キャリアパスとしての人事責任者

藤本真樹氏:みなさま、お忙しい中、しかもこの金曜の夜にお越しいただきましてありがとうございます。せっかくの金曜の夜に。とりあえず僕からは15分くらい、お話させていただきます。

1人目なんで。話の方向性がいろいろあるじゃないですか、こういう会だと。最初この話聞いた時、「エンジニアが人事に来たんだから、『どんなエンジアリングしてんの?』って話をもりもりするのか」と勝手に思ってたら、会の説明のところに「キャリアパスとしての人事責任者」って書いてあったんで、もうちょっと一般的な話を。ターゲットがよくわかんないんですよね。

エンジニアだっていう方、はい! 

(会場挙手)

「半分くらいエンジニアじゃないよって」ってチャットに書いてた人がいる(笑)。嘘っぽくね? ま、いいや。本当に、どういう方向かわからなかったんで、どんな人にでも無難な話、楽しめる無難な話をしようかなと思っています。まぁその分、つまんなくなるんですけどね。

ここからまじめな話をします。いくつか話せと言われたことがありまして。まず、それに従ってとりあえず宣伝をしますけど。

先の12月くらいに出たWEB DBプレス(注:Webアプリケーション開発のためのプログラミング技術情報誌)っていうのがありまして。これ、記念号なんですよ。16周年記念号でして、ここに「私のキャリアチェンジ」って特集があるんですよ。このWEB DBプレスは電子版をいつでも買えて、いつでもダウンロードできるので、即座にどうぞ。

発行部数が増えても僕には一銭も入らないんですが。そこの「私のキャリアチェンジ」ってところに「お前、人事やってるみたいだから、なぜ人事をやってるのかって書かないか?」と言われて書いたので、(スクリーンを指して)だいたいこういうことが書いてあります。

エンジニアにしかできないアプローチで物事を変えていく

今日のお話の、1つ目。どうして人事をやることになったのかとか経緯とか、なぜ人事なのかってことがここに書いてあるんですね。みなさんも買って読んでいただけると、非常によろしいのではないかと思っています。

たぶん、100何ページ目くらいにあるんで。16周年記念って言われてがんばって書いたのに、意外と後ろだなって思って(笑)。稲尾さんに怒られない程度に小さい字にしてあります。読めないと思うので、この場を借りて意図を説明します。

キャリアチェンジをするとか……。明確にはチェンジではないんですけど、この時に思ったことが3つ書いてあります。1行目はすごく大事で。これはみなみなさまに今日はぜひともお伝えしたい話だし、そこはかとなくみなさん実感してると思うんですけど。

先ほどのお話にもありましたけど、ソフトウェアの話です。例えば20年前とか30年前と違って、今なにかをする時、それはいわゆる普通の業務でもそうだし、なにかのサービスを作る、請ける時にそこでソフトウェアってのが噛んでないことがありますか、という話だと思うんですよね。

極端な話、「営業をしましょう」「布団を売っていきましょう」みたいな時にソフトウェアをまったく使わずに、その仕事をするってことはないですよね。と思うんです。

すごく小さな話ですれば、「Excelをすごく上手に使いましょう」みたいな話かもしれないです。ただ営業をもっと上手にしようと思った時、例えばエンジニアが「営業を上手にやれ」と言ったら、いろいろ考えたりするじゃないですか? それをより効率良く、例えば巡回サラリーマン問題を解決しようと思ったりするわけじゃないですか? 

ということで、なにをやってもソフトウェアに関わるケースというのは増える一方だし、そこで僕はエンジニアが問題のある状況を変えられることって、すごく多いと思っています。ただ「そこで言われることだけやれ」と言われるのはアレですけど。その中で僕らにしかできないアプローチで物事を変えていくということを目指したら、それは絶対楽しい。

とにかく僕はソフトウェアが好きなんで、それに関わる仕事だったらなんでもいいと思って人事にいます。さすがにちょっと「人事やりたいです」で手を挙げたわけじゃないんですけど、この話が来た時に、そういう意味ではぜったいおもしろいなと思ってやることにしました、これがスライド3行目の話ですね。

ということで、なぜ人事をやることになったかという経緯と、そこについて思ったことでした。15分はけっこう短いですね、やっぱり。

別領域でもエンジニアは活躍すべき

ここからちょっと脇道に逸れた自省なんですけど。あ、それはさておき、今日、僕は38歳になったんですよ。

(会場拍手)

なので、なにか素晴らしいプレゼントでもあるんじゃないかなと。あるんじゃないかな……。

(会場笑)

まあね、そういうもんですよ(笑)。

僕がもし今24歳だったら、こういう今の時代でもやれと言われたら、「はあ?」とか思ったと思うんですよ。38歳になって、思うようになったなっていうのは正直あります。

エンジニアが純粋なソフトエンジニアリングだけに関わるチーム以外のところでパフォーマンスを発揮することは増えていくし、むしろ増えていくべきだと思うんです。でも、これを全員に一律にやればいいかというと、そういうことではないだろうなとも思っています。

それは例えば、くだらないけど、年齢による行動や判断の差みたいなことはやっぱりあって。これは本当に僕個人の話ですけど、38歳だと人生半分くらいじゃないですか、だいたい。そうすると、「もう残り少ないな」って思い始めて、さすがに手段より目的のほうで「どう上手にやろうか」という方向にすごくフォーカスがいくんですよ。

でも、24歳とかっていうのはぜんぜん……。スライドにも書いたけど、開発だろうがなんだろうが「俺ならもっとできる」と思って、ばかすかコード書いて、いろんな辛い思いをしたりしたわけじゃないですか。

そういうのはやっぱり経年によるなにかはあると思うんで、そこは1つだけ考慮すべき点もありますが。エンジニアが働く場は広がっていくし、広げていくべきだと思っています。その別領域でエンジニアが活躍する一例として、自分がそういうことやるのはいいなって思っています。これが2つ目の話。

「3回同じことをやってたら、それは機械にやってもらいましょう」

閑話休題、ってことで、僕がなぜ人事をやることになったか。なにができるかという話が後半の話です。

これは社内のConfluenceに……。弊社Confluence(注:ConfluenceはWebベースの企業向けWiki)とか使ってるんですけど、「不定期人事日記」というのを書き始めまして。最近ぜんぜん書いてないんですが……。そこにこんな感じで書いたのがあります。

これを抜粋すると、1つ目は担当の話でしたエンジアリング云々じゃないですけど、やっぱり担当のローテとかいいなって思って。ずっと人事担当を固定していることが多いじゃないですか。なので、ローテして違う人があれこれやるというのは、人にとっても自分にとってもいいかもしれない……というのは、これはまあ今日のコンテキストにおいてはどうでもいい話。

あとはこれは、なんでしょう? すごく平たくいうと……。これは下手に書くと怒られそうだしバイアスかかる話ではありますが。やっぱり会社にもよると思うんですけど、うちのチームを見て思ったのは「人事が人事っぽい仕事をしている時間」は思ったよりそこまで多くない。

なにをしてるかっていうと、集計したり、社員データベースからイレギュラーな人を除く仕事をしていたり、けっこうな時間を使っている。これはまあ、あるあるですし、当たり前ですけど、これは僕が工夫できることだなと思っている。

チームに「3回同じことをやってたら、それは機械にやってもらいましょう」って話をよくしてます。少なくとも、そうあるべきだという意識を持ってもらいたいなと思っているんですね。

それ以外の観点でも、人事から外を見た時、そこにエンジニアの視点を入れるっていうのはすごくいいと思っています。どういうことかというと、会社のカルチャーを作るみたいな話だ云々だったりします。

時間がないので適当に飛ばしますけど、それは実務的に言えば例えばエンジニア採用する時に人事にエンジニアがいないと、「エンジニアの採用の仕方がよくわかんないからエンジニアの人、手伝って」みたいな話が超あるあるです。でも、人事セクションにエンジニアがいれば、そういうやりとりがなくなっていいね、という。すごく小さいけれど、大きな話です。

例えば僕らの会社だと、「ものを作っていくのがとにかく大事なお仕事」なので、そういう一事が万事の考え方などが貯まっていくという意味では、人事はそういう会社のカルチャーを作る側にいて、かつやることがいっぱいです。そういうところに自分が関わることができるのはいいなと思ったのが、理由としてありました。

ちょっと話がそれますが、Facebookの採用サイト。ここ、HRのセクションがすごくおもしろくて、いろんな情報がいっぱいあります。

今日の観点で面白いのは、エンジニアリングの知識が求められるのはこの中で6職種あるんですよね。Facebookは、HRに昔からエンジニアを混ぜてるというのはけっこう有名な話です。基本的にはデータサイエンス。どれだけ効率的に人事をやるか。人手をかけずに、人の判断を混ぜずにやるかというアプローチはけっこうしてるんじゃないかなーと推定されます。

ということで、エンジニアリングなしにHRやる時代でもないよね、って話です。そういう現状は確実に進んでいく時代の流れはあると思うし、そういった意味では自分がやることには意味があると思ってこういう仕事を始めたという話でした。

人事は「人間にしかできない仕事」に時間を割くべき

終盤では、やりたいこと、やり始めたことをお話をしたいと思います。ただこの辺はまだ始まったばかりなので、エンジニアリングはあまり関係ないですけど。

やったのは人事のミッションの確認とメッセージング。自分はわりとオープンソースソフトウェアに育てられた人だと思うんで、「そういう時に大事なのは一貫性と透明性だよね」みたいな話をしたりとかあるんですけど。あと、あまり僕はいきなりなにかを変えるというのは、もうしていなくて。

なぜかというと、HRにハードスキルはすごく関係があるんです。例えば労働基準法だったりとか、そういうものについてすごくくわしくないのに、なんか大きい手を打ってコケたら嫌なので、まず今は勉強しつつやってます。

あと、人事は手戻りコストが高いので、人事が「制度変えます!」と言って半年後に「戻します!」ってバーンとしてたら、みんなイラつくじゃないですか。ということなんで、ちょっとずつやっています。

なにをしたいかというと、僕にできることをもっと推進したい。人事を専門にする人は当然別でいるので、僕が今やっているし、今後もやろうとしてることは、「これは人間がやらなくてもいいな」をWebサービスに集約したい。あとbotとか。

もちろん最初はクラウドのサービスとかあるんで、そういうのは使う時は使うし、そこにないものは自分でやっていたりします。

こういうこというと偉そうなんですけど。それをやろうと思った時、なにが大事かというと、とにかくデータが集約されていないんです。1つのところにデータを……もちろん一次情報はいろんなところに散らばってていいんですけど、1カ所に集めていろいろ使えるようにしようというのを今やりたいなと企んでいます。

これ、けっこう奥深くて。例えば、みなさんの会社である人が何日間同じチームに居続けたかっていうのをすぐ出せますか? 「うちの会社はすぐ出るぜ」という人、はーい(手を挙げる)。ぜんぜんいらっしゃらないすよね。よくわからないですけど、「遠慮してる」「俺関わってないからかわからない」とか、いろいろあるかもしれませんけど。

これね、けっこう意外に難しかったりするんですよね。でもそれって、同じチームにずっといる人をバーっと挙げて「チームローテしたほうがいいよね」というリコメンデーションを機械的にやろうとした時に絶対必須じゃないですか。

こういう「絶対できたほうが良さそうなこと」でも、意外に僕調べでは「がんばればできなくはない、じゃあすぐできるか」というとそんなに多くない。もちろん、できる会社さんもいらっしゃいます。

そういうことをちゃんとやって、人事は「人間にしかできない仕事」により時間を使えるようにしたい。それがたぶん、その人事の専門家じゃない、でもエンジニアにずっと携わってきた僕が、当たり前ですけど、しようとしてること、やろうとしてることです。

「こんなの作ったよ」ってデモもしようと思ってるんですが、1分前ってスタッフが言ってるので、これはとりあえず飛ばします。

人事はエンジニアの観点で見ると「楽しい」

1つだけ超悩んでいることがあります。みんなどうしているか聞きたいんですけど、データ集約したいじゃないですか。そうすると、人事のデータはとにかくセンシティブなんで「これ、誰が触っていいんだっけ?」という、管理権限のある人を増やせないことにすごく悩んでます。なので、とりあえず今は僕がやってるんですけど、なかなか進まない。

「みんなでシステム作ってこうぜ」、あるいは「外のクラウドサービスとの連携をこうしようぜ」など、いっぱいやろうとした時にこれがけっこう悩ましい。例えば勤怠データ1つとっても、休みの理由はやっぱりプライバシーだったりするし、みんなでそれを使ってどうこうしようぜというのも意外に難しかったりする。

このプライバシーとかの問題は、ちょっと今解決方法ないですが、考えなきゃなって思っていたりします。

あとやっぱり、計算機というか機械っていいなって思いました。

(会場笑)

はい、あとは落穂拾い的にちょっとだけお話しておきます。新しい仕事に関わるからには人事としてもちゃんと専門知識っていうのは学んでかなきゃいけないというのは、なかなか難しいなって。法律けっこう変わるだなってことがわかりました。

そして、もう何回目だって感じですが、エンジアリングサイドっていう観点で見るとすごく楽しいですね。忙しいことも、たくさんありますけど。なので、なにかやれって言われてトライしない理由はないかなと思っています。どうしてもやりたいことがほかにあるとかだったら、アレですけど。

ただまぁ、エンジニア視点で外側から見ると、細かいこといろいろできんじゃんって話がけっこうゴロゴロしてるんですよ。やろうと思うと、それがやっぱり未開拓なのはそれなりの歴史的経緯、その他会社のしがらみ。どうでしょうね? けっこういろいろあって、思ったより大変なのでエンジアリングのスキルもあれですが、大人な力もけっこう必要かなって思った私でした。

あと、こうやっていると特にそうなんですけど、けっこう楽しくなってくるんです。そして「とりあえずデータ集めよう」みたいに思って、気がつくと手段が目的化してて「お前、なにやってんだ」と言われるという。そこだけは気をつけなきゃなと思いますが、エンジアリング、エンジニアの観点からいくと人事に行って楽しいこともそれなりにあるんですよね。

立場いろいろですけど、僕は担当取締役(注:CTO)って感じだし、yoshiori(クックパッド・庄司嘉織氏)は人事部長だし。立場いろいろですけど、トライアルしてみるのは大なり小なりおもしろいと思うんで、ぜひぜひやってみるといいかなっていう話でした。