ロボットを使って水泳の授業を楽しくしたい

夏野剛氏(以下、夏野):今度は鵜飼くん、本多くん、米澤さん、米辻くんにプレゼンをしてもらいたいと思います。彼らが今なにをやっているのか、ぜひお楽しみください。じゃあ鵜飼くん。

鵜飼佑氏(以下、鵜飼):はい。

(会場拍手)

鵜飼佑と申します。よろしくお願いします。私が未踏に採択されたのは2011年度、もう6年前になりますけども、水泳の授業のための水中ロボットを作っていまいた。なにを作ってるかわからないと思うので、簡単にお話ししますけども、もともと小学校の水泳のコーチをやっていて、こういったロボットを使って水泳の授業を楽しくしたいなと思って作っていました。

このロボットはカメラが付いていて、スイマーをトラッキングをしています。上に付いているディスプレーを使っていろんなアプリケーションが動くようにしています。そんな感じで、僕は国のお金をいただいて未踏をやらせていただきました。

スタッフに認定いただいた後に、一番入ってはいけない外資系の企業に入ってしまって。夏野さんからは会うたびにいじられていたんですが、まずなにを作ったのかを簡単にお話ししたいと思います。

1つ目は「Office Lens」というアプリケーションです。これはカメラアプリ、スキャナアプリです。例えばレシートとかビジネスカードとか書類を撮って、きれいに透過できるアプリになっています。

これは普通のスキャナと違うのは、撮った後にそれを元にWordやPowerPointが作れること。例えばWordだとOCRとかも打ち出してくれて、表とか画像とか残ったままOCR(注:光学文字認識)にしてくれます。

PowerPointの場合には一つひとつのホワイトボードのストロークというのが、PowerPointのオブジェクトになります。というようなアプリを作っていました。Windows、iOS、Andoroidで使えますから、スマニューとグノシーもいいですけど、今すぐインストールしてください。

あと学校バージョンのMinecraftの開発をしておりました。これは学校機関向けのMinecraftのゲームでして、ゲームを学校向けに使いやすくしたようなイメージになっています。なかなか日本国内で運営、開発されているというイメージがないかもしれませんが、実は日本にもエンジニアがいて、いろいろな製品を作っています。

最近は『Minecraftデザイナー』という、プログラミングの教材を作っていました。

これは、年に1回「Hour of Code」という、「その月には1時間だけプログラミングの授業をしようよ」というキャンペーンをやっている、「Code.org」というNPOがありまして、そことパートナーを組んで一緒に開発をしたものになります。

(スクリーンを指して)こんな感じです。ブロックを使ってドラッグアンドドロップでプログラミングできるようになっていて、自分のMinecraftのゲームをプログラミングして作ろう、という。

例えばクリーパー(注:ゲーム「Minecraft」内に登場するキャラクター)とか、そういうキャラクターを動かしたりするためのプログラミングをして、勉強していこうとなっています。「Code.org Minecraft」で出てくるので、ぜひ使ってみてください。

今までは、こんなものを作っていました。なので基本的には、未踏を含めて教育とテクノロジーの真ん中を生きてきた人間です。

日本では、エンジニアのイメージを変える必要がある

今日は「日本に未来はあるのか?」というお題が出てると思うんですけども、そんなことは僕らはわからないですよ。

わからないですけど、1つ言いたいのは、エンジニアのイメージというのを変えていく必要がある。先ほどから人材の話がありましたけども、やはり人材がこれから国が生きていく上で大事です。そして、優秀な人材に、エンジニアになりたいと思ってもらうのが一番大事と思っています。

(スクリーンを指して)これは今年1月に、第一生命さんがやったサーベイの結果です。ここにプログラマーとかエンジニアが入ってないわけですね。これはよろしくない状況だと思ってます。例えばスポーツにおいても、ワールドカップがあったらサッカーにすごくいい人材が集まってしまうとかという問題がありますよね。

やっぱり人材に関しては「取り合い」だと思っていて。いかにエンジニア、コンピューターサイエンスの分野というところに、優秀な人材に「来たい」と思ってもらうか。これは本当に僕らがやっていかないといけないところだと思っています。

なんでこんなことが起きるのかというと、先ほどもエコシステムという話がありましたけども、まさに「こうなりたい!」と思えるようなロールモデルが足りないのかなと思っています。

ただこれも、ザッカーバーグとかゲイツみたいなすごい成功者じゃなくてもいいと思っていて。身近に「プログラミングとか作るの楽しいよ」と言ってくれる大人が、あまりいないとは思っています。実際に自分はこうやって学校とかに行ってプログラミングの授業なんかもやってますけども、ぜひ、こういったエンジニアが実際に楽しさを伝える仕組みを整えられたらいいなと思っています。

学校の教員がもちろんこれを教えようとなれば、たぶんできます。でも、「そのモノづくりにどんな理由があって、なにがおもしろいか」は、なかなか伝わらないかなと思っていて、実際に現場で働いているエンジニアたちがそこを補完できたらいいと思っています。

1つ提案としては、「ボランティア休暇」みたいなものが外資系企業にはけっこうあります。こういう、エンジニアが簡単に社会貢献できるような仕組みを作ってくれたらいいなと思っています。

実際に我々、一般社団法人未踏でも、こういった未踏ジュニアと、未踏ジュニアキャンプという活動をやっています。これは18歳以下の未踏で、簡単に言うと「お金とメンタリングをあげるから、好きなものを作っていいよ」という若年層向けの未踏です。

こういった活動を通して未踏としての人材育成に貢献できたらいいなと思っております。以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)

人間の髪の毛が音を感じることができる装置

夏野:ではそのまま本多くん、どうぞ。

(会場拍手)

本多達也氏(以下、本多):こんにちは。私は髪の毛で音を感じる新しいユーザーインターフェース「Ontenna」の研究開発をしている本多と申します。未踏時代に髪の毛で音を感じる装置「Ontenna」の研究開発をしていて、今は富士通株式会社に入社をして、この「Ontenna」を世界中のろう者の方に届けたいという思いで研究開発を行なっております。

今日はちょっとOntennaの紹介を少しだけさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

元々は私が大学1年生の時にですね、ろう者の方と出会ったことをきっかけに、手話の勉強を始めるようにました。手話通訳のボランティアであったりですとか、手話サークルを大学内に作るなどして、彼らろう者といろんな活動を学んできました。

彼らろう者はまったく耳が聞こえません。ですので、例えば電話が鳴ってもわからないですし、アラームが鳴ってもわからない、それから動物の鳴き声なんかもわからないという中で生活をしています。

そこで、私はデザインとかテクノロジーを使って、彼らに音を伝えたいと思い、研究を始めました。私が提案するのは人間の髪の毛を用いて音を感じるという、新しいユーザーインターフェイスの提案です。コンセプトは猫のヒゲが気を感じるように人間の髪の毛が音を感じることができる装置というようなコンセプトでデザインをしました。

装置の部分なんですけども30デシベルから90デシベルの音圧。つまり音の大きさを256段階の光と信号の強さにリアルタイムに変換することで、ユーザーさんに特徴を伝えます。

(Ontennaを胸ポケットから取り出す)

これぐらいの大きさのものでして、髪の毛にこのように取り付けて振動と光によってリズムとかパターンというのをユーザーは知ることができます。これまでにたくさんのプロトタイプを、ろう者の方と一緒になって作ってきました。

作ってはろう者の方に使ってもらって、また作っては使ってもらってというように、何回も繰り返してきたのですが。最初、バイブレーターを直接肌につけると、ろう者の方から「気持ち悪い」「蒸れる」「麻痺する」みたいなことを言われてしまって。服につけると「ちょっとわかりにくいね」と。そうやっていろんな部位を試してきたときに、たまたま髪に付けたときに「あっ、髪の毛ってちょうどいいじゃない」となったんですね。

髪の毛って確かに間接的で麻痺とか蒸れが少ないし、手話をする時とか家事をする時とかも腕に負担が掛からないという特徴があります。人間の髪の毛って風とかが吹くとサーッって髪がなびいて方向がわかるように、ただ生えてるだけじゃなくて、新しいインターフェースとして使えるんじゃないかと思った瞬間でした。

音と振動をセットにして、ろう者に届ける

ろう者の方は耳が聞こえないので、掃除機を掛けていて途中でコンセントが抜けても気づかないままずっと掃除機を掛けてしまうということがあるらしいんですね。でも「Ontenna」を付けていると、このような感じで……コンセントが抜けると振動がなくなるので、「あ、コンセントが抜けたんだ」がわかったりとか。

あとは、本とかを読んでいて視覚情報が集中しているときでも……音のリズムに応じて振動することで「あっ、お客さんが来たんだ」ということがわかったり、携帯の着信音なんかもリズムのパターンが違うので、「あ、着信があった」と自覚することができるという。そういったインターフェイスになっています。

彼女も生まれてから耳が聞こえないんですけれど、この「Ontenna」をつけて、実際に「ピンポーン」という音と「プルプルップルプルッ」という電話の音の違いがわかるようになったり。

掃除機のシーンも、撮影の際に実際にコンセントを抜いて、「音がなくなったらリアクションしてください」と言ったんですけれど、ちゃんとリアクションすることができていて、「家に持って帰って使いたい」とおっしゃってくれたのが、すごくうれしかったです。

現在はこの「Ontenna」を世界中のろう者に1日でも早く届けたいという思いに共感をしてくれた富士通に昨年の1月に入社しまして、現在はプロのエンジニアですとか、デザイナーですとか。

あと実際にろう者の方にもメンバーに入っていただきながら、プロジェクトっていうのを進めている状況です。では最後に、昨年の7月に「TED X HANEDA」というイベントが羽田でありまして、そこでろう者の人と一緒にドラムを演奏するというパフォーマンスを行いました。その時の様子をお見せして終わりにしたいと思います。

彼女も生まれてから耳が聞こえないんですが。叩くと振動するので、ちゃんと自分が叩いているという感覚が出て来るそうです。ここから音の音の強弱がついてきます。弱く叩くと弱く振動して、強く叩くと強く振動します。

なので、音の強弱みたいなものも練習しやすくなったというふうにおっしゃっていました。1日でも早く世界中のろう者の方に「Ontenna」を届けられるように、これからもがんばっていきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

未踏ネタで事業化せず、他業界へ就職

夏野:では米澤さんお願いします。

米澤香子氏(以下、米澤):よろしくお願いします。株式会社ispaceという、月面での資源開発を目指すベンチャー企業でクリエーティブ・ディレクターとして働いていします。

未踏を出てクリエーティブ・ディレクターとして働くというのはあまり聞いたことがないかもしれませんが、企業のプロダクトやサービス、あるいは企業自身のブランディング、つまり、世の中に対してその企業がどう見えるべきかを考え、表現する役割を担っています。

未踏では、Human Cat Interaction Platformの構築を行いました。猫の首輪にカメラや加速度センサーやGPSを付け、ログを機械学習で解析し、Twitterで猫が「ごはんなう」とつぶやく。そんなシステムを作ってました。

今はペット用ウェアラブル製品はたくさん出ていますが、当時はまだ世の中が追いついていなかったのか、2chでも「イロモノ乙」みたいな扱いをされ(笑)。

未踏ネタでそのまま事業化することはせず、ITではない業界に就職しました。いずれバッテリー技術が進化し小型化・長時間化ができるようになれば、事業でもやってみたいと思っているんですが(笑)。

2015年からは、ispaceで、コーポレート・ブランディングと、「HAKUTO」月面探査チームプロジェクトを担当しています。「HAKUTO」は、正確にはチーム名で、ベンチャー企業ispace、東北大学の研究室、そしてプロボノと呼ばれるボランティアメンバーで構成される、全部で100人ぐらいの組織です。

大きなプロジェクトを始める場合、人材が課題になりがちなのです。しかし、「HAKUTO」の場合は、プロボノという新しい働き方を導入して、フルタイムで別の仕事をされている方でも、土日や平日夜の時間を使って活動に参加することができる仕組みになっているんです。

賞金総額約30億円のレースに日本から唯一出場

その宇宙開発チーム「HAKUTO」は、「Google Lunar XPRIZE」という賞金総額約30億円の国際宇宙レースに日本から唯一出場しています。

一見「賞金稼ぎ?」と思われがちですが、このレースがもっている「ビジョン」に共感して参加しているんです。1927年にリンドバーグが初めて飛行機で大西洋を無着陸横断した偉業はみなさま聞いたことがあると思いますが、実はこれも賞金レースだったんです。

レースのおかげで人や才能や技術が集まり、航空機産業が飛躍的に発展しました。賞金レースによって産業イノベーションを起こすという仕組みをなぞってXPRIZE財団がレースを主催し、Googleがスポンサーをし、民間による月面開発を加速させる、産業革命をおこす、というビジョンを掲げているんです。

レースのミッションは3つ。民間開発のロボット探査機を月面に着陸させること。500メートル以上移動すること。高解像度の動画像を地球に送信すること。これらを最初に成し遂げたチームに20億円という賞金が与えられます。

私は、クリエーティブ・ディレクターとして会社のロゴを作ったり、企業パンフレットやポスターを作ったりもしていますし、未踏人材/IT人材ぽいところでいうと、ローバーの操縦体験アプリを作ったり、実際のミッション用の操縦インタフェースを設計したり、ローバー自身のプロダクトデザインのディレクションなど、表に出る部分はなんでも担当しています。

実は、あとちょっと、まだお金が足りていなくて、最近クラウドファンディングプロジェクトをやっていますので、ご興味ある方はぜひ参加してみてください。一緒に月を目指しましょう!