経済産業省からベンチャーへ転職したきっかけ

重松大輔氏(以下、重松):そして西村さん、なかなか経済産業省からこっちのほうにくる方ってあまりいらっしゃらないですよね。

西村洋平氏(以下、西村):僕はそれを言われることがわりと多いですね。ただ、自分の思いは「日本になにかポジティブなインパクトを与えたい」に集約されています。これは学生の頃から一貫していますね。

でも、学生のときは、「どのようにすればポジティブなインパクトを与えることができるのか」というアイデアが具体的になかったですね。とりあえず「日本を良くしたいです!」と言い続けて受かったのが、経済産業省しかなかったのが実情です。

ただ、やっぱり大きいところ、とくに役所はみなさんのご想像のどおりだと思いますけど。自分の動かせる領域がすごく少なかったので、日々悶々としていました。そういうことを考えながら、1回、いわゆる民間企業へいってみようかなと思い、外資系の証券会社に移りました。

その後のきっかけとして、僕の大学の友だちがYCPホールディングス、昔の名前ではヤマトキャピタルパートナーズを立ち上げると聞きました。「日本の中小企業を世界に出られるくらいイケてる会社にする」ということをやる会社だという話を聞き、これは面白そうだと思って再度転職をしました。

中小企業って、みなさんあまり就職先として考えないと思うのですが、そんなに優秀な人材もこぞっていくような職場としては認知されていない。そこに入り込んでいって経営改善を行い、日本を元気にしていくんだというビジョンが当社にはありました。それに惹かれて8人目の社員として入ったというのが最初にベンチャーに入ったきっかけですね。

重松:株式会社Donutsはどういうきっかけでジョインしたんですか?

西村:やっぱり、僕自身はコンサルや投資をやるよりも事業を作っていきたい思いが強くなったという背景です。

大きな会社や小さな会社を見ていくなかで、サービスやモノをつくっていくには、できる限り自由な環境で、自由な発想で好きなことをやるってことがすごく大事だと思いました。だから、今の株式会社Donutsの理念や雰囲気に惹かれて入ったのがきっかけですね。

重松:ありがとうございます。株式会社Donuts、本当にすごい会社ですよね。さっきも裏で話題になってましたけど、ゲームをやったりMixChannelをやったり、さらに経費精算などの法人のサービスもやっている。なかなかないですけど、けっこうすごい会社です。

西村:ありがとうございます。

まだ出来上がっていない市場でルールやビジネスを作っていく

重松:ありがとうございます。私自身は先ほど申し上げたように、もともとNTT東日本に入って、30歳くらいになった時に大企業のいいところでもあり悪いところでもある部分が見えてきたんですよね。ある意味、出世の階段じゃないですけど、その先の自分がある程度どういうキャリアをその会社で踏んでいくのか。なんか、見えるんですよね。

「あなたは40歳くらいになったら青森支店とかの課長になるよ」と、10年後のキャリアで決定的なことを言われたんです。「順当にいってここかな」みたいに言われて、一気に冷めたんですよね。「なんだそれ、10年後わかるのかよ!?」みたいな。あの時の言葉がどうしても自分のなかでは納得できなくて。

一方で、安心や安定を軸に働いている人もやっぱり多くて。実際に私は今40歳なんですけど、当時の同僚は秋田支店の課長やったりとか、そろそろ本社に戻ってくるタイミングとか。本当にそのとおりの人生になってて、そのまま残らなくてよかったなと思ってます。

スタートアップに初めてジョインしたのが、前職のフォトクリエイトです。マラソン大会の写真撮ったりとか、幼稚園とか保育園の運動会の写真を撮ってネットで販売するビジネスやっている会社なんですけど。

まだ十数人くらいのときにジョインしたのですが、創業者が私とNTT時代の同期だったんですね。彼は上場前のサイバーエージェントにジョインをして、上場してすぐに子会社のCAモバイルっていう会社の立ち上げをやって。これも今、数百億円の会社になってます。

それを立ち上げた後にまた自分の会社を作っていました。それがフォトクリエイトという会社でした。これも2013年に上場して。今はカルチュア・コンビニエンス・クラブなんですけど。彼に誘ってもらって「人生1回しかないから、どっちが安定だと思う?」みたいなことを言われまして。やっぱり自分で安定を作り出せる人間に絶対になったほうがいい。

まだ出来上がっていない市場でちゃんとルールやビジネスを作っていく。そっちのほうが絶対にいいって言われて。「確かにそうだな」と思ってやってみたんです。

結局、ベンチャー業界に10年いて。あの経験があったからこそ、今の自分もある。当時10人の会社が120人までなって、そのストーリーも全部僕は見てきたので、今の組織づくりとか会社を作るっていうことに役立ってます。

どんな人がベンチャーに向いている?

私の場合はそういう経緯がありました。そこで、みなさんに質問なんですけども、ベンチャーとかスタートアップとか、どういう人に向いてるのかなと……。僕から見るとみなさん全員採用したいくらいの人なんですけど、なにか困ったらぜひお声掛けいただければ(笑)。

窓岡、葉山、西村:よろしくお願いします(笑)。

重松:半分冗談じゃないですよ(笑)。なのですが、どういう人が向いていると思いますか? まず窓岡さんから。

窓岡順子氏(以下、窓岡):きれいな言葉でいくと、「事業を作りたい」「サービスを作りたい」、そこに興味関心がある人でしょうか。逆にそれがないと正直難しいと思っていて。

重松:すみません。ちょっと言葉を入れちゃうと、大企業で嫌だったのはそれなんですよ。みんな出世が目的なんですよ。サービスを作りたいっていう人は本当にいなくて、そういう話が一切できなかったのがダメでしたね。そこです。まずは。

窓岡:大企業って当たり前なんですけど、組織が全部分かれているんですね。営業部門、企画部門、人事部門とか。それはすごく大事で効率的に必要なことなんですけど、そこで完結しがちです。営業なら営業をがんばっていればそれなりに生きていけます、みたいな感じなんです。

でも、ベンチャーはそれだとぜんぜんダメで。「この事業をこうしていきたい」「このサービスをこうしたい」みたいな視点をやっぱり持てないと、なかなか結果には繋がらないですし。

自分の営業活動をやっていれば結果が出る、サービスが伸びる、みたいなことはない。事業とかサービス作りのおもしろさとか、それが得意じゃなくてもいいですけど、「こういうサービス作りたい」「新しいサービスが好き」とか、そういう感度が高い人は向いているんじゃないかなということはすごく感じます。

重松:はい。ありがとうございます。それでは葉山さんどうですかね。

道なき道を行くということが得意な人、もしくはそれを好む人

葉山勝正氏(以下、葉山):基本的には窓岡さんと同じかなとは思うんですけど。我々の会社のなかで、道なき道を行くということが得意な人、もしくはそれを好む人っていうのが向いてるんじゃないかという話はよくしますね。

やっぱりベンチャー企業なので、大企業さんと同じような事をしていても勝負ができないわけですね。大企業さんがやってることは、そこに市場があって、ある程度の売上が見込めるというところで当然、事業をやっていらっしゃる。

そこと同じ土俵で勝負をするというよりも、大企業がまだ道を作ってないところに自分たちで道を作る。そういうかたちで成長していかないといけないというのがあるので、基本的にはそういう考えがある人が向いているんじゃないかなとは思いますね。

重松:そうですね。道なき道を行くのが楽しい人じゃないと辛くてしょうがないですね。お互いに。

葉山:そうですね。

重松:なるほど。ありがとうございます。それでは西村さんいかがでしょうか?

西村:僕がいつも思っているのは、問題だとか課題を自分できちんと定義できる人がやっぱり向くと思います。

それはどういうことかというと、例えば大企業に入って、営業に入ったり、マーケティングに入ったり、総務に入ったりすると、その分野のスキルは当然つく。大企業でもベンチャーでも、なにをするかというスキルセットは当然身につくと思ってはいます。

ただ異なる点があります。それは、大企業よりベンチャーのほうがなにを問題とするかを自分で決めることができる点です。これがないと、あまりベンチャーに行く意味がないと思ってます。

それって学生さんのなかで具体的に言うと、例えば、サークルをやってます、新歓活動やってます。昨年10人でした、今年5人でした。

この5人の差分って、どういうところに問題があるというところを考えることができる。それに対して自分で解決策を考えていくことができるのが、すごくベンチャーに向いている人だなと思いますね。

重松:ありがとうございます。そうですね、そもそもベンチャーに向いてない人ってこういうイベントにこないですけどね。みなさんはおそらく、この並んでいる会社名をほとんどの人が知らないんじゃないですかね。それぐらいでいいと思うんですけど。いや、本当にそうだと思ってまして。

「どうやってお金を稼ぐか」に興味を持つようになった

じゃあ次ですね。「大企業からベンチャーで景色が変わる」というテーマですので、みなさんも大きな会社、大きな組織。

ちゃんとルールが設計されて、ちゃんと収益が上がって、世間的な評判もいい会社からですね、ある意味まだ誰もよく知らないみたいなサービス作ったりとか、これから世のなかに出していくというところをやられている方だと思うのですけども。

両方見て、どっちの景色が変わったか。例えば働き方のところだったり、市場の見方だったり。あとは、自分のプライベートの行動とか、いろんな考え方も含めてどう変わったかというのを教えていただきたい。

私の例でいきますと、毎日アドレナリンが出まくってる状態で30代を過ごしてまいりましたので、ずっと24時間常に事業のことを考えてます。

なにかニュースを見たり話をしたりしても、「これはこういうことだよな」とか常に頭が回転している状態で、常にハイみたいな感じですね。ランナーズハイみたいな。きれいな言葉で言うと。そんな感じなのかなと思ってます。

なので、いろんなビジネスとか他の会社さんのビジネスにすごく興味を持つようになりました。

やっぱり大きな会社にいると、実際にどうやってお金を稼ぐかってことにだんだん興味なくなってくるんですよね。新しいことにだんだん興味がなくなってきたりして、人の噂話とか好きになってきて。

あまり大企業ディスってもしょうがないですけど、ベンチャーに転職したことでやっぱり世界が変わったかなって思ってます。その点、みなさんどうなったかなというところを教えていただければと思います。

大企業とベンチャーでは、考える起点がぜんぜん違う

窓岡:さっきのアドレナリンの話はめちゃくちゃ私も共感するんですけど。

私、転職してしばらく電車で目的地の駅に降りることができなくなったんですよ。リクルートのときも正直すごい忙しかったですし、終電とかザラで。なので、物理的な忙しさは正直あまり変わらないのですが、考える内容がぜんぜん違うといいますか。

リクルートのときは「どうやったら売上を達成できるか」「この組織をどうやったらよくできるだろうか」みたいな。

今思えば狭い範囲のなかでもがき苦しんでたんですけど、今はそういうものではなくて、「この事業をどうやったら10年後もある会社できるだろうか?」「どうやったらサービスの認知をもっと高められるか?」だとか。

けっこうありとあらゆることを考えないといけないので、正直、頭がいっぱいで。最初のほうは処理しきれずに駅を降りられない。「あっ、遅刻する」みたいなことがあったり。最初ほうのところではすごく覚えていますね。

それが景色が変わるというとアレなんですけど、自分の最初の変化で、あとは仕事の仕方がまったく変わるといいますか。

大きい会社にいると、例えば「リクナビ」「じゃらん」「ゼクシィ」みたいな、誰でも知ってますよねっていうサービスをどう使ってもらうかということに頭を使うだけでよかった。今思うとそれはすごく楽しかったんですけど。

どちらかというと、今はどういうサービスを作れば世の中の人に使ってもらえるかなど、根本のところから考える。そもそも考える起点がぜんぜん違うというところが、私自身、今までやってこなかったことなので。

そういう意味では仕事の考え方とか、考えなければいけないことがすごく増えて、最初は大変だったなというのを思い出します。