ブースの出し方がとても大切

のぶみ:それで、外国人のリアクションというのはどうだったの?

西野:いや、よかったです。たぶん自分たちのブースが一番お客さん来たと思います。

トンボ:すげえ。

のぶみ:そうなんだ。

西野:これむっちゃリアルで。ブース買うのってやっぱりお金かかるじゃないですか。渡航費もかかるし。そこのスタッフさん代もけっこうかかるんですけど。

本当にむちゃくちゃお金をかけて、お客さん1人も入っていないという状態ってけっこうありますよ。だから、100万円ぐらいかけても見てもらえないという。

トンボ:まあ、そんだけ数があったらねえ。

西野:だから、出し方がすげえ大事なんだなと思って。

トンボ:なるほどねえ。

西野:うまいことやらないと。

トンボ:恐ろしいですね。

西野:恐ろしい。

のぶみ:でも、あの光る原画で来たら、ちょっと見ちゃうよね。

西野:あ、ボローニャはそっちじゃないです。

トンボ:絵本ですよね。

西野:絵本です。

のぶみ:あ、そうなんだ。

西野:ボローニャは絵本を並べるっていうところです。光る原画というのは、要はミラノの原画……。

のぶみ:そうなんだー。へえ。え、それでもうバンバン来たんですね。原画は飾ったんですか? こうやって。

西野:いや、原画は飾っていないです。つまり、絵本を全部切り取って、裁断して、絵本のページを全部壁に貼って、額装して。だから、それ自体は原画でもなんでもなく、絵本のページ。

のぶみ:なるほどねえ。ああ、そのやり方でやったんだ。

西野:一目見て、この絵本の『えんとつ町のプペル』が全ページが見れるという。

のぶみ:頭いい。それで7ヶ国来たんだ。

西野:そっちのほうがいいですよ。そっちの戦い方のほうが、ああいう場だったらいいなと思って。

のぶみ:そうなんだ。

西野:僕らが設営に入る日がたまたま遅かったので、パーっと見たときに「これ、やっぱこうだね」みたいな。持って行ってたのは何冊かあったんですけど、「いや、1冊に絞って、これでいこう」みたいな。

のぶみ:その時、言葉はどうしてたんですか?

西野:1人エージェントというか、間に入ってくださる方がいらっしゃったので、この人に交渉してもらって。あとは間取り持って、「この人が作家です」って紹介されて、「ああ、どうもどうも」とか言って、「nice to meet you」とか言って、「どうなんだ、やるのか?」みたいな話。

のぶみ:かっけえ。なんだ、その商売の仕方(笑)。

西野:いやいや。

のぶみ:「どうなんだ、やるのか?」。すげえなあ。

お客さんが入らないのは、理由がある

トンボ:でも、いろんなところで自分でやってたりしてたから、そういうのがやっぱり活きてきたんでしょうね。やっぱり経験が。

西野:デザフェスとか、いろんな同じような、日本でもあるないですか、コミケみたいな感じの。あれと仕組みとして一緒なので、ブース買ってお客さんを入れるという。そもそも僕と小谷がそれむちゃくちゃ得意だったという。

のぶみ:あ、そうなんだ。

西野:さっき言いましたけど、日本でもやっていたので。その経験があったって。お客さんの呼び込み方も知ってるし。

みんな動かないんですよ。ほとんどのほかの出版社の人って、日本の出版社全部出してたんですけど、お客さん入ってないんですよ。お客さん入ってないけど、最初に作ったこの仕組みあるじゃないですか。こういうふうに本を並べて、自分、商談の人がここにいてって。

これでもう2時間やったり3時間やってお客さん来なかったら、変えなきゃいけない。だって、来ないんだから。2時間やって3時間やって来ないということは、もうこの罠にはかからないということなんだけど、変えないんですよ。みんな。

それはどこでも見られる現象で、デザフェス? あそこで、なんだ……幕張メッセじゃないな。東京ビッグサイトでやってるデザフェスって半年に1ぺんぐらいやってるんですね。

デザフェスのブースも、うまくいってるブースとうまくいっていないブースの大きな違いというのは、最初に作った自分の仕組み、この罠を変えないんですよ。お客さんさんが入ってないのにもかかわらず。プライドなのか、照れなのか、わからないけれど。

トンボ:気づいてないかもしれないですもんね。そもそもね。

西野:そうそう。

のぶみ:「こんなもんなのか」って思ってるかもしれないしね。

心理学を使った買わせるテクニック

西野:でも、あれって並べ方を変えるだけで意外とパッと来るだとか。それはよく小谷と実験したんですけど、例えば、絵本を売るときだって、『えんとつ町のプペル』1冊置いててもダメで、ぜんぜん売れへん絵本を2〜3冊置いたら、急に売れ出すみたいな。『えんとつ町のプペル』が。つまり、1回3種類のなかで迷わせるだとか。

のぶみ:そうなんだ。

西野:そうです。1個だけやったら、もう買う・買わへんの選択になるけど、3種類にしちゃったら「どれにしよっかな?」って悩んでる間はもう。

トンボ:心理的にね。

西野:そう。ちょっと悩ませてる間に。でも、これ悩ませてる間に候補が多すぎたら、次は……。

トンボ:なるほど、なるほど。

西野:これね、あれです、心理学でなんかあるんですよ。要は、Aという商品を買わそうと思ったときに、例えば、AのTシャツを買わそうと思ったときに、カラーパターン何個出したら一番売れるかっていう。

正解は5種類とかなんですけど、これを100種類にしちゃうと、悩ませる時間長いんですけど、じゃあA、B、C、D,E、F、G……って100種類やっちゃうと、次は、例えばZみたいな選んだ人が、「ちょっと待て。私、これを買ったあと、帰り道もしかしたら後悔して、『B買っといたほうがよかったかもしれないな』って思うんじゃないか」と思うから、もうZも買わないって。

のぶみ:そうなんだ。

西野:だから、適正な種類があるという。それは……あ、「選択回避の法則」って出てますね。それかな。

のぶみ:え、3種類じゃなくて、5種類なんですよね?

西野:いや、そのモノによるってことです。

トンボ:なるほど。「選択肢が多すぎると、選ぶことをやめだす法則」。

西野:だけど、選択肢が1つだったら、そもそも買われないという。

トンボ:なんかデートの誘い方とかでもありますよね。行く・行かないの2択にするんじゃなくて、「どっち行く?」みたいな。

西野:そうそう。

のぶみ:「どこに行く? 遊園地に行く? 映画館に行く? お食事だけにする?」とか、そういうふうにすると選ぶ。プレゼンのときの法則だよね。だからね。

西野:確かに。

のぶみ:何種類か出して、「どれがいいですか?」って言ったら、もう選ぶしかないもんね。1つは選ぶもんな。

日本の出版社はおとなしすぎる

西野:でも、弱かったですね。日本の出版社はとくに弱かったというか、すばらしい作品はむちゃくちゃあるんです。作品はすばらしいんですけど、出版社の人のフットワークが重すぎた。フットワークが重いというか、たぶんあれプライドが高かったんだと思うんですけど。

僕とか小谷とか関係ないから、もう酒でも飲みながら、「ちょっと待って!」つって、「いいっすか?」つって、「ちょっと1回座って!」みたいな。

トンボ:そんな人はいないですもんね。ほかにね(笑)。

のぶみ:それやるんだ。

西野:僕らはむっちゃやるんですよ。

のぶみ:え、ちなみに英語は?

西野:ぜんぜんできないです。小谷なんかすごいっすよ。小谷はイタリア行って、パスタ屋であいつ、「すいません、粉チーズください」って。

(一同笑)

西野:そんで来るんですよ。

のぶみ:来るの!?

西野:あいつ、なんか伝わってるんですよ。

トンボ:もうすごいなあ。

のぶみ:チーズが来たのかな。

西野:そもそも英語を使う気がない。イタリア語も使う気はないって。

のぶみ:すげえ!

トンボ:でも、ちゃんと粉チーズ来るんですね。

西野:来る。やっぱり賑わってるブースに人は来るから。

トンボ:そうですよね。

西野:そうなんですよ。まず、そこを作らないと。というのがわかっているから、じゃあどこに人混みを作るかだとか。

のぶみ:それがちょっとおもしろいところなんだけど。でも、例えば講談社とか小学館とかの人たちに聞くと、いろんな絵本を出してる出版社の編集同士がみんな一緒に行くんですって。それで、「向こう行ったら、あれ食べようね。これ食べようね」というのを考えてばっかりいるらしいですよ。

西野:ああ。

のぶみ:だから、そこでなにか翻訳版出すの を1個決めてやろうじゃなくて、「ああ、あそこに行けるんだったら、あそこうまいんだよ。知ってる?」的な。んで、大御所の作家さんとかも引き連れて行って、会社の予算ちょっともらって行くっていうのが、かなりセオリーなんですよ。

トンボ:へえ。

のぶみ:「そのツアーがあるんですよ」ってよく聞きますもん。

西野:僕らはモチベーションそうじゃなくて、もうブラジルで決めたら、今度「ブラジルで個展できんじゃね?」って。「ブラジルに旅行行けるじゃん」みたいな。

トンボ:行ける国増える。

西野:「行ける国増えるんじゃん」みたいな。だから、もう「1ヶ国でも決めてやれ」みたいな。だから、全員こっちはオラオラなんです。もうこういう感じですね。

のぶみ:そんなのほかの人たちがやってないんだったら、ぶっちぎりになるわね。そりゃ。

西野:日本が大人しすぎたので。国ごとにやっぱり区画があって、日本のブースが並ぶんですよ。集英社、講談社。日本があまりにも大人しすぎたというのはありましたね。

静かすぎる日本の出版社から苦情が

のぶみ:ちなみに、ほかの国の絵本は見てきました?

西野:見てきました。だから、すてきなのむっちゃありますよ。むちゃくちゃすてきなのがあるけれど、その作品のマンパワーだけでは無理だなという。やっぱり……。

のぶみ:それを売り出す人が必要という。

西野:ちょっとわかんないんですよ。あまりにも多すぎて、作品のマンパワーというのがわかんないので。

のぶみ:だって正直、書店で平積みになってたら気づくかもしれないけど、冊子になったら、もう入ったら、ちょっとここのところだけでは判断しきれないもんな。

トンボ:積む状態になってるってことですもんね。

のぶみ:日本だけで3,000冊出てるからな。

西野:いや、僕ら、なんか日本の出版社から、そういえば、苦情来ましたもん。「うるさい」って。「きゃー!」って笑ってるから。だから、本当葬式みたいなんです。ほか。で、「うるさい」みたいな来たけど、関係ないと。そんなことよりも……。

トンボ:人が来たほうがいいわけですからね。

西野:人が来たほうがいい。それうるさい……というか、お前らが静かだから、うるさく聞こえるだけで。ここは、でも、おもしろいっすね。あとは、ふだんからこっちはバナナのたたき売りみたいなのをずっとやってきたから、得意だったという。

トンボ:確かにね。

のぶみ:いや、すげえよなあ。

トンボ:すごい。

のぶみ:でも、勉強になるな、その話。すげえな。

英語圏の壁の高さ

西野:でも、あれ、できる人・できない人はありますね。「よいしょー。ちょいちょいちょい来て!」みたいなことが、できる・できないは。

トンボ:いや、あるんじゃないですか。やっぱりカッコつけちゃったりもするでしょうしね。なんかそういう。

トンボ:いわゆる日本人では、イタリアのボローニャのあそこのところの原画展でやったときに、五味太郎さんという日本の超大御所の絵本作家さんがいるんだけど、ぶっちぎりで人気なんですよ。もうアイデアというのが、もうぜんぜん国際的なんですよね。

『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』という絵本があって、こっちのわにさんが言うセリフと、こっちのはいしゃさんが言うセリフがまったく同じなんだけど、違った立場でずっと進んでいくとか。

『らくがき絵本』というのがあって、「ちょっとここに狼がいて、子豚いるけど、守るにはどうしたらいいと思う?」という絵本だったり。

ちょっと日本からはみ出たやつがあって、だから五味太郎さんだけぶっちぎりだったんですよ。ボローニャ行ったときに。「ほかの作家はちょっとなかなか翻訳ならないですね」という話をよくしてたんだよな。

西野:へえ。

のぶみ:韓国、中国まではいけるんだけどな。あと台湾ですね。は、やりやすいんだけど、英語圏はかなり難しんですね。

西野:英語圏は難しいですよ、やっぱ。英語圏は難しいです。でも、パンチはあたるう。

のぶみ:とくにアメリカですね。アメリカがとくに難しいんですよね。あそこで出ると、すごいやっぱり広がるんですんけど、ほとんどやらないんですよね。