、3レベルの報酬も同じように用意。 すると何が起きたか? 3レベルのうち、真ん中のレベルの報酬がもらえると言われてゲームに挑んだ人と、最も低いレベルの報酬がもらえると言われてゲームに挑んだ人の結果は、大体同じだったのです。しかも今回は、最も高い報酬がもらえると言われてゲームに挑んだ人の結果が、最も悪かったのです。 DP9 「行った3つの実験のうち、9つのタスクのうち8のタスクで、高い報酬を用意することは最悪のパフォーマンスを生む、ということが科学的に証明された」。 DP10 なんですかこの結果は!? 社会主義者の陰謀ですか!? 違いますよね。MIT、カーネギーメロン、そしてシカゴ大学に在籍する、れっきとした経済学者が研究した結果です。この研究のスポンサーはどこかわかりますか? ニューヨークにあるアメリカ合衆国連邦準備銀行ですよ! つまり今、これがアメリカで実際に起こっていることなのです。 海を越えたロンドンにある、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに話を移しましょう。この学校からは、11人のノーベル経済学賞受賞者が出ています。経済学界での有名人がこの学校出身です。ジョージ・ソロス、フリードリヒ・ハイク、そしてミック・ジャガー! (会場笑) 先月、この学校の経済学者達が、会社のパフォーマンスが上がれば報酬も増えるシステムを導入する企業を研究した51の研究を検証したところ、彼らはこのような結論を出しました。「金銭的報酬は、全体的なパフォーマンスにネガティブな影響を与える」と。 DP11

ビジネスシステムの基とすべき3つのポイント

科学が証明していることと、ビジネスの現場で実際に何が起きているかの間に大きなギャップがあるのです。世間が経済危機(※2009年当時)に直面するなか私が心配しているのは、多くの組織が方針や才能、人材に関する決定を、時代遅れで、再考されていない、そして科学的根拠のない「よく言われる一般論」に基づいて行っているということです。 私達がこの経済危機(リーマン・ショック)を乗り越えるためには、そして21世紀に相応しい仕事をしたいのであれば、人々をもっと甘いにんじんで釣ろうとしたり、もっとシャープなムチで打ったりしてはなりません。報酬とパフォーマンスが比例すると推測するのではなく、全く違ったアプローチを取る必要があります。 ラッキーなことに、モチベーションを研究する科学者達が、すでに私達が取るべきアプローチを示してくれています。この新しいアプローチは、自分が大切だと思うからやる、やりたいから、好きだからやる、面白いからやる、社会を変える重要な動きの助けになるからやるという、内から湧き上がる動機に基づいています。 私が思うに、ビジネスは今後以下3つのポイントに基づいて動かしていくべきです。その3つのこととは、自主性、精通、そして目的です。 DP11 自主性とは、自分の道を切り開きたいと願う気持ち。精通とは、自分が大切だと思うことを追求し、改善を重ねてその道をマスターしたいと願う気持ち。そして目的とは、自分のことだけではなく、それ以上の何か大きなことに貢献したいと願う気持ち。これらが、私達が今後つくりあげるべきビジネスシステムの基となります。

自主性から生まれるクリエイティビティ

今日は「自主性」にのみフォーカスしてお話します。20世紀に、私達は「マネージメント」という概念をつくり上げました。マネージメントという概念は、自然に生まれたものではありません。木が生えるイメージではなく、テレビを人工的につくるイメージです。誰かが「発明」したのです。そしてこの概念が生まれたからと言って、これがベストでずっと続くものである確証はどこにもありません。 マネージメントはもちろん素晴らしいですよ。コンプライアンスを重視するのであれば、これまでに良いものと信じられてきた既存のマネージメントの概念が必要です。しかし、皆が積極的に関わるシステムにしたければ、自主性を重んじるほうが良いでしょう。革新的な自主性を奨励するシステムについて、少し例を挙げます。 今まだ、このスタイルを取っている組織は多くはありませんが、少しずつ興味深い組織が出てきています。自主性を重んじる革新的な方法を取っている組織はつまり、もちろん従業員に仕事に見合ったフェアな報酬を与え、こうすることでまずお金の問題はクリアー、更に彼らの自主性を重んじているのです。 どういうことか説明しましょう。 「Atlassian」という企業を知っている方はどれくらいいますか?  (会場からほとんど手が挙がらず) ……だいたい半分以下ですね。 (会場笑) Atlassianとは、オーストラリアにあるソフトウェア会社で、彼らはものすごいことをしています。年に数回、エンジニア達にこう言うのです。「今から24時間、なんでも好きなことをしていいよ! いつもやっている仕事以外のことならなんでもね。自分がやりたいことをやってきて下さい」。 エンジニア達はその時間を使って、コードの面白いパッチや、エレガントなハックを考案して戻ってきます。そして翌日、新しく考案したアイデアを、チームメイトやその他多くの社内の人々と一日中ミーティングを重ねて、シェアしていきます。彼らはオーストラリア人なので、アイデアをシェアするミーティング中にはビールが欠かせません。 (会場笑) 自分の好きなことをして新しいものを考案し、24時間後に社内に持ち帰り、一日中プレゼンして周るこの期間を、彼らは「FedEx Days」と呼びます。 DP13 なぜか? それはエンジニア達が24時間でアイデアを持ってこなければならないからです。いいネーミングですよね、悪くない。ものすごい商標の侵害ですが、賢いですよね? (会場笑) 24時間の自由な時間が、全く新しいものを生む可能性に繋がるのです。 DP14 これがとても上手くいったので、Atlassian は、エンジニアが全体の20%の時間を自由に好きなことをする時間として使えるようにしました。そして「20%」といえば、Googleが大成功していることで有名です。Googleのエンジニアは、彼らの20%の時間を興味惹かれる好きなことをしています。時間、タスク、チーム、技術、様々な側面で、Googleのエンジニアは自主性を持っています。 こんなに自主性を重んじる組織は、とても急進的だと思いませんか。更にGoogleが年間に生み出す新しいプロダクトの約半分は―例えばGmail, Orkut, Google News等―、今お話したエンジニアの20%の自由な時間から生まれているのです。もっと革新的な例をお見せします。

「Wikipedia」が「Microsoft」に完勝した理由

DP15 「ROWE」。結果だけがすべての職場環境(the Results Only Work Environment, the ROWE)というコンセプトを、2人のアメリカ人コンサルタントが10以上のアメリカ国内の企業に浸透させました。ROWEでは、従業員は完全フレックススケジュールです。出社は好きな時に。決まった時間にオフィスに入る必要がない。もっと言えばオフィスに来る必要がない。仕事をきちんと終わらせれば、あとはどんな風に、いつ、どこで、どうやってもいい。会議も必須ではありません。 こうすることによって、生産性、従業員の積極性、そして彼らの職場に対する満足度アップに繋がりました。さらに離職率も下がりました。自主性、精通、目的、これらがビジネスの新しい形をつくるにあたり必須です。「すごく良い話なのはわかったけど、所詮、理想論なんじゃないの?」という方もいるでしょう。そんなことはありません。きちんと証拠があります。 1990年代中盤、Microsoftは「Encarta」という百科事典を出しました。皆にきちんと報酬を支払って作りました。プロに記事の執筆、編集を依頼し、高給取りのマネージャーにプロジェクトの予算や締切の管理をさせて。 数年後、新たな百科事典が誕生しましたね。まったく違うやり方で。楽しいからやるだけ。皆がタダで進んで協力した。1セントも支払いが生じなかった、1ユーロも 、1円も。ただそれをやりたいから皆がやっただけです。10年前にどんな経済学者に、「百科事典をつくる2通りのやり方があるんですが、どちらが良いものを作れると思いますか?」と聞いても、「それはWikipediaが勝つに決まっているよ」などと頭のおかしいなことを言う人はいなかったでしょう。 これは2つの真逆の方法が激しくぶつかりあう、まさにモチベーションの在り方に関するアリvsフレジャー(元ヘビー級王者)戦のようなものではないですか? マニラでの決戦ですよ! 「内発的動機づけ」vs「外発的動機づけ」です。「自主性、精通、目的」vs「アメとムチ」です。この決戦にKO勝ちするのは、もちろん内発的動機づけ、自主性、精通、目的。

科学が証明した、生産性の上げ方

ここまでの話をまとめます。科学が証明していることと、ビジネスの現場で起こっていることの間には大きなギャップがある。科学は以下のように証明しています。 1、20世紀には当たり前だった方法-報酬をエサに仕事をさせる-は、今後発展しない。とても狭い範囲のビジネスでのみ機能する。 2、「これをやったら、あなたにこれをあげます」的システムでは、クリエイティブな能力が発揮されない。クリエイティビティが撲滅されてしまう。 3、生産性の向上には、内から湧き上がる願望・自分のためにやりたいと思う気持ちが欠かせない。彼らは、それをやることに意味を見出している。だから自ら進んでやるのです。「できたら報酬、できなければ罰」、このような方法では生産性は上がらない。 ここが一番いいところなんですが、今言ったことすべて、私達はもう知っていますよね。科学は、私達が既に知っていることを証明してくれたに過ぎません。 もし科学とビジネスの間のギャップを埋められれば。もし私達が自分の内なる願望・モチベーションにもっと耳を傾け、21世紀的自主性を持って動けば。もし私達が、この怠惰で危険な「アメとムチを使うやり方」を過去のものとして水に流すことができれば……。 私達のビジネスはもっと成長し、多くの「ろうそく問題」を解くことができるようになり、もしかしたら、ひょっとすればひょっとすると、世界を変えることすら可能かもしれません。これで申し立てを終わります。

  
※ログミーでは、TED Talksおよび各TEDxの定めるCCライセンスを遵守し、自社で作成したオリジナルの書き起こし・翻訳テキストを非営利目的のページにて掲載しています。
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