技術がわからない人が意思決定している問題

夏野剛氏(以下、夏野):日本が伸びていくため、大企業も一緒に元気になってほしいというのは強烈に思います。大企業がやってくれると相乗効果でベンチャーもさらにがんばろうとなると思います。

ところで、最近日本の某新聞社はイギリスの新聞社を買収しましたが、メディアの事業から見るとあれはどうなんですか?

鈴木健氏(以下、鈴木):深いところを突いてきますね。すごくいい。

夏野:具体的に言うと、日本経済新聞がファイナンシャルタイムズを買っちゃったというニュースです。どう? ああいう動きが出てくると燃える?

福島良典氏(以下、福島):燃えますね。

話を本題に戻して。日本の未来があるかどうかで、僕がすごく思っているのは、今日来ている人もすごく優秀なエンジニアなのに、ビジネスのプロトコルをぜんぜんわかっていないというのが日本の悪いところですね。

GoogleやFacebookってエンジニアが作った会社じゃないですか、でも彼らってちゃんとビジネスのプロトコルをわかっている。徹底的なビジネス論理の上で、どこが資本効率がいいかを見た上で、きちんと意思決定してテクノロジーのこともわかっている。だからあのスピードで伸びていくと思うんですよね。

これから日本の産業で一番大きくなるところって、いろんな産業にアルゴリズムが入っていったり、いろんな産業がソフトウェア化したりするというところで、すごいチャンスがあるなと思っているんですけど。

そうなってくると、主役はエンジニアになってくるんです。でも彼らがビジネスのプロトコルとかをまったく知らないと、なにか的外れのものとかをどうしても作ってしまうなと思っていて。

うちの会社は、エンジニアがユーザーとダイレクトに向き合って改善できるような仕組みをどんどん作っているんです。エンジニア以外の、技術のこともわかってない、ソフトウェア的なサービスの改善の仕方もわかってない人がプロダクトの意思決定をしていることが、日本の癌なのかなと思っています。

夏野:そうですね。どっちもあるかもしれません。例えばグーグルの創業者のセルゲイ(・ブリン)とラリー(・ペイジ)は、ビジネスのプロトコルのことはまったくわかってなかったと思うんです。ただ、ベンチャーキャピタルとか最初の資本ををつけるときに、経営者としてエリック・シュミットを投入したところがすごい。

エリックも技術のことはよくわかる。ただ自分でコーディングをするかというと、しない。だからチームの作り方というのは、重要な要素としてあるのかな。

思いがあるプロダクトが大企業からも登場する流れを

鵜飼佑氏(以下、鵜飼):プログラムマネージャーの仕事に関していうと、日本の企業って、エンジニアリングのバックグラウンドを持ったPMが少ない反面、外資系の企業ってだいたいコンピューターサイエンスの人たちがそういうことをしているわけですね。そこは大きく違うのかもしれないですね。

僕も就活をやったんですけど、日本の企業でプログラムマネージャーとして、というところはなかなかなかったので。

夏野:たぶん、それは企業の中は年次を経ないと上がれないので。年次を経てポジションが上がってくる間に、コーディングを忘れてしまうみたいな世界なのかもしれない。

鵜飼:そうですね。いわゆる大きな企業、外資系の企業だとプロダクトマネージャーって職種としてあるので、それはエンジニアの人たちが「(エンジニア職を)10年やってからPMになる」っていうのでもいいんですけども、コンピューターサイエンスをわかっている人たちがやるっていうのが一番かもしれないですね。

本多達也氏(以下、本多):夏野さんがさっき「大企業も元気になってほしい」っていうことをおっしゃったんですけど、僕もその思いがあるので今伝えてもいいですか?

夏野:構わずどうぞ。

本多:僕も実は、以前別の大企業に勤めていて。そこを辞めた時に、自分で起業するのか、それともまた大企業で自分のプロジェクトをやるのかという選択肢があったんですよね。

その時に大企業を選んだのは、障害者に対するものってパイが小さくて、なかなかお金を作るのが難しいというのがあったし、あとは自分でイチから全部メンバーを集めてデザインしていくというのは、すごくリスクがあるなと感じたんですよね。

その点、大企業に入って思ったのは、環境もあるし、人材もいるし、いろいろアドバイスをしてくれることもあるし、お金もあるというので。大企業から思いを持ったプロダクトっていうのが社会に出ていく、そういうロールモデルが作れたなと思って今やってます。

競争がないとイノベーションが起きない

夏野:はい。さあ、ここら辺でせっかくだから会場からご質問をお受けしましょう。

質問者1:こんにちは。僕、さっきから喋りたくてうずうずしていたんですけど。競争が足りないって僕は思うんですけど、「みなさん競争好きですか」っていうのを聞いてみたいなって思っています。

ただ、未踏の事業自体のエモいところは、評価尺度不明なのに戦わないといけないことだと思っていて。しかし評価尺度が不明で戦わなといけない問題というのは、世の中あらゆるところにはびこっていて、その戦いに勝つことが快感だという人が集まれば未踏の良さだと思うんです。

自分でも日本で競争というと受験勉強の印象が強すぎて、社会で競争という言葉が、実はオリジナリティの逆みたいな意味で捉えられたりする反面があると思うんです。つまり、その競争という言葉とどう向き合ってきたのかということについて、一人ひとりの意見を聞いてみたいなと思います。

夏野:鈴木さん、どうですか?

鈴木:そうですね。競争はあるんですけど、睡眠時間が減るんで困りますね。でも競争があるほうが、実際会社の雰囲気とかがアクティブになります。

昔、Internet Explorerとかぜんぜん進化しなくて、Firefoxが出てきて進化が始まって、Chromeが出てきて進化が止まっちゃったりとかがあるんですけど。競争がないとやっぱりどんどんイノベーションが起きないという事態になるんです。人間怠け者なので、あるんですよね。

それ自体があることによって切磋琢磨していくのはすごくいい。結局、競争の次元とか軸みたいなものが、未踏の場合は「PMが決める」という、ある種、軸がよくわからない。大変素晴らしいなと思っていて。

ようするに、合議制にするとPMの直感じゃなくて、これは「XX力」で決めましょう、という議論になるんです。そうすると、その軸で「これを30点配分する。50点配分する」みたいになって、ぜんぜん尖らない。

とにかく未踏の制度設計の中で最もいいなと思っているのは、PMが1人で決められるんですね。アメリカの大学の仕組みとか見ても、最終的に教授が責任取るというのがあるんです。そういうリスクをとる。選ぶ人がリスクをとる。

これは大変いい仕組みで、その中での競争という、価値判断とか基準というのはよくわからないけども、そういうよくわらないところをちゃんと突破できるように自分で選ぶ。「この人だったら俺を認めてくれるに違いない」という人を自分で選ぶ。そういう能力があれば、ぜんぜん大丈夫だなと思っています。

夏野:ちょっと説明すると、未踏の場合は、応募者がこのPMを目指したいというのは一応言えるんですけど、けっこう違うPMにとられるケースというのも多いです。

自分でゴールを決めて生きる人を育てる必要がある

福島:そうですね。競争は大好きですね。競争があるとなにがいいかなんですけど、おもしろいと思うんですね。なにに対して競争するかがすごく大事だと思うんですけど、僕はやっぱりビジネスとかユーザーに対して、本当に価値を残すということで競争したいなと思っていて。

多くの会社だと、どうしても上司を見て仕事しがちです。なので上司に対する競争になってると思うんですよね。

本当は今の時代って、「サービスがソフトウェア化してきていて、ものすごく少ない人数でダイレクトに多くのユーザーを相手にできる」というのが、今の時代のいいところだと思うんですよね。そうなったときに、本当にユーザーを獲得するためとか、ユーザーにとって本当にいいことってなんなんだろうみたいなことを考えながら競争するのって、すごく重要なんじゃないかなとは思うんですね。

鵜飼:競争って、自分との競争と他人との競争があると思うんです。後者は、けっこう日本の社会や特に学校教育においては、その他人に、その場にいる人に勝てばいいみたいなゴールが決まってて。そのゴールは自分では決めるものじゃない状況になっていると思っています。

みなさん、そうあるべきではなくて、未踏もそうですけども、自分でゴールを決めて生きる人を育てていく必要があるし、そういう意味では、競争というのは自分との勝負なので僕は大好きです。

本多:僕も競争は大好きです。はい。

(会場笑)

米澤香子氏(以下、米澤):鵜飼君の考えに近いんですけが、私は他者との競争はそんなに意識はしていません。ただ、昨日の状態よりもダサくなりそうとかダメになりそうとか、そういう要因があれば排除していきます。昨日の状態よりよくなりそうと思ったら全力でやる。それは他者との競争じゃないこともありますが、そういう意味では競争は好きです。

質問の「キョウソウ」が、Co-Creationの共創であれば、それも、好きです。自分1人じゃできないことも、周りのエンジニアや、デザイナーや、プロデューサーや、みんなと一緒になにかをつくる「共創」が好きです。

競争を楽しくする仕組みをを作らないといけない

米辻泰山氏」(以下、米辻):僕は学生時代からロボコンをやっていて、仕事でもロボコンやらせてもらったりしていて。あと今の会社Preferred Networksはもともとプロコンをやってた人たちが作った会社で、それでプロコンをやってる人たちがけっこういたんですね。

そういうの楽しいなと思いながら生きてきたのですけど、「絶対勝たなきゃ」みたいな感じになると苦しいときは苦しいです。でも、それはそれでみんなで苦労してよかったなと思うこともかなりあります。

1つ思っているのは、日本はそこらへんのコンテストはかなり弱いなということです。例えばABU(Asia-Pacific Robot Contest)のロボコンって、日本から発祥した競技なんですけど、日本だと大学ロボコンでの扱いが弱くて、24チームぐらいしか出てないんです。

例えば中国だと400チームぐらい出てますし。ベトナムはロボコンが世界大会に初出場で優勝してて、それですごい大ニュースになったりして、今でも国内予選から生放送をしてたりします。そういうところにエンパワーしてないということは、自覚してほしいなと思っています。

部活でもなんでもそうですけど、体育も基礎を鍛えることは大事なんですけど。鍛えるその先にサッカー部ならサッカー大会があるというように、エンジニアリングもプログラミング教育を必修にして、必修化の先にプロコンとかロボコンとかの競技があるという制度設計が必要なんじゃないかなとは思ってます。

夏野:これを枠組みとして、先ほど「Google Lunar XPRIZE」やロボコンのような競争を楽しくする仕組みををたくさん作らないといけないと思います。

日本の場合、アワードの勝ったときの賞金が小さすぎて燃えないんですよね。30億円懸かってると誰でもやる気になるけど、300万円だとね。オリンピックのエンブレムとか100万円ですよ。小さすぎますよね。

米辻:でも「Amazon Picking Challenge」は去年は賞金額500万円ぐらいだったと思いますよ。

夏野:500万じゃ、いまいちですね。

米辻:でも正直、開発費はぜんぜん足りてないんですけど。ちゃんとAmazonが開催して、Amazonでの利用を見据えてるっていうのは、賞金額がそれほどなくても、本気で取り組んでますよという姿勢を見せるのはすごく大事だと思いますね。

夏野:なるほど。ただせめて宝くじぐらいはほしいですよね。

米澤:未踏っ、て最近かなり金額が下がっていると噂を聞きましたが……。

夏野:そうですね。そう思います。これは蓮舫さんに事業仕分けされたからです。

魔法のような世界がコンピューターの中にある

司会者:さて、議論がかなり白熱しているところ大変恐縮なのですが、この建物の1階のMLBCafeがパブリックビューイングの会場となっておりまして。そちらにもお客様がいらっしゃいまして、今カメラが入っておりますので、そのMLBCafeの方からも質問を受けてみたいと思います。MLBCafeさん。

中継先:はい、こちらはMLB Cafeから中継でお送りしたいと思います。こちらのカフェで、大勢の方がステージの様子をしっかりご覧になって、ご受講されてる方がいらっしゃいました。その中でお一方、どうしても質問したいという方がいらっしゃいまいたのでご紹介したいと思います。

質問者2:質問なんですけど、今日お話しされてたのは未来の日本とか未来に関する話しが多かったなと思いますけども。そのなかで、そういったオープンソースコミュニテイを通じて、子どもたちにエンジニアリングを教えていることをやってて。

現場を見ていて、エンジニアリングに興味があるとか、なりたいという小中学生が増えてきたなと僕の観測範囲では感じているんです。そういった未来の世代を生きる人たちに対して、なにかアドバイスとか伝えたいことというのは、今登壇されている方たちの中にはあるのかなというのが疑問になって質問させていただきました。

夏野:はい、ありがとうございます。みなさんの、さらに後輩に向かって……具体的に言うと今、小学生、中学生ぐらいの子どもたちに向かってなにかひと言、レッスンしてあげてください。

米辻:エンジニアはけっこう、自分ができると思っていなかったことまでできちゃったりするので、それはすごく楽しい。なにか魔法使いが呪文を唱えたようなことができるみたいな世界がコンピューターの中にはある。

現実世界で言葉を唱えても、なかなかなにも起きないですけど、エンジニアの世界ではプログラムを書けばなにかすることはできる。大呪文だったりなにか小さなことだったりしますけども、そういう世界は広がっているよというのは伝えたいと思います。

夏野:エンジニアって言うのをやめて、ウィザードって言い方でもいい?

米辻:ハッカーの世界だと、ウィザードですけどね。

夏野:ハッカーの世界ですか。